↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/66

第11話 王都のごみ捨て場を見たら、金貨百万枚が落ちていた

王都に到着した翌朝。

俺が最初に向かった場所は、王城でも商業組合でもなかった。

ごみ捨て場だった。

「……オリバさん」

ミリアが呆れた顔をする。

「せっかく王都に来たのに、最初に行くのがごみ捨て場なんですか?」

「当然だろ?」

「当然じゃありません!」

俺は笑った。

王都は人口二十万人を超える巨大都市だ。

毎日、大量のごみが出る。

壊れた魔道具。

金属くず。

食料廃棄物。

建築廃材。

そして、王城や貴族の屋敷から出る高級品の廃棄物。

俺にとっては、宝の山だった。

王都の北側。

巨大なごみ処分場。

そこには、見渡す限りの廃棄物が積まれていた。

「……すごいな」

俺は思わず呟いた。

ミリアが鼻を押さえる。

「臭いもすごいです……」

「まあな」

俺は足元の壊れた魔道具を拾った。

鑑定。

【高級魔道具の残骸】

再利用可能部品:多数

推定回収価値:金貨八枚

次。

【破損魔力制御板】

希少金属含有

推定回収価値:金貨十二枚

さらに次。

【廃棄魔石】

再生可能率:95%

推定回収価値:金貨五枚

俺は笑った。

「……おいおい」

ミリアが尋ねる。

「またですか?」

「まただ」

俺はごみ山を見渡した。

ここには、町の何十倍もの廃棄物がある。

しかも、貴族や王城から出る高級魔道具の残骸まで混じっている。

「……これはすごいぞ」

俺は呟いた。

「何がですか?」

俺は笑った。

「王都のごみだけで、金貨百万枚分の資源が眠っているかもしれない」

ミリアは固まった。

「……ひゃくまん?」

「可能性の話だけどな」

「金貨?」

「ああ」

ミリアはゆっくり座り込んだ。

「……もう驚くのに疲れました」

俺は笑った。

「慣れろ」

「無理です!」


その日の午後。

俺たちは王都の商業組合を訪れた。

巨大な建物。

豪華な玄関。

中には多くの商人が集まっていた。

受付で名前を告げる。

「オリバ資源商会です」

受付の女性が帳簿を確認した。

そして、目を見開いた。

「……オリバ資源商会?」

「はい」

「魔道具部品を安く供給している、あの?」

「そうです」

受付の女性は慌てて立ち上がった。

「少々お待ちください!」

数分後。

奥から立派な服を着た男が現れた。

「あなたがオリバ殿ですか」

「はい」

「私は王都商業組合長、アルベルトです」

男は微笑んだ。

「お会いできて光栄です」

俺は頭を下げた。

「こちらこそ」

アルベルトは俺を会議室へ案内した。

そして、いきなり尋ねた。

「オリバ殿」

「はい?」

「あなたの商会は、なぜあれほど安く魔道具部品を供給できるのですか?」

俺は笑った。

「材料費が安いからです」

「材料費?」

「はい」

「どこから仕入れているのです?」

俺は答えた。

「ごみです」

アルベルトは固まった。

「…………」

そして、ゆっくり尋ねた。

「……今、何と?」

「ごみです」

「……ごみ?」

「はい」

アルベルトはしばらく黙った。

そして

「……詳しく聞かせていただけますか?」

俺は笑った。

「もちろんです」

商談の条件を詰めたところで、アルベルトは机に一枚の地図を置いた。

王都のごみ捨て場の下には、古い排水路が走っているという。

「雨季に掘り返せば、北区の家々が浸水する」

金貨百万枚の見込みより、そこに暮らす人々の家が先だった。

俺は一番価値の高い区画の回収を延期し、排水路の補修費を見積書に加えた。

アルベルトは目を細めた。

「儲かる場所を、最初に諦めるのか」

「諦めません。順番を変えるだけです」

回収許可の印が押されたのは、補修の責任者と住民代表の署名が揃ってからだった。

商談の途中、アルベルトは窓の外に目を向けた。

「あなたの計算には、一つ欠けているものがあります」

「何でしょう」

「そのごみ山を、誰が所有しているかです」

俺は椅子に座り直した。

町では捨てられたものを集めるだけで済んだ。

だが王都では、処分場の土地は市の管理下にあり、回収権は複数の業者に分けて与えられているという。

「価値があるからと勝手に持ち出せば、盗みになります」

「……危ないところでした」

「あなたほどの商人でも、王都の決まりには不慣れなようですね」

俺は素直に頷いた。

商業組合を出ると、ミリアがため息をついた。

「百万枚どころか、一枚も持ち帰れませんでしたね」

「いや、収穫はあった」

「何ですか?」

「ごみを売る前に、持ち主と話す必要があるってことだ」

ミリアは呆れた顔をしたが、俺には大切な発見だった。


翌朝、俺たちは北側の処分場へ戻った。

門番に正式な見学許可を見せると、灰色の作業着を着た監督が案内してくれた。

「ここでは毎日、荷車が何十台も入ります。雨の日は車輪が泥にはまって動きません」

監督は深い轍を指した。

俺が目を輝かせていたごみ山の手前で、作業員が膝まで泥に埋まりながら車を押している。

「まず道を直した方がいいですね」

「誰の金で?」

その問いに、俺は答えられなかった。

少し先で、若い作業員が壊れた魔道具を手にしていた。

俺が価値を鑑定しようと近づくと、監督が腕をつかんだ。

「触るな!」

次の瞬間、魔道具の割れ目から青白い火花が走った。

若い作業員は反射的に投げ捨て、地面に転がった。

「怪我は?」

「大丈夫です。でも、さっきまで光ってなかったのに……」

俺は背筋が冷たくなった。

再利用可能な魔石ほど、壊れた制御板につながっていれば危険なこともある。

金貨十二枚という数字だけを見て、手を伸ばすところだった。


その日の午後、俺は処分場の作業員たちを集めた。

「王都のごみを買いたい。ただし、皆さんの仕事を奪いたいわけじゃない」

年配の作業員が鼻で笑った。

「高い値が付く物だけ持っていって、残りは俺たちに押しつけるんだろう」

「そう思われても仕方ない。だから、危険物の選別と運搬の費用も見積もりに入れたい」

「儲けが減るぞ」

「怪我人が出るよりはいい」

俺は監督に頼み、危険物を分ける場所と、雨でも荷車が通れる仮設の道を図面に書き込んだ。

ミリアは作業員から一人ずつ困り事を聞き、帳面を埋めていった。

三日後、アルベルトに二枚の見積書を見せた。

一枚は資源の回収価値。

もう一枚は安全対策、運搬、作業員への賃金を含む費用だった。

「百万枚の宝と言っていた割には、ずいぶん慎重ですね」

「百万枚は、山全体を鑑定したわけじゃない。俺の見込みです」

俺は数字の横に大きく『推定』と書いた。

「試験地区を決めて、実際に測らせてください。利益が出なければ、その理由も報告します」

アルベルトはしばらく書類を見つめていた。

「この町では、利益の話だけをする商人が多い。損をする可能性まで自分で書く人は珍しい」

「俺は、ごみの中に宝があると思っています。でも、宝を拾う人が怪我をする商売にはしたくない」

「分かりました。市の担当者との面談を取りましょう」

試験地区の選定を始めると、最初の候補地で住民の反対が起きた。

子どもの通学路を運搬車が塞ぐという。

俺は地図の最短経路に引いた線を消し、遠回りの道を選んだ。

利益の見込みは減った。

けれど説明会で、さっきまで腕を組んでいた母親が初めて質問をしてくれた。

俺は答えを急がず、危険な時間帯を一緒に書き込んだ。

商談のあと、組合の裏口で荷運びの少年が俺を呼び止めた。

「ごみが材料なら、俺たちの集めた分も買ってくれるのか」

彼の袋には、貴族の屋敷から捨てられた金具が詰まっていた。

俺は値を告げる前に、屋敷の持ち出し許可があるか尋ねた。

少年は黙り込み、やがて首を振った。

俺は買わず、代わりに許可を取って回収する仕事の話をした。

王都で最初に断った取引が、最初の雇用の相談になった。

王都で回収を始める条件として、市は保証金を求めた。

俺の手元にある資金では、三地区同時の契約は結べない。

ミリアは帳簿を閉じて言った。

「どこか一つを選びましょう」

俺は最も利益の大きい地区ではなく、通学路の迂回が必要な地区を選んだ。

そこで安全に運べなければ、ほかの地区へ広げる資格はない。

断った二地区の担当者には、資金が足りないと正直に伝えた。

試験地区で最初の回収日が来た。

俺が鑑定で高値を付けた金属くずの山を前に、作業員たちは一歩も動かなかった。

「これを売ったら、今までの賃金はどうなる」

監督が尋ねる。

俺は契約書の最低日当の条項を読み上げた。

だが少年は首を振った。

「字だけなら、前の業者も立派なことを書いたよ」

俺はその場でミリアに頼み、初日の賃金袋を作業前に監督へ預けた。

危険物の仕分けを終えたら、回収量に関係なく支払う。

監督は封を開けて金額を確かめ、ようやく手袋をはめた。


午後、希少金属を含む壊れた制御板が見つかった。

少年が

「百万枚の一部だ!」

と声を上げる。

だが制御板の下には割れた魔石があり、触れれば火傷しかねない。

「止まれ!」

少年を引き戻したのは監督だった。

俺は回収を中断し、危険物用の箱を運ばせた。

予定していた回収量は半分にも届かなかった。

夕方、少年は賃金袋を受け取ると何度も中身を数えた。

「少ししか集められなかったのに、同じ額なのか」

「今日は、無事に帰れた人数も成果だからな」

監督は笑わなかった。

ただ、明日の作業表に危険物の担当者を自分の手で書き込んだ。

金貨百万枚の見込みはまだ紙の上にある。

だが、この地区の人々は明日もここへ来てくれる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。