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第18話 王国の借金を調べたら、無駄遣いだらけだった


翌日。

前日に財務大臣と約束したとおり、俺は執務室に呼ばれた。

机の上には、大量の帳簿が積まれている。

「……これ全部ですか?」

俺が尋ねると、大臣は疲れた顔で頷いた。

「はい」

「王国の財政資料?」

「そうです」

俺は一冊を開いた。

税収。

鉱山収入。

関税。

公共事業費。

軍事費。

王城維持費。

そして借金。

「……なるほど」

俺はページをめくった。

数字を確認する。

さらに別の帳簿。

そして、ある項目で手が止まった。

「……大臣」

「はい?」

「この道路工事費、ずいぶん高くありませんか?」

大臣は眉をひそめた。

「道路工事?」

「はい」

俺は数字を指さした。

「同じ距離の道路なのに、地域によって費用が三倍も違います」

大臣は帳簿を覗き込んだ。

「……確かに」

「材料費ですか?」

「分かりません」

俺は首を傾げた。

「……分からない?」

「工事は貴族の商会に委託していますので」

俺は黙った。

なるほど。

「……調べましょう」


数日後。

俺たちは道路工事の現場を訪れた。

工事を担当しているのは、ヴァレン商会の関連会社だった。

現場監督に尋ねる。

「この道路、材料費はいくらですか?」

監督は困った顔をした。

「……契約書に書いてあるはずですが」

「実際の仕入れ価格を知りたいんです」

「それは……」

俺は帳簿を見せた。

「この石材、一個銀貨五枚で計上されています」

監督は目を丸くした。

「……五枚?」

「はい」

「うちは銀貨二枚で仕入れていますが……」

俺は頷いた。

「なるほど」

差額はどこへ行ったのか。

答えは簡単だった。

中間業者だ。

しかも、何社も挟まっている。

俺は笑った。

「……商売が上手ですね」

監督は困った顔をした。

「……褒めているんですか?」

「いいえ」

俺は首を振った。

「王国のお金を無駄に使っていると言っています」

財務大臣へ報告書を出す前に、俺はもう一度現場へ向かった。

帳簿の差額だけで不正と決めつければ、罪のない職人まで巻き込むかもしれない。

監督に頼んで、石材の運搬記録を見せてもらった。

「この銀貨二枚は採石場での値段です。王都まで運ぶ費用は別ですよね」

「そうです。荷車代と通行料がかかります」

俺は書き写した数字を足し直した。

最初に疑った差額の一部は、確かに正当な運賃だった。

「危なかった。全部を無駄遣いだと決めるところでした」

監督は苦笑した。

「帳簿の上だけで道はできませんからね」

その言葉が胸に刺さった。

別の日、俺は道路沿いの村を歩いた。

石材を運ぶ荷車が通るたびに、家の前の土が舞い上がる。

村の女性が洗濯物を取り込みながら言った。

「道が完成するまで我慢しろと言われて、もう半年です」

「工事はいつ終わる予定なんですか」

「去年の秋だと聞いたよ」

俺は監督から聞いた工程表を開いた。

完成予定日は何度も書き換えられていた。

費用の問題だけではない。

遅延が暮らしに与える負担を、俺は計算に入れていなかった。

王都へ戻ると、ミリアが新しい資料を待っていた。

「直接調達なら、確かに材料費は下がります。でも、今まで仲介をしていた人たちは?」

「全員を切るつもりはない。運搬や保管に必要な仕事は残る」

「それをどう見分けるんですか」

俺は返答に詰まり、帳面を閉じた。


その夜、契約ごとに実際の仕事を洗い出した。

採石、検査、運搬、保管、現場への納入。

同じ運搬費が二重に計上されている箇所が見つかった一方、雨季の保管料のように、最初は不要だと思った費用にも理由があった。

「削るのは人じゃなく、説明できない支出だ」

ミリアが頷いた。

「その方が、現場の人にも説明できます」

翌朝、俺は財務大臣へ途中経過を持っていった。

「最初の試算を修正させてください」

「三割削減は間違いだったのか?」

「可能性はあります。ただし、品質を維持したまま実現できるか、まだ分かりません」

大臣は難しい顔をした。

「国庫には余裕がない。すぐに数字が欲しい」

「急いで安い道を作り、数年で崩れたら、もっと高くつきます」

大臣は窓の外を見た。

「分かった。試験区間を設けよう」

俺はほっとしたが、次の言葉で背筋が伸びた。

「ただし、失敗したら君の提案も公表する」

「構いません。成功だけ公表するのでは、検証になりませんから」

試験区間の職人を集めると、若い石工が

「失敗したら俺たちの腕のせいにされるのか」

と尋ねた。

俺は試験の目的と、失敗したときの補修費を先に示した。

「材料も排水も、調べてから原因を決める。責任を押しつけるための試験にはしない」

石工は道具を持ち直し、

「なら、気づいたことは全部記録します」

と答えた。

試験区間では、再生石材と従来の石材を別々に敷いた。

雨が降った翌朝、再生石材の一部が沈んでいた。

「配合を間違えたか?」

俺が尋ねると、職人は首を振った。

「水はけが悪いんです。石だけ替えても、下の土が同じなら駄目です」

俺は作業を止め、排水溝を先に直すよう頼んだ。

予定は三日遅れた。

費用も増えた。

それでも、完成後の最初の大雨で道が崩れなかったと聞いたとき、俺は数字より先に安堵した。

村の女性が再び声をかけてくれた。

「今度は荷車が通っても、泥が家に飛んでこないね」

「まだ長持ちするかは分かりません。定期的に見に来ます」

「それでいいよ。壊れたら直してくれる人がいる方が安心だ」

俺はその言葉を報告書の末尾に書いた。

安くするだけでは足りない。

暮らしが良くなったと確かめられて、初めて仕事が終わるのだ。

帰り際、俺は現場監督へ頭を下げた。

「最初から疑ってかかって、すみませんでした」

監督は手を振った。

「数字を疑うのは構いません。俺たちの仕事まで見てくれれば、それでいいんです」


一週間後。

俺は財務大臣に報告書を提出した。

「道路工事費を、三割程度削減できる可能性があります」

大臣は目を見開いた。

「……三割!?」

「はい」

「どうやって?」

俺は説明した。

材料の直接調達。

輸送経路の見直し。

再生資材の利用。

契約内容の透明化。

そして、競争入札。

大臣は黙って聞いていた。

「……なるほど」

俺は続けた。

「ただし、安くするだけでは駄目です」

「……?」

「品質検査も必要です」

大臣は頷いた。

「確かに」

俺は笑った。

「安くて、丈夫で、長持ちする道路を作りましょう」

大臣は深々と頭を下げた。

「……ありがとうございます」

見直しの対象となった公共工事の中に、古い橋の補修があった。

帳簿では

「不要」

とされていたが、現地の行商人はその橋を毎朝渡っている。

俺は削減案をいったん取り下げ、橋を使う人の数を調べ直した。

大臣は苦い顔をした。

「無駄遣いを見つけたのではないのか」

俺は答えた。

「無駄に見える数字と、無駄な仕事は違います」

その報告書は、国王のもとへ届けられた。


数日後。

王城では、公共事業の見直しが決定された。

その日の夕方、ミリアが王都の商人組合から届いた書簡を持ってきた。

「ヴァレン商会が再入札に抗議しています。オルド会長は、取引先に入札を辞退するよう圧力をかけているそうです」

俺は報告書を読み、顔をしかめた。

費用を公開するだけでは、競争する相手が消されてしまう。

「大臣に伝えよう。入札した商会の名前は、審査が終わるまで伏せてもらう」

翌朝、大臣は抗議書を抱えたまま、入札窓口に立った。

担当官が怯えて手を止めると、大臣は自分の名を署名した命令書を掲げた。

「辞退を迫られた業者の申し出は私が直接受ける。審査の責任も私が負う」

その日の夕方、小さな石工組合が初めて見積書を提出した。

「また敵を作りますよ」

「それでも、道を使う村の人が困るよりはいい」

俺は書簡を封筒に戻した。

誰が怒っているかより、次の工事を誰が安全に請け負えるか。

その順番を間違えたくなかった。

俺は見積書の最下段に修理費を残した。

ここを削れば拍手は増えるかもしれない。

だが最初に困るのは、現場で壊れた物を使う人だ。

匿名審査を始めたせいで、橋の補修業者が決まるのは雨季にずれ込んだ。

橋のたもとには、渡れずに待つ行商人の荷車が並んでいた。

「不正を止めたのはいいが、これでは村に品物が届かん」

老人の言葉に、俺は返せなかった。

俺は大臣に臨時歩道の設置を提案した。

追加費用を公開し、毎朝の点検担当者を決める。

大臣は

「節約のための改革で支出が増える」

と渋った。

「帳簿をきれいにするために、橋を使う人を危険にさらしたくありません」

歩道が完成した朝、最初の荷車がゆっくり渡った。

俺は老人に礼を言われる前に、補修が遅れたことを謝った。

老人は対岸へ渡りきってから振り向いた。

「次はこの仮の道を、ちゃんと要らなくしてくれ」

俺は橋のたもとの板に、本工事の開始日と臨時歩道の点検日を書いた。

不正を暴いた日の喝采より、その二つの日付を守る方が難しい。

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