朝帰りの時はちゃんと連絡を入れなさい
――翌日、早朝から宮殿の一画にティキ達は集められていた。
「ここは……?」
周囲を見回しながらティキは疑問の声を上げる。周りは一見すると石造りの路面が整備された宮殿の中庭と言った風情だが、よく見ると地下に向けて伸びる巨大な階段が大口を開けている。
「”本来”のエルフの都市への入り口だ」
そんなティキに声をかけながらロックがどこからともなく現れる。
「うげ、出た」
「あ、ロック様。おはようございます」
チコが苦い顔をする傍らでティキは頭を下げる。
「おう」
ロックは気さくに挨拶を返しながらも周囲を見回す。
「……ユウの奴どこに行ったんだ?気配もしないが」
ロックの質問にエミリアが俯く。
「昨日、牢に入れられてから、その後何も音沙汰はありませんが……」
「そうなのか?」
ロックが軽く驚いてティキ達を見回す。その視線を受けてアネッサ達も頷く。その反応を見たロックは軽く舌打ちをする。
「ホゾマの野郎、何やってんだ……」
そんなロックの呟きに呼応するかのようにホゾマが現れる。
「もうみんな集まっていたか……」
そう言いながら彼はしきりに首をさすっている。その様子を見たロックが、ホゾマに勢いよく飛び掛かり足蹴にする。
「なーにが『もう~みんな~集まっていたデュフかデュフフ~。拙僧遅れちゃったでござるよ~デュフフ』だっ!」
「痛いっ!」
唐突な襲撃とそれに伴う痛みにホゾマは思わず悲鳴をあげる。しかし、即座にロックを睨むと声を張り上げる。
「何すんのさっ!?しかもそんな気持ち悪い物言いしてないやい!!」
「お前は存在自体キモイからこんなの誤差だ誤差っ!うんこ!」
「ひどいっ!悪口のレベルも低いっ!」
ホゾマは文句の声を上げるが、それに構うことなくロックは言い募る。
「うるへーっ!昨日のうちにユウの奴を牢から出しとけって言っただろうが!」
「!」
ロックの指摘にホゾマは一瞬言葉に詰まる。
「し……仕方ないだろっ!何か気が付いたら牢は壊れてて、彼がいなくなってるんだもの!」
「!?」
しかし、次に彼の口から発せられた言葉に周囲に居た者達は驚きのあまり息を呑む。
「居なくなっただぁ!?」
そしてロックはロックで素っ頓狂な声を上げる。一方でエミリアとアネッサは顔を見合わせて小声で話し始める。
「まさか何者かに牢で襲撃されたということでしょうか……?」
「仮にそうだとしても、ユウに何かあったとは考えづらいな……」
ユウの圧倒的な身体能力と戦闘能力を知るアネッサは疑問を口にする。それを受けてエミリアも考え込む。
「たしかに……。ロック様からもあれだけ逃げ回れるのなら、不測の事態が起きたとしてもどうにかなるでしょうね……」
「だろう?それにここで何かあったのに誰も今まで気づかなかったのもおかしい。だとすると、あとは考えられるのはユウが牢を壊した上にホゾマ様を気絶させて脱走した……ということになるのだが……」
それを聞いたエミリアの表情が引き攣る。
「はははは……。いくらユウさんが昨日、ホゾマ様に踵落としをしたからってそんな……」
「はは、そんなまさかな……」
そう言ってアネッサは乾いた笑い声をあげて頭を振る。そんな二人の会話を後ろで聞いていたアイザインも、その会話の内容に表情が思わず固くなる。
「?」
一方、大人たちの会話がいま一つ飲み込めていないティキは首を傾げる。
「おはよーございまーす!」
そんな不安と緊張を帯びてきた空気もどこ吹く風……といった感じでさわやかな挨拶をしつつ、ユウがどこからともなく現れる。
「ユウ兄ちゃん!?」
ティキが驚きの声をあげてユウを迎え入れる。
「おう、ティキ。おはよーさん!」
ユウはそう言って軽く片手をあげる。
「う、うん……。おはよう……」
さわやかすぎて逆にどこかうさん臭さを感じるユウのふるまいに困惑したティキは、おずおずとユウの挨拶に頷く。そしてそれ以上は何も言えそうにないティキに代わってアネッサが尋ねる。
「ユウ。急に所在が分からなくなったというので心配していたんだ。一体今までどうしていたんだ?」
そんなアネッサの質問を聞いた途端にユウの顔面から表情が、まるで海から潮が引いていくかのように消えていく。
「……今までどこに居たんだろう……。今まで何をしていたんだろう……。何故僕はここにいるの……。僕はこれからどこに行くの……」
「お、おいユウ……?」
そして虚空を見つめながらぶつぶつと呟くユウにアネッサどころか、後ろに控えていたエミリア達も困惑する。
(あーあ、ホゾマさんから変な話を聞いてしまったせいですっかり様子がおかしく……)
そんなユウの様子をみたルティシアがやれやれとため息を漏らす。そして、ルティシアの言葉を聞いたロックはホゾマを睨む。
「おい、お前昨晩あいつに何を話したんだ?」
しかし、問われたホゾマもホゾマで頭を掻きながら要領を得ない回答を返す。
「いや、それが昨日記憶が飛んでて……彼と何を話したのか微妙に覚えていないんだよね……」
「かーっ、話が進まねぇ進まねぇ!お前らしっかりしてくれよなぁ」
そう言ってロックは掌を自分の額に当てる。
そしてその時、ロックの言葉を聞いた者達の心が一つになった。
(……普段話が進まない原因であるあんたが言えた義理か!?)
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