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第48話 敵の商会が倒産しそうなので、助ける代わりに条件を出した

「オリバ殿……」

バルザックは、俺の事務所で頭を下げていた。

以前の威勢はない。

「お願いがある」

「何でしょう?」

「……資金を貸してほしい」

俺は少し考えた。

「いくらですか?」

「金貨三十万枚」

ミリアが目を丸くした。

「……三十万枚!?」

俺はバルザックを見た。

「何に使うんです?」

「商会の立て直しだ」

「なるほど」

俺は頷いた。

「では、条件があります」

バルザックが顔を上げた。

「……何だ?」

「魔石の買い占めをやめること」

「……分かった」

「採掘した魔石の品質を公開すること」

「……分かった」

「そして」

俺は笑った。

「廃棄魔石の再生事業に参加してください」

バルザックは固まった。

「……再生事業?」

「はい」

「我々は採掘商会だぞ?」

「だからこそです」

俺は説明した。

採掘。

精製。

販売。

使用。

回収。

再生。

そして、再び販売する。

「全部つなげれば、資源を無駄にせずに済みます」

バルザックは黙った。

俺は続けた。

「それに、新しい商売になりますよ」

バルザックはしばらく考えた。

そして、小さく笑った。

「……なるほど」

俺は頷いた。

「どうです?」

バルザックは立ち上がった。

そして、深く頭を下げた。

「……お願いします」

俺は笑った。

「こちらこそ」

倒産寸前の商会の門前には、賃金を求める職人が集まっていた。

俺は経営者だけを助ける契約なら結ばないと告げた。

未払い賃金を先に精算し、危険な設備を止める。

旧経営陣には取引記録の開示を求めた。

「敵を助けるのか」

とミリアが尋ねた。

俺は首を振った。

「敵だった人間と、そこで働く人間は同じじゃない」

バルザックが帰ったあと、俺は彼の提出した決算書を読み直した。

金貨三十万枚。

貸せない額ではない。

しかし倉庫の在庫を担保にしても、借金の返済には足りなかった。

ミリアが眉をひそめる。

「このまま貸せば、また買い占めに使われるかもしれません」

俺も同じことを考えていた。

そこで、現場を見せてもらうことを融資の前提にした。

バルザックは最初こそ嫌な顔をしたが、翌朝には案内役を寄こした。

採掘場へ行くと、鉱夫たちが入口に集まっていた。

二か月分の賃金が払われていないという。

監督は

「資金が来ればすぐ払う」

と説明したが、誰も信じていなかった。

俺は鉱夫の代表と話し、未払いの額を帳簿と照合した。

数字が合わない。

監督は一部を記録していなかったのだ。

俺はバルザックに連絡し、従業員への支払いを最優先にする別口座を作るよう求めた。

「会社を助ける前に、人を助ける」

それが最初の条件になった。

倉庫では別の問題が見つかった。

売れ残った魔石の箱が湿気の多い床に積まれ、品質が落ち始めていた。

俺が鑑定すると、再生できる石と廃棄すべき石が混ざっている。

バルザックの幹部は

「全部売れば返済できる」

と言った。

俺は断った。

「欠陥品を売れば、次は客まで失う」

品質別に仕分けるため、俺の商会の検査員を派遣した。

費用は貸付金から引かず、再建計画に明記した。

隠れた損失を表に出すことからしか、立て直しは始まらない。

融資契約の席で、バルザックは俺の条件を読んで顔をしかめた。

「買い占めの禁止、帳簿の公開、労働者への賃金保証……お前は俺を監視するつもりか」

俺は頷いた。

「そうです。ただし俺の商会も、共同事業の数字を公開します」

彼は意外そうな顔をした。

自分だけが縛られるのではないと分かっても、すぐには署名しなかった。

「俺の誇りはどうなる」

俺は答えた。

「採掘の技術まで捨てる必要はない。直すべきは、売り方です」

最初の共同試験では、バルザックの職人が俺の再生装置を止めた。

「この石は熱をかけると割れる」

俺の技師は反論したが、試験してみると本当にひびが入った。

採掘場で石の癖を見てきた職人だから分かることだった。

俺は彼に礼を言い、加熱温度を下げる設計へ変更した。

すると再生率が上がった。

バルザックはその結果を見て黙り込んだ。

敵だった会社の技術が、俺たちの仕事を良くしたのだ。

しかし再建が順調に進み始めたころ、古参の幹部が反発した。

「採掘商会がごみ拾いの下請けになるのか」

彼は倉庫の出荷を止め、職人を引き抜こうとした。

俺はバルザックに判断を任せた。

彼は一晩悩み、翌朝、全従業員の前で話した。

「俺は値段を吊り上げることばかり考え、仕事を失いかけた。今度は石を使い切る商売をする」

幹部は去ったが、職人の多くは残った。

俺はその場で拍手しなかった。

これは彼自身が決めたことだからだ。

再生工場の開所式には、以前の採掘場で働いていた職人たちが集まった。

バルザックは俺に壇上へ上がるよう勧めたが、俺は最初の再生工程を担当した職人を前へ呼んだ。

彼は帽子を握りしめ、しばらく言葉を探していた。

「俺たちは、石を掘って売れば仕事は終わりだと思っていました。でも使い終わった石が戻るなら、次の仕事ができる」

拍手が起こった。

バルザックはその言葉を聞いて、俺の隣で小さく頷いた。

式が終わると、ミリアが未払い賃金の帳簿を持ってきた。

融資金から優先して支払った最後の一人の賃金が精算され、欄の残高がゼロになっていた。

「これで約束の一つは守れましたね」

と彼女が言う。

「ああ。でも工場が続かなきゃ意味がない」

俺はバルザックに、翌月からの収支を職人代表にも公開するよう頼んだ。

彼は一瞬だけ渋い顔をしたが、やがて頷いた。

「昔の俺なら断っただろうな」

敵を味方に変える魔法なんてない。

間違いを繰り返さない約束を、何度も確かめるしかないのだ。

半年後、再生工場の見学に来た鉱夫の代表が、俺に小さな魔石を渡した。

最初の試験で割れた石の欠片だ。

「捨てるつもりだったが、研磨して測定器の部品に使えた」

と笑う。

バルザックは隣で苦笑していた。

「俺はこんなものに値段がつくとは思わなかった」

俺は答えた。

「値段がつく前に、使い道があったんです」

その日の決算では黒字が出た。

けれど俺が一番安心したのは、賃金の未払い欄が空白になっていたことだった。


翌週、俺はバルザックに最初の黒字決算書を返した。

「数字が戻っても、信用が戻ったとは限りません」

「分かっている。昔の仕入れ先には、俺が直接頭を下げる」

彼は鉱山の町を一つずつ訪ねる予定を書き出した。

俺が代わりに交渉すれば早いだろう。

だが、失った信用を取り戻す仕事まで奪うわけにはいかない。

「オリバ。お前は敵まで儲けさせるんだな」

「儲けさせるんじゃありません。もう一度、商売をする機会を作っただけです」

バルザックは手を差し出した。

俺は握り返した。

「次の決算は、自分たちの力で黒字にしてください」

「ああ。今度は買い占めじゃなく、修理した石で勝負する」

俺は倉庫を出るとき、古い値札が貼られた空箱を見つけた。

かつて高値で売るために積まれていた箱だ。

今は回収品を分類するために使われている。

捨てるはずのものを使い直す。

商売のやり方も、そうやって変えられるのかもしれない。

救済契約を前に、バルザックの番頭は帳簿を抱えて立ち上がった。

「これでは昔の買い占めの利益まで公開することになります。会長、断りましょう」

バルザックは長い間、返事をしなかった。


やがて番頭の手から帳簿を受け取り、最初のページを自分で開いた。

「隠したまま金を借りれば、また同じ商売になる」

俺は貸付条件に、取引先が記録を確認できる窓口を追加した。

再生工場が初めて黒字になった日、元の仕入れ先から苦情が届いた。

「賃金は払ったが、うちへの遅延金はまだだ」

バルザックは顔をしかめたが、俺は口を出さなかった。

彼は自分で古い契約書を開き、返済の予定を相手に説明した。

許されたかどうかは分からない。

それでも逃げずに話したことだけは、俺が見届けた。

貸付の第一回分は、商会の新しい看板ではなく、過去に支払いを遅らせた取引先へ回すと決めた。

バルザックは不満を飲み込み、自分で領収書を受け取りに行った。

救済は免罪符ではない。

その翌月、バルザックは昔の仕入れ先を訪ね、最初の遅延金を自分の商会の利益から払った。

相手は握手を拒んだ。

それでも彼は領収書を受け取り、次の支払日を確認した。

俺は報告書に

「和解」

とは書かなかった。

失った信用は一度の謝罪では戻らない。

だが、他人に頭を下げさせていた男が自分の足で通い始めた。

その変化だけは、帳簿の数字より確かだった。

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