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第1章 第1話 金貨一枚で買ったごみ山が、金貨十万枚の宝の山だった

「おい、そこの若造! そのごみを買うって、本気で言ってるのか?」

目の前の男は、俺を馬鹿を見るような目で見ていた。

無理もない。

俺が買おうとしているのは、町の外れにある巨大なごみ捨て場だった。

腐った木材。

錆びた鉄くず。

壊れた魔道具。

使い終わった魔石。

魔物の骨。

そして、鉱山から運ばれてきた大量の廃石。

町の人間にとっては、ただのごみだ。

処分するにも金がかかる。

誰も欲しがらない。

そんなものを、俺は買おうとしていた。

「金貨一枚でいいんですよね?」

「あ、ああ……」

男は戸惑いながら頷いた。

「本当に買うのか?」

「後悔しても知らんぞ?」

「大丈夫です」

俺は懐から金貨を一枚取り出した。

男の目が丸くなる。

「お、おい! 本当に払うのか!」

金貨を渡す。

男は慌てて受け取った。

「よし! 今日からこのごみ山は全部お前のものだ!」

「ありがとうございます」

俺は笑った。

男も笑った。

ただし、笑っている理由は正反対だった。

男は、ごみを処分できたことが嬉しい。

俺は――。

金貨十万枚以上の価値がある宝の山を、金貨一枚で手に入れたことが嬉しかった。

もちろん、この時点では、まだ誰もその価値を知らない。

俺以外は。

俺の名前はオリバ。

十八歳。

元日本人の転生者だ。

前世では、資源リサイクル会社で働いていた。

だが、俺は知っている。

ごみというのは、見方を変えれば資源なのだ。

そして、この異世界。

ここには、前世の地球には存在しなかったものがある。

魔石。

魔道具。

魔物。

そして魔力。

つまり、再利用できる資源がとんでもなく多い。

にもかかわらず、この世界の人間は、それらを平気で捨てている。

転生してから、俺は何度この言葉を口にしただろう。

そして今日、ようやくその価値を自分の手で確かめる機会が来た。

「さて……」

俺はごみ山の前に立った。

まずは、壊れた魔道具を拾い上げる。

手のひらほどの大きさの金属製の箱。

かつては照明用の魔道具だったらしい。

だが、今は動かない。

「魔石が空になったから捨てたのか」

箱を開ける。

中には、小さな青い石が入っていた。

魔石だ。

この世界では、魔石に蓄えられた魔力を使って魔道具を動かす。

魔力がなくなれば、魔石は使えない。

だから捨てる。

それが常識だった。

だが、

「……本当に空なのか?」

俺は魔石を光にかざした。

中心部分に、わずかな青い光が残っている。

完全に空ではない。

魔力が薄くなり、魔道具が動かなくなっただけだ。

そして、もう一つ。

俺には転生時に手に入れた能力がある。

《素材鑑定》

物質の構成や性質を調べられる能力だ。

戦闘にはまったく役に立たない。

そのため、冒険者ギルドでは外れ能力と笑われた。

だが、俺にとっては最高の能力だった。

「鑑定」

目の前に文字が浮かぶ。

【廃棄魔石】

状態:魔力残量3%

主成分:魔晶質

内部不純物:17%

再利用可能率:92%

推奨処理:不純物除去後、魔力再充填

俺は思わず笑った。

「やっぱりな」

この魔石は、まだ使える。

ただし、そのままでは駄目だ。

内部の不純物が魔力の流れを妨げている。

ならば、不純物を取り除けばいい。

俺は腰の袋から小さな道具を取り出した。

自作の魔力分離器。

古い魔道具を組み合わせて作った、手のひらサイズの装置だ。

魔石を入れる。

装置の蓋を閉める。

そして、魔力を流す。

小さな振動。

青い光。


やがて装置が静かになった。

蓋を開ける。

そこには、さっきとはまるで違う魔石があった。

透明感のある青色。

内部の濁りが消えている。

再び鑑定する。

【再生魔石】

状態:良好

魔力容量:新品同等の94%

市場推定価格:金貨二枚

「……よし!」

俺は拳を握った。

成功だ。

ちなみに、この魔石が付いていた壊れた照明器具は、ごみ山に何百個も転がっている。

しかも、魔石だけではない。

つまり。

「……これ、全部金になるじゃないか」

俺はごみ山を見上げた。

そして、笑いが止まらなくなった。


翌日。

俺は町の魔道具店を訪れた。

店主は、白い髭を生やした老人だった。

「いらっしゃい。何か用かね?」

「魔石を売りたいんですが」

「ほう。見せてみなさい」

俺は再生した魔石を机に置いた。

店主は石を手に取った。

そして

「……ん?」

眉をひそめた。

光にかざす。

角度を変える。

小さな鑑定器に乗せる。


しばらくして。

「……おい、若いの」

「はい?」

「これをどこで手に入れた?」

「拾いました」

「拾った?」

店主の顔が険しくなる。

「嘘をつくな」

「こんな上質な魔石が道端に落ちているわけがない!」

俺は首を傾げた。

「上質なんですか?」

「当たり前だ!」

店主は机を叩いた。

「純度が高い! 魔力の通りもいい! しかも内部にほとんど傷がない!」

「へえ、じゃない!」

老人は魔石を握りしめた。

「金貨二枚で買おう!」

俺は少し考えた。

「三枚では?」

「なっ!」

「新品に近い品質ですよね?」

店主は唸った。

「……二枚と銀貨五枚」

「では、それで」

交渉成立。

俺は金貨二枚と銀貨五枚を受け取った。

店を出る。

財布を見る。

そして、思わず呟いた。

「……もう元が取れた」

ごみ山の購入費用は金貨一枚。

たった一個の魔石で、その二倍以上になった。

しかも、ごみ山には同じような魔石が大量にある。

俺は空を見上げた。

「これ……本当に大金持ちになれるんじゃないか?」


その日の夕方。

ごみ山に、茶色い髪の少女がやってきた。

「ここで何をしているんですか?」

「ごみを分別してる。仕事だよ」

少女は驚き、罰として働かされているのかと尋ねた。

「好きでやってるんだ。俺はオリバ」

「私はミリアです。ごみを集めてどうするんですか?」

「全部、金に変える」

「……本当に?」

「見てろよ。いつか町で一番の商売にしてみせる」

ミリアは半信半疑のまま、それでも笑ってくれた。

そのときだった。

「おい! ここにいたか!」

怒鳴り声が響いた。

振り向くと、昨日ごみ山を売ってくれた男が走ってきた。

顔が真っ赤だった。

「魔石を高値で売ったそうだな! 追加で金貨百枚払え!」

男の要求に、ミリアが息を呑んだ。

俺は昨日の売買契約書を取り出した。

ごみ山だけでなく、回収資源の所有権まで俺に移っている。

「追加料金を払う義務はありません」

「そんなはずが!」

「昨日、後悔しても知らないと言いましたよね」

男は契約書を睨み、怒鳴りながら帰っていった。

ミリアがぽかんとしている。

「……すごいですね」

「何が?」

「貴族の商会に逆らうなんて」

「……え?」

俺は固まった。

「今の人、貴族の商会の人なの?」

「知らなかったんですか?」

「知らなかった」

ミリアは困った顔で言った。

「あの人、グラン商会の支配人ですよ」

「グラン商会?」

「この町で一番大きな商会です」

「しかも、商会長は伯爵家とつながっているんです」

「……なるほど」

どうやら、少し面倒な相手に目をつけられたらしい。

だが、俺はごみ山を見上げた。

壊れた魔道具。

大量の廃石。

魔物の骨。

金属くず。

そして、まだ調べていない無数の廃棄物。

この山には、いったいどれだけの価値が眠っているのだろう。

「……まあ、いいか」

「よくないですよ!」

ミリアが叫んだ。

「グラン商会を敵に回したら、この町で商売できなくなります!」

「大丈夫」

「何が大丈夫なんですか!」

俺は笑った。

「商売できなくなったら、別の町で売ればいい」

「そんな簡単に……」

「それに」

俺は足元の黒い石を拾い上げた。

鉱山から捨てられた廃石だ。

何気なく鑑定する。

【鉱山廃石】

主成分:鉄鉱石、珪酸塩

微量成分:銀、銅

特殊成分:ミスリル

ミスリル含有率:0.8%

俺は固まった。

「……は?」

もう一度見る。

【特殊成分:ミスリル】

間違いない。

ミスリル。

この世界で、金よりもはるかに高価な魔法金属。

武器にも、防具にも、魔道具にも使われる希少資源だ。

そのミスリルが。

ごみ山の廃石に含まれている。

俺はゆっくり顔を上げた。

目の前には、鉱山から運ばれてきた廃石が山のように積まれている。

「……おいおい」

思わず声が漏れた。

「これ、全部……?」

もし、同じ鉱山から出た廃石にミスリルが含まれているなら。

しかも、それを効率よく回収できるなら。

魔石の再生どころの話ではない。

俺は黒い石を握りしめた。

「……金貨十万枚?」

いや。

違う。

そんなものでは済まないかもしれない。

「オリバさん?」

ミリアが心配そうに覗き込む。

「どうしたんですか?」

俺は答えなかった。

ただ、ごみ山を見つめていた。

そして、ゆっくり笑った。

「ミリア」

「はい?」

「明日から手伝ってくれないか?」

「え?」

「給料は払う」

「いくらですか?」

俺は少し考えた。

「最初は銀貨五枚でどうだ?」

ミリアの目が丸くなった。

「い、銀貨五枚!?」

「安い?」

「高すぎます!」

「普通の店員の何倍もありますよ!」

「じゃあ、決まりだな」

ミリアはしばらく俺を見つめていた。

そして、小さく頷いた。

「……分かりました」

こうして俺の商売に、初めての従業員が加わった。

資本金は、ほぼゼロ。

従業員は一人。

事務所はない。

店舗もない。

あるのは、ごみ山だけ。

だが、そのごみ山にはこの世界の誰も気づいていない、とんでもない財宝が眠っていた。

もっともそんな大事件よりも、今の俺には大切な問題があった。

「……ミリア」

「はい?」

「明日から頼む」

そして気づいた。

金貨二枚と銀貨五枚。

今日の売上は確かにある。

だが、ミリアへの給料を払うには、もっと稼がなければならない。

俺は財布の中の金貨と銀貨を数え直した。

魔石を百個再生できても、全部が売れる保証はない。

ミリアの給料を約束した瞬間、初めて

「失敗したら困る人」

が自分以外にもできた。

「明日は百個、試してみる。でも検査を通らない物は売らない」

「もし一つも売れなかったら?」

「そのときは俺の取り分をゼロにする。君の給料だけは先に残す」

ミリアは驚いた顔をしてから、回収袋を二つ並べた。

「だったら私も、売れるまで一緒に調べます」

ごみ山の奥には、まだ誰も知らない宝が眠っている。

だが俺が明日最初に確かめるのは、その価値ではない。

今夜交わした約束を、商売として守れるかどうかだった。

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