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第5話 魔道具の値段を半分にしたら、大商会が大慌てした

一週間後。

ボルグ鍛冶工房では、最初の量産部品が完成した。

魔力導線。

魔力接続端子。

小型制御板。

全部で三百個。

俺は完成品を机に並べた。

「……いい出来だ」

親方は得意そうだった。

「当然だ!」

ミリアが尋ねる。

「これをどうするんですか?」

「魔道具店に売る」

「でも……」

ミリアは不安そうだった。

「グラン商会が取引を禁止していますよね?」

「ああ」

「買ってくれる店なんて……」

俺は笑った。

「じゃあ、直接売ろう」

「広場の使用料は前払いですよ。グラン商会が仕入れ先に圧力をかけたら、売れなくても返金されません」

ミリアの指摘に俺は帳簿を閉じた。

値下げだけで勝てると思っていたが、売り場そのものが奪われかけている。

俺はボルグ親方に、品質を証明できる職人を一人貸してほしいと頼んだ。

「……直接?」

「そう」

俺は荷馬車を指さした。

「町の広場で、実演販売だ」


翌日。

町の中央広場。

俺たちは小さな露店を開いた。

看板には大きく書いた。

『魔道具修理部品、従来価格の半額!』

通行人が足を止める。

「……半額?」

「本当か?」

「怪しいな」

俺は笑顔で声をかけた。

「見るだけなら無料ですよ!」

最初に来たのは、小さな魔道具店の店主だった。

「この接続端子、本当に銀貨二枚なのか?」

「はい」

「普通は銀貨四枚するぞ?」

「うちは二枚です」

店主は疑わしそうに部品を手に取った。

鑑定器に乗せる。

そして、目を見開いた。

「……品質がいい」

「ありがとうございます」

「魔力抵抗が低い!」

「そうですね」

「しかも半額!?」

俺は頷いた。

「大量生産していますから」

店主はしばらく黙った。

そして

「……十個くれ」

「ありがとうございます!」

最初の注文が入った。

その直後。

別の店主がやってきた。

「本当に半額なのか?」

「はい」

「二十個欲しい!」

さらに別の店主。

「うちにも三十個!」

気づけば、露店の前には行列ができていた。

ミリアは大忙しだった。

「オリバさん! 注文が止まりません!」

「いいことだ!」

「在庫が足りません!」

「親方に追加生産を頼もう!」

俺は笑った。

商売は順調だった。

だが、その日の午後。

広場に、グラン商会の馬車が現れた。

豪華な服を着た男が降りてくる。

バルド・グラン。

グラン商会の会長だ。

「……貴様か」

俺を睨む。

「最近、この町で安売りをしている若造は」

「はい」

俺は笑顔で答えた。

「オリバ資源商会です」

「資源商会?」

「今日からそう名乗ることにしました」

バルドの顔が引きつった。

「ふざけた商売をしおって……」

「何か問題でも?」

「問題だらけだ!」

バルドは怒鳴った。

「価格を半分にしたら、他の商会が困るだろう!」

俺は首を傾げた。

「でも、お客さんは喜んでいますよ?」

「そういう問題ではない!」

「では、どういう問題ですか?」

バルドは言葉に詰まった。

俺は笑った。

「うちは利益が出ています。品質も保証しています。何も問題ありませんよね?」

「ぐっ……!」

バルドは歯を食いしばった。

そして、冷たく笑った。

「いいだろう」

「?」

「ならば、こちらも半額にしてやる」

俺は目を細めた。

「価格競争ですか?」

「そうだ!」

バルドは胸を張った。

「グラン商会の資金力を甘く見るなよ!」

俺は少し考えた。

そして

「……大丈夫ですか?」

「何?」

「無理に安売りすると、赤字になりますよ?」

バルドの顔が真っ赤になった。

「貴様に心配される筋合いはない!」

俺は肩をすくめた。

「そうですか」

そして笑った。

「では、お互い頑張りましょう」


三日後。

グラン商会は魔道具部品を半額で販売し始めた。

さらに一週間後。

価格は三分の一になった。

町中の人々が大喜びした。

「安い!」

「こんな値段、初めてだ!」

「魔道具の修理が楽になった!」

そのころのグラン商会の内情は、後日、取引をやめた店主から聞いた。

「仕入れより安く売ってるそうだ。あれじゃ長くは続かない」

俺は店主から渡された新しい価格表を見た。

原価を知る俺には、値下げの無理が分かった。

ただし、バルドが何を考えているかまでは分からない。

当然だ。

俺たちは、ごみから材料を回収している。

原材料費は安い。

しかも、ミスリルを含む高性能部品だ。

グラン商会が同じ価格で売ろうとすれば、赤字になる。

一方、俺たちは利益を確保していた。

そしてさらに一週間後。

グラン商会は、価格競争から撤退した。

価格競争の最中、グラン商会の使いが修理店セドへ来て、

「値下げを続けるなら仕入れを止める」

と告げた。

俺はセドに無理な対抗を頼まず、部品の供給を二つの工房へ分けた。

新しい工房の初回品は寸法が合わず、修理を待つ客を帰すことになった。

セドは怒ったが、翌朝、自分で検査表を作って待っていた。

「安いだけじゃ客は戻らない」

俺はその言葉を値札の横に貼った。


翌朝、工房の前に怒った男が立っていた。

町で修理店を営むセドだ。

「お前の部品は安い。だが、グラン商会まで値下げしたせいで、客が『もっと安く直せ』と怒鳴り込んでくる。俺たちの手間賃まで半額にしろというんだ」

俺は言葉を失った。

部品の値下げが、修理する職人の腕まで安く見せていたとは。

「部品の価格と、修理の技術料は別です。うちの店頭にも、その説明を掲示します」

「掲示で客が納得するかよ」

「なら、修理工程を公開しましょう。どんな検査をして、どこに技術が要るのか。俺も立ち会います」

セドは眉を寄せたが、追い返しはしなかった。

三日後、広場で修理実演会を開いた。

セドが焦げた制御板を外し、俺が再生部品を手渡す。

古い配線の傷みを見抜いたのはセドだった。

「このまま新品の部品を入れても、二日で焼ける」

集まった客が息をのむ。

セドは配線を直し、魔道具を点灯させた。

拍手が起きた。

俺は客の前で頭を下げた。

「部品が安くなっても、修理する人の技術は安くなりません。今日の仕事を見て、そこだけは覚えてください」

最初に拍手したのは、値切りに来ていた老婦人だった。

「うちの灯りも、あんたに頼めるかい」

セドは照れくさそうに鼻を鳴らした。

実演台に残った焦げ跡を、セドは黙って布で拭いた。

客の拍手より、翌朝も修理を頼まれる職人の手がそこに残ったことが嬉しかった。

実演会の翌日、セドから伝言が届いた。

修理の注文は三件だけだった。

俺は部品の値札に、修理工賃は別途必要だと明記した。

信用を戻すには時間がかかる。


その晩、ミリアが実演会の収支を持ってきた。

会場代も人件費もかかり、帳簿上は赤字だった。

「でも、セドさんは明日も店を開けると言っています」

「それなら十分だ」

俺が答えると、ミリアは小さく笑った。

「オリバさんって、儲ける話をしているときより、人の仕事が残ったときの方が嬉しそうですね」

図星だった。

俺は返す言葉を探し、結局、空になった部品箱を片づけた。

「オリバさん!」

ミリアが笑顔で駆け込んできた。

「グラン商会が値段を戻しました!」

「そうか」

「うちの注文がさらに増えています!」

「よかったな」

「よかったな、じゃありません!」

ミリアは帳簿を広げた。

「今月の売上、金貨千枚を超えそうです!」

俺は少し驚いた。

「……千枚?」

「はい!」

俺は帳簿を見た。

確かに、注文が増えている。

魔力導線。

接続端子。

制御板。

再生魔石。

それぞれの売上が積み重なっていた。

ただし、売上がそのまま利益になるわけではない。

職人への加工費。

魔石の消耗。

輸送費。

従業員の給料。

それらを差し引く必要がある。

それでも。

「……悪くないな」

俺は笑った。

ミリアも笑った。

「悪くないどころじゃありません!」

そのとき。

工房の扉が開いた。

一人の男が入ってくる。

立派な服。

腰には王国の紋章。

男は俺を見て、深々と頭を下げた。

「オリバ殿でいらっしゃいますか?」

「はい」

「私は王都商業局の使者です」

「……王都?」

男は頷いた。

「あなたの商売について、王都で話題になっております」

俺は首を傾げた。

「……何か問題でも?」

「いいえ」

使者は微笑んだ。

「むしろ逆です」

そして、一通の封書を差し出した。

「王都の魔道具組合が、あなたとの取引を希望しております」

俺は封書を受け取った。

中には、正式な商談の招待状が入っていた。

取引希望数量。

月間一万個。

俺は思わず笑った。

「……一万個?」

ミリアが覗き込む。

そして

「い、一万個ぉぉぉ!?」

工房に、今日も悲鳴が響いた。


その日の夕方、グラン商会の使いが広場に戻ってきた。

部品の箱を掲げ、わざと人目につくように叫ぶ。

「半額品は危険だ! 接続端子が熱を持つ。事故が起きたら誰が責任を取る!」

見物人が後ずさった。

使いの箱には、確かに焦げた端子が入っていた。

ミリアが青ざめる。

俺は販売を止め、ボルグ親方に検査を頼んだ。

親方は端子を割り、断面を見せた。

「これはうちの刻印じゃねえ。外側だけ似せて、中身に別の金属を詰めてある」

「偽物だという証拠は?」

使いが笑う。

俺は昨日の購入者に渡した検査票を広げた。

製造番号と刻印の位置が一致しない。

さらに、使いの箱にはグラン商会の封蝋が残っていた。

「本物かどうか、ここで同じ負荷をかけて比べましょう」

ボルグ親方が二つの端子を同じ魔道具につないだ。

偽物は赤く熱を帯び、本物は規定の温度に収まった。

使いは箱を抱えて立ち去ろうとしたが、買い物客が道を空けなかった。

「うちに売った品も調べてくれ」

と店主が叫ぶ。

俺は検査台を広場に残し、他店の部品も無料で調べると告げた。


翌朝、値段の看板の下に新しい札が掛かった。

『製造番号・検査結果を公開』

最初に並んだのは、昨日までグラン商会から仕入れていた修理屋だった。

彼は値札ではなく検査票を確かめ、十個分の注文書を置いた。

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