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第4章 第41話 古代遺跡のごみを調べたら、世界を動かす魔力炉が埋まっていた

第四章 古代文明の遺産編

北方大陸。

一年の半分以上が雪に覆われる、世界の果てとも呼ばれる土地。

その地下に、三千年前の古代文明が残した巨大な遺跡が眠っていた。

北方の港に着いてから五日目、雪崩の跡を越え、凍った橋を渡った末に、俺たちは巨大な扉の前へたどり着いた。

船の封印箱は港の隔離庫に残し、信号の記録だけを携えてきた。

「……でかいな」

俺は目の前の巨大な扉を見上げた。

高さは三十メートル以上。

幅は五十メートルほど。

扉の表面には、見たことのない文字が刻まれている。

「オリバさん」

ミリアが震える声で言った。

「本当に、ここに入るんですか?」

「もちろん」

「三千年間、誰も開けられなかった扉ですよ?」

「そうらしいな」

「危険かもしれませんよ?」

俺は頷いた。

「だから、まず調べる」

港からの道中では三度足止めされた。

雪崩の跡、凍った橋、そして方角を狂わせる磁石のような石。

北方支店の案内人が

「冬になる前に帰れないかもしれない」

と言ったとき、俺は予定表を破り捨てた。

商会の仕事なら日程を守るべきだ。

だが、命を賭けてまで守る納期ではない。

俺は隊を二つに分け、帰路の目印と食料庫を設けた。

ミリアは

「大富豪らしくない遠回りですね」

と笑った。

「そうだな。でも帰れなきゃ金貨も使えない」

冗談を言うと、凍えていた案内人の肩が少し緩んだ。

巨大な扉の前には、先に来ていた採掘団の天幕があった。

団長は俺たちを見ると険しい顔をした。

「ここは俺たちが発見した。勝手に触るな」

俺は彼らが掘り出した金属片を見せてもらった。

表面には細い亀裂が走り、触れた工具の先が黒く変色していた。

鑑定すると、内部に不安定な魔力が残っている。

俺はすぐに作業中止を勧めたが、団長は耳を貸さない。

「大商会が宝を横取りするつもりだろう」

俺は所有権を争う前に、危険を証明しなければならなかった。

俺は自分の古い手袋を金属片のそばへ置き、長い棒で位置を変えた。

手袋の留め具だけが熱を帯び、雪の上で赤く光った。

団員たちが後ずさる。

団長もようやく顔色を変えた。

「こんな物を荷車に積んでいたのか」

俺は頷いた。

「今のうちに離そう」

採掘団の荷を安全な場所へ移すのに半日かかった。

彼らは利益を失ったが、団長は最後に

「命まで売るところだった」

と頭を下げた。

俺は採掘権を買い取らず、共同調査と危険物の補償契約を提案した。

互いの署名を交わして、ようやく扉の前に立てた。

扉の鑑定結果には、修復可能率と並んで見慣れない警告が出た。

【認証失敗時、隔壁閉鎖】。

俺はその意味をミリアに伝えた。

「中に入ったまま閉じ込められるかもしれない」

彼女は一瞬黙り、

「なら、外から開ける方法も探しましょう」

と答えた。

俺たちは扉の左右を調べ、凍った石の下から古い非常用の操作盤を見つけた。

壊れた配線を直すのに、採掘団から借りた銅線が役に立った。

共同調査の最初の成果が、命綱になるとは思わなかった。

俺は扉に触れた。

素材鑑定を発動する。

【古代文明第七魔力供給施設】

建造年代:約三千年前

状態:機能停止

主要設備:超大型魔力炉

残存魔力:0.02%

修復可能率:71%

俺は目を見開いた。

「……魔力供給施設?」

ミリアが首を傾げる。

「何ですか、それ?」

「たぶん、昔の人が使っていた巨大な発電所みたいなものだ」

「発電所?」

「魔力を作って、各地へ送る施設だな」

ミリアは驚いた。

「三千年前の装置を、今の技術で調べられるんですか?」

「できたらしい」

俺は扉を見つめた。

そして、もう一つの表示に気づいた。

【内部保管物】

古代魔力蓄積装置:二百四十基

古代制御装置:八十六基

古代輸送装置:十二基

廃棄予定部品:推定十二万点

俺は固まった。

「……十二万点?」

ミリアが尋ねる。

「何がですか?」

俺は笑った。

「ごみだ」

「……え?」

「三千年前のごみが、十二万点もある!」

ミリアは頭を抱えた。

「世界有数の大富豪になった人が、そんなに嬉しそうに言うことですか!?」

俺は笑った。

「最高じゃないか!」

そのときだった。

巨大な扉の表面が青く光った。

低い振動が大地を伝わる。

そして『……資源管理者を確認』

機械的な声が響いた。

『施設管理権限の照合を開始します』

俺たちは固まった。

『照合完了。

暫定管理者権限を付与』

巨大な扉が、ゆっくり開き始めた。

ミリアが叫んだ。

「オリバさん! 何をしたんですか!?」

「何もしてない!」

扉の向こうには、都市のような広間と山ほどの大きさの装置が見えた。

『ようこそ』

声が響いた。

『最後の資源管理者様』

俺は呟いた。

「……最後? 俺が管理者だと決まったわけじゃないだろ」

船で見た【認証対象:未確定】の文字が脳裏をよぎった。

暫定権限で扉が開いたのなら、本当の管理者は別にいるのかもしれない。

「最後の資源管理者」

という呼び名だけが、頭から離れなかった。

誰が最後で、なぜ俺が選ばれたのか。

扉の奥で、その答えを確かめるしかなかった。

扉が開いたあと、操作盤に残っていた青い文字を改めて確かめた。

読めない文字だったが、素材鑑定が一部を意味へ置き換えた。

【外部避難経路、維持】。

俺はその表示を記録し、外の仲間へ非常時の操作を説明した。

もし認証が失敗したら、外の仲間がこの操作盤を使う。

合図の鐘も決めた。

ミリアは

「準備ばかりですね」

と言いながら、鐘の紐を自分の腰へ結んだ。

「準備のしすぎで笑われるなら、笑われておこう」

俺が答えると、彼女は真剣な顔で頷いた。

扉の向こうへ一歩進むと、暖かい風が吹きつけた。

三千年間閉じられていた空間なのに、どこかで装置がまだ生きている。

俺は歓声を上げかけ、足元の床に細いひびが走っているのを見つけた。

先頭の案内人を止め、ロープを張る。

投げた石が床を割り、深い闇へ落ちた。

歓声は消えた。

俺たちは壁沿いに足場を確かめながら進んだ。

中央に見えた巨大な魔力炉は、宝の山というより眠った獣に見えた。

俺は割れた床の断面を写し取った。

ひびは扉の方へ続いていた。

遺跡は、入る前から俺たちに何かを伝えようとしている。


翌朝、俺は採掘団と商会の全員を集め、遺跡へ入る人数を制限した。

危険を恐れている者を無理に連れていくつもりはない。

若い荷運びが

「怖いので外で待ちたい」

と言うと、団長は叱りかけた。

俺は先に言った。

「外でロープを管理する仕事も必要だ」

彼はほっとした顔で頷いた。

遺跡の奥へ向かう者と外で帰路を守る者。

どちらが欠けても調査は成立しない。

俺は全員の名前を記録し、出発前に必ず人数を数えることにした。

封鎖扉の警告を見たあと、俺は開放の命令を保留した。

外の調査班に位置を伝え、戻る経路を二本確認する。

遺跡が何を守っているのか知らないうちは、扉の向こうの財宝より、こちら側の命が大事だった。

その翌日、俺たちは崩れた床を避けて広間の奥へ進んだ。

前日に見つけた靴跡の先には、古い作業台と、途中で止まったままの運搬機が残されていた。

三千年前の誰かが、ここから帰れなかったのかもしれない。

作業台の端に、港の封印箱と同じ模様が刻まれていた。

俺が記録用紙を近づけると、壁の表示が一瞬だけ明るくなる。

【前任資源管理者:所在不明】

【暫定認証者:一名】

【管理記録:封鎖中】

【最終手動弁:閉鎖継続】

【照合根拠:資源鑑定方式の一致】

「俺の名前を知っていたわけじゃない。鑑定の仕方が、前任者の鍵と一致したのかもしれない」

ミリアは俺の腕をつかんだ。

「なら、その人がなぜ戻らなかったのかを先に調べましょう」

扉を開けたときの声は、もう聞こえない。

答えを知っているはずの装置は、沈黙したままだった。

俺たちは記録の封鎖を解く方法を探すことにした。

だが、そのとき閉じたはずの手動弁の表示が一度だけ赤く瞬いた。

【最終手動弁:閉鎖継続】の下に、今までなかった文字が現れる。

【封鎖解除までの残り時間:不明】。

俺はミリアに記録紙を渡した。

「先に外の仲間へ知らせてくれ」

三千年前の管理人が残したのは宝の地図ではない。

誰かが閉めたまま戻らなかった扉の、最後の警告なのかもしれなかった。

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