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第22話 古代戦車を修理したら、帝国軍が大慌てした

「オリバさん! 本当に修理するんですか?」

ミリアが不安そうに尋ねた。

「もちろん」

俺は頷いた。

「だって、まだ使えるんだぞ?」

「でも、戦車ですよね?」

「そうだな」

「戦争に使うものですよね?」

「元々はな」

俺は笑った。

「でも、別の使い道もある」

「……別の?」

「重い荷物を運べるだろ?」

ミリアは黙った。

「……それだけですか?」

「それだけじゃないけどな」

俺は古代戦車の内部を調べた。

魔力炉。

駆動装置。

制御装置。

装甲板。

そして魔導砲。

ほとんどの部品は劣化していた。

だが、完全に壊れているわけではない。

「……修理できるな」

俺は呟いた。

ただし、魔導砲は取り外す。

兵器として動かすつもりはない。

まずは、車体の移動機能だけを復旧させることにした。

修理に取りかかる前、軍の規則を確かめる必要があった。

そこで、俺はグレイヴ将軍へ使いを出していた。

古代兵器の扱いについて、帝国の規則を確認したかったからだ。

返事は来なかった。

代わりに、処分場の役人が口を濁した。

「動かすだけなら、問題にならないでしょう」

「問題にならない、では困ります」

俺は修理計画書を役人に渡した。

武装は外すこと、走行試験は閉鎖した敷地で行うこと、事故が起きたら作業を中止すること。

それでも正式な許可は下りなかった。

ミリアは不安そうだった。

「待った方がよくありませんか」

「そうだな。まずは部品の検査だけにする」

俺はボルグ親方とともに、魔力炉を分解した。

内部の冷却管には、黒い結晶がびっしり付いていた。

「このまま動かせば、熱が逃げんぞ」

親方の指摘に俺は頷いた。

鑑定には修復可能と出ていても、何を直せば安全になるかまでは教えてくれない。

俺たちは冷却管を取り替え、魔力の流れを弱くした状態で試験を始めた。

ところが、三度目の通電で警報板が赤く光った。

「遮断!」

俺が叫ぶと、親方が弁を閉じた。

青い火花が散り、工房の明かりが一瞬消えた。

「危なかったな」

親方は焦げた手袋を外した。

俺は背筋が冷たくなった。

もし職人が手を離すのを一瞬ためらっていたら、どうなっていたか。

「試験を止める。原因が分かるまで動かさない」

工房には落胆の声が広がった。

二週間の作業が無駄になるかもしれない。

だが、俺は誰にも無理をさせたくなかった。


翌日、親方が焼けた制御板を机に置いた。

「こいつは壊れたんじゃない。外から命令を受けた形跡がある」

「外から?」

「古い軍用の停止信号かもしれん」

俺たちは信号を遮断する部品を追加し、車体から魔導砲へ続く導線も完全に外した。

試験場には土の壁を築き、見物人を近づけない。

準備にさらに一週間かかった。

再試験の日、ミリアは記録用紙を握っていた。

「今度は止められますか」

「異常が出たら、俺が止める。止まらなかったら親方が別系統を切る」

俺たちは二重の遮断装置を確かめた。

車体が動いた瞬間、職人たちの声が上がった。

だが俺は速度を上げず、決めた距離だけ進んで停止させた。

「成功……ですか?」

ミリアが尋ねる。

「最初の一歩としてはな」

俺が操縦席から降りたところへ、帝国軍の兵士たちが押し寄せてきた。

将軍は修理記録をめくり、険しい顔をした。

「許可が下りる前に動かしたのか」

「閉鎖した敷地で走行機能だけを試しました。武装は取り外しています」

「それでも古代兵器だ」

俺は頭を下げた。

「正式な許可を待つべきでした。作業の停止を命じるなら従います」

将軍はしばらく黙ってから、外した魔導砲と遮断装置を見た。

「お前はこれを売りたいのか、直したいのか」

「安全に使える技術を取り戻したいんです」

「口だけなら誰でも言える」

「なら、試験記録を全部見てください。失敗も隠していません」

俺は焦げた制御板も差し出した。

将軍はそれを受け取り、初めて少しだけ表情を緩めた。

将軍が最初の分解検査の記録を持ち帰ると、工房には静けさが戻った。

まだ本格走行を認められていない戦車を前に、職人たちは冷却管の試験成功を喜んでいた。

だが、ボルグ親方だけは車輪の下を覗き込んでいた。

「オリバ、ここを見ろ」

軸受けの縁に、黒い粉が付着している。

指でこすると細かい金属片が混じっていた。

「動いたから完成、じゃないんだな」

「当たり前だ。百年前の機械だろうが昨日作った機械だろうが、摩耗はする」

俺は成功と書きかけた試験票を引き寄せ、走行距離と軸受けの状態を追記した。

ミリアが横から覗いた。

「軍の人には、もう成功したと伝えたんですよね?」

「短い距離を走れたことだけだ。長く走れるかは、まだ分からない」

「なら、次に調べることが決まりましたね」

親方は金属片を小瓶に入れ、若い整備士へ渡した。

「摩耗の原因を調べてこい。合格印を押すのはそれからだ」

整備士は歓声の残る工房を振り返り、小瓶を胸に抱えた。

俺は戦車の横に

「走行機能の初期確認のみ。追加試験まで運転禁止」

と書いた札を掲げた。

見物に来た人々は残念そうだったが、試験に参加した職人は誰も反対しなかった。

軸受けの黒い粉を調べる間、俺は試験場の柵に残された深い車輪の跡を見つめた。

あの重さの車体が人のいる道へ飛び出したら、どれだけ丈夫な壁でも安心できない。

「明日から走らせるんですか」

と若い整備士が聞いた。

「いや。軍の許可が出るまで車輪を固定する。それから操縦者の訓練を先にやろう」

整備士は少し残念そうだった。

俺も同じだ。

動くところを見れば、もっと遠くまで走らせたくなる。

だからこそ、試験場の鍵を役人に預け、勝手に起動できないようにした。


翌朝、将軍から書面が届いた。

武装を外した状態に限り、帝国軍の監督下で追加試験を認めるという。

許可証の末尾には、停止装置が正常に働かなければ即時中止、と赤い字で記されていた。

俺は親方と整備士を集め、停止手順を一人ずつ実演してもらった。

途中で若い整備士が順番を間違えた。

誰も笑わなかった。

俺はその場で手順書を書き直した。

人が間違える前提で作らなければ、安全装置とは呼べない。

追加試験に備え、俺は操縦士たちを車体から離れた教室に集めた。

停止の合図を誰が出し、誰が復唱するか。

図面の上では簡単でも、騒音の中では声が届かない。

整備士が金属板を打ち鳴らすと、後列の操縦士は指示を聞き違えた。

「声だけに頼れないな」

俺たちは赤い旗と手信号を決め、操縦席から見える位置を確かめた。

将校は訓練時間を惜しんだが、俺は予定表の試験開始を遅らせた。


翌日の実車試験で異常が起きたとき、誰も合図を見失わないようにするためだった。

停止合図の訓練を終えた翌日、閉鎖試験場で初めて駆動系に負荷をかけると、戦車の車輪が不意に逆回転した。

停止レバーは動かない。

整備士が叫ぶ。

「魔力を切っても蓄力輪が回っています!」

俺は車体を押さえる人々を退かせ、彼が示した非常用の機械式くさびを差し込んだ。

車輪が止まったとき、くさびは真二つに割れていた。

「次は割れないものを作る。試験は不合格だ」

将軍は怒ったが、整備士は自分の名前で故障記録に署名した。

グレイヴ将軍は試験場で俺を呼び止めた。

「停止装置の図面を渡せば、未払いの発掘費を出そう」

俺は首を横に振った。

「図面は整備士にも公開します。軍だけが止め方を知る兵器にはできません」

将軍の顔が険しくなり、次の試験は延期された。

整備士は帰り際、小さく頭を下げた。

彼の故郷を守れる保証はない。

それでも、止め方を独占させない一歩にはなった。

将軍への報告書には、動作成功とは書かなかった。

逆回転の原因が不明で、非常停止用のくさびも破損した。

検査の再実施まで、車体を動かす鍵は工房長が保管する。

軍への引き渡しを急ぐ理由にはならなかった。

試験の延期を告げられた整備士は、宿の灯りの下で停止手順を書き写した。

俺が

「帰ってもいい」

と言うと、彼は故郷の町の名を答えた。

「城門が壊れたとき、誰も止め方を知らなかった」

再試験の許可が出た翌朝、整備士はくさびを交換した車体の前に立った。

空荷で走らせた一回目、車輪は再び逆へ跳ねた。

彼は自分で停止レバーを引き、全員を退避させた。

「合格にしてくれ」

と将軍が言っても、記録欄には不合格と書いた。

原因は左右の制御線が古い刻印と逆に接続されていたことだった。

修正後の二回目は、規定距離で止まった。

ただし荷重試験と軍の検収は残る。

整備士は

「今日合格したのは停止機能だけです」

と念を押した。

合格票を片づけた整備士は仲間の前で、故障を想定した停止操作を図面なしで実演した。

最後の合図を間違えた仲間に、彼は怒らずもう一度教えた。

将軍の許可が下りる前から、止め方を知る人間は一人ずつ増えていた。

積載試験の前日、整備士は砂袋を積んだ車体の前に立ち、見学席へ続く坂を指差した。

「停止くさびが耐えられなければ、ここへ突っ込みます」

俺は見学席を閉鎖し、試験当日は防護柵の外から記録するよう命じた。

整備士は停止機能の合格票と、まだ空白の積載耐久試験票を並べた。

「同じ車体でも、別の試験です」

将軍は黙って頷いた。

明日の危険を小さく見せるために、今日の成功を利用するつもりはなかった。

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