苦労の無い人生なんてない
「1000年前の大魔王を倒した勇者……なんかスケールデカい話になってきたな……」
そんなユウの素朴な感想を鼻を鳴らすと、ホゾマは話を続ける。
「彼は元々学者畑の人間だったらしくな。当時、大魔王を倒す旅の途中に家出中だった兄さんと出会ったらしいのだが、その際に彼の深い見識に心打たれ、兄さんは彼のことを先生と呼び師事したそうだ」
「え?他者を先生呼びした上に素直に師事!?アレが!?」
「まあ、そう言いたくなる気持ちはとてもよくわかる。ただまあ、あの頃は兄さんもまだ幼かったからな……」
素直なユウの反応にホゾマは頷く。
「なるほど。でもそれはそれでとんでもないなあ……幼かったのに大魔王討伐についていくとか……」
「こと魔術の能力ついては当時でも大人のエルフが手も足も出ないレベルで規格外だったから……」
「なるほど」
ユウは感心する。
「大魔王討伐後、ビフォンは自身の後継を育てるべく世界各地を旅して回っていた。その過程でこの国にも立ち寄ったのだが……その時に当時60歳だったキヤノが難病にかかった」
ホゾマの話を聞いたユウは昼間の謁見の様子を思い返す。ロックが妹に対してだけは随分と紳士的で優しく振る舞っていたように見えたが、過去にそのような経緯があったとすれば納得がいく。
(60歳……エルフだとそれでも相当幼いはずだもんなあ。それが今無事に生きているって言うならああもなるか……。意外と人間臭いところあるな)
(ですね。人間換算だと3歳に毛が生えた程度ですからね。幼稚園児以下……つまりケツだけ星人とかしだす年齢ですらないということですよ)
(王族の女の子がケツだけ星人なんてするわけあるかい!!)
ルティシアのあんまりなコメントにユウは思わずツッコむ。
「……?」
天上と地上の間で交わされる禄でもない会話の気配を聞こえずとも感じ取ったのか、ホゾマは顔をしかめつつも説明を続ける。
「症例自体が少なく、治療法が確立されていなくてな……兄さんほど優れた回復魔法の使い手でも治療もままならなかった」
「……」
「それを見たビフォンが提案したんだ。万が一大魔王を倒せなかった場合に相手を封印するために研究していた秘術……時凍魔法を使ってキヤノの時間を止め、その間に治療法を模索することを」
「で、それがうまくいった……と」
「結果だけ見ればな」
「どういうことです?」
ホゾマの物言いに引っかかるものを覚えたユウが質問を投げかける。
「当時は病気の原因すらも見当がついていなかったのだ。治療法が確立される保証なんてものは欠片もなく、仮に見つかったとしても実用化に至るまでにどれほどの時間がかかるのか、キヤノを実際起こすことになるのは何年後になるのか、そもそもその日が来ることになるのか……そういったこと全ての答えは誰にもわからなかった」
「……」
「絶望の中、微かな希望に私達は縋った。そんな中、ビフォンは兄さんに言ったんだ。『キヤノの治療法をどちらが先に見つけるか競争をしよう』と」
ホゾマの言葉にユウは目を丸くする。
「ビフォンには病気を治療するアテがあったということですか?」
ユウの質問を聞いたホゾマは首を左右に振る。
「いや、そうではなかっただろう。治療法を確立したのは彼の子孫達だったが……時凍魔法をあの子にかけてから800年も経った後のことだ」
「800年!?」
想像以上に時間スケールが大きかった話にユウは素っ頓狂な声を上げる。
「よくもまあ勇者の子孫が続いた上に、研究が途絶えなかったもんですね……」
「まったくだ。その間に勇者も随分な人数が代替わりしていたからな。実際、勇者の血筋はいくつかの国に別れて受け継がれていったが、そのうちのいくつかは滅んでいたりする。いくら長命のエルフと言っても、流石に800年は長かったよ」
「おおう……」
言葉を失いかけたユウに、ホゾマは続ける。
「その800年の間、兄さんも手は尽くしていた……。明日以降の探索で君も目にすることになるだろうが……禁域である遺跡には異世界につながるゲートなんてものがあってね。兄さんはそれを使い、異世界を渡り歩き、キヤノの病を治す方法を求め続けた。この世界の魔術を極めた天才、それが異世界に渡ってまで探し求めて手に入らなかった技術……それを実現したのは我らよりも寿命が短い人間達の知識・技術の伝承の積み重ねだったわけだ」
「そりゃまた……寓話めいてますね」
ユウの反応にホゾマは苦笑する。
「そうだな。まあ、そう言うわけで我々は人間に一度盛大に負けた上に救われている。そんな経験をすれば、物の見方も変わらざるを得ないさ」
「それは……そうなりますよね……」
ホゾマが語る実感が追い付かないスケールの話を飲み下すかのように、ユウは相槌を打つ。
「しかしまあ、こういう言い方はあんま良くないのは百も承知なんですが……ホゾマさんはともかく、あの全裸も家族の不幸とかそういう人間らしい経験と苦悩みたいなのがあったんですね……」
「まあな」
ユウのぽつりと漏れた正直な感想にホゾマは薄く笑い、鼻を鳴らした。
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