Ep.4-4 女六人寄れば
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「…………あ。あれって……」
「んえ? ――あ。ほんとだ」
少年が立ち去って、僅か数分後のこと。
食事を続けていた奏たちは、ふと店外を見知った少女たちが通り過ぎるのを見つける。
「食事終わり、かな」
「だろうねー。ちょい待ち、今引き留める!」
時間帯からして、彼女たちも学園内の食事処で食事を終えて後者に戻るところだろう。
流石に店内から大声で叫ぶわけにもいかないので、数分待ってて! とチャットを入れ、急ぎ食べ終え外に出ることにする。
「やー、引き留めちゃってごめんねー。ほら、久しぶりだったからさ!」
「いえいえ! 気にしないでくださいー!」
「そうですよ。私たちも大規模演習について聞きたかったですから」
会計を終え外の少女たちの元へ向かうと、開口一番夏希が謝罪する。
待っていた少女たちはまったく気にしていない様子で、笑顔で言葉を返してくれた。
先に明るく返事をしたのは、一学年の三人の主席のうち、双子の姉妹の片割れ――大神 陽菜。
その言葉に静かに追随したのは、双子のもう片割れ――大神 雪葉。
後方には主席にして当代の第一王女――アリシアと、そして実技に関して一番の実力を誇るという小柄な少女――ミーナの姿もある。
彼女たちとは数週間前に初めての依頼に行ったっきり、中々に久しぶりであったので、思わず引き留めてしまったのだった。
そんな彼女たちから発せられた大規模演習に関する質問に、奏は思わず夏希と顔を見合わせてしまう。
「演習かぁ。まーあ、色々あったよねぇ」
「……なんかこう、色々と非常事態が、ね」
「え、そーなのですか? ミーナたちは何も聞いていないのです」
取り敢えず近場のベンチに腰掛けながら、夏希がそう返答する。その表情には、あからさまな苦笑いが浮かんでいる。
だが、色々、と言わざるを得なかった彼女の心境が十二分に察せられる奏も、同じように苦笑しながら追随する。
「……アリシアは、流石に知ってる?」
「ええ、そうですね。全てではないですが、神託のことも併せて、この演習に係る一部始終は伺っております」
どうやら他学年にまで情報が共有されている訳ではないようだ、ということを知り、話をアリシアに振ってみる。
流石に王女たる彼女は、演習に際して発生した諸々の異常について知っているようだ。
「そかそか。んーと、どっから話しよっか――」
「――とまあそんな訳で、王獣っていうのがそれはもう凄かったわけですよ!!」
時系列順に起こったことを一通り説明し終えて、夏希がそう締めくくる。最後の感想が月並みでベッタベタ、というか雑過ぎるけど……。
しかし奏も気持ちが分かってしまうので再び静かに苦笑する。
「(……だって、アレだもんね……)」
アレ、とは、王獣同士の超常の戦闘のことだ。
あんな戦闘、少なくとも奏は十六年やそこら生きてきて一度も見たことはない。
遠い昔に見た、各国の学園同士の対抗戦だって、あそこまでの光景ではなかったように記憶している。
……まあ、流斗から聞いた話――王獣たる彼らの、特に『磁猿魔』の実力に関する話――を鑑みれば、それも当然なのかもしれないけど。
「(……にしても、すごい饒舌だなぁ……)」
それはともかくとして、ふと夏希のテンションが随分と高いことに気づく。
あんな話を聞いた直後だ。てっきり、ショックを受けていると思っていたのだが……。案外、大丈夫なようだ。
――否、違う。少なからず、彼女はショックを受けている。
その上で、後輩たちの前ではその感情を隠すために、いつも以上に饒舌になっているのだろう。
無理やりテンションを上げている、とでも言うべきか。
「(……なら、私からすることは、ない)」
なればこそ、自分はわざわざそれを指摘する必要はない。
彼女が感情を発露したくなった時に、受け皿になってあげるだけのことだ。
「神様同士の闘い……ですか……」
「な、何か、凄そうだよね……」
内心そんなことを考えている奏を他所に、そんな呟きが聞こえる。
一連の騒動の顛末を聞き終えた少女たちは、神々の闘い、というフレーズにその光景を想像もできないようだった。
……というか、夏希と感想が全く同じだなー……と、思わず笑みがこぼれる。
「ははっ。まあ、そーなるよねぇ。分かるよー!」
夏希も破顔しながら、後輩の少女たちに同意の意を示す。
「……んね。それに、あの人がやっぱりよく分からなくて、ね」
「あ! そういえばあの人は一緒ではないんですか!」
「(あれ……? あ、そっか)」
奏が話題を件の少年に移したところで、不意に一人の少女――陽菜が食いついてくる。
余りの瞬発力に一瞬疑問に思うも、しかしすぐに氷解する。
「……そっか。二人は、まだ会ったことないんだっけ」
「そーなんですよー! うーん、どんな人なのか気になるのになー」
そう。この姉妹は、異様にタイミングが悪くてまだ彼に会えていないんだっけ。
初めてこの子たちと出会った食堂では、彼女たちが来る前に席を譲ると言って立ち去ってしまったし、続く征伐者への依頼では、急用が入ったとかで直前に来れなくなってしまった。
そして今回。つい先ほどまで一緒にいたのに、何か用があると言っていなくなってしまった。
これをタイミングが悪いと言わずして、何と言えばいいのか。
「もしかして何か会いたくない理由でもあって、意図的に避けてたりして? なーんて……」
「えっ……。私たち、何かしてしまったのでしょうか…………」
「!? わ―! うそうそ! 冗談だよー! ――けど、ホントにそうかもってくらいタイミング合わないネ」
気軽に放った冗談に、雪葉が本気でしょんぼりしていることに気づき、慌てて夏希がフォローする。
確かにこの間の悪さだ。ともすれば……と思ってしまう気持ちも分かる。
「……そのうち、強引に引っ張って来よう、ね」
いざとなったら最初の依頼のときのように押しに押して連れて来よう、と、奏はそう決意を新たにするのだった。
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「……ところで、ひとつ気になってたんだけど」
「んえ?」
授業の開始の時間を気にしつつ、雑談に興じて暫し。
演習に関して不意に思い出したことがあったので、奏はそう夏希へと話を振る。
先ほど流斗に色々話を聞いた直後だったのもあり、正直夏希にあまり関連する話を振りたくはなかった。
だがしかし、これは早いうちに確認しておかなければならないことである。今のうちにと、ここで聞くことにした。
「……王無き玉座に鉄槌は下る、っていう神託、あったでしょ? だけどさ、あれってホントにこのことだったのかな?」
その疑問は、演習から帰宅して落ち着いた後に、不意に頭をよぎったこと。
演習自体が無事に終わったことで忘れがちな、しかし決して忘れてはならない重要なことであった。
「――そーだね……」
奏のそんな疑問に、夏希は少し間を取る。
ひとつ息をついてから、再び言葉を紡ぐ。
「確かにあの異常は、あの神域にとっても、私たちにとっても大きな出来事だった。――けど、神託の対象だったか、と言われると……間違いなく、ノー、だね」
神妙に、しかしはっきりと告げる。
「……うん。王様がいない、なんてことは無くて、普通にいたし」
そう。彼の神域には、王獣『磁猿魔』が鎮座していたし、加えて『鬣犬王』たちを一方的に打ち倒してしまった。
あの神域『静謐極まる緑林』を"王無き玉座"と、そして『鬣犬王』たちの襲来を"鉄槌"と読むには、あまりにも状況が合致していなさすぎる。
つまり、神託の指す巨大な栄枯が、まだ残っているということを意味していた。
「あ、王様がいない、で思い出したけど」
何かを思い出したようで、夏希がポン、と手を一つ叩き、アリシアの方を向く。
「国王夫妻は、これから暫く外遊だっけ?」
「あ、はい。これから一月ほど、諸外国を巡り各国の首脳とお会いしてくるそうです」
「そっか。大変だねー」
国王夫妻の外遊。
それはより円滑な外交関係を結ぶために、国王夫妻が揃って近隣諸国を歴訪する、という数年に一度執り行われている一大職務だ。
今年はその数年に一度に当たり、彼らはひと月という長い期間国を空けることになる。
「その間は、このアリシアちゃんが王権代理者なのです。ひれ伏した方がいいです?」
「ちょっ、止めて下さいミーナさん……」
ミーナの軽口に、アリシアが少しばかり狼狽しながら返事を返す。
もちろん冗談だろうが、ミーナの発言はしかし紛うことなき真実だ。
いくら民主主義かつ議会制とは言え、だ。冷静に考えれば、ここにいるのは議会と並び最終決定権を持つことになる次代の王権継承者である。
責任が重くて大変だなーと、正直あまり現実感がないのだが、ここにいるこの子はホントに貴き方であらせられるのだ。
「もしかして……なのですけど」
再び、ミーナが口を開く。
先ほどとは違い、ボソッと、小さな呟き。
「もしかして、王無き玉座って、国王夫妻が不在になることを指している、とかじゃないですよね……?」
「「「――っ!?」」」
告げられた思いもよらぬ可能性に、空気が凍る。
それがもし真実だとしたら、この王国に未曽有の危機が迫るということに他ならないからだ。
「ま、まっさかー。そんなこと……」
「……そ、そうだよ。そんなこと……ないよね?」
「で、ですよね……。きっとミーナの考えすぎなのです……」
根拠のない否定に安心感を覚えるように、場の空気は一体になっていく。
そうして、あはははー……、と、六人もいるにしては随分と小さい乾いた笑いだけが、辺りに響いたのだった。
TSUKARETA☆ZE.




