イレギュラーは何故生まれるんだろう
「古代文明の遺跡にそれがあるってことは、古代文明人がエルフを作ったということですよね?一体何のために?」
突拍子もない話を受け止めきれず、混乱する一同に代わってユウがホゾマに尋ねる。それを受けてホゾマは肩を竦める。
「古代文明人がこの地で再び生活できるようにするために、環境再生を支援するためだ」
「環境再生……?」
聞きなれない単語にアネッサとエミリアが顔を見合わせる。
「つまりこの世界の環境が破壊されて、古代文明人も表から姿を消した……ということですか?」
ユウの質問にホゾマが頷く。
「……どういうことだ?」
二人の会話にやはりついて行けないアイザインが疑問を口にする。
「かつて古代文明人は大規模な戦争を行ったという。もっとも、敵は何者なのか、何のために戦ったのか、そういった戦争の内容については私や兄さんですら知ることを許されていないがな」
(許されていない……ってことは古代文明人は情報を全部エルフに与えていないということか)
(そういうことです)
ユウがルティシアに確認している間もホゾマの話は続く。
「勝敗さえも我々は知らない。ただ、あくまで事実として残ったのは、その戦争によって大地は荒れ果て、水は干上がり草一本すら生えない世界になったということだ」
エミリアが唾を飲み込む。その横では事態の重要さがいまいちピンと来ていないのか、ティキは首を傾げている。
「じゃあ、エルフはその世界を再生するために古代人が?」
ユウの再度の質問に、ホゾマはやはり頷く。
「最も、基本は古代文明人が用意した世界再生システムが事を進めていたがな。我々はその補助だ」
「世界再生システム?」
聞きなれない単語にリーシェルトが眉を顰める。
「この世界の魔術を実現する触媒であるエーテル……あれは古代人が因果律に干渉し、現実の事象を書き換えて世界を作り直す巨大なシステムの一部なのだよ」
ホゾマの説明にチコが息を呑む。
「うちらが当たり前のように魔術を使ったり出来るのは、古代文明が遺してくれたそのなんちゃらシステムのおかげっちゅーことか……」
「そういうことだ」
そんな二人の会話を聞いている内にユウの脳裏の疑問が浮かび、それを口にする。
「じゃあ、この世界のエルフ以外の種族……人間や魔族は古代文明人の末裔ってこと?」
だが、それを聞いたホゾマは首を左右に振る。
「いや。古代文明人はこの世界に帰還してはいない。この世界にいるあらゆる種族は、あくまで環境再生の過程で偶発的に新たに生まれた存在だ。そう言う意味では基本的に差異が無い」
「!?」
ホゾマの淡々とした説明にアネッサやアイザイン達が顔を見合わせる。
「差異が無いって……」
互いの姿を見合いながら、アネッサ達は言葉を失う。
「じゃあ、我々の方で女神が人間を作って男神が魔族を作ったとかそういう伝説は……」
「いや、なんかお前らが勝手に言い出しただけ。多分国家の権威とかのために神話が必要だったんだろうけど」
淡々としたホゾマの回答に、アネッサとアイザインの口が開けっ放しになる。そんな二人の横から、エミリアがホゾマに尋ねる。
「では、回復とかの神聖系魔法の体系とかが、女神から授けられたとかそういう話は……」
「それも別に環境再生システムに対する指示の出し方に違いがあるってだけだからな。別に神がどうこうとかそういう話はないぞ」
ホゾマの回答にエミリアは思わず両手で口を覆う。
「どうしたんです?」
そんなエミリアの様子を訝しんだユウが尋ねる。
「……真偽はどうあれ、このことをうかつに口にすれば、女神を信仰が厚い国……たとえばシクルカッタとかでは首を飛ばされても文句が言えません……。私達は、とんでもないことを知ってしまったのでは……?」
エミリアは恐る恐るホゾマを見る。その視線を受けたホゾマは腕を組んで鼻を鳴らす。
「……そうだな」
そして、深刻に思い悩んでいるのはエミリアだけではない。アイザインも上擦った声でエミリアに応える。
「……魔族の俺だって一緒だ。こんなことを同胞達の前で言おうものなら狂った扱いを受けて襲い掛かられても文句が言えん……」
そんな二人の言葉にアネッサは思わず頭を抱える。
「とは言え、こんな重大な話……私達の中だけで抱えておくのはきつ過ぎるぞ……」
「だから知らん方が幸せかもしれんと言ったんだ……」
ホゾマは深くため息を漏らす。
(うっわー……。見事なまでのアイデンティティクライシス……)
そして、そんな四人の様子を見ていたユウは内心で正直な感想を漏らす。しかし、そんな四人とは対照的に呑気な言葉が発せられる。
「はーん。まあ、そこらへんはどーでもええか」
そう言ったのはチコだ。
「どうでも良いって……おまえなぁ……」
彼女の放り投げるような物言いに、アイザインは苦虫を噛みつぶしたような顔する。しかし、その程度で彼女も引き下がらない。
「なんか種族や魔術のルーツが色々けったいだったからってなんだって言うねん。別にウチがしたいことにそこらへん関係ないからなあ。大事なのは今自分達が何がしたいかやし。自分達が何者なんやとかルーツがどうとか、結果を出すためには全然関係ないやろ」
「かっこいい……!」
そんな彼女の言葉に、引き付けられるものがあったのかティキが目を輝かせていた。
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