↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/66

第16話 オリハルコンを見つけたら、王国の鍛冶師たちが集まってきた

隣国で見つけた特殊鉱石。

俺は、それを慎重に持ち帰った。

そして、ボルグ親方に見せた。

「……おい」

親方の顔が変わった。

「これは……」

「分かります?」

親方は震える手で石を持った。

「……オリハルコン?」

「はい」

「馬鹿な!」

親方は叫んだ。

「そんなもの、王家の宝物庫にしかないぞ!」

「でも、廃石に含まれていました」

「……廃石?」

「はい」

親方は頭を抱えた。

「……またごみか!」

俺は笑った。

「またごみです」

オリハルコンの精製は、ミスリルより難しかった。

魔力を大量に使う。

分離装置も改良する必要がある。

だが、素材鑑定のおかげで、成分の違いは分かる。

俺たちは何度も試験を繰り返した。

そして、三週間後。

小さな金属片が完成した。

黄金色。

だが、金とは違う。

独特の輝き。

親方は震えていた。

「……本物だ」

「成功ですね」

「成功どころじゃない!」

親方は叫んだ。

「王国の歴史に残るぞ!」

俺は笑った。

「大げさですよ」

「大げさじゃない!」

親方は机を叩いた。

「これが安定供給できれば、魔道具産業が変わる!」

俺は頷いた。

「そうですね」

だが、完成した金属片を見た俺は、手放しで喜べなかった。

精製に使った魔石の残量を確認すると、普段の再生金属の何十倍も消費していたからだ。

「これでは量産するたびに、別の工房が魔石不足になります」

ミリアが計算書を突き出した。

「分かってる。売値だけで考えたら駄目だな」

ボルグ親方は完成品を布に包み、作業台の端へ置いた。

「成功したのは一回だけだ。次も同じ品質になるとは限らん」

俺たちは三つの試験片を作り、熱と衝撃を加えた。

二つ目の試験片は途中で細かなひびが入った。

「不純物が残っている」

親方の声が低くなった。

「王家に納める素材で、これは許されん」

俺はうなずいた。

金貨五百枚という数字が頭に浮かんだが、欠陥品を売れば信用を失う。


翌朝、職人たちを集めて、試験の失敗を隠さず伝えた。

「注文を受ける前に、合格条件を決めたい。売るための検査ではなく、売ってはいけないものを止める検査だ」

若い鍛冶師が手を挙げた。

「魔力を流した状態で、何度も温度を変える試験が必要です」

「設備はあるか?」

「ありません。作るところからです」

俺は思わず苦笑した。

新しい金属を見つけたと思ったら、先に検査道具を作らなければならない。

親方は肩を叩いた。

「そういう仕事を面白がれるなら、商人として見込みがある」

「褒められている気がしません」

「褒めとるさ」

試験装置の完成まで一週間かかった。

その間、王都の商人から前金を積むという申し出が何件も来た。

俺はすべて断った。

理由を説明すると、一人の商人は怒鳴った。

「他の店ならすぐ売るぞ!」

「なら、そちらで買ってください。ただし、この素材の耐久試験はまだ終わっていません」

男は悪態をついて帰った。

ミリアが小声で尋ねた。

「今の人、二度と来ないかもしれません」

「その可能性はある。でも、試験を省いた責任を職人に押しつけたくない」

俺は工房の外に貼る説明書を作った。

試験中であること、販売開始の条件、最初の生産量を、誰でも読めるように記した。

最終試験の日、制御板に魔力を流すと、表面に青い光が走った。

親方が炉の温度を上げる。

金属片は形を保ったままだ。

「次、冷却!」

水槽に入れると白い蒸気が上がった。

俺は息を止めた。

取り出した板に、ひびは見えない。

「もう一度だ」

親方は同じ試験を繰り返した。

五回目が終わったとき、ようやく全員が息を吐いた。

「合格だ」

俺はその言葉を聞いてから、初めて注文書に署名した。

研究所の担当者は、検査記録を一枚ずつ確かめた。

「これほど厳しい条件で売られるとは思いませんでした」

「高価だからこそです。壊れたとき、買った人だけでなく周囲にも被害が出ます」

「量産の予定は?」

「まだありません。先に魔石の消費を減らす方法を探します」

担当者は少し驚いたようだったが、やがて微笑んだ。

「研究所も協力しましょう。材料の特性を調べるなら、我々の設備が使えます」

金貨五百枚の取引は大きかった。

しかし俺にとっては、次の実験を一緒に考えてくれる相手ができたことの方が心強かった。

その後、俺は王都の小さな修理工房を訪ねた。

親方にオリハルコンの見本を見せると、目を輝かせたが、価格を聞いた途端に黙ってしまった。

「俺たちには手が出ない。金持ちの道具だけ丈夫になるのか」

言い返せなかった。

希少金属の精製には費用がかかる。

だが、普通の職人を置き去りにしてよい理由にはならない。

「この金属を安く売る約束はできません。ただ、試験で分かった加工方法は公開できます」

「本当に?」

「全部ではありません。危険な工程は訓練が必要です。それでも、失敗の記録は役に立つはずです」

俺は親方の工房で、ひびの入った試験片を見せた。

「高い材料でも、扱いを間違えれば壊れるんだな」

「ええ。だからまず、使い方を間違えない仕組みを作ります」

帰り道、ミリアが笑った。

「今日の商談は売り上げゼロですね」

「そうだな。でも、次に欠陥品を作る人が一人減ったなら悪くない」


その夜、俺は公開できる検査項目を選び、研究所へ相談の手紙を書いた。

親方はその手紙を見て、黙って頷いた。

技術は独り占めすれば高く売れるが、正しく使う仲間が増えなければ産業にはならない。

研究所から返事が届いたのは翌週だった。

公開した検査法を使って、地方の工房が偽物のオリハルコンを見破ったという。

注文書より先に、その報告を読んだミリアが笑った。

「売らなかった知識が、誰かの損を防いだんですね」

俺は頷いた。

希少な金属を高く売る商売と、危険な偽物を見分ける知識を広める仕事は両立できる。

金貨五百枚より、その区別ができたことの方が嬉しかった。

その噂は、あっという間に広まった。

王都の鍛冶師。

魔道具職人。

貴族。

そして王城。

次々と問い合わせが届いた。

ミリアは手紙の山を見て、頭を抱えた。

「オリバさん!」

「何だ?」

「注文が多すぎます!」

「いいことだ」

「オリハルコンなんて、まだ少ししかありません!」

「そうだな」

「どうするんですか!?」

俺は笑った。

「高く売ろう」

ミリアは固まった。

「……え?」

「希少なものは、高く売る」

「……普通ですね」

「商売だからな」

俺は笑った。

「安く売るだけが商売じゃない」

公開した検査法で、ある工房の納入品に不純物が見つかった。

職人は

「お前の基準が厳しすぎる」

と怒った。

俺は返品を迫らず、同じ鉱石を二人で測り直した。

問題は炉の温度ではなく、冷却に使う水だった。

職人が原因を自分で説明できたとき、俺はようやく検査法を公開した意味があったと思った。

最初のオリハルコン製品は、小さな魔力制御板だった。

王都の魔道具研究所が購入した。

価格は金貨五百枚。

ミリアは帳簿を見て、震えていた。

「……五百枚」

「そうだな」

「こんな小さな板が……」

「研究用だからな」

「……すごい世界ですね」

俺は笑った。

「俺もそう思う」

だが、その取引によって、王城から正式な招待状が届いた。

招待状には、王家の工房へ製法を独占供給するよう求める追伸があった。

ボルグ親方は紙を握り潰しかけた。

「王家に逆らえば、地方の鍛冶師は材料を買えなくなる」

俺は完成品の販売と、偽物を見分ける検査法を別のものとして扱う案を示した。

王家には研究用の製品を優先納入する。

その代わり、検査法はすべての工房に開く。

ミリアが心配そうに尋ねた。

「断られたら?」

「そのときは金貨五百枚の売上を失う。でも、偽物を掴まされる職人は減る」

俺は返事を封筒に入れた。

王家への返書を出した翌日、鍛冶師たちの会合は荒れた。

「検査法を公開したら、誰でも真似できる!」

「独占契約を断ったせいで、研究所の追加注文も止まった!」

ボルグ親方は反論せず、机の上に二枚の試験片を置いた。

見た目は同じ黄金色だ。

片方には、熱をかけたときだけ現れる細いひびがあった。

「どっちを王家へ納める?」

職人たちは黙った。

俺は試験片に同じ魔力を流すよう頼んだ。

ひびのある方が先に変色し、魔力を遮断する装置が鳴った。

若い鍛冶師が息をのむ。

「このまま納めていたら、研究所の機械が止まったかもしれない」

「だからこそ、検査の仕方は隠したくない」

と親方が言った。

俺は注文停止による不足分を帳簿に記し、自分の取り分と新炉の積立金を賃金へ回した。

次の注文を保証できないことも、全員の前で伝えた。

会合が終わるころ、さっきまで独占契約を望んでいた鍛冶師が、ひびの入った試験片を持ち上げた。

「明日、うちの炉でも同じ検査をやる。失敗したら記録を持ってくる」

ボルグ親方はうなずいた。

「持ってこい。失敗の理由が分かれば、次はもっといいものを作れる」

王家からの返事はまだない。

だが工房の扉の外では、互いに競争していた職人たちが、明日の試験時間を相談し始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。