第17話 国王に呼ばれたので、ごみの話をしたら大臣たちが固まった
謁見の前日、鉱山町の代表が商会へ来た。
再生金属が安くなったせいで、町の採掘収入が落ちているという。
「お前の商売で職を失った者に、またごみを拾えと言うのか」
俺は答えられなかった。
王国事業の仕事を彼らへ押しつけるのではなく、希望する者だけに選別技術の研修を用意することにした。
代表は契約書を受け取らず、
「町で相談する」
と帰った。
王国を救うという大きな言葉より、その返事を待つ一週間が怖かった。
謁見の前夜、俺は眠れずに資料を並べていた。
王城に呼ばれたのは名誉なことだ。
だが、王国全体の事業を引き受ければ、今の商会では到底人手が足りない。
「断るつもりですか?」
夜更けに書類を届けたミリアが尋ねた。
「断りはしない。ただ、できない約束はしない」
俺は王都の回収拠点の図面を見せた。
「この地区は、まだ雨の日の運搬経路が決まっていない。王国全体なんて、その先の話だ」
「国王の前で、それを言えるんですか?」
「言わないと、困るのは現場の人たちだ」
ミリアは椅子を引き、俺と一緒に説明資料を作り直してくれた。
王城。
巨大な謁見の間。
俺は国王の前に立っていた。
隣にはミリア。
彼女は緊張で震えている。
「オリバさん……」
「ん?」
「私、倒れそうです……」
「大丈夫だ」
「大丈夫じゃありません!」
俺は小さく笑った。
そのとき。
国王が口を開いた。
「そなたがオリバか」
「はい」
「ごみを金に変える商人だと聞いている」
「そのとおりです」
国王は興味深そうに頷いた。
「面白い」
そして尋ねた。
「そなたの商売は、なぜ成功した?」
俺は少し考えた。
そして答えた。
「皆が捨てていたものを、調べたからです」
国王は首を傾げた。
「調べた?」
「はい」
俺は続けた。
「価値がないと思われているものでも、本当に価値がないとは限りません」
大臣たちがざわついた。
俺は説明した。
廃棄魔石の再生。
鉱山廃石からの金属回収。
生ごみからの肥料製造。
壊れた魔道具の部品再利用。
国王は黙って聞いていた。
そして、ゆっくり頷いた。
「……なるほど」
俺は続けた。
「王国には、まだ大量の資源が眠っています」
「どこに?」
国王が尋ねた。
俺は答えた。
「ごみ捨て場です」
謁見の間が静まり返った。
大臣たちは固まった。
国王も一瞬黙った。
そして
「……ははは!」
突然、笑い始めた。
「面白い!」
国王は玉座から身を乗り出した。
「王国の財宝が、ごみ捨て場にあると言うのか!」
「はい」
俺は頷いた。
「少なくとも、まだ使える資源は大量にあります」
国王は大きく笑った。
「気に入った!」
そして命じた。
「オリバよ。王国の資源再利用事業に協力してくれ」
俺は頭を下げた。
「喜んで」
謁見の途中、俺が資源の再利用について説明すると、一人の大臣が厳しい声で割り込んだ。
「ごみを運ぶ荷車が増えれば、都の道が傷む。誰がその費用を払うのだ」
俺は答えに詰まった。
確かに回収量を増やすことばかり考え、道路への負担を十分に計算していなかった。
「現状の計画では、その費用を含めていません」
広間が静かになった。
「つまり、見込み違いだな」
「はい。ご指摘のとおりです」
ミリアが横で小さく息をのんだ。
俺は続けた。
「ただし、回収場所を集約し、荷車の通行回数を減らす方法があります。実際に試したいので、まず一地区だけ許可をいただけませんか」
大臣は顔をしかめた。
「一地区で成功しても、王国中で通用するとは限らん」
「だからこそ、いきなり王国中で始めたくありません」
国王はしばらく黙っていた。
「そなたは、褒美を求めに来たのではないのか」
「褒美より、失敗したときに止められる仕組みが欲しいです」
俺は資料を差し出した。
試験期間、費用の上限、道路の傷みを測る方法、住民から苦情が出たときの連絡先まで書いてある。
国王はその一枚を読み、財務大臣へ回した。
「これなら、国庫への負担を先に確認できるな」
財務大臣は頷いたが、すぐに言った。
「成功しても、追加予算が出る保証はありません」
「承知しています。最初の結果を見てから、次を決めてください」
俺はようやく肩の力を抜いた。
謁見が終わったあと。
ミリアは廊下で大きく息を吐いた。
「……生きた心地がしませんでした」
「お疲れ」
「オリバさんは平気そうでしたね」
「まあ、商談だと思えば」
「国王との商談ですよ!?」
俺は笑った。
「相手が誰でも、商売の基本は同じだよ」
ミリアは呆れたように笑った。
「……本当に変わった人ですね」
「よく言われる」
廊下の窓から、王城へ鉱石を運ぶ荷車が見えた。
以前なら新しい鉱山を探せば済んだ。
今は俺の再生金属が安く流通し、鉱山税の収入まで変わっている。
謁見で王国のごみ処理を請け負う以上、その変化から目をそらせない。
そのとき。
背後から声がした。
「オリバ殿」
振り向く。
王国の財務大臣だった。
「少し、お話が」
「何でしょう?」
大臣は真剣な顔で言った。
「王国の財政について、相談したいのです」
俺は目を細めた。
「……財政?」
「はい」
大臣は小さく息を吐いた。
「実は、王国の国庫が危機的な状況にあります」
俺は固まった。
「……え?」
大臣は続けた。
「鉱山の収益が減り、公共事業費が増え、財政が逼迫しています」
俺は少し考えた。
そして、思わず笑ってしまった。
「……なるほど」
ミリアが慌てる。
「オリバさん! 笑うところじゃありません!」
だが、俺は笑っていた。
なぜなら王国の財政難。
その原因の一部は、俺たちの安価な再生金属にある。
つまり
「……自分で問題を作って、自分で解決することになるのか」
俺は呟いた。
面白い。
実に面白い。
もっとも、その仕組みを変えれば、明日からの収入を失う役人もいる。
俺は笑うのをやめ、国王へ示す数字の横に、移行に必要な費用を書き足した。
「明日、帳簿を見せてください。再生金属で減った税収と、変えられる支出を別々に調べたい」
大臣は一瞬ためらったが、頷いた。
王国のごみを引き受けるなら、その影響で困る人々まで数字から消すわけにはいかない。
翌日、財務大臣から届いた帳簿には、鉱山税に頼る村の名前が並んでいた。
再生金属を安く売るほど、村の学校を支える税が減る。
俺は最初の提案書に、鉱山町での再資源化研修と移行期間の補助を追記した。
国王の前で言った
「儲かる」
は嘘ではない。
だが誰がいつ儲かるのかを省けば、それは半分の真実だった。
大臣に提出する試算には、王家向け製品の注文停止も記した。
「なぜ商会の損失まで載せる」
と大臣は驚いた。
「国の方針が変われば、こういう仕事が先に止まるからです」
税収を立て直す案に、鉱山町の職人を再教育する費用を加えた。
王都の事業もまだ黒字が安定していない。
大臣は
「それではすぐに成果を示せぬ」
と言った。
俺も分かっていた。
それでも数字を削るわけにはいかなかった。
謁見後、試験地区の役人と会うと、歓迎ばかりではなかった。
「王都のごみを商会の利益に変えると言われても、住民が納得するとは思えません」
俺はその役人に、現場の見学を頼んだ。
「ごみが減ったか、道が傷んでいないか、俺たちの帳簿も含めて確認してください」
「帳簿まで?」
「税金を使うなら、当然です」
役人は疑わしそうな顔をしたまま帰ったが、三日後には住民の代表を連れてきた。
俺はそこで初めて、王国の事業とは王城だけで決まるものではないと知った。
試験開始の日、荷車が一台遅れた。
道が狭く、対向する馬車とすれ違えなかったのだ。
「このままでは約束の時間に回収できません」
ミリアが焦った声を上げた。
俺は荷車を広場へ戻し、二台分の荷を一台にまとめ直した。
「今日は遅れを認めて謝ろう。明日からは朝の市場が始まる前に通る」
苦情を受けた住民に頭を下げると、年配の女性が言った。
「ごみが減るのは助かる。でも、子供が通る時間に馬車を走らせないでおくれ」
俺はその言葉を予定表の一番上に書いた。
国王の前で話した立派な計画も、一本の細い道を安全に通れなければ意味がなかった。
大臣たちの顔色より、鉱夫から渡された仕事の名簿が頭に浮かんだ。
数字を立て直すために、あの名前を帳簿から消すわけにはいかなかった。
試験地区の初月報告には、回収量のほかに研修を希望した鉱山町の人々の名が載った。
かつて俺に怒鳴った代表からも短い手紙が届いていた。
「ごみを拾う仕事はまだ嫌だ。だが金属を見分ける技術なら、若い連中に教えられる」
俺はその言葉を研修の募集案内の先頭に置いた。
報告会で財務大臣が立ち上がった。
「補助金を半年も出せば、国庫の余裕がなくなる。採算の悪い村は切り捨てるべきだ」
俺は鉱山町の代表から届いた研修名簿を机に置いた。
「切り捨てた村で税を納める人は、来年どこにいるんですか」
「理想論だ」
と大臣が言う。
「では数字で決めましょう。三か月ごとに就業者数と税収を公開する。改善しなければ補助の方法を見直す。その監査には反対した大臣にも入ってもらいます」
大臣は一瞬目を丸くした。
国王が
「反対者の目も必要だな」
と頷くと、会議室に笑いが起きた。
後日、代表から届いた名簿には、最初の研修修了者の名前に丸が付いていた。
俺はその紙を報告書の先頭に挟んだ。
国王の前で勝つより、反対した人にも確かめられる結果を残したかった。




