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第23話 帝国軍に戦車を売ってくれと言われたので、値段を聞いてみた


翌日。

帝国軍の将軍が、俺の事務所を訪れた。

名前はグレイヴ。

帝国軍の兵器開発を担当しているらしい。

「オリバ殿」

「はい」

「昨日の古代戦車について、相談がある」

「何でしょう?」

将軍は真剣な顔で言った。

「帝国軍に売ってほしい」

俺は少し考えた。

「……いくらで?」

ミリアが小さく叫んだ。

「オリバさん!?」

だが、将軍は真剣だった。

「金貨三万枚」

俺は首を傾げた。

「……安くありませんか?」

将軍が固まった。

「……何?」

「古代文明の技術ですよね?」

「そうだ」

「しかも、千年以上前のものが動く」

「ああ」

「だったら、もっと価値があると思いますけど」

将軍はしばらく黙った。

そして言った。

「……金貨六万枚」

俺は考えた。

確かに大金だ。

だが、古代戦車はまだ研究する価値がある。

しかも、俺が欲しいのは金だけではない。

「……将軍」

「何だ?」

「売る代わりに、共同研究しませんか?」

「共同研究?」

「はい」

俺は説明した。

古代戦車の駆動技術。

魔力炉。

制御装置。

装甲材料。

それらを研究すれば、軍事以外にも応用できる。

鉱山用の大型運搬車。

建設用の重機。

農業用の機械。

「戦争に使うだけでは、もったいないですよ」

将軍は黙った。

そして、ゆっくり頷いた。

「……なるほど」

俺は笑った。

「どうです?」

将軍はしばらく考えた。

そして言った。

「皇帝陛下に相談する」

こうして、共同研究の条件案がまとまった。

正式な開始は皇帝の承認と安全審査を待つことになった。

だが帝国の兵器研究所には、さらに驚くべきものが眠っていた。

交渉の途中、将校が密封された命令書を置いた。

軍は戦車の技術を、国境の村を通る輸送路の警備にも使いたいという。

俺は村の地図を広げた。

「そこには学校があります。試験運転の場所を変えてください」

将校は拒んだが、同席していた整備兵が口を開いた。

「学校の前で止まれなかった車両を、俺は見たことがあります」

沈黙が落ちた。

グレイヴ将軍は命令書を回収し、軍用試験場での走行試験を追加した。

金額の交渉より先に、戦車を走らせる場所が決まった。


その日の夕方、グレイヴ将軍から呼び出しがあった。

俺が案内されたのは兵舎ではなく、古い整備庫だった。

床には砕けた車輪と焼け焦げた魔石が転がっている。

「先月、試作の運搬車が暴走した。操縦士は片腕を失った」

将軍は修理報告書を俺に渡した。

原因の欄には

「不明」

とだけ書かれていた。

「この状態で古代戦車を渡せば、同じ事故が起こります」

「兵士には危険を引き受ける義務がある」

「整備士や近くの村人まで、その義務を負うんですか」

将軍の表情が険しくなった。

俺は床に膝をつき、破損した車輪を調べた。

軸の内側に、青い粉が付いている。

魔石の破片ではない。

冷却液が乾いた跡だ。

「事故の前、異音がしませんでしたか」

将軍が整備士を呼ぶと、若い男が恐る恐る答えた。

「鳴っていました。でも試験の日程が変えられなくて」

その言葉を聞いて、俺は古代戦車の売却を断る覚悟を決めた。

どれだけ高く売れても、壊れると分かっているものを渡すわけにはいかない。

「研究を先にしましょう。売るのはその後です」

将軍は拳を握った。

「陛下は兵器を待っておられる」

「なら、陛下には俺が説明します」


翌朝、俺は試験場に運搬車の残骸を運び込んだ。

ミリアが作業員を集め、俺は冷却管を一本ずつ取り外した。

「こんな細い管では、負荷がかかったときに詰まります」

整備士が頷く。

「以前も交換を申し出ました。でも予算が」

俺はその場で新しい部品の製作費を立て替えた。

ただし無償ではない。

帝国が試験結果を公開し、整備記録を残すことを条件にした。

三日後、改修した運搬車は試験場を十周した。

七周目で温度が上がり、俺は停止を命じた。

将軍が顔をしかめる。

「まだ走れるだろう」

「走れることと、安全なことは別です」

冷却管を外すと、内部に金属の削りくずが溜まっていた。

停止しなければ、あと数周で焼き付いていたはずだ。

ミリアが小声で言った。

「止めて正解でしたね」

「失敗を記録できたのが収穫だよ」

俺たちは管の径を広げ、異物を捕まえる網を追加した。

再試験は一週間後。

今度は温度が一定のまま、車両が最後まで走り切った。

歓声が上がったが、俺はまず整備士に声をかけた。

「これなら、毎日の点検で異常を見つけられますか」

「はい。工具も特別なものはいりません」

その返事を聞いて初めて、俺は肩の力を抜いた。

将軍は俺に金貨六万枚の契約書を差し出した。

「売ってくれるのか」

「共同研究の予約契約なら。運搬車の試験は通りましたが、戦車の停止装置は別です。再試験に合格するまで、納品も代金の残額請求もできません」

「頑固な商人だ」

「事故の報告書に『不明』と書かせたくないだけです」

将軍は苦笑して、契約書の表題を書き換えた。

その下に、民生用の運搬機械を先に開発する条項を加える。

兵器を欲しがっていた軍が、最初に注文したのは鉱山用の牽引車だった。

帰り道、ミリアが俺の袖を引いた。

「安全を確かめてから受け取ろう」

と、ミリアは言った。

契約延期の七日目、グレイヴ将軍は最後の覚書を持ってきた。

『緊急時、軍は研究成果を自由に転用できる』

ミリアが署名欄を押さえた。

「この一行が残れば、学校の前で戦車を試すことも止められません」

将軍は腕を組んだ。

「帝国軍に条件を付ける商人は珍しい」

「条件を付けているのは、実際に車両を直した職人たちです」

俺は同席した整備兵と鍛冶師に、走行試験の記録を示してもらった。

接合部の欠陥を見つけた若い職人が立ち上がる。

「軍の命令があっても、止まれない車両は動かせません。俺は不合格の印を押します」

将軍はしばらく彼を見つめた。

「その印を押したら、給料を失うかもしれんぞ」

「それでも、俺の名前で合格にはできません」

沈黙のあと、将軍は覚書の一行を消した。

用途変更には共同研究委員会の承認と再試験が必要だと書き直す。

「金貨六万枚は検収後の売買予定額だ。今日は共同研究契約のみ。停止機能の再試験記録は受け取ったが、積載試験と軍の検収はまだだ。合格証が揃うまで引き渡さない」

俺は職人たちに頭を下げた。

交渉を止めた一週間の賃金は商会が負担する。

今後の延期は先に通知し、補償も書面に残す。

若い職人は契約書を確かめてから、不合格だった接合部を作業台に戻した。

「次は俺たちの名前で合格させましょう」

将軍は言った。

「不合格のまま引き取れとは二度と言わん」

初めて、工房の誰かが笑った。

共同研究契約の締結から三日後、軍の検収官が工房へ来た。

これは研究契約とは別の、車両引渡し前の正式な検収だった。

積載試験では予定重量の砂袋を載せ、坂道で停止させる。

停止くさびは折れず、車体も指定線を越えなかった。

しかし検収官は車軸の熱を測り、試験を一時止めた。

冷却後の再測定で基準内と分かるまで、将軍も合格印を押さなかった。

最後の検収書には

「運搬用途に限る」

と明記された。

俺は金貨六万枚の売買を別紙で確定し、検収書を受け取ってから初めて車両の鍵を渡した。

職人たちは金額より先に、自分たちの署名を確かめた。

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