Ep.3-28 抱えし業
時間があるときに小見出し付け直しパーリナイトに挑みまする。
これくらいの話数ならまだ間に合いそうなので(笑)
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「おおーう、何じゃこりゃ」
大きな音のした場所に辿り着いた流斗の目に飛び込んできたのは、横たわる魔獣の骸と、じっと俯いて佇むクラスメイトの少女。
状況を鑑みるならば、この少女が斃した、とみるのが妥当だろうが……。
「(それにしては……、なーんでこんな空気なんだ?)」
であるならば、もう少しこう、なんだ? 喜んだ空気が漂っていてもいいのではないだろうか……。
件の少女は無言で俯いてしまっているし、少し離れたところにいるクラスメイト達は、一様に呆けたような表情で彼女を見ている。
「おいっすー、お前ら無事かー」
だが、いつまでもこの空気に付き合っている訳にはいかない。
どこか踏み出しづらそうなその空気感を正面からぶち破り、級友へと話しかける。
「……??」
そんな流斗の言葉に、奏はゆっくりと振り向くと、彼の方へと目を向ける。
背筋が、ざわついた。
ゆったりとした動きで向けられた奏の虚ろな目には、何の感情も浮かんでいなかった。
確かに、普段から大人しめで、あまり感情を表に出さない子だとは思っていた。
だが、そんな程度のものではない。
まるでハイライトを失った二次元の絵のような、無機質な瞳。
――いや、違う。
虚ろな視線の中に一つだけ、垣間見える感情があるのにふと気づく。
それは、諦観だった。
空虚で無機質で、それでいて全てを諦めたかのような目。そんな瞳で、流斗の方をじっと見つめてきている。
果たしてそこに、本当に流斗の姿が映っているのかどうか、それさえも疑問に思われるほどに。
「(おいおい。この子は……)」
この子は、今一体何を思っているのだろう。ふと気になる。
知り合ってから、大体一月ほどだろうか。流斗からした彼女の印象は、夏希に比べれば口数は少なくおとなしめ。しかしノリはよく、平坦な表情をして夏希をからかうのに付き合ってきたり、ブラックなジョークを挟んだりする。
この名門高校で主席だという実力に驕ったような様子を全く見せない、そんなごくごく普通の少女だった。
だが、その表情は、虚無と諦観に塗れたその表情は、とても十六、七の少女が浮かべていいものではない。
少なくとも、ある程度の山谷は経てこそすれ、ごく普通に生きてきた少女の表情では、到底なかった。
「――おーい、俺が分かっかい? あなたのクラスメイトですよ~」
とは言え、いつまでもにらめっこをしている訳にはいかない。
凍った空気を融かすようおどけつつ、少女の元へ近づいていく。
すると、どうしたことだろう。
「…………ッ!?!?」
まるでこの瞬間流斗に気づいたかのような、そんな態度を見せた。
同時、流斗の元へと足早に駆けてくる。
「?? うおっとっ!?」
そして、そのままの勢いで流斗の服を思いっきり掴むと、
「っお願い! 桜花を助けてあげて!!」
そう、矢継ぎ早に告げてくる。
そこにはもう、虚ろで無機質なあの表情は浮かんでいない。
そんな態度の急変に少しばかり戸惑いを覚えつつ、流斗はどう言葉を紡ぐべきか迷う。
正解を探し、暫し言葉を濁す。
「あーっと、だなー……」
しかし、案の定というか、焦った様子の彼女には逆効果だったようで、
「何!? いいから急いで!」
と、服を掴んだ手を精一杯揺らし始めた。
待て待て、ちょいと待たんかい……。
「すとっぷすとっぷ。……いやだって、あの子、全然ピンピンしてんぞ……?」
桜花の方を指さしつつ、そう答える。
そう、視線の先、奏の向こうでは、ごくごく平穏な光景が繰り広げられていたのだ。
ほえ? と、余り見せたことのない拍子抜けした表情で、奏が振り向く。
その先では、
「大丈夫……? ありがとう。あと、ごめんね……」
「い、いえいえ、皆さん無事でよかったです……」
和やかに会話を交わす、桜花とクラスメイト達の姿があった。
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「ふむふむ。なーるほどねえ」
「ほへぇ~、そんなことがあったんスか~」
どことなく滞っていた空気も弛緩したところで、ようやっとお互い状況の説明をする段階に至る。
そうして一通りの状況を聞いた流斗は、そう素直に驚きを露わにしていた。
……ちなみに、何故か流斗と同じ反応をしているこの少女――唯依は、夜遅くまで見張りをしていたため騒動の最中ずっと寝ていたらしい。
何ともマイペースな彼女らしいというか、なんというか……。
さて改めて、事の顛末はこうだ。
幼馴染コンビと、桜花。彼ら三人が見張りをしていた、空も白んできたかという時分。
突如としてハイエナの魔獣が現れ、彼らに襲い掛かって来たという。
前衛の勇者くん――悠史を中心に戦闘していたのだが、彼を吹き飛ばした魔獣がお姫さま――六花のもとへと向けた凶刃をかばおうと、桜花が左腕を切り裂かれてしまったらしい。
駆け付けた奏がそれを見て神器を顕現し、魔獣を斃した、ということらしい、のだが……。
「(……王獣の傘下にいる魔獣。そいつを、よもや一撃とはなー)」
王獣。各々が神域と呼ばれる自らの領域を統べる、正真正銘の神。
神獣に次ぐ、地上を統べる超常の存在。
そんな、人間たち――ここでは、イッシュヴァルトの基準に落とし込むならば『皇帝級』に相当する彼らの庇護を受けた魔獣たちの力は、その下、おおよそ『王族級』にも匹敵する。
その戦闘力は、当然、そんじょそこらの野良魔獣の比ではない。
例えばかつて奏が依頼で出向いた集落で斃した猪と比べても、この魔獣は相当に手強かったはずだ。
「(だが……)」
だが、ふたを開けてみればどうだ。
『神名開放』したかどうかは定かではない。だがどちらにせよ、奏が圧倒的な力で彼の魔獣を屠った、という事実には変わりがない。
『王族級』の神器を持つ大二郎と互角に打ち合ったというこの獣を、だ。
であるならば自然、導かれる帰結もある。……のだが。
「(まあ、敢えて言ってやることでもねえな。どうやら隠してるみたいだしっと)それにしても、樹宮……だったな。お前さんが治癒の使い手とはな」
そう一先ず心中で蹴りをつけ、話題を一つ目の驚きから二つ目へと移す。
それは、人見知りでテンパり癖のあるこの少女が、それなりに希少と言われる魔術を使用できるということだった。
「は、はい。でも、あの、その代わりに戦うことはできないんですが……」
先に奏が取り乱していた通り、クラスメイトをかばおうとして桜花が怪我をしたのは事実らしい。
だが、幸いにも腕を軽く爪がかすめただけのようで、今現在は既に彼女の魔術を以てして綺麗に治されていた。
「卑下するこたぁ全くねえさ。お前さんはお前さん。それでええだろ」
「!? あ、ありがとうございます! 流斗さん」
人との違いを認められるようになって初めて、確固たるものが見えてくることもある。
奏の戦闘力に加えて、桜花の治癒魔術。これらによって、結果的には、彼らはディスアドバンテージを背負うことなく無事に魔獣の脅威を逃れることができていた。
「……ねえ、一つ疑問に思ったんだけど、」
「んお?」
不意に奏が、流斗へ疑問を投げかける。
その様子は、もう普段通りに戻っているように見える。
「……来るはずだっていうその猿の魔獣はまだ来てない、んだけど、どーいうことだろ?」
……なるほど。確かにそりゃあ、気になるところだろうて。
「多分、道中で奴らに遭遇したんだろうさ。この林での戦闘に長けてるのは猿に決まってるからな、一対一ならそう簡単に後れを取ることはないだろうが、それで時間がかかってるんかもな」
確かに『磁猿魔』は、部下たる磁猿たちに子どもたちの元へ向かうよう指示したという。
だが、当然林の中には他にも散らばっていったハイエナの魔獣たちがいる。
それらを見つけたのか、あるいは見つかったのかは定かではないが、それで奏たちの元へ着くのが遅れているのだろう。
「……なるほど」
「もしかして見回りしてくれてる軍人さんと出くわして、てんやわんやの大バトル……なんてことには、なってないっスよね……?」
ふと気づいたのか、唯依が一つ新しい可能性を提示する。
それもまた、ありえそうなものにも思える。が。
「んや。奴さんらは猿の魔獣が味方であることを知っているだろうからな、そりゃーないだろーと思うぜ。――戦況という観点では、実はお前さんら学園の生徒が猿に敵対しないかが最たる問題でなー。そういう訳でこれから俺があっちらこっちら回るって訳さね」
答えながら、自分の仕事を思い出す。
そう言えば、あんまりここで長居するわけにもいかないのだったな、と、次のグループ目指して立ち去ろうとする。
「……あっ、待って。……夏希たちも、無事だった、んだよね?」
「ああ。――あ、そっか」
そんな背中に掛けられた奏での言葉に、ふと思いつく。
無事っちゃ無事だったけど、そう言えば無問題とはいかないんだっけ、と、一つ介入しようと決める。
こんな状況だ。イレギュラーの一つくらいは許されるだろうて。
「「「????」」」
「ちょいとばかし、俺の言う通りに動いてくれんか?」
そう言った流斗の表情は、まるでこれから壮大な悪戯を仕掛ける悪ガキのようだった。
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