Ep.3-27 爆発する感情
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林を、駆ける。
……と、いきたかったが、そうは問屋が卸してはくれなかった。
これだけ木々が生い茂った林の中では、さしもの流斗も歩かざるを得ず、テクテクと林を進んで行く。
行き……つまり、昨日の朝に林の中央へ向かった際は、空中を進んできたのだが、生徒たちを探している今、その方法は使えない。
理由は単純。林の上からでは、生い茂る木々に阻まれて彼らの姿を見つけられないからだ。
そんなわけで、そこまで早く移動できないことにほんの少し飽き飽きしつつ、クラスメイトを探していく。
荷物がないのも合わさって、流石に生徒たちより進む速度は速いだろうから、仮に彼らが進み始めていたとしてもそう遠くないうちに追いつけるだろう。
「(……そーかー。百メートルとか空けてんだっけ。こりゃ助かったぜホンマ……)」
そう、独り言つ。
そこには、ともすれば無策に探すしかなかった可能性を避けることができた事への、安堵の感情が籠っていた。
この神域の主たる『磁猿魔』は、子どもたちとハイエナの魔獣が激突するおおよその位置を把握している。
部下たる磁猿たちにも、その場所を教えた上で救援に向かわせたと、そう言っていた。
だが、この林に関して言えば流斗は初訪問の素人。どこらへんでぶつかる、なーんて言われても、正直言って分かるはずがない。
そんなわけで、取り敢えず子どもたちがいるだろう南に向かって適当に進んでいたところ、たまたま夏希たちに合流できたのだった。
これだけの人数がいる以上、いずれ合流できるだろー、とは踏んでいたが、今思えばだいぶ危険な賭けだったかもしれない。
……とまあ、夏希たちとの別れ際、そんなことを考えていると、何の気なしにだろうが、大二郎が、
――探すって言ってもこの林だからなぁ。まあ、グループごとに大体百メートルくらい離れて真北に向かって進んでるから、それで何とか探せるんじゃね?
とポツリとこぼしたのだ。
「(百メートルごと、か。そう言えばそんなことも言ってた気ぃするわ)」
既に一つグループに遭遇している以上、それぞれのおおよその間隔と方向が分かれば、あとは簡単だった。
聞くところによると、夏希たちのグループが一番西側から入って来たという。
つまり、真東に向かって百メートルのところ。そこから南北の直線状に必ず次のグループがいる、ということになる。
最も、各グループの進行速度が分からない以上(彼の王獣に聞けば分かったろうが、さしもの流斗も二十グループもの相対距離を覚えていられる自信がなかったのだ……)、方向は北か南かの二分の一ではあるが、それでも当てがなかったさっきまでに比べればほぼ確実に全グループに遭遇できるようになったと言ってもよい。
そう考えると、たまたまではあったがほぼロスなく夏希たちに会えてよかった、と言うべきだろう。
「さて、次は無堂たちのグループらしいが……、ぶっちゃけ心配はいらねえよなー」
現在流斗は、東西の間隔を詰め終え北に向かって進んでいる。
夏希たちの班に体調不良の少女がいたことを考えると、順当にいけば奏たちの方が少し先に進んでいるだろう、という判断だった。
とはいえそれも誤差。そう遠くないうちに、出会えることだろう。
そんな訳で、目星がついたことに安堵しつつ、そう呟く。
思い返せば一月前。流斗が初めて出会ったこの学園の生徒が、先ほどまで一緒にいた夏希と、これからもうすぐ出会うであろう奏であった。
始まりは魔獣討伐の依頼だった。そこから一月ほど行動を共にする機会がありつつ、しかし彼女たちの底は未だ分からないままだった。
「(この名門で、主席、だからなぁ)」
神域という過酷な環境の中で時折見せた、鋭い洞察力。
魔獣との戦闘の中で、またあるいは本当にごく一瞬の模擬戦の中で見せた、まだ底の見えない戦闘力。
間違いなく、この学園の中でも最も優れた二人、と言っていいだろう。既に流斗には、それくらいの確信があった。
故に、奏のいる次のグループもまた、心配する余地はないと思っていた。のだが……。
「(さて、そろそろ…………!? なんだ??)」
進行方向から不意に、耳をつんざく風切り音と、何か巨大なものが倒れる音がする。
少しばかり歩く速度を速め、問題の場所へ向かうと、
「……おいおい、何じゃこりゃあ」
鋭利な刃物で切り裂かれたかのような断面をして、地面に倒れる大木と、
「………………」
神器たる銃を携えて俯きがてらじっと佇む、奏の姿があった。
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時は少しばかり遡る。
昨夜、日付が変わる頃までの見張りを終え、特徴的な語尾の少女……唯依と共にテントで眠りについた奏は、外で鳴く聞きなれない虫の声にふと目を覚ます。
すぐ隣では友に見張りをしていた少女が「う~ん、もう食べれないっスよ~」なんてベッタベタな寝言を言っている。
どうやら、少し早く起き過ぎたらしい。
「(……二日目だ、ね……)」
演習の初日となる昨日、手を抜きつつ襲ってくるという猿の魔獣は結局姿を見せなかった。
流斗に言われていた、この林に起こっているかもしれない異変。
昨晩に唯依とも話していたが、この現象もその一端だというのなら、二日目の今日はいよいよ気が抜けない。
「(……うん。がんばろー……)」
そう、心の内で決意を新たにしていると、
「――――っ!? ――――!」
「―――!」
不意に、何事か話す声が聞こえる。
話の中身は聞こえないが、言い争っているというよりは、なにか切羽詰まったような、そんな感じだ。
なんだろ? と思いつつ、奏は外に出る。
すると、
「! 危ないっ」
「!? お、桜花ちゃん!?」
今まさにクラスメイトをかばおうとして、四本足の獣に腕を切り裂かれる、友人の姿が見えた。
――私といると、皆が……
不意に、頭の中を言葉がよぎる。
それは、失意の記憶。
理不尽な現実に直面した少女の、辿り着いた世界。
――む、無堂さん。えと、えっと、樹宮と言います……
――奏ちゃん、おはようございますっ
この学園に入学して二年目。奏は、夏希以外のクラスメイト達とあまり交友を深めてこなかった。
そんな奏にとって桜花の存在は、彼女の思っているよりずっと大きなものになっていた。
「い、いった……」
そんな彼女が、今自分の前で腕を押さえ、血を流している。
頭に、血が上る。
――また、失うのか
――また、あの無力感に苛まれるのか
――また――
「っ!! 下がって!!」
次の瞬間、そう叫んだ奏の手には、彼女の神器たる翡翠の銃が握られていた。
『神名開放』は、残っていた理性が全力を以て引き留める。もしこんなところで開放してしまっては、クラスメイト達も巻き込んでしまうだろう。
だがこの瞬間、『神名開放』をしていないという一点を除けば、その大きな一点を除けば、奏は間違いなく全力だった。
「吹き荒れろっ!!」
荒ぶる感情のまま、魔獣に銃を向ける。
神器たる銃から飛び出したのは、彼女の感情をそのまま体現化したかのような、激しく吹き荒ぶ翡翠の風弾。
風、とは、端的に言えば空気の流れだ。
奏が魔力を以てして人為的に生み出した激しく流れる空気は、勢いそのままに魔獣へと向かっていく。
「グアァ!」
それに気づいた魔獣は、身体中に滾る雷の出力を上げ、真っ向から受けて立とうとする。
だが、
「グッ、グガアアアアア!!」
激しい感情に襲われた奏の風弾は、その鎧すら容易く打ち破る。
硬化されたはずの体毛すら、事も無げに切り刻んでいく。
魔獣に着弾して広がっていく風は、周りの木々を切り刻みながら、魔獣の命を刈り取っていく。
そして、
「う、うっそ……」
「すごい……」
嵐の如き風が通り過ぎた後、力なく、魔獣が地に伏せる。
一撃。むしろ形が残っているだけ、褒めるべきだろう。
生死など、わざわざ確認するまでもなかった。
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