第2話 壊れた魔石を百個売ったら、魔道具店の店主が腰を抜かした
翌朝。
「オリバさん! 大変です!」
ミリアが走ってきた。
「どうした?」
「ごみが増えています!」
「……は?」
俺はごみ山を見た。
確かに増えている。
昨日までなかった木箱が、十個ほど積まれていた。
中には壊れた魔道具や使い終わった魔石がぎっしり詰まっている。
「誰が持ってきたんだ?」
「分かりません!」
俺は木箱を調べた。
一番上には紙が貼られていた。
箱の底には
「再使用禁止」
の赤い印も見える。
魔道具店が売れないと判断した石なのだろう。
『処分をお願いします。
魔道具店一同』
「……なるほど」
昨日、魔石を売った店から話が広まったらしい。
俺がごみを買い取ったと聞いて、不要品を持ち込んだのだろう。
「……これ、全部もらっていいのかな?」
「処分をお願いしますって書いてありますよ」
「そうだな」
俺は木箱を開けた。
中には大量の魔石が入っていた。
青い石。
赤い石。
緑の石。
大きさも形もさまざまだ。
俺は一つ拾って鑑定した。
【廃棄魔石】
再利用可能率:87%
推定再生価格:金貨一枚
次。
【廃棄魔石】
再利用可能率:91%
推定再生価格:金貨二枚
さらに次。
【廃棄魔石】
再利用可能率:96%
推定再生価格:金貨三枚
「……おいおい」
俺は思わず笑った。
「どうしました?」
「ミリア」
「はい?」
「これ、全部売れたらいくらになると思う?」
「えっと……」
ミリアは木箱を見た。
「銅貨十枚くらいですか?」
「違う」
「銀貨一枚?」
「もっと」
「銀貨十枚!?」
「もっと」
ミリアは目を丸くした。
「ま、まさか金貨一枚!?」
俺は笑った。
「百個再生できれば、金貨百枚以上になる」
「…………」
ミリアが固まった。
「……ひゃく?」
「そう」
「金貨?」
「そう」
「……百枚?」
「そう」
ミリアはゆっくり座り込んだ。
「……私、夢を見ているんでしょうか」
「現実だ」
「昨日まで、ごみだったんですよね?」
「そうだな」
「それが金貨百枚……」
俺は頷いた。
「商売って、面白いだろ?」
ミリアは何度も頷いた。
「面白すぎます!」
その日、俺たちは朝から魔石の再生作業を始めた。
まずは仕分け。
状態の良いもの。
少し傷んだもの。
完全に割れているもの。
それぞれ分ける。
「ミリア、青い魔石はこっち」
「はい!」
「赤い魔石はあっち」
「はい!」
「割れているものは別の箱」
「分かりました!」
ミリアはよく働いた。
しかも、覚えが早い。
最初は魔石の種類も分からなかったが、昼頃には俺が指示しなくても仕分けできるようになっていた。
「オリバさん!」
「ん?」
「この魔石、色が変です!」
俺は受け取った。
黒っぽい紫色の魔石。
鑑定する。
【高濃度魔石】
状態:魔力回路閉塞
再利用可能率:98%
推定再生価格:金貨二十枚
「……え?」
俺は目を疑った。
金貨二十枚。
普通の魔石の十倍以上だ。
「ミリア」
「はい?」
「よく見つけた」
「え?」
「これ、すごく高いぞ」
「どれくらいですか?」
「金貨二十枚」
ミリアは口を開けた。
そして
「ひゃあああああ!?」
ごみ山に悲鳴が響いた。
「そんなものが、ごみの中に!?」
「そうらしい」
「捨てた人、泣きますよ!」
「だろうな」
俺は笑った。
この世界の人間は、魔石の価値を魔力残量だけで判断している。
だから、魔力が流れなくなった高性能魔石も、ただのごみとして捨ててしまう。
実にもったいない。
「よし」
俺は腕まくりした。
「今日は稼ぐぞ!」
「はい!」
夕方。
作業台には、再生した魔石がずらりと並んでいた。
全部で百二個。
青。
赤。
緑。
紫。
どれも新品に近い輝きを放っている。
ミリアは目を輝かせていた。
「……きれい」
「だろ?」
「これが、昨日までごみだったなんて信じられません」
「俺も最初は驚いたよ」
「オリバさんは天才です!」
「いや、ただの再利用だ」
「それがすごいんです!」
俺は笑った。
「じゃあ、売りに行こうか」
「はい!」
俺たちは魔石を木箱に詰め、町の魔道具店へ向かった。
「いらっしゃい……おお、昨日の若いのか」
店主が顔を上げた。
「また魔石を売りに来ました」
「ほう。今日は何個だ?」
「百二個です」
「……ん?」
「百二個」
「…………」
店主はしばらく黙った。
そして
「ひゃくにこぉ!?」
店内に叫び声が響いた。
「お前! 昨日は一個だっただろう!」
「今日は頑張りました」
「頑張ったで百個も集まるか!」
俺は木箱を机に置いた。
蓋を開ける。
中には、色とりどりの魔石がぎっしり詰まっている。
店主は固まった。
「…………」
そして、一個を手に取る。
鑑定器に乗せる。
数値を見る。
次の魔石。
また鑑定する。
さらに次。
店主の顔色が変わっていった。
「……おい」
「はい?」
「全部、品質がいいぞ」
「ありがとうございます」
「いや、そういう話じゃない!」
店主は机を叩いた。
「こんな魔石を百個以上、どこから仕入れた!」
「ごみ山です」
「またそれか!」
「本当ですよ」
店主は頭を抱えた。
「……信じられん」
そして、恐る恐る尋ねた。
「全部売るのか?」
「はい」
「……全部?」
「全部」
店主は震える手で帳簿を開いた。
一個ずつ価格を計算する。
青い魔石。
赤い魔石。
緑の魔石。
紫の魔石。
最後に、高濃度魔石。
計算が終わった。
店主は顔を上げた。
「……金貨百八十七枚」
ミリアが固まった。
俺も少し驚いた。
予想より高い。
「そんなに?」
「そんなに、じゃない!」
店主は叫んだ。
「この品質なら当然だ!」
そして、困った顔になった。
「だが……」
「どうしました?」
「うちの店には、金貨百八十七枚もない」
「……なるほど」
確かに、小さな魔道具店だ。
一度にそれだけの現金を用意するのは難しいだろう。
「じゃあ、買える分だけでいいですよ」
「本当か!?」
「はい」
店主は安心したように息を吐いた。
「助かる……」
結局、その日は金貨五十枚分だけ売ることになった。
残りは別の町の魔道具店や商会に売ることにする。
店主は金貨を袋に詰めながら言った。
「……若いの」
「はい?」
「お前、本当に何者なんだ?」
俺は少し考えた。
そして答えた。
「ごみ屋です」
店主は頭を抱えた。
「……世の中、分からんものだな」
検査印の付いていない魔石を見つめた客は、値札より先に
「これで子どもの部屋を照らしても大丈夫か」
と尋ねた。
俺は売り急ぐ代わりに、その一個を検査台へ戻した。
翌日、俺は買い取った魔石を三つだけ店主に返し、客の前で検査してもらった。
「百個すべて同じ品質だと思われると困る」
と店主が言う。
確かに、俺の鑑定だけを信じて買う客が増えれば、欠陥が出たとき誰も責任を取れない。
俺は百個を一度に売るのをやめ、検査済みの印を付けた分から店頭に並べることにした。
儲けは遅れる。
それでも最初の客が安心して灯りをともしたのを見て、胸のつかえが下りた。
店を出たあと。
ミリアは金貨の入った袋を抱えていた。
「……重いです」
「金貨五十枚だからな」
「こんな大金、初めて持ちました」
「落とすなよ」
「絶対に落としません!」
ミリアは袋をぎゅっと抱きしめた。
そして、小さく尋ねた。
「オリバさん」
「ん?」
「……本当に、私のお給料も払えるんですよね?」
俺は笑った。
「もちろん」
「よかった……」
「それどころか」
俺は金貨を一枚取り出した。
ミリアに渡す。
「今日の特別手当だ」
「……え?」
「高濃度魔石を見つけてくれたからな」
ミリアは金貨を見つめた。
「……これ」
「ん?」
「金貨ですよね?」
「そうだな」
「……一枚?」
「そう」
ミリアの目に涙が浮かんだ。
「……こんなにもらっていいんですか?」
「もちろん」
「私、昨日まで仕事がなくて……」
ミリアは俯いた。
「家賃も払えなくて……食事も一日一回で……」
俺は黙って聞いていた。
「でも、今日……こんなに……」
涙が頬を伝った。
「ありがとうございます……!」
俺は少し照れくさくなった。
「いや、働いた分だよ」
「それでも……!」
ミリアは何度も頭を下げた。
俺は空を見上げた。
夕日が町を赤く染めている。
たった二日。
ごみ山を買ってから、まだ二日しか経っていない。
それなのに、すでに金貨五十枚以上を稼いだ。
そして、初めての従業員が笑っている。
「……悪くないな」
俺は呟いた。
「何がですか?」
「この商売」
ミリアは笑った。
「最高です!」
その日の夕方、魔道具店の店主が小声で教えてくれた。
「バルド商会が、町中の店にお前から魔石を買うなと通達したそうだ」
「それは困るな」
俺は返事をしながら、帳面の売上欄を閉じた。
買い手を一つ失えば、従業員への支払いにも響く。
「でも、どうしてそこまで?」
「お前が値を下げたせいで、あちらの在庫が売れなくなったんだ」
俺は窓の外の廃石の山を見た。
魔石が売れなくても、商売を諦めるつもりはない。
ただし、次の資源が本当に使えるか、鑑定と試験を終えるまでは誰にも約束できなかった。
店主が百個目の魔石を秤に戻した。
「これだけ光り方が違う。買い取ってもいいのか?」
俺は九十九個の引き渡しも止めた。
調べると、石ではなく古い留め金が腐食していた。
修理費はこちらが持つ。
利益は減ったが、店主は言った。
「次も俺に検査させろ。売れるかどうかは一緒に決めよう」
ミリアは返品の控えを帳簿の先頭に挟んだ。
成功の数字より、失敗の理由を先に残したかった。
翌朝、鉱夫がごみ山の入口で俺たちを待っていた。
「魔石を直す奴なら、これも見られるか」
差し出された廃石の割れ目が、朝日を受けて銀色に光った。
鑑定の文字を見た瞬間、俺は息をのんだ。
【ミスリル含有】
「ミリア、今度は鉱山だ」
「またごみを買うんですか?」
「まずは、誰が捨てた石なのか確かめよう」
俺たちは鉱夫の後を追った。
昨日の百個の魔石より大きな商売が、谷底で待っていた。




