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第38話 世界中のごみを運ぶために、巨大な輸送網を作った

世界各地の回収拠点が増えるにつれ、俺の机には同じ種類の苦情が積み上がった。

資源はあるのに、必要な工房へ届かない。

王国では再生魔石が余り、帝国では魔道具の修理が遅れている。

海洋国家の港には回収した金属が山積みなのに、北方では金属部品の値段が上がっていた。

「物がないんじゃない。運べていないんだ」

俺は地図を広げた。

ミリアが横から覗き込む。

「各国に拠点はありますよ。何が足りないんですか?」

「拠点をつなぐ道だ」

俺は王国と帝国を線で結び、さらに港と北方諸国へ線を延ばした。

「陸路と海路を組み合わせて、世界規模の輸送網を作る」

「また大きなことを言い出しましたね」

「今度こそ無駄な輸送費を減らせる」

そのときの俺は、地図の上の線を信じすぎていた。


一か月後。

最初の試験輸送は、予定を大幅に超えて遅れた。

北方の峠が雪で閉ざされ、再生魔石を積んだ荷車が動けなくなったのだ。

別の船は嵐で港に入れず、積み替えを予定していた金属が倉庫の外で雨に濡れた。

さらに砂漠の輸送隊からは、水が足りないという報告まで届いた。

「このままでは荷物より先に人が倒れます」

ミリアが報告書を握りしめた。

俺はすぐに輸送を中止するよう命じた。

「積み荷は捨ててもいい。まず全員を戻してくれ」

「高価な魔石もですか?」

「人の命と比べるな」

だが、命令を出しただけで人が戻るわけではない。

峠では雪が積もり、港では風が止まない。

俺は現地へ向かうことにした。


三日後。

北方の中継町に着いた俺は、御者たちの宿で一人の男と会った。

片足に包帯を巻いた御者のハンスだ。

「会長さん。あんたの地図はきれいだな」

「……すまない」

「謝ってほしいんじゃない。冬にあの峠を越えるなんて、地元の子どもでもやらねえ」

「輸送会社からは通れると聞いていた」

「夏ならな」

俺は言葉を失った。

地図には距離が書いてあった。

だが雪が降る時期も、吹雪で視界が消える場所も書かれていない。

「どうすればいい?」

俺が尋ねると、ハンスは机を指さした。

「まず、俺たちに聞け。あの道を何年も走ってきた人間にな」


その晩、俺は地元の御者を集めた。

彼らは地図に赤い印をつけ始めた。

崩れやすい崖。

冬に凍る橋。

馬を休ませられる村。

雪解けまで使えない道。

赤い印は、俺の描いた最短経路をほとんど覆い隠した。

「これじゃ輸送網じゃなくて、事故の予定表だな」

俺が呟くと、ハンスは苦笑した。

「ようやく分かったか」

翌週。

港では船長と荷役人に話を聞いた。

「この港は夜になると潮が引く。大きな船は入れねえ」

「積み替えの間に雨が降れば、再生金属の一部は品質が落ちます」

「嵐の季節は別の港を使うべきです」

俺は全部書き留めた。

砂漠の商人からは、給水所を作らなければ長距離輸送は続かないと教えられた。

そこで輸送網の設計を根本から変えた。

価値の低い廃材は回収地の近くで再利用する。

長距離輸送するのは、希少金属や再生魔石など、運ぶ価値の高いものに限る。

さらに北方には冬季用の中継倉庫を置き、海路には代替港を用意する。

砂漠では給水所と休憩所を整備する。

「これでどうだ?」

俺が新しい図面を見せると、ミリアは見積書を突き出した。

「建設費が二倍になっています」

「……本当だな」

「しかも輸送時間は短くなりません」

俺は考えた。

以前なら最短時間を追っていた。

だが、荷物が届かなければ速さに意味はない。

「遅れてもいい。荷物の場所が分かり、人が帰ってこられる道にしよう」


その日の午後。

本部の役員会は荒れた。

「中継倉庫をそんなに作れば利益が消えます!」

「競合商会はもっと短い道を使っています!」

俺は試験輸送の事故報告書を机に置いた。

「短い道で運べるなら、それに越したことはない。だが今の計画では、道が閉ざされたときの逃げ道がない」

役員の一人が言った。

「全路線に予備を用意するのは不可能です」

「だから、すべての路線を同じように扱わない」

俺は地図を示した。

雪の多い地域は季節ごとに経路を変える。

港の荷は嵐の時期だけ別港へ回す。

砂漠は荷を軽くし、水の補給を最優先する。

「そして現場の責任者に、運行を止める権限を持たせる」

「本部の許可なしで?」

「ああ。嵐が来ているのに、本部からの返事を待たせるわけにはいかない」

議論は夜まで続いた。

最終的に、建設費の一部を段階的に支出する条件で承認が下りた。

俺は安堵したが、まだ何も成功していないことも分かっていた。

二か月後。

新しい中継倉庫の試験運用が始まった。

初日は荷札の記載が間違っていて、再生銅の箱が別の港へ送られた。

二日目には倉庫の鍵が足りず、積み替えに時間がかかった。

三日目には船会社と陸運会社で荷物の数え方が違うと判明した。

ミリアが頭を抱えた。

「これでは前より遅いです!」

「そうだな。でも、どこで間違えたか分かる」

俺は箱ごとに通し番号を振り、受け渡しのたびに記録する仕組みを提案した。

最初は面倒だと反発された。

そこで俺も倉庫に立ち、荷札を一枚ずつ確かめた。

夕方には手が真っ黒になったが、数が合わない箱を見つけることができた。

「会長が荷札を数えるとはな」

荷役人が笑った。

「俺はもともとごみを分別していた人間だぞ」

「そうだったな」

その笑い声を聞いて、ようやく新しい仕組みが現場に根づき始めた気がした。

半年後。

北方の冬が再び来た。

今度は峠が閉ざされる前に荷物を中継倉庫へ移し、雪解けまで待つ計画を立てていた。

だが予定より早い吹雪で、最後の輸送隊が足止めされた。

ハンスから短い報告が届いた。

『積み荷は無事。

全員、村の宿に避難済み』

俺はその紙を何度も読み返した。

「運行を止めたんですね」

ミリアが言った。

「ああ。俺の許可を待たずにな」

「それでいいんですよね?」

「もちろんだ」

荷物は予定より遅れて届いた。

しかし、行方不明になった箱は一つもなく、乗員も全員帰還した。

その数字を見て、俺は初めて輸送網の成果を実感した。

一年後。

古い失敗品を箱に戻すと、小さな金属音がした。

世界を結ぶ輸送網の出発点としては、ずいぶん頼りない音だった。

だから忘れずにいられる。

王国、帝国、海洋国家、北方諸国、砂漠の国々。

各地の回収拠点と工房は、複数の輸送路でつながるようになった。

地図の線は、最初に描いたものよりずっと遠回りしている。

それでも必要な資源は以前より安定して届き、倉庫では荷物の所在を追えるようになった。

「世界中がつながりましたね」

ミリアが地図を見つめた。

「まだ全部じゃない。季節が変われば、また問題が出る」

「それでも、前よりずっといい地図です」

俺は赤い印の残った古い図面を取り出した。

捨てずに保管していたものだ。

「最初の失敗を忘れないために、これも残しておこう」

ミリアは頷いた。

「ごみから世界をつなぐなんて、不思議ですね」

俺は笑った。

「ごみだけじゃない。運んでくれる人たちが、世界をつないでいるんだ」

輸送網が完成した冬、北方の村から急ぎの依頼が入った。

産婆が使う保温魔道具の部品が壊れ、峠の向こうでは早産の母親が待っているという。

以前なら荷物は最短の峠へ送られ、吹雪に閉じ込められていただろう。

だがハンスが作った避難地図には、冬でも通れる川沿いの道と、途中で馬を替えられる宿が記されていた。

「荷物を先に行かせるな。御者の休息を確保してからだ」

俺が言うと、現地の隊長は笑った。

「もう手配済みです。今度は俺たちが決めます」

中継倉庫の職人が予備部品を選び、船頭が凍らない水路を使って運び、最後の一里を村の若者が橇で引いた。

誰も一人で無理をしなかった。


三日後、村から届いた手紙には、保温魔道具が無事に動き、母子ともに助かったとあった。

添えられた小さな布には、赤ん坊の名前が縫われていた。

ミリアが手紙を読み上げると、倉庫の荷役人が静かに帽子を取った。

ハンスは古い地図の危険な峠に、もう一本赤い線を引いた。

「線がつながっただけじゃないんですね」

とミリアが言った。

「ああ。届ける人も、待つ人も、無事に明日を迎えられる道になったんだ」

俺は赤ん坊の名前を運行記録の余白に書いた。

利益の欄には入らない。

それでも、この輸送網を作ってよかったと思える、最初の報告だった。

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