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第14話 王国中のごみを集めたら、世界最大の資源商会になり始めた

王都での事業が軌道に乗ってから半年。

オリバ資源商会は、急速に拡大していた。

回収拠点は二十か所。

従業員は三百人。

取引先は五百社を超えた。

俺は会議室で報告を受けていた。

「今月の売上は?」

ミリアが帳簿を開く。

「金貨二万八千枚です!」

「利益は?」

「金貨六千枚です!」

俺は頷いた。

「順調だな」

ミリアは笑った。

「順調すぎます!」

だが俺は、支店別の報告書に同じ数字が何度も並んでいることに気づいた。

「この三つの支店、廃棄率まで同じなのは変じゃないか」

ミリアの笑顔が消えた。

調べると、北部支店が前月の帳簿を写していた。

「本部に遅れを知られたくなかったそうです」

俺は新しい拠点の開設を一件延期した。

急成長の看板より、正しい数字が先だ。

「売上が減っても、今月は現地を見に行こう」

ミリアは地図をたたみ、出張の予定を組み直した。

最初は金貨一枚で買ったごみ山。

それが今では、王国中から資源を集める商会になっていた。

だが、

「……まだまだだな」

俺は呟いた。

ミリアが驚く。

「まだですか!?」

「ああ」

「これ以上、何をするんですか?」

俺は王国の地図を広げた。

「まだ回収していない地域が多い」

ミリアは地図を見た。

「……確かに」

「それに、隣国もある」

「隣国!?」

俺は笑った。

「ごみは国境を越えて存在するからな」

新しい回収所の開所式で、俺は歓迎の拍手を受けなかった。

町の古物商たちが入口を塞いでいたのだ。

「大商会が来れば俺たちの仕入れ先がなくなる」

俺は反論しようとして、彼らの荷車に目を留めた。

車輪が擦り減り、積み荷を固定する縄も古い。

儲けが出ていないのは明らかだった。

俺は開所を一週間延期し、地元の商人と共同回収の条件を詰めた。

手数料を払うだけでは足りない。

買い取り価格の算定方法も公開し、彼らが不利な契約を結ばされないようにした。

ミリアは小声で言った。

「利益率が下がりますよ」

「いい。地図の上に拠点が増えても、町から人が消えたら失敗だ」


その日の午後。

王都商業組合長のアルベルトが訪ねてきた。

「オリバ殿」

「こんにちは」

「少し相談があります」

「何でしょう?」

アルベルトは書類を広げた。

「王国全土のごみ処理について、政府が検討を始めています」

俺は頷いた。

「なるほど」

「あなたの商会に、協力していただきたいのです」

「もちろんです」

アルベルトは微笑んだ。

「ありがとうございます」

だが、俺は一つ条件を出した。

「ただし、王国全土をうちだけで独占するつもりはありません」

アルベルトが驚いた。

「……なぜです?」

「競争がなくなると、効率が悪くなるからです」

俺は説明した。

地域ごとの回収業者。

金属再生業者。

肥料製造業者。

魔道具修理業者。

それぞれが参加できる仕組みにする。

オリバ資源商会は、技術と規格を提供する。

「そうすれば、王国全体の産業が育ちます」

アルベルトは感心したように頷いた。

「……なるほど」

俺は笑った。

「その方が、長く儲かりますから」

アルベルトは笑った。

「やはり商人ですね」

「もちろんです」

全国展開の初期、回収拠点が二十か所になったという報告を受けた夜、俺は地図の前で足を止めた。

拠点を示す赤い印が、王都から地方へ広がっている。

その一つに、小さな黒い丸が付いていた。

「この印は?」

ミリアは報告書をめくった。

「北部の回収所です。三週間、出荷が止まっています」

「どうして今まで知らせが来なかった?」

「現地の責任者は、もう少しで解決すると……」

俺は机の上の決算書を閉じた。

拠点が増えたことを喜んでいたが、増えた拠点の中で何が起きているかを知らなかった。


翌朝、俺は北部へ向かった。

回収所の門には、使われない荷車が三台並んでいた。

責任者は笑顔で迎えたが、作業員たちは目を合わせようとしない。

「帳簿を見せてください」

俺が言うと、責任者の手が止まった。

倉庫には出荷できない魔石が積まれ、修理待ちの道具には札すら付いていなかった。

「本部には順調と報告したそうですね」

「遅れを取り戻せると思ったんです」

「取り戻せないと分かったときに、誰に相談しました?」

責任者は答えなかった。

俺は怒鳴りたかったが、まず現場の作業員に事情を聞いた。

新しい選別基準が届いたものの、古い道具では判定できず、危険な魔石を混ぜないよう出荷を止めていたのだ。

「止めたのは正しい判断です」

俺が言うと、年配の作業員が顔を上げた。

「でも、止めれば売上が落ちる」

「売上より先に、人が無事に帰れるかどうかです」

俺はその場で本部に連絡を送り、検査用の器具を取り寄せた。

届くまでの三日間は、作業員に倉庫の整理と分類札の作り直しを頼んだ。

責任者には帳簿の訂正を命じた。

「処分は受けます」

と彼は言った。

「処分を考える前に、次に問題が起きたとき何をするか決めよう」

「すぐに本部へ知らせます」

「それだけじゃ足りない。作業員の誰でも直接連絡できる窓口を作る」

責任者だけに頼る仕組みを作ったのは俺だった。

責任を押し付けるだけでは、次の事故を防げない。


一か月後、北部の回収所から初めて正確な月報が届いた。

売上は当初の計画より低かった。

だが、危険な魔石の混入はゼロになり、作業員から改善案が五件寄せられていた。

ミリアは報告書を見て首を傾げた。

「これで成功と言えますか?」

「今は言えない。でも、どこが悪いか分かるようになった」

俺は地図の黒い丸を消さず、横に小さく日付を書いた。

問題が起きた場所を忘れないためだ。

世界最大の商会になりたいと思っていた。

けれど大きさを誇る前に、一つひとつの回収所で働く人の声を聞ける商会でありたかった。

数日後、支店の若い作業員から手紙が届いた。

以前は帳簿の数字を直すよう命じられても、逆らえば職を失うと思っていたという。

新しい窓口へ送った報告には、責任者自身の署名が添えられていた。

俺は驚いた。

処分を恐れていた男が、自分の不正を証明する書類を部下と一緒に作ったのだ。

許すかどうかは別の問題だ。

それでも、誰かが間違いを止められる商会へ一歩進んだことは確かだった。

新設した回収所の責任者から、利益を出すため見習いの夜勤を増やしたいと申請が来た。

俺は許可しなかった。

責任者は

「拠点を増やせと命じたのは会長です」

と反論した。

その通りだった。

俺は拡張予定を一か月遅らせ、交代要員の育成を優先した。

成長の数字を追わせたのは俺だ。

数字の陰で誰が眠れなくなるのか、考えるのも俺の仕事だった。


その夜、俺は各支店長へ短い手紙を書いた。

失敗を隠した者を責める前に、失敗を知らせられる仕組みがあるか確かめてほしい、と。

ミリアが封筒を数えながら笑った。

「大商会の会長が、こんな手紙を一通ずつ書くんですか?」

「大きな商会だからこそ、書くんだよ」

翌朝、北部支店から返事が来た。

数字を写していた責任者が、今度は売上の低下を隠さず報告してきた。

さらに彼は、帳簿を訂正した若い作業員を新しい検査係に推薦していた。

俺は推薦をそのまま承認しなかった。

本人に仕事を選ぶ権利があるからだ。

返事には

「受けます。ただし現場の作業も週に一度は続けたい」

とあった。

俺はその条件に丸をつけた。

大きな商会を変えたのは会長の命令だけではない。

失敗を見つけた者が、次の仕事を自分で選べたことだった。


翌月の役員会では、拡張を止めた俺への不信任案が出た。

提案した役員は、支店の人員を減らさなければ資金が尽きると主張した。

ミリアは訂正後の帳簿と夜勤の負傷記録を並べた。

「削減すれば今期は黒字です。でも、来期の補償費を含めれば赤字になります」

会議は長引いた。

俺は会長報酬の一部と未着工の倉庫用地を差し出し、見習いの夜勤廃止と外部監査を条件に議決を求めた。

賛成は僅差だった。

反対した役員は席を立つ前に言った。

「次は数字で証明してください」

俺は頷いた。

今度の失敗は、手紙だけでは取り戻せない。

一年後。

王国各地に、資源回収所が設置された。

町のごみは減った。

鉱山の廃石は再利用された。

魔石の価格は下がった。

魔道具の修理費も下がった。

農業用肥料の供給量も増えた。

そしてオリバ資源商会の売上は、さらに伸びていた。

ミリアは決算書を見て、震えていた。

「……オリバさん」

「ん?」

「年間売上が……」

「いくら?」

「金貨三十万枚を超えました」

俺は少し驚いた。

「……おお」

ミリアは叫んだ。

「おお、じゃありません!」

「そうか?」

「王国でも有数の大商会ですよ!」

俺は笑った。

「まだ世界一じゃないだろ?」

ミリアは固まった。

「……世界一?」

「ああ」

俺は窓の外を見た。

広い空。

その向こうには、まだ見ぬ国々がある。

「世界中のごみを資源に変えたら、面白いと思わないか?」

ミリアはしばらく黙った。

そして、笑った。

「……オリバさんらしいですね」

俺も笑った。

「だろ?」


翌月、倉庫用地の売却代金が入った。

俺は反対票を投じた役員にも、入金額と夜勤廃止に必要な支出を同じ日に公開した。

「四半期後も赤字なら、どう責任を取る?」

役員は机を叩いた。

「北部支店の受注を減らし、余った人員は安全検査へ移す。会長報酬も削る。だが、見習いの夜勤だけは戻さない」

「それで数字が改善しなければ?」

「次の拡張を止める。俺の判断として議事録に残してくれ」

四半期後、北部支店はまだ赤字だった。

しかし夜勤中の負傷はゼロになり、危険な魔石の混入も減った。

反対した役員が検査係の報告書を机に置いた。

「拡張は認めん。だが、この配置転換は続けよう」

俺は頷いた。

不信任案は取り下げられたが、拍手は起こらなかった。

代わりに、若い検査係が自分の足で会議室へ入り、次の改善案を説明し始めた。

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