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神に牙むく無双の咎人 ~時代に抗う、次代の寵児たち~  作者: 銀風 朧月
第3章 因襲を破るは緑林たる獣
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Ep.3-34 事態の収束

 **********



「……うっひゃあ……」


「すっげ……」


「おーっ、流石だなー」


 結界の中に佇む少年少女の視界を覆った、黒。

 まるで津波かと見紛うほどの黒き砂鉄の波に、子供たちは更なる呆然に襲われ、さしもの流斗も、思わず感嘆の声を漏らす。

 目の前に広がる光景はそれくらい、壮大にして圧倒的なものだった。



 この林『静謐極まる緑林』を統べる王『猿猴王』。

 更に、磁力を操る猿たちを統べる、魔王の如き存在――『磁猿魔』という名を持つという今代の王は、王獣の中でも最上位の戦闘力を誇っていると言っても過言ではなかった。


 加えて、この林はそもそも彼のホームグラウンド。

 静謐、を謳っているだけあり、かつて訪れた『涙さえ乾かぬ森』とは違い、決して過酷な環境ではない。

 しかしその地面一体には、彼らの力の本質にそぐう膨大な量の砂鉄が沈み込んでいたのだ。


 ――ZUZAAAAAAAAAAAAAAA!!


 そんな『磁猿魔』の、様子見を止めた全力の攻撃は、同じく神格を持つ王獣である『鬣犬王』ですら手も足も出ないものだった。

 黒き波は彼女の最後の抵抗をものともせず、激しい音を立てて彼女を飲み込む。

 そしてその波の中で『磁猿魔』の連撃が、彼女の命を一気に刈り取っていく。



「――どーだ、これが、人智を超えた闘いって奴だな」


 そんな景色をただただ呆然と見つめるクラスメイト達に、そう言葉を掛ける。

 果たして何人が自分の言葉を聞いているかどうかは定かではないが、この場にいる全員がその景色を食い入るように見つめていた。


「(こりゃー、下手に手ぇ出さんで正解だったなー)」


 クラスメイトのそんな様子を見た流斗は、そっと口元を緩めて心中独り言つ。

 最近の彼にしては珍しく、計画通りに行ったことへの満足感がそこにはあった。




 思い返せば、少々借りがある大人たちから頼まれた、編入という想定外すぎるお願い。

 そんな中、名門たるこの学園で、“次代の雛”とでもいうべき、次の時代を背負い立つような存在を見つけることが、彼が密かに見出していた意義であった。

 偶然にも最初に知り合った少女たちを筆頭に、非常に優れた子供たちが多くいたのは、まさに望外の僥倖とでも言うべきか。


 そして、幾ばくかの不安要素を孕みつつ迎えた、この大規模演習。

 元々磁猿たちが模擬戦と称して相手してくれる手筈だったのが、このタイミングを狙って現れたハイエナの魔獣たちのお陰(と言うと『猿猴王』や磁猿たちには悪いかもしれないが)で、子供たちは結果的に本物の命のやり取りを経験することになった。

 磁猿たちの援護と、流斗がもたらした情報があったとはいえ、重傷者なくハイエナたちを退けたのは、流石名門高校の生徒たち、と言うべきだろう。


「(そして、人智を超えたこの闘い。遭遇したのがこいつらだっつーんだから、まーた何とも因果なもんだぜ)」


 そして、眼前にて終幕へと向かう王獣同士の闘い。

 王獣、という人間の理解を超えた存在のその力を実際に体験したことは、間違いなく彼らにとっては非常に“良い”経験となったことだろう。

 一連の異常に対し流斗が必要以上に手を出すことはなかったが、この結果を見る限りはそれでよかったと自信を持って言ってもいいはずである。


「“上”を知って、それでも足掻けるかどうか。それがきっと、大きな差だからな」


 ボソッと、そう流斗の心の声が漏れる。

 それはきっと、この世界の真理だろう。



 遥か高みを知れる環境。それは、一概に良いことである、と言うには恐らく値しない。

 各々の辿り着きたい、辿り着かなければならない領域への長い長い行程を知り、足りないもの、足りなすぎるモノを自覚し、進み続けようとする心がぽっきりと折れてしまう。そんなことも十二分に考えられる。

 小さい環境で、上を見ることなく一歩一歩のびのびと育っていくことも、一つ間違いなく正解には違いない。


 しかし、それでも、きっとこの経験は、人智すらをも超えた遥か高みを知ったこの経験は、彼らにとって決してマイナスにはならないだろう、と、期待も込めつつそう思う。

 現状、神器や魔術のランクの中で人間たちにとって実質的な最上位である『皇帝(インペリアル)級』に匹敵すると思われる王獣の闘いを、安全な状況で、しかも眼前で見ることができたのだ。

 更に上の領域を知ることで、きっとこれからの生活の大きなモチベーションとなるだろう。

 ともすれば、各々がぶち当たっていた壁を破るような者が現れるかもしれない。



 そもそも人間たちが、多くの記録を時代とともに更新してきたのだって、決して技術や知能、肉体の発展に起因するものではない。

 圧倒的に主たる要因は、燦然(さんぜん)と輝く、幾重にも積み重なってきた限界への超克(ちょうこく)

 その繰り返しによる、長い長い歴史全体の総算に他ならないのだ。


「(しょーじきなところ、人間の未来に取り立てて大きな感傷なんざねえが……それでも、無意味に終わってほしいとまでは思ってねーからな)」


 徐々に引いていく砂鉄の波を眺めつつ、流斗は一人そんなことを考えていたのだった。



 **********



「よお、終わったぜー」


 引いていく砂鉄の波。その中から、命を刈り取られた『鬣犬王』をズルズルと引きづりながら、『磁猿魔』が姿を見せる。

 既に結界は解除しておいたため、結界内にいた磁猿が真っ先に飛び出して膝をつく。

 そう言えば、一匹一緒に結界内にいたんだっけか。


「そうだな、お前は一応林ん中を見回りに行ってくれ。何もねえのは十分知覚できているが、念には念だ」


 そんな部下に、『磁猿魔』は次の指示を出す。

 『鬣犬王』による情報の攪乱(かくらん)があったことを鑑みて、あくまで念のためではあるが見回りを命じることにしたらしい。

 キキッ! と敬礼をして去っていく磁猿を横目に、流斗も返事を返さんと口を開く。


「ああ、お疲れさん。俺が言うのもあれだが、さすg「なんだー! こりゃあワシが出る幕もなかったみてーだな、ガッハッハー」……何でこんなとこにいるんスか、総隊長サン」


 ところが、自らの言葉を遮るように聞こえてきた声に、思わず頭を抱えたくなる。

 そこにいたのは、こんなところにいるはずのない、この国の最高戦力だった。


「よぉ。一応ではあるが、ワシも様子を見に来たんだ。部下も四人派遣していたしな」


 なるほど、そういえば流斗も先ほど林の中を駆けずり回っている際に会っていたっけ。

 少しばかり流斗のことを聞いていたらしく、話がスムーズだなとは思っていたが、なるほど、彼の息がかかった部下たちだったならばさもありなんと言うべきか。


「ほう、久しいな……。随分と老けたな。人間は老いるのが早い」


 相変わらず豪快に笑っている総隊長に、『磁猿魔』がそう声を掛ける。


「お前らが変わらなすぎるんだ! ……全く、息災そうだな」


 親し気にやり取りをするあたり、どうやらこの二人……一人と一柱は、昔からの知り合いらしい。

 正真正銘神である王獣と、人間である総隊長のつながりがよく分からないが、そう言えばこの王は学園長とも知り合いだった。

 彼女と併せて、遠い昔に何か決定的な出来事でもあったのだろうか。


「ハッ! 当たり前だ。…………お、そろそろ次のガキどもが着きそうだな」


「ふむ。そんならワシもついて行こう。……そこの生徒たちは早いとこ引き返すんだぞー」


 そう告げると、総隊長は王獣と共に歩き始めてしまう。

 神なる王獣の圧倒的な戦闘に加え、今度は王獣と親し気な態度を見せる総隊長。もう子供たちの頭はパンク寸前である。

 引き返せ、という言葉にも関わらず、ロクな反応を見せた者はいなかった。


「えー……もう、何が何だか……」


 ボソッと、夏希が呟く。

 さしもの彼女も、先ほどから続く事態に頭がついていかなかったらしい。

 既に一度、王獣『涙狼王』に会っていたとはいえ、流石にこのレベルの戦闘は容量オーバーだったようだ。


「……と、取り敢えず、歩き始めよっか……」


 それでも、何とか促そうとする奏の言葉に、ようやく他のクラスメイトもノロノロと動き始めたのだった。


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