創作上の偏屈爺は大体いい人
ホゾマの背後にあった乗り物をユウはまじまじと観察する。見た感じでは元居た世界のバスくらいの大きさがありそうだ。
「おお、デカい……。団体送迎用ってところか、これ?」
「まあ、そんなところだ」
ユウが上げる疑問の声にホゾマが頷く。
「ユウさん、妙に事態の飲み込みが早いですね?」
そんな二人のやり取りを傍から見ていたエミリアは首を傾げる。
「ソソソソソソソンナコトナイデスヨ!?」
(流石ユウさん!相変わらず何という取り繕いの下手さ!)
そんな彼女の疑問にユウは素っ頓狂な否定の声を上げ、ルティシアが慣れた様子で煽る。また、そんなユウの挙動不審な様子を見ていたアネッサは額に手を当ててため息を漏らす。
「……?どうしたんだ?」
ユウ達の様子に困惑しつつも、ホゾマが声をかける。
「……イヤ……ナンデモナイデスヨ?」
「……?」
ホゾマが怪訝な顔をしながら向けてくる視線から目をそらしながら、ユウは下手くそな口笛を吹く。それを見たホゾマは首を傾げる。
「まあ、いい。とりあえず話が早く進まないから早く乗ってくれ」
「はいはいはぁーい!!」
とりあえずこの場は誤魔化せたと思ったのか、ユウが弾んだ声を上げる。
(いやはや、相変わらずのユウさんっぷりと予期せぬ助けでしたねー)
(だまらっしゃい!)
ユウは内心でルティシアに噛みつきながら、そそくさと乗り物に乗り込んだ。
「……」
それを見ていた一行は互いに顔を見合わせた後、ユウに続く。
「うわぁ、すごいすごい!めっちゃ早い!」
窓から外の光景を眺めながらティキが感嘆の声を上げる。ティキの言う通り、窓の外の景色が高速で、滑る様に流れていく。
(観光バスで社員旅行した時のことを思い出すなあ……)
ユウの脳裏に前世の記憶が蘇る。
(自腹で払わされた旅行代……行きたくない観光地……ホテルの会議室でやらされる訳の分からない反省会……強制される宴会芸……うぅ……)
そして、前世における一番新しい高速バスの旅の記憶が蘇る度にユウの顔色が蒼白くなっていき、ガクガクと身体を震わせ始める。
「うわぁ、これすごいよ。見てよユウ兄ちゃん!……ユウ兄ちゃん?うわぁ!?」
一度、ユウに話しかけようとしたティキが、その様子を見て驚愕の声を上げる。
(いけない!?ユウさんが前世でのブラック企業の苦い思い出がよみがえって吐き気を催し始めてる……!)
(こちら側の世界でも何がトリガーになり前世の記憶が蘇るのかわかったものではないな)
ルティシアとエクスがそんな感想を漏らしている間も乗り物はエルフの街を進んでいく。
「……なんや、どんどん殺風景になってくなぁ」
そして、周囲の光景の変化にチコが正直な感想を漏らす。
「さっきも話したが、禁域はこの地下都市の奥地にあるからな。そこには住宅などはほとんどない」
「なるほど」
ホゾマの説明にアイザインが納得してからしばらくすると、一行を乗せた乗り物が止まる。
どうやら目的地へと到着したらしい。
――目的地に到着した一行はホゾマに促されて乗り物を降りる。
「……なるほど、ここが地下都市の端というわけか」
周囲を見回していたアネッサが思ったことを口にする。
「やっぱりここらへんは何も無いんやな」
チコも周囲の様子を観察し、率直な感想を口にする。見たところ都市部からも少し距離があるらしく、周辺にはめぼしい建物も存在していない……一軒の小屋を除いては。
「来てしまいましたか、ホゾマ様……」
小屋の方から突如覚えの無い声が聞こえる。ユウ達は咄嗟に声の主の方へと視線を向けると、その先には小屋の前に立つ年老いたエルフが一人いた。
「イーブル、すまないな」
老エルフの名前を呼びながらホゾマは軽く手を上げる。しかし、ホゾマの挨拶にも一瞥もくれず彼はユウ達の方を睨みつけている。その視線に気圧されたのか、ティキが少し身を強張らせる。
「……あの人は誰なんです?なんかめっちゃこっち睨んでますけど……」
イーブルの視線が気になったユウはホゾマに耳打ちする。それを受けてホゾマは小さく鼻を鳴らす。
「この先にある遺跡の管理人だ。そしてあそこが管理人用の詰所だ」
「管理人……なるほど」
「彼も他のエルフと同様によそ者への偏見が強くてな……」
「ああ、なるほど……」
ホゾマの回答に納得したユウが頷いていた直後、彼はイーブルの方へと歩み寄る。
「昨日の今日で、急な訪問をして済まなかったな」
「全くです」
ホゾマの言葉を聞いたイーブルは、一度彼を睨みつけたうえでにべもない返事をする。それから再びユウ達の方を睨むと、言葉を続ける。
「その上よそ者を禁域に入れろなどとはとんでもない……!」
イーブルの反応にホゾマは一度大きくため息を漏らす。
「……そなたがそのような反応をするのも無理からぬことだというのは分かる……」
「でしたら……!」
食い下がろうとするイーブルに対し、ホゾマは首を横に振る。
「しかも人間と魔族の一団だなんて……。私に対する当てつけですか?」
イーブルが下唇を血がにじむほどに嚙みしめる。
(……当てつけ?)
尋常ならざるイーブルの様子にユウは引っかかりを覚える。しかし、そのイーブルの言葉を受け流すように、ホゾマは答える。
「そう言うわけではないんだ。……だが、断ったら兄さんが何をしでかすか分からない……!」
「ぐっ……!」
その一言を聞いたイーブルが、一瞬にして身が固まる。これまで吹き上がっていたのがまるで嘘のようである。そんな彼の隙に付け込むようにホゾマはイーブルの両肩を掴み、勢いよく頭を下げて頼み込む。
「後生だ、イーブル……!兄さんを……兄さんを暴走させるわけにはいかんのだ……!そなたもあの人が暴れたらどうなるかはわかるだろう……!」
「……ぐぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
ホゾマの懇願にイーブルは歯を食いしばって唸る。
(……あ、被害者仲間)
彼の態度の急転換と、その後の様子にすべてを察したユウ達は、思わず同情の目でイーブルを見てしまう。そんな他所者達からの生暖かい視線を感じたイーブルは、居心地の悪さを感じたのかそっぽを向く。
「……禁域への入り口は開けてあります。どうぞ入るならさっさとお入りください」
それから彼はユウ達に背を向け、詰所のドアノブに手をかける。
「そして、手早く用を済ませて早めにお引き取りを」
そう言うと、彼は詰所の中へと戻っていった。
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