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第35話 世界中の商人が集まったので、資源取引所を作ってみた

セレスタ王国の商業都市。

そこには、世界中の商人が集まっていた。

王国。

帝国。

海洋国家。

砂漠の国。

北方の国。

さまざまな国の商人たちが、資源を売買している。

だが、問題があった。

価格がばらばらなのだ。

同じ品質のミスリルでも、国によって価格が大きく違う。

魔石も同じ。

再生金属も同じ。

俺は商人たちの話を聞きながら考えた。

「……取引所が必要だな」

ミリアが首を傾げた。

「取引所?」

「ああ」

俺は笑った。

「品質と価格を分かりやすくする場所だ」

取引所の開設を宣言した日、最初に反対したのは意外にも俺の商会の幹部だった。

「相場を公開したら、安く買い付ける機会が減ります」

「そうだろうな」

「それでも作るんですか」

「作る。俺たちだけが得をする仕組みなら、長続きしない」

会議室には不満が渦巻いた。

ミリアは机の上に、国ごとに違う重量の分銅を並べた。

「同じ一袋でも、国が違うと量が違うんです。これでは小さな商人ほど損をします」

俺は分銅を一つ持ち上げた。

見た目は同じでも、重さがわずかに違った。

「まず量り方から統一しよう」

だが、基準を決める会議は三日続いてもまとまらなかった。

大商会は自分たちの検査官を使えと主張し、小工房は高い検査料を払えないと訴えた。

「公平という言葉は便利だな」

と年老いた職人が吐き捨てた。

「金持ちにしか使えない制度を、公平と呼ぶのか」

俺は言い返せなかった。

立派な建物と規則を用意するだけでは、取引所は大商会の新しい支店になる。


翌朝、俺は少量取引専用の窓口を設ける案を出した。

検査料は取引成立後に差し引き、独立した職人が検査に立ち会う。

大口取引には保証金を求め、不正な品質表示が見つかれば没収する。

大商会の代表が立ち上がった。

「小商人ばかり優遇するなら、我々は利用しない」

「利用するかどうかは自由です。でも、ここで取引するなら同じ規則を守ってもらいます」

代表は怒って退席した。

俺は内心、冷や汗をかいていた。

大商会が一斉に離れれば、取引所は初日から閑古鳥が鳴く。

開設初日、予感は的中した。

広い取引場に並んだのは、小さな工房の主人が数人だけ。

買い手はほとんど来ない。

「失敗ですね」

と会計係が呟いた。

「まだ一日目だ」

そう言いながら、俺も胃が痛かった。


昼過ぎ、町工場の主人が再生銅を持ち込んだ。

見た目はくすんでいたが、独立検査員が純度を測ると、大商会の標準品を上回っていた。

「本当に、この品質なのか」

と買い手が驚いた。

「三度溶かして、不純物を取り除きました」

と主人は答えた。

競りが始まると、値段は予想以上に上がった。

主人は震える手で領収書を受け取った。

「今まで、見た目が悪いというだけで安く買われていたんです」

俺はその声を忘れないと思った。

翌日、大商会の一社が取引所に戻ってきた。

買い手が品質を比較できる場所へ集まり始めたからだ。

代表は不機嫌そうに保証金を差し出した。

「我々にも同じ検査をするのか」

「もちろんです」


その日の夕方、検査で大商会の金属に混入物が見つかった。

代表は激怒したが、公開された手順の前では抗議できなかった。

「検査をやり直せ!」

「できます。ただし、別の検査員が立ち会い、結果は両方掲示します」

再検査でも結果は同じだった。

代表は黙って品物を持ち帰った。

試験開設の三日目、同じ再生銅に二つの検査結果が出た。

片方は高純度、もう片方は不合格。

取引場は騒然となり、買い手が一斉に注文を取り消した。

俺の商会の検査員も判定に関わっていたため、俺が裁けば身内びいきと疑われる。

ミリアは

「今日は取引を止めてでも、第三者に調べてもらいましょう」

と言った。

独立した鍛冶職人が試料を取り直すと、原因は秤の摩耗だった。

俺は検査費の返金を命じ、検査器具の校正記録を公開した。

市場を守ったのは俺の信用ではなく、俺の判定さえ覆せる仕組みだった。


数か月後、取引所には国境を越えた商人が集まり始めた。

俺の商会も、以前ほど安く原料を買えなくなった。

利益率が下がったと幹部は嘆いた。

「代わりに、品質を偽られたり、支払いを踏み倒されたりする損も減っただろう?」

幹部は帳簿を見直し、渋々頷いた。

俺は窓の外の取引場を見下ろした。

値段を決めるのは俺ではない。

だからこそ、ここで決まった値段を人々は信じられる。

商売の主役を自分から手放すことが、こんなに難しく、面白いとは思わなかった。

正式開設から半年。

世界中の商人が利用するようになった。

取引量は急増。

オリバ資源商会も、取引所の運営に参加していた。

ただし、価格を勝手に決めることはできない。

独立した検査員と商人代表が、運営を監督する仕組みにした。

その方が信用されるからだ。

俺は帳簿を見ながら笑った。

「……信用って、儲かるな」

ミリアが笑った。

「オリバさんらしいですね」

ある夕方、遠方から来た若い商人が、傷のある金属板を一枚持ち込んだ。

「会長の商会の商品でも不合格になると聞きました。俺の荷も、同じように調べてもらえますか」

俺は独立検査所の列を示した。

判定は不合格だった。

若い商人は肩を落としたが、検査員は亀裂の位置を指し、交換すべき部分を説明した。


数日後、彼は補修した板を持って戻り、合格票を受け取った。

「次もここに持ってきます」

若い商人は検査員に頭を下げたが、合格票を握る手はまだ震えていた。

「これで買い手に説明できます」

と言い、荷車の待つ通りへ向かった。

俺は窓からその背中を見送った。

合格は商談の終わりではない。

ここから先は、彼自身の言葉が必要だった。

検査所を出た若い商人が、通りの向こうで立ち止まった。

取引先の荷車が待っていたのだ。

買い手は判定票を見るなり眉をひそめた。

「一度落ちた品だろう。値を下げろ」

商人は握った票を開き、交換した部品の番号と再検査の記録を一つずつ示した。

「傷があったのは事実です。でも直しました。どこを直したかも隠しません」

買い手は長いこと紙を見つめ、

「補修箇所の保証は誰がする」

と買い手は問い返した。

若い商人は検査所の再検査票と自分の保証書を並べた。

「不具合が出たら、私が引き取って直します」

買い手は初めて彼の顔を見て、

「それなら当初の値段で買おう」

と手を差し出した。

ミリアは窓辺からその様子を見ていた。

「あの人、初めて自分の言葉で商談できましたね」

俺は頷いた。

俺の名前を信用させるための取引所ではない。

小さな商人が、自分で証拠を示し、対等に値段を決められる場所でなければ意味がない。


翌朝、取引所の掲示板に、前日の金属板の補修記録が貼り出された。

若い商人が自分で持ってきたものだ。

ところがその下に、別の買い手から異議が書き込まれた。

「同じ品を、別の国では検査なしで売っている。ここだけ厳しすぎる」

俺の商会の幹部は小声で言った。

「あの若者を特例で通せば、評判も上がります」

俺は首を振った。

特例を作れば、今度は俺たちの都合で規則を曲げられる。

翌日の公開審査では、若い商人も買い手も、同じ長椅子に座った。

検査員は板をもう一度調べ、補修した箇所と検査費用を説明した。

判定は変わらなかった。

だが異議を出した買い手は、帰り際に若い商人を呼び止めた。

「次はうちの荷も検査してくれ。あんたが不合格まで見せるなら、隠す理由はない」

俺はその会話を遠くで聞いた。

会議室に戻ると、幹部が新しい申請書を差し出した。

今度の検査依頼主は、俺の商会だった。

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