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第12話 王都のごみ処理を引き受けたら、国王から感謝状が届いた

「王都のごみ処理を、引き受けたい?」

アルベルトは驚いた顔をした。

「はい」

俺は頷いた。

「現在、王都ではごみ処理にどれくらいの費用がかかっていますか?」

アルベルトは書類を確認した。

「年間、金貨五万枚ほどです」

「……なるほど」

俺は考えた。

年間五万枚。

かなり大きな支出だ。

「その費用を減らせるかもしれません」

アルベルトが目を細めた。

「……本当ですか?」

「はい」

俺は説明した。

金属くずは再生する。

魔石は修復する。

魔道具は部品を回収する。

生ごみは適切に処理して肥料にする。

木材は再利用する。

そして、再利用できないものだけを処分する。

「ごみの量そのものを減らすんです」

アルベルトは黙って聞いていた。

「……それで、費用は?」

俺は笑った。

「まずは一地区で試験させてください」

「試験?」

「はい。結果を見てから、正式な契約を結びましょう」

アルベルトはしばらく考えた。

そして頷いた。

「……分かりました」


一か月後。

王都の一地区で、ごみ回収の試験事業が始まった。

だが最初に俺を待っていたのは、既存の清掃人たちからの抗議だった。

「お前たちが無料で回収したら、俺たちの賃金は誰が払うんだ」

俺は回収所の前で頭を下げた。

資源を売る利益だけを計算し、彼らが毎朝路地を掃いてきた仕事を見落としていた。

「今までの清掃は残します。分別の仕事は皆さんに優先してお願いしたい」

「口約束じゃ困る」

そこで俺はアルベルトに、従来の清掃契約と新しい回収契約を分けた見積書を出した。

費用削減の数字が小さくなっても、人を切って作った利益を成功とは呼びたくなかった。

回収所を設置。

ごみを分別。

再利用できるものを回収。

残ったものを適切に処理する。

最初は住民も戸惑っていた。

「ごみを分ける?」

「面倒だな」

「何のために?」

だが、回収した金属や魔道具に買い取り価格を付けると、状況が変わった。

「これ、売れるのか!?」

「壊れた魔道具でも?」

「じゃあ、家の倉庫を片づけよう!」

住民たちは次々と廃棄物を持ち込んだ。

回収所は大忙しになった。

三か月後。

試験地区の報告書が完成した。

回収した廃棄物。

再資源化した量。

最終処分量。

そして費用。

アルベルトは報告書を見て、目を丸くした。

「……処分費用が四割減?」

「はい」

俺は頷いた。

「回収した資源の売上を差し引いた結果です」

「……信じられん」

アルベルトは何度も数字を確認した。

「しかも、町がきれいになっている」

「そうですね」

「清掃業者の雇用も増えている」

「はい」

アルベルトは深く息を吐いた。

「……オリバ殿」

「はい?」

「あなたは、ただの商人ではありませんね」

俺は笑った。

「ただのごみ屋ですよ」

アルベルトは首を振った。

「いいえ」

そして、真剣な顔で言った。

「あなたは、王国の仕組みを変えようとしている」

俺は少し考えた。

「……そこまで大げさなつもりはないんですが」

アルベルトは笑った。

「大げさではありません」


数日後。

王城から一通の手紙が届いた。

封には、王国の紋章。

ミリアが震える手で差し出した。

「オリバさん……」

「どうした?」

「王城からです……」

「王城?」

俺は封を開けた。

中には、国王からの感謝状が入っていた。

王都のごみ処理改善。

財政負担の軽減。

資源の有効利用。

それらの功績を称える内容だった。

俺は少し驚いた。

「……国王からか」

ミリアは目を輝かせた。

「すごいです!」

「そうだな」

「オリバさん、国王に認められたんですよ!」

俺は笑った。

「じゃあ、もっと頑張らないとな」

だが、その感謝状を受け取ったことで、俺は思わぬ問題に巻き込まれることになる。

王都の巨大商会が、俺たちの事業に目をつけたのだ。

その日の夕刻、俺は王都の西区にある回収場へ足を運んだ。

契約書に署名する前に、実際に働く人間の顔を見ておきたかったからだ。

門の前では、荷車を引いた老人が衛兵と口論していた。

「今日も持ち帰れと言うのか。明日になれば腐ってしまう!」

「順番だ。許可のない荷車は通せない」

俺は老人に声をかけた。

「何を運んできたんです?」

「市場で売れ残った野菜だ。畑に戻したいが、城門の外へ出すにも金がかかる」

老人の手は荷綱で擦り切れていた。

俺が王都のごみを金貨に換えられると喜んでいる間にも、誰かが余計な費用を払っている。

「ミリア。今の処理費用を区画別に調べてくれ」

「契約の前にですか?」

「契約の前だからだ。数字だけ見て引き受けたら、この人たちの困りごとまで買い取れない」


翌朝、アルベルトの執務室で調査結果を突き合わせた。

市が支払う処理費用の半分近くは、廃棄物そのものではなく、城門と集積場の間を何度も往復する運搬に消えていた。

俺は地図に三つの丸を描いた。

「市場の近くで分別し、再生できるものだけを工房へ運びます。腐るものは農地へ戻す。そうすれば荷車の数が減ります」

アルベルトは帳簿を指で押さえた。

「市場の商人は、臭いが出る施設を近所に置くのを嫌がるでしょう」

「だから密閉容器を使う。最初の一週間は、俺が費用を持ちます」

「失敗すれば?」

「元の処理に戻して、損失も俺が負担する」

ミリアが横から俺の袖を引いた。

「オリバさん、そんな約束をしたら、王都の利益が消えます」

「利益が出るかどうかを試すための費用だよ。最初から安全だと言い切る方が高くつく」

試験初日、密閉容器の一つから汁が漏れた。

市場の商人たちは一斉に怒鳴り、俺はその場で作業を止めた。

原因は容器のふたではなく、荷車の揺れで固定具が外れたことだった。

「ふたを二重にしても駄目です」

と作業員が言った。

「なら、荷台に留め具を付けよう。容器の形を変えるより早い」

俺はボルグ親方の工房へ図面を送り、翌日の荷車には改良した金具を取り付けた。

三日目、商人の一人が容器を指で叩いた。

「今日は臭わないな」

「明日も同じとは限りません。だから記録を続けます」

俺が答えると、その男は少しだけ笑った。

契約の翌月、試験地区の収支は予想を下回った。

新しい留め具の修理費が重なったのだ。

アルベルトは

「成功と報告しても誰も疑わない」

と言った。

俺は首を振った。

市場の老人に約束したのは、立派な報告書ではなく荷車の往復を減らすことだ。


翌月の契約には、収支が赤字でも安全対策費を削らない条項を残した。

一週間後、老人が空の荷車で回収場へ来た。

「野菜くずを捨てるために、城門を往復しなくてよくなった」

俺はその言葉を聞いて、契約書の最後の条項を書き直した。

王都が払う費用だけではなく、商人と運搬人の負担も毎月報告する。

アルベルトは追加した一行を読んで、長く黙った。

「あなたは、ごみを買いに来たのではなかったのですか」

「買いに来ましたよ。でも、ごみの値段は、捨てる人が困っている理由を知らないと決められません」

俺は署名をした。

王都のごみ山が宝に見えたのは確かだ。

けれど俺は、その山の下で苦労している人まで見落としたくなかった。

王都の老人が荷車を押して帰る姿を、アルベルトも黙って見送っていた。

試験地区の赤字が確定すると、保証金の一部が市に留め置かれた。

俺は新しい回収車を買う予定を取り消した。

運搬係は不満を口にしたが、車両を増やしても修理の遅れは解決しない。

留め具を直した職人に現場を見てもらい、車両の点検日を先に決めた。

王都での拡大は一か月遅れる。

その損失をミリアが帳簿に記し、俺は自分の名前で承認した。

王城から届いた感謝状は、豪華な金縁の額に入っていた。

ミリアは事務所の壁に掛けようとしたが、釘を打つ場所が見つからない。

そこには清掃人たちの作業予定と、荷車の点検表が隙間なく貼られていた。

「どれか外しますか?」

俺が迷っていると、市場の老人が孫を連れてやってきた。

「今月から、城門まで生ごみを運ばなくてよくなった。礼を言いに来たんじゃない。孫に新しい回収所を見せたくてな」

孫は壁の作業表を指さした。

「おじいちゃんの名前がある!」

老人は照れくさそうに笑った。

以前は廃棄物を運ぶために、孫との夕食に間に合わない日が多かったという。

ミリアは額を持ったまま立ち尽くした。

「オリバさん、感謝状はどこへ?」

俺は作業表の下に、小さな棚を作るよう頼んだ。

額はそこへ置いた。

壁から点検表を外す理由にはならない。

帰り際、孫が老人の手を引いた。

「今日は一緒に食べようね」

老人がうなずくのを見て、ミリアは棚の感謝状を少しだけ奥へ押した。

金縁の文字より、戸口を出ていく二人の笑い声の方が、ずっと長く事務所に残った。

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