Ep.4-18 珍しい組み合わせ
**********
第一王女アリシアから、未確認物体について公式の説明が為された、その後の数日間。
王国内は、どことなく浮ついたような、しかし紛うことない奇妙な緊張感に包まれていた。
ニュースを始め各メディアは連日その話題で持ち切りだし、道行く人々も、どこか陰りのある表情で歩を進めている。
それはもちろん、王都に突然現れたその未確認物体のせいであった。
いくら王国軍を派遣し、周辺の警護に当たらせるとは言え、どうなるのかなんて確かなことは分からない。
しかも、相手が超常の存在である可能性が高いのだから、なおさらだ。
そんな状況で、普段通り過ごせ、というのは無理難題というものだろう。
「うーむ……なんだか、居心地の悪い空気だなー」
そしてその余波は、当然流斗たちの通う高等学校にも及んでいた。
「そうねぇ。まあ、しょうがないでしょうけど、ね。ワタシたちにできることは何もないし」
「……んー。そらーそうだけどなぁ」
学内に流れる陰鬱とした空気に対して、目の前でなされる脳筋少年――轟 大二郎と、気の強い長身の少女――茨木 エルリアの会話。
それを無言で聞きながら、流斗は昼食に頼んだうどんを一人静かにすすっていた。
大規模演習の前半で少しばかり確執、というかすれ違いがあったこの二人だが、協力してあの演習を乗り越えて以来無事に元の仲を取り戻したようだ。
金髪ツンツン少女の方が時折ボーっとおバカな少年の横顔を見ていたりもしているが、まあ彼のことだ。頬にご飯粒でもついてるのだろう。きっと。めいびー。
「――流斗は、どう思う?」
そんなことを考えていたものだから、ふと自分に投げられたボールを完全に聞き逃していた。
どうやら、何事かを大二郎が自分に聞いてきたらしい。
「んあ? あー……。わりぃ、聞いてなかった」
「お、おいおい、どーしたんだよ……。ここ数日、よく考え事してるみたいだけど」
「……ねえ? 流斗……アナタ、夏希たちと何かあったの?」
普段とは違う流斗の様子に思うところがあったらしい。エルリアからの思わぬ指摘に、箸でつまんでいたうどんが丼に落ちる。
低い所からだったとはいえ、汁が跳ねなかったのは幸いだったが。
数日前。アリシアの会見の後。
王城を訪れ、アリシアたちに決定の真意を問うていた流斗は、エルリアのご指摘通り、確かにここ数日ずっと奏や夏希たちとまともに会話をしていなかった。
勿論、流斗は彼女ら個人を攻め立てた訳ではなく、またその人格そのものを否定した訳でもないのだが、あれ以降何となく気まずい関係に陥っていた。
その気まずさは特に向こうが感じているようで、従って流斗は彼女たちではなくこうしてエルリアたちと食事を共にしているという次第だった。
「……んや、なんもねーよ」
さりとてその事情の一部始終を、この場でわざわざ事細かに話す必要はない。
ってことでさっくりと否定して、この話題を終わらせようと試みる。
「嘘。そんな訳ないでしょ」
が、この気の強い少女は、どうやら容易く逃がしてはくれないようだ。
流斗が打った逃げの一手は、一言でバッサリと否定されてしまう。
「あんまり積極的に色んな人に話しかけるタイプじゃないアナタが、一番一緒にいたのがあの子たちなんだから。急に話さなくなるなんて変でしょうよ」
「…………」
「ねえ、轟も何か言ってよ」
無言を貫く流斗にしびれを切らしたのか、エルリアがそう隣の少年へと話を振る。
何だか、段々と面倒なことになってきた気がすんな……
「……あーっと、」
しかし、大二郎が口を開こうとしたその瞬間に、
「あ、こんなところにいたのです」
「え、えっと。同席、いいですか……?」
問題の場に同席していた後輩の少女――ミーナと、自分たちのクラスメイトである人見知りの少女――樹宮 桜花が、そう流斗に話しかけてきたのだった。
**********
「「…………」」
了承を取るや否や、無言でそそくさと流斗の両わきへと陣取った、ミーナと桜花。
まるで自分を逃がすまいとしているように、退路を塞いできなすった。
どうやらただの偶然という訳ではなく、何か目的があってここに来たようである。
「(にしても……)」
にしても、随分と珍しい組み合わせだ。
というか、この二人で一緒にいるところを少なくとも流斗は初めて見た。
彼女たちが知り合うきっかけと言えば、恐らく奏たち繋がりなのだろうと想像はつくのだが……
「流斗さん、最近夏希ちゃんたちとあんまりしゃべってない、ですよね」
幾ばくかの沈黙を破り、人見知りのはずの少女――桜花が、そう口を開く。
その威圧は、初めて話をしたときのあのおどおどとした態度からは想像もつかない。落ち着いた雰囲気の中に、しかし無言の圧が含まれているのが分かる。
いやはや、もう君、立派に喋れてますやん……
「ほら! ほら! ワタシもさっきからそう言ってるのに、頑なに認めないのよね」
まさに水を得た魚。一度は収まったかのように見えたエルリアさんまで息を吹き返してきたので、流斗は内心頭を抱えてしまう。
なんかもう、事態がどんどん面倒な方向へと進んでるのは気のせいだと信じたい……
「せ、せんぱい……」
落ち着いた態度で質問してきた桜花とは違い、この中で唯一問題の場にいた少女、ミーナが、不安そうな表情でこっちを見てきている。
……何となく、事情がつかめた。恐らくは夏希たちといることが多い桜花が、彼女たちと自分たちの間にある微妙な空気感に気づいたのだろう。
それで、性格上流斗とアリシアたちのすれ違いをどうしても放っておけなかったのだろう後輩の少女――ミーナを伴って、ここに来たのだろう。
この桜花という少女は、いざ行動する段になれば意外な行動力を見せるようだし、納得と言えば納得だ。
「………………」
だが、今更ここで彼女たちに言うことなど、流斗にはない。
あの場でアリシアたちに聞いたことを繰り返したところで、返ってくる答えはきっと同じだ。
こうして何かしらのアクションを起こすこともなく平生通りに生活している時点で、そのことは明確なのだから。
「――お、おい!!」
「ちょっと! あれ……」
不意に、食堂内にざわめきが広がる。
声のした辺りから、誰からともなく、据え置かれている大型テレビの方を向く。
「(さて、と。どうなる……否、どうするかなっと)」
そんな喧騒を他所に、流斗は結末へと思いを馳せる。
人間の選択に、どのような未来が待っているかな、と。
――バキバキバキバキッ!!!!
画面の向こう。
件の物体を映しているカメラの前で、遂にその白き繭が、砕けた。




