Ep.3-29 頼る、ということ
いつも読んで下さりありがとうございます。
ブックマーク、評価をして下さった方、めちゃくちゃありがとうございます!
**********
「ちょ、ちょいちょい……大丈夫……?」
「だ、いじょうぶ……何のこれしき、いや、風呂敷ってな……」
次の見回りに行くという流斗とお別れして暫し。
簡単に朝食を済ませてから、夏希たちのグループは目的の中心部に向けて足を進め始めていた。
先ほど共に戦った猿の魔獣――磁猿、というらしい――も、少し離れたところからついてきてくれている。
林に起こっている異常に対し、今のところは、ごくごく順調だと言えた。
――ある一点を除いては、だが。
「轟……」
「はあ、はあ、き、気にすんな……」
金髪の少女を背負った大柄な少年が、必死に歩を進め続けている。
周りや背中からかかる声にもちゃんと反応を見せるが、その額からは今の季節に見合わない程の汗が噴き出している。
それでもその役目を他の少年に譲らないのは、自らが言い出したことを貫かんとする矜持だろうか。
流斗が立ち去った後、彼らはテントで休むエルリアの元を訪れた。
彼女の体調と、それから意志を確認すること。それが目的だった。
案の定、この演習を途中で放棄するという選択肢は、やはり彼女にとっては逃げでしかなかったらしい。
「全然大丈夫……。ワタシもついていくわ」
などと、虚勢を張る。
だが、ただでさえ大変な時期なのに加えて、この慣れない環境だ。
彼女の体調は、一向に良くなる気配を見せていなかった。
「……ほら、さっさと乗れ」
「……え? ――っちょっ!?」
そんな訳で大二郎の提案した通り、半ば強引にだがエルリアを、彼女に無理をさせることなく連れていくことに成功していた。
しかしもちろんのこと、人ひとりを背負っていくことは、そう容易いことではない。
着替え、食べ物、テントなど、一人分の荷物がおよそ十キロちょいだとすると、エルリアと大二郎の二人分の荷物を三等分したことで、夏希たちはそれぞれ十キロ弱の荷物を追加で持つことになった。トータルで言えば、ニ十キロくらいだろうか。
そんな荷物を持って、この林の中を歩き続けなければならない。かなり負担が増したと言ってもいいだろう。
それでも、大二郎の負担はその比ではない。
この年頃の少女だ。恐らく彼は、自分たちの倍程度の重さを背負っていることになる。
そのため、流石に肉体派の大二郎にとっても過酷と言って差し支えない状況に陥っていたのだった。
だがそれでも、それほど負担が増したとしても、最後まで彼女を連れていきたい。それは大二郎に限らず、夏希たちにも共通の意見だった。
彼女の責任感、とは言ったが、それでも強引に押し切ってリタイアしてもらった方が夏希たちの負担からすれば楽だったかもしれない。
しかし、やはりみんなでこの演習をクリアしたかったのである。
元がナイーブな問題だ。ついてくるという彼女の意見を尊重して、その結果無理をさせ悪化させてしまうという最悪の事態は避けなければならない。
そうして、半ば強引に連れてくることになったことに、誰も異論などなかった。
「――よし。一端休もっか」
三十分ほど、歩いただろうか。
一人無茶をする大二郎を慮り、夏希はそう告げて、荷物を下ろす。
彼が拒否する隙も与えないよう、他の少年たち――博士と椿も、すぐに追随して腰を下ろすのを見て、大二郎がエルリアを下ろしてドサッと座る
それを確認して、やっと夏希も座り込んだ。
「(ペースは、大分落ちたナ……。この分だと、夕方になんとかってところかな)」
主席にして既に幾度か征伐者の依頼をこなしたこともある夏希に加えて、実戦を得意としている大二郎。
こういった、既に実戦に慣れたメンバーが二人もいるこの班は、恐らく全体の中でも早い方のペースで進んでいたことだろう。
だが、皮肉なことに、その優秀な彼らの決めた蛮勇は、そのペースを著しく下げていた。
進行速度も然ることながら、休憩をよりこまめに取るようにしたのも大きく響いてくる。
最初のアドバンテージがある分リミットである日の入りまでには林の中心部にたどり着けるだろうが、かなりギリギリになってしまうだろう。
「おい、轟。流石に俺が替わるって」
「――ダメだ。俺が言い出したんだから、俺が責任をとる」
だが、大二郎は相変わらず頑なであった。椿の言葉に、そう言って首を横に振る。
確かに、こういった実戦に慣れているらしい大二郎に頑張ってもらうべきなのだろうが、とはいえたまにはエルリアを背負う最も負担の大きい立場を替わらないと彼がもたない。
一緒についてきてくれる猿の魔獣に持ってもらうのも手だと思ったが、如何せんこの少年があまりにも意固地になっていて、中々その牙城を崩せてはいなかった。
「(うーん。どうしようかなー…………っ!?)――静かに!?」
そんなことを考えていると、夏希の耳に、ザッザッザッ……と、遠くから何かが歩いてくる音が届く。
それも、一つではない。明らかに複数の足音が、迫ってくるのが分かる。
「(っ……。これはちょっち、しんどいかな……)」
バッと立ち上がり、夏希は体中から魔力を滾らせる。
大二郎を始め、みながかなり疲弊している。もしハイエナの魔獣の群れが来ているのだとしたら、少々の火事は避けられねども自分が本気を出すしかない、と、そんなことを覚悟する。
「「――っ……」」
緊張が、奔る。
そして、樹の陰に見えてきたのは、
「あっ、いたっスよ! おーい!!」
「み、みなさんご無事ですかー?」
「「!?!?」」
「はは、まじか……」
「ど、ど、どうしてここに?」
離れたところを進んでいるはずの、奏たちのグループだった。
**********
流斗との別れ際に、奏たちが彼にお願いされていた事。
それは、恐らく多分に苦労しているであろう夏希たちの班に合流して、彼らの行程を助けるということだった。
「……事情は分かったけど……、ルール的に大丈夫かな?」
説明された事情は、分かった。
だが、指定されたルートを逸れて、合流なんてしていいのだろうか。
そう思った奏は、目の前で悪ガキのような表情を浮かべている少年へと疑問を投げかける。
「んあ? 大丈夫だろ―。もともと迷わないために真北に進むように指示されてたわけだし、今は色々と非常事態だ。もし演習終わって、誰か先生に文句言われたら、俺のせいにしてくれていいしなー」
「そ、そうっスよね。なんてったって、非常事態ですもん……」
流斗の言葉に追随して、唯依がそう言葉を紡ぐ。
それはまあ、その通りなのだが。
「それに」
「?」
「本当はお前だって、困ってる友人を見捨てる気ぃはさらさらねえだろ?」
告げられたその疑問は、答えなどもうとうに決まっていた。
とまあそんなわけで、流斗に言われたとおりおおよその合流地点を予測して、ここまでやってきたという訳だ。
「そっかそっか……。正直、助かるヨ」
もう五人荷物を分配できる人員が増えたのだ。
夏希が思わず呟いた、助かる、というその言葉は、間違いなく心からの言葉だった。
壮大な悪戯、という程のものでは全くない。
だがそれは確かに、夏希たちにとってみれば、まさに天啓というほかのないものであった。
「え、エルリアさん、大丈夫ですか? 薬を飲んだ以上、わ、私にできるのは、少しくらい血流を良くしてあげることくらいですが……」
治癒魔術を使える少女――桜花が、エルリアの元へと真っ先に駆け寄る。
もともと魔術で出来るのは、自然治癒能力を少しばかり高めることや、血流を少しばかり促進することぐらいなので、痛み止めを既に飲んだというエルリアに対しできることはそう多くはない。
「ええ、十分よ。――ホントにありがとう……。桜花」
だが、それだけでも十分違う。
それになにより、そんな純粋な優しさそのものが、エルリアの支えになっていた。
クールな彼女には比較的珍しい、穏やかな表情で、そう桜花に感謝を告げる。
「い、いえっ。――あ、流斗さんから、伝言です。『そりゃまー仕方のないことだ。大人しく諦めて、周りの御人好したちを頼れよー。いっつも轟の面倒見てんだから、たまには助けてもらいな』って」
「!? っふ。そうね……。ありがとう、みんな」
「あ、そうそう。それから轟さんにも、流斗さんからの伝言があったっスよ」
あ! とひとつ手をポンと叩き、唯依が声を上げる。
「……なんだ?」
唯依の言葉に、大二郎が振り向く。
その反応は、いつもよりも随分と鈍い。
まだ一時間にも満たないだろうとはいえ、人間一人を担いできた彼の疲労は、推し量るのは容易い。
そんな彼に、自らの役目を譲らなかったであろう彼に、それすら見越していた少年の言葉が伝えられる。
「えっーと、コホン。『轟。お前さんは責任感とやらから一人で背負っていくなんて意地張りそうだが、お前の周りにいるクラスメイトは、そんなに信用できないか? 男手も四人。たまにはそいつらに交代しながら、協力して進めよー。そしたら今度は、手ぇ抜かずに闘ってやるからなー』だそうっス。……どうっス? 似てたっスか?」
「!? ……ハハッ、まったくあいつは……」
そんな、全てを見透かしたかのような言葉に、一つ笑ってから、周囲を見渡して告げる。
「お前ら、悪いが……協力してくれないか?」
――おおっ!! という全員の声が、林に響き渡ったのだった。
「……あの、似てたかどうか感想を……」
……似ていたかどうかは、神のみぞ知るところ、である。




