Ep.4-19 選択の帰結
言うてた通りではありますが、遅くなってしまってすみません<(_ _)>
**********
「失礼します! 王女様っ! 例の物体に異変が!」
同時刻。イッシュヴァルト王国に座す王城。
有事の際のために(というか、恐らく今が紛うことなく有事なのかもしれないが)学校を欠席し、自室にて昼食をとっていたアリシアは、ノックと同時に駆けこんできた兵士から為されたその報告に慌ただしく立ち上がる。
「(ついに、この時が来ましたか……)急ぎ各局に連絡を! チャンネルを切り替えるよう伝達してください!!」
国の存亡を揺るがす、一大事。本当ならば、そして本心ならば、議会との綿密な相談と合議の上で決定を行って事に対処したかった。
だが今は、いちいち感傷に浸っている間すら惜しい。執務室へと急ぎ向かいながら、アリシアは使用人や兵たちへ矢継ぎ早に指示を飛ばす。
この一大事。ともすれば王国の未来に関わるやもしれない大事とあって、政府の中枢はこの問題に関する状況をリアルタイムで全国民へ放送することを決めていた。
件の場所に既に派遣してある兵たちには、例のドローン式カメラを持って行かせている。
その映像を、王族専用のチャンネルを用いて配信することで、全国民がその映像を見ることができるようになるという訳だ。
「それから、全軍に通達! いつでも出れるように準備していてくださいっ!」
加えて、城に常駐している王国軍に対しても出撃に備えるように指令を出す。
あの地にて未確認物体の動向を監視している兵だけではなく、万が一そこが突破されたとき、国民を守るためにより多くの兵を投入する可能性も十分に考えられるものだった。
恐らく相手は、紛うことなき超常の存在なのだから。
「それから――っ!?!?」
更に指示を出そうとしたところで、アリシアは執務室へとたどり着く。
と、同時。室内に据え置かれた巨大なモニターに映し出された映像の先で、未確認物体――白き繭が、激しく胎動しているのが見えた。
その余りに非現実的な光景に、アリシアは指示することも忘れて思わず立ちすくんでしまう。
それは、辺りにいる兵や使用人。議員たちすらも、例外ではなかった。
そして――
**********
その瞬間。イッシュヴァルトに住まう殆ど全ての住民がその映像を見ていた。
激しく胎動していた、巨大な繭。それが、一瞬の静寂の後、一気にひび割れていくのを。
――ピキッ、ピキピキッ!!
一層激しい音を立てて、ひびは、物体の表面中に広がっていく。
まるで衝撃が伝播していくかのように、段々と。段々と。
そして、遂に、
――ピキっ……バキバキバキバキッ!!
全体にひびが入ったその白き繭を盛大に突き破り、内よりナニかが現れ出でる。
繭の大きさに違わぬ、巨大にして圧倒的なナニかが。
――GURU……GUOOOOOOOOOOOOOO!!!!
雄叫びを上げ、そのナニかは地面へと降り立つ。
それは、白く輝く、強大なる竜であった。
――“竜”と“龍”の違い。
旧き時代にて語られた、長き体躯を誇る東洋の龍と、逞しい四肢と翼を持つ西洋の竜。
その区別の真偽についてはいざ知らず、しかしその区別に拠るなれば、紛うことなき”竜”が、そこにはいた。
まず何よりも先に目につくのは、二翼一対の巨大なる白翼。
膨大な白き毛に覆われたその翼が、発達した胴からまるで空を覆いつくすかのように彼方へと延びている。
その胴から下へ延びているのは、強靭な四本の足と、長き尾。
特に後ろ脚よりも発達した前足には、鎧の如き外殻を携えており、全身白磁の体躯が、真昼の太陽に照らされ時折儚く銀色に煌めいている。
そして、精悍にして荘厳な顔立ち。
静かに見開いた眼は、白磁の身体によく映える勿忘草色をしていた。
王城にいるアリシアは、ただただ見惚れていた。
陽の光に照らされ、自らの髪によく似た白銀を煌めかせる竜。超常の存在にふさわしい、高貴で荘厳極まるその雰囲気に。
高等学校の食堂で流斗を問い詰めていた桜花、ミーナ、エルリア、大二郎は、追及を忘れ呆然とするしかなかった。
画面越しに見ただけで分かる、生物としての明確な格の違いに。
同じく、高等学校の敷地内にある食事処にて桜花とミーナの動向を気にしていた奏、夏希は、何も言葉を発せずにいた。
このひと月ほどで二度も遭遇した、超常の存在。それらと同じ――否、それらを超えるような竜の威圧に。
「…………」
そして。
恐らくこの国で唯一全てを知っている少年――流斗は、静かな目でテレビの画面をじっと見つめていた。
投げられた賽の帰結に、思いを馳せながら。
そんな取るに足らない矮小な人間たちの反応など当然知ることなく、そっと鎌首をもたげる、その竜の名は、『白帝竜』。
このイッシュヴァルトという国の建国前から、この地を統べていた――そして、この国の建国に協力し、人間たちに未来を託して永き眠りについた、口伝にのみ残る白磁の竜。
過去から現在に遥か至るまでこの地を統べていた、正真正銘の神、だった。
「(――白磁の身体に、勿忘草の眼を持つ天を統べる竜、『天帝』か)」
先日、ヒノメこと『八咫烏』と共に話をしたその竜の本当の姿を見、流斗は伝説が真であったことを知る。
威風堂々たるその姿は、まさに伝説の通りと言って差し支えのないものであった。
「(――今頃……)」
今頃、この国中の人々がその姿を目撃していることだろう、と、ふと思う。
自らたちが武器を向けた存在の、その圧倒的な姿を。
神器。魔術。そして、魔獣。
それらの階梯は基本的には大雑把にしか分からないものだが、こと超常の領域にあるモノに関しては、人間たちはその階梯、ランクを正確に知ることができる。
神器や魔術の階梯で言えば、歴史上の最高位である『皇帝級』、そしてその上、お伽噺の中の『伝説級』を目にしたとき、人間はその異次元さを正しく認知できるのだ。
それは、自らたちの理解を超えた存在に対する、潜在的な本能、とでも言うべきだろうか。
神格を持つ獣たち――『皇帝級』に相当するであろう『王獣』、そして、『伝説級』とやらに値する『神獣』に対しても、それは例外ではなかった。
一つ、流斗にはそれを誤魔化しうるとある手段があった。
だが、かつて学園内で迷子になっていた少女の人形を直してあげたときのように、数日前ヒノメを連れて王城に押し入ったときのように、流斗がそれを用いていない今、イッシュヴァルトに住まう全国民があの竜の階梯を正確に把握していることだろう。
即ち、紛うことなき超常の神なる獣であることを。
「(だが、あいつは恐らく……)」
だが恐らく、その超常のチカラが振るわれることはない。
そう思いを巡らす流斗の視線の先では、繭の内から完全に解き放たれた『白帝竜』が自らの周囲をぐるっと見渡していた。
――GURU……GURUUU……
自らの周囲を取り囲むようにしている人間たちに、そして、彼らが自らを警戒し武器を向けていることに、『白帝竜』は気づいたのだろう。
どこか悲しげな声を上げると、ただ静かに翼をはためかせる。
そして、青き空へと静かに浮かび、西の方へと飛び去って行こうとする。
「(…………これが、人間の功罪、か……)」
そんな『白帝竜』の行動を見て、ただ漠々と思考が巡っていく。
人間の選択がもたらした、皮肉極まる現実へと。
彼の竜が自らの存在を口伝という形だけで残したのは、恐らく人間たちへの配慮だ。
如何に竜が建国の救世主であるとはいえ、自分たちの力が全く及ばない超常の存在がすぐ傍で生きている事実が明らかになったことは、間違いなく人間にとって大きな負担になったことだろう。
それが例え、お互いの意思ではなくても、だ。
だから、建国の歴史は表舞台から完全に消去され、あの竜は眠りについたのだろう。
そしていつか、自らの助けが必要となったとき、おとぎ話にあるように自らのことを信じてくれることを期待して。
だが、結果はどうだ。
確かに、おとぎ話は現在までしっかりと語り継がれてきた。
だが、余りに長き間、神というものから遠ざかってしまった結果、この国の人々はそれらを必要以上に畏れ、また余りに無知になってしまっていた。
大恩あるこの『白帝竜』にすら、牙をむいてしまうほどに。
そんなことを考える流斗が見つめる画面の先では、『白帝竜』の影がどんどん遠くなっていく。
恐らく、もうこの地で人間と相まみえることはないだろう。それが、彼の竜の選択なのだから。
「勿忘草の眼、か。本当に、皮肉なもんだな……」
それを見て、流斗はそう、ポツリと零してしまう。
――勿忘草。花言葉は『真実の愛』
そして、
『私を忘れないで』
評価、感想など、お待ちしていますん




