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第40話 世界有数の大富豪が、またごみを拾い始めた

「会長、昨日お知らせした古代遺跡の金属です!」

工場長が、封をした大きな木箱を運んできた。

「保管庫から移しました。まだ誰も鑑定できていません」

俺は箱を開けた。

中には、黒い金属片が入っていた。

奇妙な模様。

見たことのない材質。

そして、わずかに青く光る表面。

俺は一つ拾い上げた。

「……何だ、これ?」

素材鑑定を発動する。

【未知の古代合金】

製造年代:約三千年前

状態:劣化

特殊成分:不明

魔力反応:極めて高い

再利用可能率:不明

俺は固まった。

「……おいおい」

ミリアが覗き込む。

「また何か見つけました?」

「ああ」

「今度は何ですか?」

俺は金属片を見つめた。

「……分からない」

ミリアが固まった。

「……え?」

「鑑定しても、詳しいことが分からないんだ」

ミリアは目を丸くした。

「オリバさんでも?」

「ああ」

俺は笑った。

「面白いな」

ミリアは頭を抱えた。

「……分からないのに、嬉しそうですね」

「当然だろ?」

俺は金属片を光にかざした。

三千年前。

古代文明。

未知の合金。

そして、極めて高い魔力反応。

これは、今まで見つけたものとは違う。

「……どこで見つかった?」

俺は工場長に尋ねた。

「北方の古代遺跡です」

「北方?」

「はい」

「他にもあるのか?」

「大量にあるそうです」

俺は目を見開いた。

「……大量?」

「はい。遺跡の地下に、巨大な金属構造物が埋まっていると」

俺は笑った。

「……行くしかないな」

ミリアが固まった。

「……え?」

「北方だ」

「……まさか」

「そのまさかだ」

俺は立ち上がった。

「新しいごみ山を見に行こう!」

ミリアは叫んだ。

「世界一の大富豪になったんですよ!?」

「そうだな」

「もう働かなくてもいいじゃないですか!」

俺は笑った。

「でも、面白いものが見つかったんだぞ?」

「……もう!」

ミリアは頭を抱えた。

だが、最後には笑った。

「……分かりました」

「よし!」

「一緒に行きます!」

俺は頷いた。

「頼む」

出航の前日、俺は古いごみ山を訪れた。

最初に金貨一枚で買った場所だ。

かつて山のように積まれていた廃材はほとんど姿を消し、今では小さな工房と子供たちの通学路ができている。

門番の老人は俺を見るなり笑った。

「大富豪になっても、靴が泥だらけだな」

俺は足元を見て苦笑した。

工房の奥では、修理した鍋を抱えた少女が職人に礼を言っていた。

売れば金貨にもならない仕事だ。

けれど、その鍋がなければ少女の家では夕食を作れない。

俺はあの日の自分が、金貨より先に見つけたものを思い出した。

古代金属を持ち帰る途中、俺は工場長に鑑定結果を口外しないよう頼んだ。

未知の素材だという噂だけで、採掘地の土地が買い占められるかもしれない。

「それでは発見の価値が伝わりません」

と工場長は言う。

「だから先に、発見した人と土地の持ち主を確かめる」

俺は採取記録を開き、現場で働いた人の名前を一人ずつ書き写した。

次の冒険は、宝の持ち主を奪うところから始めたくなかった。

出航の前、現場の工員が俺に小さな金属片を差し出した。

「これは鑑定に使った残りです。俺たちにも結果を教えてください」

俺は研究所だけに情報を渡すつもりだったことに気づいた。

発見を独占しないと決めたなら、知らせる順番も変えなければならない。

俺は工員たちへ調査結果を共有する日を約束した。

未知の遺跡より先に、俺には守るべき約束ができた。

港へ戻ると、出航予定の船が動かなくなっていた。

船腹に亀裂が見つかり、船長は

「修理に十日」

と告げた。

北方から届く知らせは急を要する。

俺は代船を買う案を出したが、ミリアは首を横に振った。

「今ある船を直すための会社でしょう」

もっともな指摘だった。

俺は船底へ降り、傷んだ板と金具を鑑定した。

腐食した金具は交換が必要だが、骨組みは十分使える。

工房の職人を呼び、予備の合金で補強板を作った。

急ぐほど安全確認を省きたくなる。

だからこそ、俺は船長に二度目の検査を頼んだ。

修理の最中、新聞記者が俺を訪ねてきた。

「世界有数の大富豪が、なぜ自分でごみを拾うんですか」

俺はすぐに答えられなかった。

金を稼ぐ方法なら、ほかにもいくらでもある。

人を雇い、指示だけ出して暮らすことだってできる。

だが、手に取った物の重さや、壊れた道具を見つめる職人の表情は、帳簿だけでは分からない。

「拾うと分かるんだ」

と俺は答えた。

「捨てられた物が、誰かの仕事や暮らしにつながっていたことが」

記者はしばらく黙り、それから手帳に書き込んだ。

出航が一日延びた夜、北方支店から追加の報告が届いた。

遺跡の近くで、奇妙な金属片を運んだ荷車の魔石灯が突然消えたという。

負傷者はいないが、原因が分からない。

俺は積荷を封印し、到着まで誰も触れないよう指示した。

ミリアは

「未知の物に近づくのは、いつもより危険ですね」

と言った。

「ああ。だから今回は、商売の計算より先に安全の計算だ」

俺たちは魔石を扱う技師と医師を同行させることにした。

船室には防護具と記録用紙が積み込まれた。

新しい冒険は、派手な宝探しではなく慎重な準備から始まった。


翌朝、船長が補強箇所を見せてくれた。

職人たちが一晩かけて仕上げた金具には、小さな刻印が並んでいた。

作業した全員の印だという。

俺はそれを見て、昔の自分なら金属の純度ばかり気にしただろうと思った。

今は違う。

この船を動かすのは材料だけではない。

失敗を隠さず報告する船長と、壊れた物を直す職人と、俺に反対できるミリアだ。

俺は出航許可の書類に署名し、最後に救命艇を数えた。

ようやく出航の準備が整った。

潮風の中で、胸の奥に久しぶりの緊張が戻ってきた。

甲板でミリアが小さな袋を渡してきた。

中には、最初のごみ山で拾った錆びた釘が一本入っていた。

「お守りです」

と彼女は笑う。

俺は釘を指先で転がした。

今ならいくらでも高価な宝石を持てる。

それでも、この釘ほど俺の商売を説明してくれる物はない。

遠くの海が白く光り、北方へ向かう航路が開けていた。

俺は釘を袋へ戻し、胸ポケットにしまった。

「帰ってきたら、あの工房の子供たちに話をしよう」

「何をですか?」

「まだ見ぬごみが、どんな未来を作るかって話だ」

ミリアは呆れながらも、楽しそうに笑った。

三千年前の信号は、発信元も危険度も分からない。

俺は調査団に、撤退の合図を一人でも出せる規則を渡した。

発見の興奮で人を置き去りにしない。

それが新しい冒険の最初の約束になった。

出航の日、古代合金の封印箱が三度震えた。

羅針盤の針が北を指さなくなり、魔石灯が暗くなる。

「出航を止めろ」

俺が命じると、船長は即座に乗組員を下船させた。

技師が遮蔽を増やす間、航海士は星図による代替航路を作った。

再鑑定の表示には、昨日までなかった文字が浮かんだ。

【起動信号:受信済】

【発信源:北方第七施設】

【認証対象:未確定】

「誰かが呼んでいるんでしょうか」

とミリアが呟いた。

「分からない。だから、帰る手段ができるまで近づかない」

再検査で灯りが安定し、船長が出航を許可した。

船が岸壁を離れると、胸ポケットの錆びた釘が小さく揺れた。

最初のごみ山から持ってきた、値段のつかないお守りだ。

今度の仕事は、捨てられた物を拾うだけでは終わらない。

三千年前から届いた信号の向こうに、何が残されているのかを確かめに行く。

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