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神に牙むく無双の咎人 ~時代に抗う、次代の寵児たち~  作者: 銀風 朧月
第4章 王無き玉座に鉄槌は下る
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Ep.4-14 拡がる不安

 評価いただきましたー。ありがとうございます!

 **********



 ――王都外れの古城に、謎の巨大な物体現る!!


 その情報は、瞬く間に国中に広がった。

 箝口(かんこう)など、全く(あた)わなかった。いくら古城が人里離れたところにある――否、あったとはいえ、あれだけ巨大な繭だ。

 SNSを発端に瞬く間に情報は拡散し、夏希たちがアリシアに会って依頼の報告をする頃には、既にテレビはその話題で持ち切りであった。


「なーんだ、こりゃあ……」


 その余波は、当然イッシュヴァルト王国立高等学校にも及んでいた。

 一日の授業を終えた教室。このあとどうすっかなー、と自分の黒髪を(もてあそ)んでいた流斗の隣で携帯を眺めていた暴走少年こと轟 大二郎が、不意にそう呆然とした声を漏らす。

 気付けば教室内にも、明らかに普段とは違う不安げなざわめきが広がっていた。


「(さて、いよいよ大衆に知れ渡った、か……)」


 そんな喧騒を横目に、自らの携帯を見ながら流斗は一人物思いにふける。


 明確な違和感を覚えたのは一昨日。その日の晩から()の地に足を運び、『八咫烏(やたがらす)』改めヒノメとその存在の現状を確認してきた。

 それからもう一日半ほど経ったと考えると、むしろ遅いくらいだと言うべきなのだろうが、あれだけのスパンで生きている存在にとっては、一日ぐらいは些細な誤差な気もすんなー、と、そんな取るに足らないことを考える。


「おー、こりゃあまあ凄いことになってきたっスねぇ……」


 と、不意にすぐ近くから、聞き覚えのある声がする。

 ん? と思考を中断し顔を上げると、正面から自らの携帯を覗き込む小柄な少女が見えた。

 長めの黒髪が揺れる度、甘い香りが漂うのが分かる。


「……なーにしてんだ、お嬢さんや」


「? 何って、ニュース見てるんスよー」


 そこにいたのは、独特な語尾で話すクラスメイトの少女――名を、宮本 唯依。

 流斗のツッコミにまるで動じることなく、ごくごく冷静に返答してくる。いやいや、何でワイの携帯ですのん……


「……お前さんは、あんまり驚いてないみたいだなー」


 反対側から相変わらず画面を覗き込む少女へツッコミを諦め、そう尋ねてみる。

 隣で相変わらず呆然とニュースを眺めている大二郎や、友人とただ不安を漏らすばかりのクラスの様子とは、どこか一線を画しているように感じたのだ。


 ――いや、ともすれば流石にその言い方は厳しすぎるだろうか。

 誰だって急に訪れる現実を前にしては、思考が止まってしまう。

 色々と突飛な経験をしている自分ですら、その例外ではないのだから。


「そうっスか? これでもわたし、結構驚いてるっスよ」


 流斗の言葉に、唯依はそう冷静に返してくる。

 その表情には、なるほど確かに、ただ純粋な驚きが溢れていた。


 だが、()()()()()()

 流斗が言いたかったことは、そんなことではないのだ。


「――んや、確かに驚いてはいるが、そうだなァ……なんちゅーか、()()()()ような気がしたんだよな。こういう、唐突な非日常って奴に」


 ――天災は、忘れたころにやってくる


 誰もが備えている頃ではない。

 そんな非日常など起こらない、起こると知っていても、まさか自分に降りかかるとは思っていない。そんな時に限って、世界は急転する。


 そしていざその状況になれば、どんなに優れた人間でも余りの現実にただ呆けることしかできないのが世の常だ。

 仮にその場では体が動いていたとしても、現実感と呼ばれる厄介な代物は、必ず後から唐突に襲い掛かる。

 この世界は、そして人間という生き物は、()()()()()()できている。


 ……だが、この少女。

 以前人形を壊してしまい泣いていた迷子の幼女と遭遇したとき、初めてまともに絡んだという程度の付き合いでしかないこの少女に、そういった人の(さが)を超えた達観を見た気がしたのだ。


 ――いや。それとも、諦観(ていかん)、と言うべきだろうか。


「……アハハ、そりゃ気のせいっスよ。わたしはごく普通の、か弱い女のコっスから~」


「――そうさな。変なこと聞いて悪かった」


 何処かとぼけたような唯依の言葉に、しかしこれ以上の問答は今は無意味と軽く謝罪する。

 この状況で、そのことは本題ではなかった。


「ふむふむ……どうやら今日の夕方、王女様から直々に説明があるみたいっスね」


 唯依が、そう言って話を戻す。

 ほらここ、と、彼女が指さした自分の携帯の画面を見ると、どうやらこの異常事態に関する王女の会見がこの後夕刻に行われるらしい。

 本来ならば国王直々に行われるのが通例だろうが、彼女の両親がちょうど外遊のために揃って不在なので、彼女にその重大な役割が巡ってきたという訳だろう。


「この専用のチャンネル? ってーのはなんだ?」


「んえ? 知らないんスか? えっとですねぇ……」


 文章中に見覚えのないワードがあったので、唯依に尋ねる。

 随分と驚いた反応をされるが、この国に住んでいた訳ではないのだから知るはずが無かろうてよーっと……


 彼女の説明を要約すると、こういうことらしい。

 こういった非常事態に際して、内政の半分、そして外交の全てを担う王族からの直接の声がすぐに届けられるように、数年前から専用の回線を用いた専用のチャンネルが設けられているらしい。

 寝かせておくのが勿体ないのか非常事態の時専用という訳でもないらしく、普段は彼らの政務や日常の様子などを時折放送しているとのこと。


「(へえ、あのカメラ、随分と有用に使われてんだな)」


 流斗にとっては一番興味深かったのだが、普段の彼らの生活を放送する際には、かつて神域『静謐極まる緑林』へ入る前に、流斗が担任である陽野 橘から持っていくように提案されたあのカメラを使っているらしい。

 固定視点と、指定した人物の周囲をランダムに飛び回る移動視点を切り替えられるという最新鋭のドローン式超小型カメラは、どうやら既に実用に足るレベルにあるようだ。


「まあもちろん、今日はそんな呑気な放送はしてられないでしょうっスけど、ねん……」


「なるほど、なァ。――それにしても、早々にこんな厄介事とは、アリシアも随分と可哀想なもんだぜな」


「あー、ホントっスねぇ。ココの記事には、国王夫妻が外遊に出発したその後すぐに軍へと持ち込まれて、依頼していた征伐者がこの異変に出くわしたって書いてあるっスもん………………んえ? 今、王女様呼び捨てにしました?」


 おーい、という唯依の声を気にせず(というか普通に気付いていなかっただけなのだが)、少女の余りの運命に少しばかり同情してしまう。

 国王夫妻が外遊へと出立したのが、確か昨日の早朝だったか。

 自分が向かった夜更け頃には既に()の竜が激しく咆哮していたことを踏まえると、昨日の朝一で依頼が仲介所に持ち込まれたのだろう。


 その後の詳しい経緯は知らないが、今日に限って夏希と奏が揃って不在である、ということを鑑みれば、アリシアから彼女たちに依頼でもしたのだろう、という推測もできる。

 明日にでも彼女たちに聞けば、より詳細な状況も分かるだろう。


「……どーなるかねぇ、こりゃあ」


 明らかに動き出した状況を前に、そう、ポツリと零す。


 いよいよ、(さい)は投げられた。

 先日『八咫烏』――ヒノメと共に、()の存在と暫し話をすることができた。この事態への対応は間違いなく、人間の歴史の分水嶺となるだろう。

 そして恐らく――と言うか間違いなく、国王夫妻および総隊長の帰国には間に合わない。

 つまりこの選択の責は、アリシアというまだ若き少女に(ゆだ)ねられてしまった、ということになる。


「(俺が介入するこたぁないだろーからな)」


 他でもない人間自身の選択だというのだから、お人好しを自認する流斗だって今回手を出すつもりは毛頭ない。

 こうしてこの国に深く絡み始めてまだ一月ほど。幾ばくかの情が湧いているとしても、だ。


 だが、もし……もし、介入するとするならば……


「…………」


 一人、人間の功罪というものに思いを馳せ、流斗は暫し考え込んでしまうのだった。


 どちらかと言えばゆったり進んどりますが、気長にお付き合いください<(_ _)>

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