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第2章 第21話 帝国のごみ山を買ったら、古代文明の兵器が埋まっていた

第二章 帝国進出編

「金貨一万枚で、この山を全部買い取ると?」

帝国の役人は、俺を信じられないものを見るような目で見つめていた。

「はい」

俺は頷いた。

「本気ですか?」

「もちろん」

「後悔しても知りませんよ?」

俺は思わず笑った。

「その言葉、懐かしいですね」

隣にいたミリアが小さくため息をついた。

「オリバさん。またごみ山を買うんですね」

「商売だからな」

「普通の商人は、ごみ山を買いません」

「そうなのか?」

「そうです!」

帝国の北部にある巨大な廃棄物処分場。

面積は王都の中央広場の数十倍。

何十年にもわたって、帝国中から運ばれた廃棄物が積み上げられていた。

壊れた魔道具。

使い終わった魔石。

錆びた武器。

鉱山の廃石。

そして、用途の分からない古代文明の残骸。

俺は契約書に署名した。

金貨一万枚。

これで、処分場の既存廃棄物はすべて俺のものになった。

役人は安心したように笑った。

「いやあ、助かりました。帝国でも持て余していたのですよ」

「こちらこそ」

俺も笑った。

そして、早速ごみ山を調べ始めた。

最初に見つけたのは、壊れた魔道具だった。

【古代魔力制御装置】

状態:破損

再利用可能率:76%

推定製造年代:約千二百年前

「……古代文明か」

次に見つけたのは、巨大な金属板。

【古代合金装甲板】

状態:劣化

特殊成分:オリハルコン

再利用可能率:83%

「おお……」

俺は思わず声を漏らした。

ミリアが覗き込む。

「何か見つけました?」

「オリハルコンを含む装甲板だ」

「また高価な金属ですか?」

「ああ」

「……もう驚きません」

そのときだった。

作業員が叫んだ。

「オリバ会長! こちらに来てください!」

俺たちは声のする方へ向かった。

ごみ山の奥。

大量の鉄くずに埋もれるように、巨大な黒い物体が横たわっていた。

長さ、およそ十五メートル。

幅、五メートル。

金属製の車体。

その左右には、巨大な車輪のようなものが並んでいる。

そして、前方には長い筒が突き出していた。

「……何だ、これ?」

俺は近づいた。

素材鑑定を発動する。

【古代魔導戦車】

製造年代:約千二百年前

状態:機能停止

動力:高密度魔力炉

装甲:古代複合合金

主武装:魔導砲

修復可能率:68%

俺は固まった。

「……戦車?」

ミリアが首を傾げる。

「せんしゃ?」

「ああ」

「何ですか、それ?」

俺は巨大な車体を見つめた。

「……昔の人が作った、ものすごく高価な乗り物だ」

「乗り物?」

「そう」

俺は笑った。

「しかも、武器まで付いている」

ミリアは目を丸くした。

「そんなものが、ごみ山に?」

「ああ」

俺は車体を軽く叩いた。

金属音が響く。

「……面白くなってきたな」

ただし、俺はまだ知らなかった。

この戦車が捨てられた理由。

そして、帝国が古代兵器の研究を禁止しているという事実。

契約書に署名する直前、俺は役人に一つだけ確かめた。

「この処分場には、帝国軍の管理物も混じっていますか」

「長年使われていないものばかりです。問題ありません」

返事は早かった。

早すぎる、と俺は感じた。

「では、そのことを契約書に明記してください」

役人の手が止まった。

「細かい商人ですね」

「金貨一万枚は、俺にとっても大金ですから」

結局、所有権が移るのは廃棄物だけで、軍の機密資料や危険物は帝国の責任で回収するという一文を加えた。

ミリアは帰り道で小さく息を吐いた。

「前なら、値段を聞いてすぐ買っていましたよね」

「王国で何度も痛い目を見たからな」

俺たちが最初に困ったのは、宝探しではなかった。

ごみ山に近づくための道がないのだ。

荷車の車輪がぬかるみに沈み、引き上げようとした作業員が足を取られた。

「全員止まれ!」

俺は声を張った。

現地の作業長は不満そうだった。

「何十年もここを歩いてきた。今さら危険だと言われてもな」

「慣れている人が危険を見落とすこともあります」

俺は泥の中に埋まった金属片を拾い上げた。

鋭い縁が手袋を裂いていた。

ミリアが予備の手袋を配り、俺は通路を縄で区切った。

一日目の回収量は予定の十分の一にも届かなかった。


その夜、現地の作業長が事務所に来た。

「王国から来た連中は、俺たちを信用していないのか」

「逆です。ここを知っている人がいなければ、俺たちは何もできない」

俺は地図を広げた。

「安全な道を教えてください。その代わり、危険な場所には誰も入れないと約束します」

作業長は黙って地図を見たあと、赤い印を三つ付けた。

「ここは昔、炉の灰を捨てた場所だ。雨の日には熱い蒸気が出る」

「それを先に聞けてよかった」

翌朝、俺たちはその場所を避けて足場を組んだ。

二日目、今度は古い魔石の山から青白い光が漏れた。

俺の鑑定には再利用可能と表示されたが、表面に細い亀裂が走っている。

「触るな!」

直後、魔石が破裂して砂を吹き上げた。

幸い負傷者はいなかった。

だが、俺は自分の鑑定結果を過信していたことを思い知らされた。

「数字が出ても、安全とは限らないんですね」

ミリアの言葉に、俺は頷いた。

「回収できる価値と、回収していいかどうかは別だ」

俺たちは危険物の区画を分け、帝国の担当官にも立会いを求めた。

三日目になって、ようやく古代の装甲板が見つかった。

鑑定結果にオリハルコンの文字が浮かび、俺の胸は躍った。

だが、作業長は喜ばなかった。

「この下には、昔の事故で埋まった作業場がある」

俺は装甲板を持ち上げようとしていた手を止めた。

「事故の記録は?」

「残っていない。だが俺の父親がそこで働いていた」

俺は作業長の顔を見た。

彼がここで働き続ける理由を、初めて考えた。

「なら、掘る前に調べましょう。値打ちものがあっても、人を危険にさらしてまで欲しくない」

作業長は長く黙ったあと、俺に古い測量杭の位置を教えてくれた。

その印をたどった先に、巨大な黒い車体の一部が顔を出した。

俺は胸の高鳴りを抑えながら、まず周囲の地盤を確かめた。

「ミリア、記録係を頼む。今日から見つけたものは、場所も状態も全部残そう」

「宝探しなのに、地味ですね」

「大きな宝ほど、地味な準備が要るんだよ」

夜の見回りで、俺は新しく敷いた通路を歩いた。

足場の下から、昔の作業員が使った小さな工具が出てきた。

作業長はそれを拾い、しばらく黙っていた。

「父のものかもしれん」

俺は鑑定を使わなかった。

値段のつかないものにも、持ち主にとっての価値がある。

搬入後、軍の封印札が一枚だけ裏返っていた。

兵士の悪戯だと思ったが、古代文字の刻印が内側から熱を帯びている。

帝国の担当官は

「機械が勝手に動くはずはない」

と言った。

俺は戦車の起動試験を延期し、封印札を外さずに記録した。


翌朝、夜警が青ざめた顔で報告した。

「誰も触れていないのに、車輪が一度だけ回りました」

宝の山だと思って買った場所に、まだ眠っていない何かがある。

兵器庫の床には、巨大な車体が動いた擦り傷が残っていた。

だが、その先は壁で行き止まりだった。

ミリアは壁を指さした。

「この傷、壁の中へ続いていませんか」

俺は古代の設計図をもう一度開いた。

戦車を見つけたはずの場所には、まだ描かれていない部屋があった。

翌朝、帝国軍の役人が発掘費の半額を差し止めた。

武装機構の起動を保証しないことが契約違反だという。

「軍が金を出さなければ、ここは止まります」

とミリアは言った。

支払予定表には現地の職人の名前が並ぶ。

俺は軍の担当官に再交渉を申し入れた。

「兵器として動かせば、資金を戻す」

「それでは作業員と周辺の町を危険にさらします」

「では契約は破棄だ」

役人が帰ると、ミリアは声を落とした。

「予備金を使えば、次の処分場の買い付けは延期になります」

「延期しよう」

「オリバさんが楽しみにしていた計画ですよ」

俺は返事に詰まった。

ごみ山を買うたびに未来が広がると信じていた。

今回は、買わない決断をしなければならなかった。

俺は商会の予備金から今月分の賃金を払い、異議申立書に署名した。

帳簿に赤字が増えた。

その翌日、若い職人が辞表を差し出した。

「家で子どもが待っています。ここが安全だと言われても、仕事がいつまであるか分からない」

俺は引き止めようとして、口を閉じた。

彼の家族の暮らしを、俺の理想のために賭けさせる権利はない。

未払いのないよう給金を精算し、近隣の修理工房への紹介状を書いた。

職人は

「ありがとうございます」

と言いかけ、結局、何も言わずに出ていった。

ミリアが尋ねた。

「止めた判断を後悔していますか」

「兵器を動かさなかったことは後悔していない。でも、彼に別の仕事を用意できなかったことは忘れない」


翌朝、俺は作業長とともに、兵器以外の安全な資源を回収する計画を作り直した。

利益は小さくなる。

それでも、誰かの暮らしを壊す力を売るより、こちらを選ぶ。

俺は空いた職人の席を見つめてから、計画書の最初の一行を書いた。

荷台への転用を決めたあと、職人たちは

「動くこと」

より

「止められること」

を先に確かめたいと言った。

俺は費用の欄に、停止装置の試作と第三者による検査を別々に記入した。

売るかどうかは、その結果が出てからだ。

数日後、辞めた職人から手紙が届いた。

紹介先の工房で働き始めたが、給金は以前より少ないという。

『子どもには、危険な兵器を作らずに済んだと話せました』

俺は手紙を折り、発掘現場へ向かった。

残った職人たちは、武装機構を封印した戦車の前に集まっていた。

「ここを切り離せば、運搬用の足回りだけ残せます」

作業長が図面を広げる。

だが試験に失敗すれば、今月の予備金は尽きる。

「続けるかどうかは、皆で決めてほしい」

沈黙のあと、若い職人が手を挙げた。

「武器を動かすより難しいかもしれません。でも、荷物を運ぶ道具なら作りたい」

俺は試験費用を承認した。

武器を売れば早く儲かっただろう。

けれど彼らが自分で選んだ設計図には、兵器の砲身ではなく荷台が描かれていた。

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