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第63話 世界有数の大富豪の結婚式に、世界中の王様が押しかけてきた

「オリバ元会長が結婚する!?」

その知らせは、瞬く間に世界中へ広がった。

王国。

帝国。

海洋国家。

北方諸国。

砂漠の国々。

そして、オリバ資源商会の全支店。

世界中が大騒ぎになった。

結婚式の準備会議。

俺はミリアに言った。

「小さな式でいいよな?」

「そうですね」

「町の教会で」

「はい」

「招待客は二十人くらいで」

「いいと思います」

俺たちは頷いた。

ところが翌日。

帝国皇帝アレクシスから手紙が届いた。

『オリバよ。

結婚すると聞いた。

もちろん出席するぞ』

俺は固まった。

さらに。

王国の国王。

『我が国の英雄の結婚式だ。

ぜひ参列したい』

海洋国家の代表。

『祝いの品として大型商船を贈呈したい』

北方諸国の代表。

『古代文明の祝福を受けた式典を用意する』

俺は頭を抱えた。

「……おいおい」

ミリアが笑った。

「人気者ですね」

「二十人の予定だったんだぞ?」

「そうですね」

「招待客、何人になった?」

ミリアは書類を見た。

「……二千三百人です」

俺は固まった。

「……二千?」

「はい」

「三百?」

「はい」

「……結婚式だよな?」

ミリアは笑った。

「そうですよ」

招待客が増えるにつれ、俺の悩みも増えた。

王族の席をどう並べるか、どの国の楽団を先に演奏させるか。

書類の山を前にして、俺は思わず呻いた。

「これじゃ国際会議だ」

ミリアは招待客の名簿を指で追った。

「私、少し気になることがあります」

「何だ?」

「最初の工房で働いてくれた人たちの名前が、後ろの方にしかありません」

俺は名簿を見直した。

王族や貴族の名前を先に書くうちに、いつの間にか昔の仲間が隅へ追いやられていた。

「……本当だ」

「式を大きくするのは構いません。でも、私たちの結婚式ですよね」

その一言で目が覚めた。

俺は翌朝、式の準備を担当する者たちを集めた。

「席順を変えたい。王族の席は見やすい場所に用意する。でも、俺たちのすぐ近くには、最初から働いてくれた仲間に座ってもらう」

担当者が青ざめた。

「各国から苦情が出るかもしれません」

「そのときは俺が説明する」

俺は皇帝と国王へ手紙を書いた。

礼を尽くしながら、結婚式を支えてくれた人たちを大切にしたいと伝える。

返事を待つ間は、商会の大きな取引を決めるときより落ち着かなかった。


数日後、皇帝から短い返書が届いた。

『新郎新婦が主役だ。

席の心配より、花嫁を待たせるな』

国王からも、同じように温かい返事が来た。

俺は肩の力を抜いた。

もう一つ、問題があった。

二千人を超える客のために料理を用意すると、食べ残しが大量に出る。

料理長は頭を抱えていた。

「豪華に見せるには、多めに作るしかありません」

「足りないよりはいい。でも、捨てる前提にはしたくない」

俺は厨房の責任者と相談し、料理を小分けにして順番に出す方法を選んだ。

余った材料は保存し、食べられるものは町の炊き出しへ回す。

ただし、傷んだ料理を配ることはしない。

温度管理と運搬の担当も決めた。

「結婚式でまで廃棄物の話ですか」

ミリアが笑う。

「癖だな」

「でも、そういうところが好きです」

俺は返す言葉を失った。

大勢の前で誓うより、この一言の方が照れくさい。

式の前夜、ボルグ親方が小さな包みを持ってきた。

中には、傷だらけの金属片が入っていた。

「覚えているか。お前が最初の工房で失敗したときの部品だ」

「まだ持っていたんですか」

「捨てるのが惜しくてな」

親方はそれを磨き、小さな飾りに作り直していた。

「金の飾りには負けるが、お前らにはこっちの方が似合うだろ」

俺は何度も礼を言った。

世界中から贈り物が届いているのに、俺が一番嬉しかったのは、その不格好な金属片だった。

結婚式当日。

王都の大広場には、巨大な会場が設置された。

世界中の王族。

貴族。

商人。

職人。

そして、オリバ資源商会の従業員たち。

広場は人で埋め尽くされていた。

俺は白い礼服を着ていた。

「……落ち着かないな」

隣にいたボルグ親方が笑った。

「オリバ!」

「親方!」

「お前、古代戦車を修理したときより緊張してるな!」

「……そうかもしれません」

親方は大声で笑った。

「ははは!」

そして音楽が流れ始めた。

ミリアが現れた。

純白のドレス。

長い髪には、小さな花飾り。

そして、幸せそうな笑顔。

俺は思わず息を呑んだ。

「……綺麗だ」

ミリアが近づいてきた。

「オリバさん」

「……ああ」

「どうですか?」

俺は笑った。

「世界有数だ」

ミリアは頬を赤くした。

「……ありがとうございます」

式が始まった。

神官が尋ねる。

「オリバ。あなたはミリアを、生涯愛し続けることを誓いますか?」

俺は頷いた。

「誓います」

神官が続けた。

「ミリア。あなたはオリバを、生涯愛し続けることを誓いますか?」

ミリアは一度、会場の奥にいる古い工房の仲間を見た。

それから俺に向き直った。

「はい。仕事がうまくいく日も、何もできない日も。私は、この人と一緒に帰る場所を作ります」

俺は答えようとして声を詰まらせた。

ミリアの指が小さく震えている。

俺がその手を包むと、彼女はようやく息を吐いた。

遠くの席で、昔からの工房仲間が黙って目元を拭っていた。

「俺も誓う。忙しさを言い訳に、お前の願いを後回しにしない」

ミリアは涙を拭い、笑って頷いた。

神官も笑った。

「では、誓いの口づけを」

俺はミリアを見つめた。

ミリアも俺を見つめた。

そして俺たちは、静かに口づけを交わした。

その瞬間。

会場から大歓声が上がった。

「おめでとう!」

「オリバ会長!」

「ミリアさん!」

「幸せになれよ!」

俺は笑った。

ミリアも笑った。

世界中の王様が見守る中。

俺たちは、夫婦になった。

王たちの笑い声の中で、ミリアが俺の袖を軽く引いた。

「二千三百人の前で言うの、怖かったです」

「俺もだ」

「でも、言えてよかった」

彼女は俺の手を握り直した。

俺たちは客席へ向き直る前に、互いにだけ聞こえる声でもう一度

「よろしく」

と言った。

披露宴。

帝国皇帝が俺に近づいてきた。

「オリバ!」

「陛下」

「結婚祝いを持ってきたぞ!」

「ありがとうございます」

皇帝は胸を張った。

「帝国北部の鉱山を一つ贈ろう!」

俺は固まった。

「……鉱山?」

「ああ!」

俺は少し考えた。

そして尋ねた。

「……廃石も付いてきますか?」

皇帝は大笑いした。

「はははは!」

ミリアが叫んだ。

「結婚式でごみの話をしないでください!」

会場が再び笑いに包まれた。

式が終わって客が帰り始めたとき、俺は広場の隅で親方を見つけた。

彼は若い職人たちと笑い合っていた。

ミリアが俺の手を握る。

「どうしました?」

「昔は、二人で食事をする金さえ心配していたなと思って」

「ええ。でも、あのころも楽しかったですよ」

俺は頷いた。

今日の大騒ぎは、俺たち二人だけの力では生まれなかった。

誰かが直した道具、誰かが運んだ荷物、誰かが失敗を叱ってくれた時間が、ここまでつながっている。

ボルグ親方は若い職人たちと笑い合いながら、俺たちに手を振った。

あの工房で失敗した日々を知っている人が、今もこうして祝ってくれる。

ミリアは俺の手を強く握った。

式で交わした誓いは、これから毎日の暮らしで守っていくものだった。

「来年は二人だけで静かに祝おう」

「本当ですね?」

「王様には内緒で」

ミリアが吹き出した。

俺もつられて笑った。

最後の客を見送ると、教会の庭に静けさが戻った。

ミリアは靴を脱ぎ、石段に腰掛けた。

「足が痛いです」

と笑う。

俺は隣に座り、彼女の手を取った。

最初のごみ山で出会ったとき、俺たちは明日の給料さえ心配していた。

「今日は何も買わなかったですね」

とミリアが言った。

「買わなくても、手に入ったものがあるからな」

「何ですか?」

「君と、これから帰る家だよ」

ミリアはしばらく黙ってから、俺の肩に頭を預けた。

遠くで片づけの音がする。

俺たちは急がなかった。

明日の仕事の話もせず、ただ二人で、家へ帰る道を眺めていた。

祝辞のあと、王たちはそれぞれの国へ戻った。

最後まで残ったのは、工房の窓に花を飾ってくれた職人たちだった。

ミリアは彼らに何度も礼を言った。

式場を出るとき、ミリアは祝福の花束から一本だけ小さな花を抜いた。

「最初の工房の窓に飾りたいんです」

俺は王宮から届いた豪華な飾りを置き、彼女の花を受け取った。

二人の帰る場所は、式典の席順では決まらない。

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