Ep.4-11 英雄を導く者
下書きのまま投稿してもうたので一回消したことをご容赦ください
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時は少しばかり遡る。
国王夫妻が外遊へと出立し、一時的に国の代理となったアリシアの元へ厄介事が持ち込まれる、その前夜。
自らが覚えていた違和感……それに関する推測にとある確信を覚えた流斗は、一人王都の外れ、不可思議な古城へと足を運んでいた。
「(…………)」
夜分遅くに一人。
辺りは街灯もなく閑散としており、当然話し相手もいない。
そんな状況で黙々と歩き続けているためか、漠々と思考も広がっていく。
「(……第一王女と、初等学校から幼馴染の少女たち、ね……)」
ふと、思いを馳せるのは、この国にやって来てからの偶然の出会い。
つい夕刻まで共に王都を逍遥していた、第一王女アリシア。
夏希と奏を除けば一番初めに出会ったことになる、ミーナという小柄な少女。
――そして、未だ出会っていない、二人の姉妹。
「偶然、ね。全く、よー言えたもんだぜな」
自らの言動を省みて、そう一人嘆息して自虐する。
確かにあの時、それぞれ正当と言うに値する理由があったと言っても過言ではない。
三度目に至っては、完全に偶然と言うほかないだろう。
だがそれにより、ある種合法的にその機会を避けれるということに、多かれ少なかれ安堵という感情を抱いていたのも、また事実だった。
例え今更、何かが変わるわけではないとしても、だ。
――あの帰結を迎えた全ての原因は、他でもない、自分自身なのだから。
「この俺が、なんて、今更すぎるよなあ。――そう、思うだろ?」
ひたすら漠々と広がりを見せる思考の中で、流斗は不意に何もないはずの虚空へと声を向ける。
返事など、当然返ってくるはずもなく、流斗の声は、ただ暗闇の中へと溶けて消えていく。
――はず、だった。
「――お気づきでしたか……。流石、ですね」
独り言のようにも思えた流斗の問いに応えるかのように、後方、暗闇の中から、落ち着いた声が聞こえてくる。
赤く鋭い瞳が、二つ。黒を裂いて光っている。
「ま、暫く一緒の方に向かってたんだから、流石になー」
その存在が、自らの後方にいたことに、流斗は少し前から気が付いていた。
だがかと言って、別に流斗をつけていた訳ではない。
ただ単に、向かう先が同じであるだけだろう。
そう。そして、向かい先が同じであるということは……
その意味するものに一つ嘆息し、再び後方へと言葉をかける。
「お前さんがいるっちゅーことは、いよいよそーいう訳、か……。――英雄を導く、高天原から参じた神の遣い。三本の脚を持つ、神話の存在、『八咫烏』よ」
「…………」
流斗の言葉に、暗闇からゆっくりと現れたのは、黒く輝く一柱の鳥、だった。
大きさは、そこいらに住む一般的なカラスとそうは変わらないだろう。
だが、意思と知性を秘めた紅蓮の瞳と、高貴さを隠し切れない漆黒の羽毛。そして何より、奇数本――三本の脚を持つという点が、ただの野生の獣には決してない超常の雰囲気を醸し出していた。
「やはり、ご存知でしたか……。初めまして、になりますね。傍観者を名乗る、人外の者よ」
「くはっ。ま、名乗る割には手ぇ出してるけどなーっと」
あんまり触れてほしくない自称におもいっきし触れられて、流斗は思わず苦笑いを零してしまう。
傍観を志向しつつも昔からそれなりに首を突っ込んできたし、最近この国に来てからも色々とブレブレなので、そのことを言うのは止めてくれってばよ……
まあ、彼がずっと掲げているスタンス的には間違っちゃあいないのだが。
「英雄を導く、神々の遣い……転じて、古来より英雄が必要とされるような巨大な栄枯の前に現れる、と言われているお前さんがいるってーことは、いよいよあそこの神さんが目覚めるってことでいいんだな?」
目的地が一緒らしい超常の獣と肩を並べて進みつつ、そう話題を振る。
思い出すのは、夕刻に聞いたばかりの、この国のおとぎ話。
そして、不自然に消え去っていた、建国に係る一切の記録。
「ええ。――イッシュヴァルトの建国において、大きな役割を果たした『天帝』。彼の竜が、長き時を経て目覚めようとしています」
「……ま、そーだよなァ」
昼頃からずっと流斗が感じていた、明確な違和感。
何かが起こるような、目覚めるような、そんな根拠のない予感。
それは全て、この地に眠る超常の存在が目覚めようとしていることに起因していた。
思い返せば、この国に来て初めての週末。
何の気なしに図書館を訪れた流斗が直面したのは、この国の成り立ちに深い関わりを持つはずの存在が、徹底的に隠匿されているという驚愕の事実だった。
流斗に、それを遮二無二否定する気は更々ない。あまりにも神々と無縁に見える国の雰囲気に、十分に予想できていたことでもあった。
だが、それを選んだ人間の功罪に、思いを馳せざるを得なかったのは事実だ。
「(……だが……)」
だが、ついさっききいたばかりの、おとぎ話。
幼児向けにデフォルメされつつも、しかし本筋を失っていないその内容に、色々と見えてくるものもある。
もしかしてその選択は、おとぎ話という秘鑰を残しつつも公の記録を一切消去するというこの選択は、人間の功罪ではなく、彼の存在そのものの意思ではなかったのか、と。
そして、今。
長きにわたる眠りを超えて、その存在が目覚めようとしている。
もし仮に、これがその選択の帰結を見ようとしているものなのだとしたら、アリシアは……否、この国の人間は、歴史を分岐させ得る巨大な選択を迫られることになるだろう。
「……そーれにしても、『八咫烏』な……。原文じゃあ大烏とまで言われてたはずなんだけど、お前さんは随分と小柄なんだなァ」
そんなことを考えつつ、同行する存在へと話を振る。
一般的なカラスとそう変わらない体躯は、お世辞にも大の字を当てはめてやるには値しない気がするのだが、と。
「えっと、代替わりしたばかりでして。前任までの記憶はもちろんありますが、この個体は生まれて八年ほどといったところでしょうか」
「ふむん。なるほどね」
そんな話をしているうちに、段々と目的の古城が大きくなっていく。
付近には人が住んでおらず、暗い森に囲まれている古城だが、ここまでくると月明かりに照らされた古城が見えてきている。
「英雄が必要とされるような巨大な栄枯の前に現れる、とおっしゃいましたが」
そんな幻想的な古城の景色を見ていた流斗に対し、不意に『八咫烏』の方から話を振られ、一瞬反応が遅れてしまう。
落ち着いた少女のような声で、丁寧な口調であることも相まって、あまり積極的に話を仕掛けてくるようなタイプには思えなかったのだが。
まして、ただの人間であるところの自分とは立場が違う訳だし。
「?? んーああ、お前さんに限らず、一般的にゃあカラスはその知性と視力を以て神の遣い、あるいは斥候みてーな役割を任されていることが多いからなー」
「……そのせいか、昨今の私は不幸の象徴と言われることが多々ありまして。黒という色も相まって、私が現れるところには、よくない出来事が起こる、と」
「……あー。そりゃあ、是非もねぇな。因果が逆なわけだが」
因果が逆、というのはもちろん、本来は栄枯の元に『八咫烏』が現れる、という順であるということだ。
だが、事情を知らない者からしてみれば、その因果関係は分からない。むしろその逆、現れたからこそ不幸が起こる、と考えるのが自然だろう。
彼女からすれば、解せないというか、理不尽なところだろうが。
「そういう訳で、この姿をこれ以上人間に目撃されたくありません。前任も結構気にしていたようですし。なので、少々待っていただいてもよろしいですか?」
「んあ? 別にいいけど……」
流斗の返事を聞いたのち、静かに暗闇へと消えていく。
モチのロン、流斗に断る理由などない。
と、言うか、あくまで同じ場所を目指しているだけであって、別に行動を共にしている訳ではないのだが、どうにもこの子は丁寧な口調を裏切らず中々に律儀なようだ。
――GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!
「!? っとと、こらー近所の奴らにゃ間違いなく聞こえてるだろうよっと」
大きな咆哮が聞こえる。
間違いない。既に目覚めている。
近隣住民に聞こえているということは、遅かれ早かれこの情報はアリシアたち中枢へと伝わることだろう。
これだけの轟音だ。付近に住む人々が何事も疑問に思わないはずがない。
「(……人間の選択、なァ……)」
その時が意外と近づいていることを察し、流斗はただ静かに満天の星を見上げるのであった。
リアクトお待ちしとります




