↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
47/66

第47話 世界有数の大富豪を敵に回した商会が、一日で大損した


一週間後。

魔石の価格が急上昇した。

商人たちは大騒ぎだった。

「魔石が足りない!」

「価格が二倍になった!」

「工房が止まるぞ!」

ミリアが慌ててやってきた。

「オリバさん!」

「どうした?」

「魔石が買い占められています!」

俺は帳簿を見た。

「……なるほど」

「どうしますか!?」

俺は少し考えた。

そして笑った。

「再生魔石を売ろう」

ミリアが固まった。

「……え?」

「倉庫にあるだろ?」

「ありますけど……」

「品質検査済みの再生魔石を、市場に出す」

俺は頷いた。

「必要な工房に、通常価格で供給しよう」

魔石の値札が二倍になった朝、俺の事務所へ最初に駆け込んできたのは病院の修理屋だった。

「手術室の灯りが切れたら、患者を運べません」

俺は在庫を確認した。

再生魔石は十分あるように見えたが、品質が安定しているのは一部だけだった。

商会の営業部は高値で売れば大きな利益になると主張した。

俺はその計算書を伏せた。

「まず病院と井戸だ」

ミリアは頷き、各支店へ緊急の配分表を送った。

利益を逃す決断に、会議室は静まり返った。

ところが最初の配送車が市場へ着く前に、倉庫の入口を塞がれた。

知らない商人たちが

「正規の魔石ではない」

と騒いでいる。

俺は検査記録を見せたが、彼らは信じない。

そこで街の修理組合に立ち会いを頼み、公開試験を開いた。

再生魔石を灯りに入れると、最初は光がちらついた。

群衆から失笑が漏れる。

俺は慌てず、接点の錆を取り除いた。

次の試験では灯りが安定した。

原因を隠さず説明すると、組合長が

「これなら使える」

と証明書に署名した。


その日の夕方、ミリアが取引帳簿を持ってきた。

「買い占めをしている商会が分かりました」

名前はバルザック商会だった。

俺はすぐに告発しようとは思わなかった。

価格が上がったことと、違法な行為があったことは別だ。

まず公開市場の取引記録を調べ、実際に在庫を持つ商人と話した。

小さな工房の親方は、魔石が買えず職人を休ませたと教えてくれた。

俺は自分の倉庫の在庫を売るだけでは、その工房の失った仕事までは戻らないと気づいた。

再生魔石の供給を増やそうとすると、今度は検査員が足りなくなった。

若い職人は

「見た目なら分かる」

と言ったが、俺は首を振った。

傷んだ石を混ぜれば、せっかく取り戻した信用を失う。

俺たちは検査台を三つ増やし、合格した石にだけ刻印を押した。

検査待ちの箱が倉庫の外まで積み上がる。

ミリアが

「もっと早く売れますよ」

と促したが、俺は一箱ずつ記録を残した。


数日後、納品先から故障がないという報告が届き、ようやく出荷量を増やせた。

値下がりが始まると、今度は高値で仕入れた小売商人たちが悲鳴を上げた。

彼らも買い占めの被害者だ。

俺は一律の値下げだけでなく、使える魔石を適正価格で引き取る交換制度を始めた。

損失のすべては救えない。

それでも、店を閉めずに済む商人は増えた。

ある老店主が

「お前が値段を下げたせいで困った」

と文句を言いながら、最後には新しい注文書を差し出した。

俺は苦笑して受け取った。

バルザック商会の損失を知ったのは、数日後に届いた取引所の報告書からだった。

買い占めた魔石の評価額が急落し、借入金の返済が難しくなっているらしい。

俺はその数字を見て、勝ったとは思えなかった。

彼らの倉庫にも荷運びがいて、家族がいる。

ミリアは

「これで邪魔されませんね」

と言いかけて口をつぐんだ。

「市場は戻った。でも働く人まで倒れたら意味がない」

俺はバルザック商会の仕入れ先へ、今後も正当な取引を続けると知らせた。

後日、取引所の調査報告を読んで、俺は値上がりの背景を知った。

バルザック商会が大量の魔石を買い集め、価格を吊り上げようとしていたらしい。

幹部とのやり取りまでは分からない。

だが購入量と時期は帳簿に残っていた。

その後、俺は取引所から届く価格表を毎日確かめた。

急に値を下げれば、今度は小さな再生工房が倒れる。

再生魔石は通常価格で少しずつ供給し、病院と生活に欠かせない施設への納品を優先した。


数日後、取引所の掲示板から異常な高値が消えた。

俺は報告書を見て、呟いた。

「……もったいないな」

ミリアが尋ねた。

「何がですか?」

「普通に商売していれば、儲かったのに」

俺は笑った。

「欲張りすぎると、損するんだな」

価格が落ち着いても、病院の手術室はまだ暗かった。

再生魔石の購入費は下がったが、修理工房には部品代を立て替える余裕がない。

親方は俺に言った。

「値段を下げるだけなら簡単だ。だが、直す職人が食えなくなったら次は誰が修理する?」

俺は病院と修理組合を同じ机につかせた。

病院は費用を分割で支払い、職人には作業の検収ごとに通常の報酬を支払う。

魔石は品質検査済みの再生品を必要な数だけ届ける。

立て替えと回収の責任は、俺の商会が引き受けた。

修理の前日、病院の看護師は患者の移動経路を確かめていた。

手術室の灯りが使えない間、隣の診察室へ運ぶには狭い廊下を通らなければならない。

親方はその廊下を実際に歩き、修理中に患者が通れるよう、工具箱を置く場所まで決めた。

俺は見積書にその準備時間も書き足した。

職人の仕事は、魔石をはめ込む瞬間だけではなかった。

病院の事務長は金額を見て頷き、看護師と一緒に当日の作業予定を確かめた。


一週間後、修理屋が壁の魔導灯に最後の魔石をはめ込んだ。

淡い光が手術室を照らし、看護師が胸をなで下ろす。

病院の事務長は最初の受領書を渡し、親方は作業代金の入った袋を確かめた。

廊下で小さな女の子が母親の袖を引いた。

「もう夜になっても、ここは暗くならない?」

母親は灯りを見上げて頷いた。

親方は何も言わず、道具箱の留め金を閉じた。

「こっちは引き取ってくれるか」

親方が俺に差し出したのは、交換した古い魔石だった。

俺は手のひらで転がしてみた。

小さなひびが一筋ある。

「もちろん」

親方から受け取った古い魔石には、病院の備品番号が小さく刻まれていた。

俺は番号を記録し、再生工房へ送った。


数日後、検査に合格した再生魔石が一つ戻ってきた。

親方はそれを病院の廊下の予備灯に取り付けた。

手術室の灯りが消えても、患者を運ぶ道だけは暗くならないようにするためだ。

「今度は、これが壊れる前に点検に来る」

と親方が言った。

病院の事務長は、修理代の最初の支払いと一緒に点検日を帳面に書き込んだ。

ミリアが配送票の最後の欄に丸を付けた。

病院で役目を終えた魔石が、また病院の人を守る。

俺はその丸を見て、ようやく商売が一周したのだと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。