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第20話 金貨一枚で始めたごみ商売が、王国最大の企業になった

それから、三年が過ぎた。

王国は大きく変わっていた。

町には資源回収所がある。

壊れた魔道具は捨てずに修理する。

使い終わった魔石は再生する。

金属くずは溶かして再利用する。

生ごみは適切に処理され、肥料になる。

鉱山では、廃石から希少金属を回収する。

それが、当たり前になっていた。

そして王都の中心部。

大きな建物の前には、立派な看板が掲げられていた。

『オリバ資源商会 本社』

俺はその建物を見上げた。

「……大きくなったな」

隣にいたミリアが笑った。

「本当にそうですね」

最初は、ごみ山だった。

事務所もない。

倉庫もない。

従業員はミリア一人。

それが今では。

従業員、五千人。

回収拠点、百二十か所。

工房、三十か所。

取引先、三千社以上。

年間売上、金貨二百万枚。

王国最大級の商会になっていた。

「……すごいな」

俺は呟いた。

ミリアが笑った。

「オリバさんが始めたんですよ」

「そうだったな」

俺は少し照れくさくなった。


その日の午後。

王城で、大きな式典が開かれた。

王国産業発展功労賞。

その受賞者として、俺が招かれたのだ。

謁見の間には、多くの貴族や商人が集まっていた。

国王が口を開いた。

「オリバよ」

「はい」

「そなたは、王国の産業を大きく発展させた」

俺は頭を下げた。

「ありがとうございます」

国王は続けた。

「資源の再利用によって、商品の価格が下がり、雇用が増え、町がきれいになった」

大臣たちが頷いた。

「鉱山も、農業も、魔道具産業も発展した」

国王は微笑んだ。

「見事な功績だ」

俺は少し考えた。

そして答えた。

「ありがとうございます。ただ……」

「何だ?」

「俺は、ただごみを集めただけなんですが」

謁見の間が静まり返った。

そして国王が大声で笑った。

「はははは!」

大臣たちも笑い始めた。

「ごみを集めただけで、王国最大の商会を作ったか!」

俺は肩をすくめた。

「結果的には、そうなりました」

国王は笑った。

「面白い男だ!」

式典が終わったあと。

俺は王城の庭園を歩いていた。

ミリアが隣にいる。

「オリバさん」

「ん?」

「覚えていますか?」

「何を?」

「最初に会った日のことです」

俺は笑った。

「ああ」

ごみ山。

壊れた魔道具。

使い終わった魔石。

そして、仕事を探していた少女。

「ミリア、俺のことを変な人だと思ってただろ?」

ミリアは笑った。

「思ってました」

「正直だな」

「だって、ごみ山を買って喜んでいる人なんて、初めて見ましたから」

俺も笑った。

「確かに」

ミリアは少し真剣な顔になった。

「でも、今は違います」

「……?」

「オリバさんは、誰も見ていなかったものを見つけたんです」

俺は黙った。

ミリアは続けた。

「ごみの中に価値があるって、教えてくれました」

俺は少し考えた。

そして笑った。

「……まあ、儲かったからな」

ミリアは呆れたように笑った。

「そこなんですね」

「商人だからな」


その夜。

俺は本社の執務室で、一通の手紙を読んでいた。

差出人は、遠く離れた大陸の商人。

内容は、資源再生技術についての問い合わせだった。

俺は地図を広げた。

王国。

隣国。

さらにその先の国々。

そして、海の向こうの大陸。

まだ見ぬ土地が広がっている。

俺は笑った。

「……世界は広いな」

ミリアが尋ねた。

「何を考えているんですか?」

「次の商売」

「……またですか?」

「ああ」

俺は地図の端を指さした。

「海の向こうにも、ごみはあるだろ?」

ミリアはしばらく黙った。

そして、笑い始めた。

「……本当に、オリバさんらしいですね」

俺も笑った。

「だろ?」

俺は椅子から立ち上がった。

窓の外には、王都の夜景が広がっている。

魔道具の明かり。

行き交う荷馬車。

工房の煙突。

そして、人々の暮らし。

その多くに、再生資源が使われている。

俺は静かに呟いた。

「……まだまだ、これからだな」

金貨一枚で買ったごみ山。

そこから始まった、小さな商売。

今では王国最大の資源商会になった。

だが、俺の目標は、まだ達成していない。

世界一の大富豪。

そして、世界中のごみを資源に変えること。

俺は笑った。

「……さて」

机の上の地図を広げる。

「次は、どこのごみを買おうか」

そのとき。

執務室の扉が開いた。

ミリアが、慌てた顔で入ってくる。

「オリバさん!」

「どうした?」

「大変です!」

「今度は何だ?」

ミリアは息を切らしながら言った。

「海の向こうの帝国から、使者が来ています!」

「帝国?」

「はい!」

「何の用だ?」

ミリアは手紙を差し出した。

俺は封を開けた。

そこには、こう書かれていた。

『帝国領内の巨大な廃棄物処分場について、買い取りを希望する者を募集する』

俺は目を細めた。

「……へえ」

さらに読み進める。

処分場の面積。

廃棄物の種類。

そして、売却希望価格。

金貨一万枚。

俺は思わず笑った。

「……安いな」

ミリアが固まった。

「……え?」

「金貨一万枚なら、安い」

「安い!?」

「だって」

俺は笑った。

「帝国全土のごみが集まっているんだろ?」

ミリアは頭を抱えた。

「……また始まった」

俺は立ち上がった。

「よし!」

「何ですか!?」

「帝国へ行こう!」

ミリアは叫んだ。

「今度は帝国のごみ山を買うんですかぁぁぁ!?」

俺は笑った。

「もちろん!」

そして、地図の向こうを見つめた。

まだ見ぬ帝国。

巨大な都市。

無数の鉱山。

そして、誰も価値に気づいていない廃棄物。

そこには、きっと新しい宝が眠っている。

俺は拳を握った。

「……面白くなってきたな」

こうして金貨一枚から始まった俺の商売は、ついに国境を越えようとしていた。

だが、帝国には、王国とはまったく違う問題が待ち受けていた。

帝国最大の資源商会。

皇帝直属の鉱山。

そして、魔力を失った巨大な古代兵器。

そのすべてが、ごみとして捨てられていたのだ。

帝国へ渡す技術の一覧から、俺は

「古代兵器の稼働」

を外した。

修理できることと、安全に使えることは違う。

工房長に頼み、試験の合格条件と停止方法が確かめられるまで、どの国にも売らないと書き添えた。

式典の数日前、俺は王都郊外の回収所へ足を運んでいた。

本社では祝賀会の準備が進んでいたが、現場から届いた一枚の報告書が気になったのだ。

「回収量が先月より二割減っている?」

責任者は困った顔をした。

「住民がごみを分別するようになりました。壊れた道具も修理して使うので、持ち込まれる量が減ったんです」

一瞬、俺は計算を始めかけた。

回収量が減れば、再生資源の売上も減る。

だが、目の前の職人が笑っていた。

「修理屋が忙しくなったんですよ。以前は捨てていた鍋を、今は持ってくる」

「それはいいことじゃないか」

俺が言うと、責任者は肩の力を抜いた。

「会長がそう言ってくれるなら安心です。売上が下がったら叱られると思っていました」

俺はそこで、自分の商会の評価基準が古くなっていたことに気づいた。

「回収量だけで現場を評価するのはやめよう。修理件数や、再利用できた道具の数も記録してくれ」

「儲けは減りませんか」

「減る事業もあるだろう。でも、それで町が豊かになるなら、別の商売を考えればいい」

俺は回収所の裏で、修理された小さなランプを見せてもらった。

最初のごみ山で拾ったものとよく似ていた。


その日の夕方、ミリアは祝賀会の招待客名簿を見て首を傾げた。

「この人たちも呼ぶんですか?」

名前の大半は、王都の貴族でも大商人でもない。

最初の荷車を貸してくれた御者、壊れた魔道具を持ち込んだ老人、雨の日に回収所を守った作業員たちだった。

「俺が一人で始めた商売じゃないからな」

「全員呼んだら会場に入りません」

「じゃあ式典のあと、本社の庭で別にやろう」

ミリアは呆れながらも、嬉しそうに予定表を書き直した。

だが式典の前夜、財務担当から厄介な報告が入った。

「帝国への進出を考えるなら、手元資金を残してください。王国最大の商会でも、海を越える輸送は別の危険があります」

俺は帝国の地図を広げた。

金貨一万枚で買えるごみ山があるとしても、港の使用料、護衛、通訳、現地の法律。

どれも王国の感覚では測れない。

「分かった。購入資金とは別に、撤退費用を用意する」

「撤退するつもりもあるんですか」

「商売は、帰る道を残しておかないと危ない」

財務担当はようやく頷いた。


翌日、式典で国王の前に立ったとき、俺は胸に飾られた勲章より、あの修理されたランプを思い出していた。

受賞のあと、庭園でミリアに言った。

「俺は金貨の枚数で成功を測ってきた」

「今も世界一の大富豪になりたいんでしょう?」

「もちろん。でも、捨てるものが減ったせいで儲からなくなるなら、それも悪くない」

ミリアは少し目を丸くし、それから笑った。

「会長らしくない立派な言葉ですね」

「余計な一言だな」

本社の庭で開いた小さな祝賀会には、油で汚れた作業着のまま来た者もいた。

俺は一人ずつ杯を交わした。

最初の荷車を貸した御者が、俺の肩を叩く。

「お前さん、昔は金貨一枚しかなかったのにな」

「あの一枚、返してほしいですか?」

「馬鹿を言うな。あれで面白いものを見せてもらった」

俺は笑った。

帝国へ向かう前に、忘れてはいけないものを確かめられた気がした。

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