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第3話 鉱山のごみを無料でもらったら、ミスリルが大量に出てきた

翌朝、作業場の戸を開けると、ミリアが買い取り先の一覧を握りしめて立っていた。

「オリバさん。今朝、全部の店から断られました」

「今度は何だ?」

「町の魔道具店が、どこも魔石を買ってくれません!」

「……へえ」

俺は作業台から顔を上げた。

「全部?」

「全部です!」

「理由は?」

「グラン商会から通達があったそうです。オリバさんと取引した店には、今後商品を卸さないって……」

「なるほど」

俺は頷いた。

予想どおりだった。

昨日、金貨一枚で売ったごみ山から大金が生まれたと知って、グラン商会は激怒したらしい。

そして、商売を妨害してきた。

「どうしましょう……」

ミリアは不安そうだった。

「魔石が売れなかったら、商売ができません」

「そうだな」

「そうだなって……!」

俺は笑った。

「じゃあ、魔石以外を売ろう」

「……え?」

「今日は鉱山に行くぞ」

「鉱山?」

「ああ」

俺は昨日見つけた黒い石を取り出した。

ミスリルを含む廃石だ。

「これを大量に手に入れる」

ミリアは首を傾げた。

「……ただの石ですよね?」

「普通はそう思う」

俺は石を握った。

「でもな、ミリア」

「はい?」

「この世界で一番儲かる商売は、何だと思う?」

「……魔石を売ることですか?」

「違う」

「金を掘ること?」

「それも違う」

俺は笑った。

「誰も価値に気づいていないものを、安く手に入れることだ」

町から馬車で二時間。

俺たちは、王国最大級の鉱山の一つ、ガルド鉱山に到着した。

山肌には巨大な穴が開いている。

鉱夫たちが鉄鉱石を運び出し、荷馬車に積み込んでいた。

その一方で大量の石が、別の荷馬車に積まれている。

「……あれだな」

俺は呟いた。

ミリアが尋ねる。

「あれって?」

「捨てる石だ」

「え?」

「鉱石を選別したあとに残る廃石だよ」

鉱山の脇には、巨大な廃石の山があった。

まるで小さな山脈だ。

俺は近くに落ちていた石を拾い、鑑定した。

【鉱山廃石】

鉄含有率:8%

銅含有率:0.4%

ミスリル含有率:0.6%

「……やっぱり」

俺は笑った。

次の石。

【ミスリル含有率:0.9%】

さらに次。

【ミスリル含有率:0.7%】

間違いない。

この鉱山の廃石には、ミスリルが含まれている。

しかも、かなり広い範囲で。

「……すごい」

思わず声が漏れた。

「何がすごいんですか?」

ミリアが尋ねる。

俺は廃石の山を指さした。

「これ、全部宝の山だ」

「……またですか?」

「まただ」

ミリアは頭を抱えた。

「オリバさんと一緒にいると、ごみが全部お金に見えてきます……」

「その感覚は大事だぞ」

鉱山の管理事務所へ入る前、俺は拾い集めた金属片の中に、小さな花の刻印を見つけた。

鍛冶屋に見せると

「古い農具の留め金だ。溶かすと刻印は消える」

と言う。

廃石に混じっていたからといって、誰かの大切な品まで勝手に売っていいわけじゃない。

俺は町の掲示板に特徴を記し、持ち主を探すようミリアに頼んだ。


三日後、年老いた農夫が訪ねてきた。

亡くなった妻が刻んだ花だと聞き、俺は刻印のある金具を返した。

「金属の値段は知らん。だが、これだけは替えが利かない」

老人の手が震えていた。

ミリアは

「儲けが減りましたね」

と囁いた。

「いや、間違って売らずに済んだ。金貨では買えない信用が残ったんだ」

俺はそう答え、廃石の契約でも所有権の範囲を確かめようと決めた。

鉱山の管理事務所。

俺たちは、責任者のドワーフ、ガルドと面会した。

背は低いが、腕は丸太のように太い。

立派な髭を生やした、いかにも鉱山の親方という男だった。

「廃石を引き取りたい?」

ガルドは眉をひそめた。

「そうです」

「……何に使う?」

「資源回収です」

「資源?」

「はい」

ガルドは豪快に笑った。

「がははは! あんな石ころに何の資源がある!」

「鉄や銅が少し残っています」

「そんなもの、取り出す方が金がかかるぞ!」

「普通の方法なら、そうでしょうね」

俺は笑った。

ガルドの目が細くなる。

「……何か方法があるのか?」

「あります」

「ほう」

「ただし、企業秘密です」

ガルドはしばらく俺を見つめた。

そして笑った。

「面白い若造だ!」

机を叩く。

「いいだろう! あんな石ころ、好きなだけ持っていけ!」

「本当ですか?」

「ああ! むしろ助かる!」

ガルドは大きく頷いた。

「廃石の処分には金がかかる。運んでくれるなら大歓迎だ!」

俺は契約書を取り出した。

「では、正式に契約を」

「契約?」

「はい。廃石の引き取り契約です」

ガルドは笑った。

「そんなもの必要か?」

「必要です」

俺は真顔で答えた。

「後から価値が分かって、返せと言われても困りますから」

ガルドは一瞬黙った。

そして、また笑った。

「がははは! そんなことあるわけないだろう!」

契約書に署名する。

こうして俺は、鉱山から排出される廃石を、一定期間無料で引き取る権利を手に入れた。


三日後。

俺たちは、ごみ山の一角に小さな作業場を作った。

鉱山から運び込まれた廃石は、すでに荷馬車十台分。

俺は魔石再生で得た資金を使い、分離装置を改良していた。

素材鑑定で成分を調べる。

石を砕く。

魔力を流して、特定の成分だけを分離する。

もちろん、無から金属を作ることはできない。

石の中に含まれているものを、取り出すだけだ。

最初の試験。

俺は廃石十キロを装置に入れた。

魔石が淡く光る。

装置が振動する。

そして小さな金属片が、受け皿に落ちた。

銀色。

だが、銀ではない。

独特の青い輝き。

俺は鑑定した。

【精製ミスリル】

純度:98.7%

重量:61グラム

「……成功だ」

俺は拳を握った。

ミリアが覗き込む。

「何ができたんですか?」

「ミスリル」

「……え?」

「ミスリルだ」

ミリアは固まった。

「…………」

そして

「み、ミスリルぅぅぅ!?」

作業場に悲鳴が響いた。

「伝説の金属ですよ!?」

「そうだな」

「金貨より高いんですよ!?」

「そうだな」

「それが、ごみから!?」

「そうだな」

ミリアは頭を抱えた。

「もう何が何だか分かりません!」

俺は笑った。

「安心しろ。俺も少し驚いてる」

そして、廃石の山を見た。

十キロから六十一グラム。

仮に同程度の廃石を一トン処理できれば、単純計算で約六キロ。

もちろん、全部が同じ含有率とは限らない。

処理費用もかかる。

だが、それでも十分に利益が出る可能性がある。

俺は静かに呟いた。

「……これ、本当に大金持ちになれるな」


翌日。

俺は精製したミスリルを、小さな革袋に入れた。

明日は鍛冶師に品質を確認してもらう。

そのつもりだった。

ところが、その翌朝。

作業場の前には、見知らぬ男たちが立っていた。

全員、グラン商会の紋章を付けている。

先頭の男が言った。

「オリバというのはお前か?」

「そうですが」

「商会長からの伝言だ」

男は紙を広げた。

「この町で資源を売買するなら、グラン商会の許可を得ろ」

俺は首を傾げた。

「そんな法律があるんですか?」

「……何?」

「法律です」

男は黙った。

俺は笑った。

「ないなら、従う必要はありませんよね?」

男の顔が赤くなった。

「貴様……!」

だが、俺はもう興味を失っていた。

なぜなら目の前の男たちよりも、ずっと面白いものを見つけてしまったからだ。

グラン商会の荷馬車。

その車輪の金具。

そこに使われている金属を、何気なく鑑定したのだ。

【特殊合金】

主成分:鉄

微量成分:ミスリル

ミスリル含有率:2.1%

俺は目を見開いた。

「……おいおい」

グラン商会。

お前たち。

自分たちが使っている金具にまで、ミスリルが混じっていることに気づいていないのか?

俺は思わず笑ってしまった。

どうやら、この世界の資源事情は、想像以上に面白いことになっているらしい。

グラン商会の男たちが去ったあと、精製した金属を袋へ移そうとしたとき、鉱夫の頭領が俺の手を止めた。

「その袋が高値で売れたら、鉱山主は俺たちの取り分を減らす。今までそうだった」

俺は廃石を買い取った契約書を開いた。

廃石の所有権は商会に移っている。

だが、それを危険な坑道から運び出した者の働きまで、紙一枚で消していいわけではない。

「売値を決める前に、採掘記録を確認させてください。第三者の鑑定も受けます」

鉱山主の代理人は、その場で追加契約を結ぶよう迫った。

頭領は首を振り、印章を机に置いた。

「誰がどこから運んだ石なのか、まず記録に残せ。話はそれからだ」

俺は鑑定依頼書に鉱夫たちの名前と採取場所を記した。

頭領はようやく袋から手を離した。

高価な金属が見つかっても、彼らの仕事が消えないようにする。

それが最初の取引条件になった。

精製炉の前で、若い鉱夫が指の傷を隠しながら尋ねた。

「この金属が売れたら、坑道で怪我をした弟の治療代を払えますか」

俺は高値を約束せず、鑑定書と分配条件を示した。

頭領は契約書に名前を記す手を震わせた。


翌朝、鉱山主の代理人は分配条項に赤線を引いて戻ってきた。

「廃石は無価値として渡した。今さら鉱夫への取り分を設ける理由はない」

頭領は契約書を取り返そうとしたが、若い鉱夫が先に一歩出た。

指に包帯を巻いた、弟の治療代を心配していた男だ。

「この石は、俺たちが崩れかけた坑道から運び出したものです。危険だった場所も、運んだ人数も、全部ここに書いてあります」

彼は採掘記録を机に広げた。

代理人は

「記録に金は払わん」

と吐き捨てた。

「なら、その記録がない廃石は俺も買いません」

俺が言うと、代理人の顔色が変わった。

ミスリルを含む石がどの山から来たか分からなければ、精製の歩留まりも見積もれない。

記録は利益を守るためにも必要だった。

俺は鉱山主の所有権を否定せず、廃石の売却代金と、危険区域の運搬作業に対する追加報酬を別契約にした。

代理人は渋々署名した。

頭領は印章を押す前に、若い鉱夫へ書類を渡した。

「読んでみろ。お前の名前もある」

若者は包帯の手で文字を追った。

弟の治療代がすぐに全額そろうわけではない。

それでも、自分の仕事が初めて値段の付いた行として残った。

「親方、次の採掘場所も俺が記録します」

頭領は大きくうなずいた。

ミスリルの輝きより、その二人の顔の方が俺にはまぶしく見えた。

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