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1-4、我、城下町にて

将来が不安なら 見なければいい

太陽を直接見たら目を傷めるし

イカロスは焼け落ちた

人間には 現在いまだけ見てるのがお似合いだ

今日この時を生きれば

誰にでも明日はやってくる

将来とはその積み重ねなだけだ

「・・・うーん。暑苦しい!!」


そう言いながら、俺はガシャンガシャンと鎧を着こんで歩いていた。

万が一本物の兵士と出くわす可能性を考えたら、着こんでおく必要がある。


「サイズはピッタリですけど、いつも着慣れているわけではないのが原因かと。体の動かし方が兵士の

「それ」とは異なっている・・・?」


リリィは俺が鎧慣れしてないことから考察味めてるし。

ここは隠し通路。俺たちはアザール国首都、アークの城下町に潜入すべく、現在進行形でその道を歩いている。

命を狙われているリリィも、身分証明できない俺も、まともな手段では入ることはできない。

だからこんな手を使っているのだが。


「その鎧、重くはありませんか?」

「まあ、重くないわけではないけど・・まあ、これくらいなら大丈夫そう?」


俺は改めて考える。

今までの事から察するに、俺は戦闘にはだいぶ慣れているようだ。体も平均男性の筋量を上回っているのだろう。酷使してきたにも関わらず回復も早く感じる。感じる程度だが。

・・・俺は一体何者なんだ?

ますますわからん。

そんなことを考えていると木製の扉が見えてきた。

どうやら目的地、つまり出口に着いたらしい。


「じゃあ作戦通り、俺がまず先に出て様子を見るから、合図したらリリィも後をつけてきてくれ。


他の兵士との遭遇もあり得るから、その場合は待機、最悪、俺をおとりに逃走してくれ。」


「はい。でも、本当に大丈夫ですか?万が一正体がバレて、戦闘にでもなったら・・・」

「まあ何とかなるでしょ。俺も国お抱えの騎士団の相手なんて御免だし、魔法師団なんてほぼ勝ち目ない

だろうしね。逃走一択よ。だから心配するなって。俺が動けるのは知ってるだろ?」


「それは・・・はい。そうですけど・・・」


リリィは心配そうに顔を伏せる。

感情に嘘をつかない性格なのか。まあ、今は「お嬢様」という肩書に、強制力が働いてない故なのかもしれんが。

俺はそんなリリィの顔を、覗き込むようにして言う。


「責任感じる必要はねえし、そもそも俺の発案だぜ?リリィも情報提供も加味して、これが最善だと判断

しただけさ。俺は必ず生き延びるよ。お互い死なずに、お互いの目的を達成しよう。」


そう言いながら、俺は拳を軽く突き出した。


「ってことでこれからもよろしく!リリィ!」


それに対しリリィも、拳を合わせる。


「ええ。これからもよろしくお願いします・・!」


リリィは心底嬉しそうに笑顔を見せた。少なくとも俺にはそう見えた。

その後、俺は扉に手を掛ける。

この先に待ち受けるものが何かわからずとも、進むしかないと己に言い聞かせて。

ギィー、と音を立てながら、扉は開いた。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





現在時刻、20時30分。

私、パリス=リーディスは、メイド長としての今日の仕事を済ませ、帰路に就くため、廊下を歩いている。

巡回してくる騎士団の兵士の方々に軽く挨拶をしながら、国王夫妻に挨拶をしに行くのが、日課になっている。

この城に勤めて早30年。

齢50を超える私は、国王夫妻を幼き頃から知っているがゆえ、この国に最後まで従事することを、

否、あのご家族に付き従うつもりで働いてきた。


「・・・・・はあ」


ため息が出る。

いけない、幸せが逃げてしまうわ。

せめて逃げるなら、ご夫妻のほうへ逃げてほしいけれど。

そんなことを考えながら、ご夫妻の寝室へたどり着く。

私は扉をコンコン、とノックし、「失礼します。パリスです。」と言い終わったのち、寝室の中へ入室した。

夜の月明りが差し込み、空気の入れ替えのために開けていた風が、カーテンを揺らす。

それにより生み出される空気の軽さの反面、ベッドに寝ているご夫妻の周りの空気は、まるでそこだけ空間が切り分けられたように重く、苦しく感じた。

・・・私の気のせいなのかもしれない。

でも、そんな思いとは裏腹に、ご夫妻は目を覚まさない。


「・・・国王様、王妃様、今日も城の清掃や食事、ご来賓の方々の接客、そして、メイド長としての若手

の育成など、手が届くまでの範囲で仕事に従事させていただきました。昔、国王様には「働きすぎだ」と諫められ、王妃様には「婚期を逃してしまうわよ?」と心配なされた私ですが、アザール家のメイドとして、お傍に入れるだけで幸せ・・だったのです。なのに・・・・」


話しているうちに、だんだん涙腺が弱くなってきた。

もう、いい年なのかもしれない。


「ご夫妻が「こんな」状態に何も・・・できず、あまつさえご子息様たちを・・・死なせてしまう私は・・・!」


違う。きっとそんなものではない。

でも・・・


「あなたたちのお傍にいる資格など・・なかったのでしょうね・・・。」


まるで力が抜けるように、涙がこぼれる。


「ララァ様、リリィ様、今、どこにおられるのですか・・・・うう・・・」


行方不明になっている長男、長女のお二方・・・。

一体、アザール王家はどうなってしまうのか。

ああ、やっぱり、

年のせいで泣いてしまう。

そういうことが言える日々にはもう、戻らないのだろうか。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ふぉおおおおお!!あ、危なかったですわああああ!?」

「マジで死ぬかと思った・・・いやあ心の臓が消し飛ぶかと・・・!!」


俺とリリィは汗だらだらで侵入に成功していた。どちらもテンションがおかしくなっている。

現在位置はアーク城下町、そのシンボルの一つのバカでかい噴水エリア、そこから伸びた脇道に隠れている。


「まさか気絶させた兵士の親友に出くわすなんてな・・・速攻でバレるとこだった。」

「うまく話を合わせたのはいいですけど!!その後の対応は何ですかあれは!!」

「だってしゃーないじゃんよ!?リリィを一目に入れずに城から脱出させるには、俺が目立って気を引くしかないじゃん!!」

「だからってその親友の兵士と一緒に腕相撲大会を開こうなんて言います普通!?城内の兵士たちほぼ全員参加してきますし!?私も結局見つかって参加させられるし!!そのせいでだいぶ時間を取られてしまいましたわ!!!」

「いやあれはその親友殿が言い出したんだし、合わせなきゃバレてたって絶対!!でもその隙をついて何とか抜け出せたろ!?俺達一回戦で負けてさ!ほかの奴らがやってる最中に!!」

「ふうー!ふうー!ふうー・・・ふううう・・・」


リリィは深く深呼吸し、テンションを元に戻そうとしている。

俺も心臓の鼓動を落ち着かせるべく、同じように深呼吸をした。


「ま、まあ、なぜか全員酔っぱらってたのが、不幸中の幸いだなこりゃ、でなきゃバレてたぜこれ・・・」

「・・・考えてみれば、仕事中にも関わらず、酒をあおっているとは・・・今抱えている問題を片付けたら、全員懲らしめなければなりませんわね・・フフフフフ・・・!!」

「・・・!?リリィの背後から凄まじいオーラが、いや、魔法!?炎か!?」


リリィがいつもより3倍は大きく見えるほど魔力が溢れている・・・相当頭にきてるな。


「兵士という責務を放棄して、ましてや腕相撲大会などとは・・・そんなんだから税金泥棒だの国お抱えの無職だのと・・・ブツブツブツブツ・・・」

「リリィ落ち着け!魔力漏れてるから!?バレちゃう!感知魔法でバレちゃうから!!!」


必死になだめる俺と怒りでキャラがぶれるリリィ。

侵入成功、とは言ったものの、お互い無事ではないらしい。別の意味で。




しばらくリリィをなだめる&休憩がてら街を歩く俺達。

もちろん、リリィにもらった小遣いで、多きめのローブと仮面をリリィ用に買って(前まで使っていたローブは破れて使い物にならなくなったらしい)、正体がバレないようにしている。

なんなら俺のぶんまで買ってもいいとのことだったが、別にすぐに必要なほどボロボロではないし、費用を出してもらってる手前、気が引けた。

お姫様に金を出させる身元不明人とか、絵面がひどすぎる。

まあ、そんなこともあったが、俺たちはたどり着いたわけだ。

リリィにとっては久しぶりの、俺にとっては異世界にきて、初めての街観光となっている。


「そういえば、鎧は脱いだのですね。あれはあれで似合ってましたのに。ふふふ。」

「いや俺には合わんよあれは。暑苦しいし、兵士の恰好なら情報収集も楽って考えだったけど、考えてみれば逆に警戒される可能性もあったし、逆に、見慣れない俺みたいな旅人のほうが、案外都合がいいかもなって。何かあった時に軽装のほうが対応しやすいし。」

「そういうものですか。ということはもう鎧姿のあなたはこれで見納めですね。少し残念です。」

「もーその話はいいだろ?いろいろ片付いたらまた見せてやるからさ。それよりもさ」

「?」

「久しぶりの街はどーよ?3か月ぶりなんだっけ?俺から見ても活気がいいよな。この街。」

「・・・ええ。相変わらずですね。この街は。いえ、この国は、というところでしょうか。」

「へへ、そうだな。」


歩いていれば賑やかさの洗礼を受け、その活気と熱に気持ちが昂る。

様々な店があり、さっき寄った洋服店や肉屋、魚屋、八百屋、宝石店、そして異世界では醍醐味の宿屋など。数えるには丸一日使って足りるかどうかわからないほどだ。

まあ、俺が荷物を持っているので、これ以上持つのはしんどいわけだが。


「ふふ、目の付け所がほとんど飲食に偏っていましたね。」

「しゃーねーべ。腹減ってるもんよ~。食材だって買い込んどかないとだろ?もうないって話だし。

あ~とは、寝泊りする場所か。」

「ええ。先ほどの出店で大体買えましたので、あとは宿屋を決めなければなのですが・・。」

「それって大丈夫なのか?命狙われてるんだろ?宿屋なんて情報が集まる場所だ。俺たちと同じように敵さま方も来るんじゃねーか?」

「どうでしょう?私がアークを抜け出してから一か月は経っていますし、もうそれ自体を断念している可能性もあります。それにここは現状敵地と言って差し支えなく、無防備に外で寝るより、侵入ルートを絞りやすい宿屋のほうが迎撃もしやすいかと。私の魔法ならそれも難しくはありません。」

「ま、そうか。デメリットよりメリットのほうがでかいわな。俺としても屋内のほうが戦いやすそうだし。俺は魔法なんて使えないからな~。あ、そうだ。」


俺は並行して歩いてたのをやめ、一人前に出る。


「俺に魔法教えてくれよ。そしたら戦力になるんじゃね?」


俺は目を輝かせてリリィに提案する。いや、多分輝いてたと思う!


「ええっとお~、それは難しいかと・・思います。」

「うぇ?なぜじゃ?」

「まあ、一朝一夕で習得できるものではないというのもありますが、まずあなたの属性を知らないといけなくて・・・まあ、この続きはは宿屋で話しましょう。」


そういってリリィは俺に並ぶように隣を歩き、宿屋を探した。

もう夜21時。遅めの時間になってきてはいるが、

街の喧騒はやまず、

そこを歩く二人の姿は

街並みと同化し、消えていった。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「はい、間違いありません。」


街の喧騒を他所に、水晶に語り掛ける男がいる。

ここは街のどこにでもある路地裏、その一つ。

その男の見つめる先には、ローブを深くかぶった者と、この街では見慣れない男が並歩していた。


「どうやら我々の存在には気づいてない様子。うまくいきましたね」

「ーーーーーーーーーーーー。」


水晶からは雑音が流れている。しかもかなり小さな音だ。

喧騒溢れる街には一切感知されないだろう。


「ええ、仰る通りで。「兄妹の訃報を流せば、確実に戻ってくる」と言った、あなたの目論見通りかと。」

「ーーーーーーーーーー。」

「はい、手筈通りに。皆が寝静まった後に、作戦を実行します。ただ一つ気がかりがありまして。」

「ーーーーーーーー?」


男は視線が切れないように水晶に語り掛ける。


「はい。姫の隣にいる男、一体何者なのかと。我々の情報網にもあんな男の存在は載っていません。恰好といい立ち振る舞いと言い、まるで「見たことないものを見ている」ような感じでして・・・。」

「ーーーーーーーーー。」

「は、はい。かしこまりました。姫と同じく捕え、連れていきます。」


男は懐に隠した「道具」を見ながら答える。


「ーーーーーーー!!」

「はっ!すべてはこの国のために。」


そう言って男は街の光が届かぬ闇の中に姿を消した。








すぐ近くに危機が迫っていることを

二人はまだ知らない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「・・・??」

「どうしました?」


リリィが怪訝な顔をして問いかける。


「いや、なんか視線を感じた気がして・・・??」


俺は直感に任せて思ったことを口にした。

その視線がまるで猛獣に狙われているかのような、そんな感覚にさせたからだ。


「まあ、私と言いあなたといい、目立つ格好をしていますし・・・。」


改めて考えてみたら、片やローブに身を包み、片やここらでは見慣れない現代服。

まあ、そりゃ視線も集めるか?


「恰好、やっぱり変えたほうがよかったか?」

「いいえ、特に問題ありません。あなたの気遣いもごもっともでしたし、あなたに問題がなければこのままでいいでしょう。私からしてもはぐれた時に見つけやすいですしね。」

「そうか。ならばとっとと宿屋を決めようぜ。」

「ええ。それで提案なのですが・・・。」


リリィが改まって言う。


「お?なんかいい宿でも知ってる?」

「ええ、いい宿ですよ。そして、知り合いの宿でもありまして・・・。」

「いいね!そこに行こう!ワンちゃん事情を聞いてくれて、助けてくれるかも!」

「どうやらそうもいかないようです。」


そういった俺に対しリリィの顔が曇った。


「??どゆこと?」

「宿についてから話そうと思ったのですが、これを・・・」


そう言って、リリィは俺に紙を手渡した。

たくさんの文字と複数の絵が載っている。


「新聞か?どれどれ・・・?」

「先ほどあなたが買い物に行っている間に出ていた「号外」です。」

「えーっと・・・・んん!?」


俺は読んで、驚いた。

書いてある内容が嘘だらけで、かつ、許せない内容だったからだ。

タイトルはこうだ。


       【王家ご兄弟殺害!犯人はリリィ王女!王位継承を狙った犯行か!?】


       【王女逃走中!罪人の王女に多額の懸賞金が!!】


「なんだぁ?この内容??リリィの事を徹底的に叩いてるじゃん!書いてあることも嘘だらけだし!リリィがそんなことするわけないだろうが!!」

「声が大きいです!?落ち着いてください!!」


そう言うリリィの声で俺は声を抑える。

だがそれはすでに遅く、周囲の注目を集めてしまっていた。


「悪い、つい・・。」

「とにかく宿へ行きましょう。この号外の内容次第では、敵がさらに増えることになりますので。」

「あ、ああ。そうだな。行こう。」


その場から逃げるように俺たちは後にした。

展開が変わる。その予兆を感じながら、

来るはずの脅威に備えるために。






現在時刻21時。

しばらく走っていると、目的地が見えてきた。


「あ、あれか?」

「ええ・・その通りです。」


リリィが目線を送る先には、周りの建物とは格段と違う造形をしていた。

通路がそこで「T」に道別れしている。

今いるこの国を現代風に言うなら、中世時代の建築物、いわゆる「洋式」。

だが今たどり着いたこの場所は異質。

周りの建物と違い、木製で出来ている。

いうなればーーー


「これって・・・温泉旅館・・か!?」


俺は驚いた。

和式。すなわち日本の文化である。

わー!和式だ!すげえー!!!と内心テンションがまた上がっているが、当然である。

まさか異世界で相まみえることになるとは。


「ええ。小さいころからお城を抜け出しては来る、お気に入りの場所の一つでしてよ。」


さぁ、行きましょう。と、玄関へ向かうリリィと追いかける俺。

建物の階数は4階ほど。観光地にあるものをイメージしてもらえれば分かりやすいか。

引き戸の玄関に暖簾、その暖簾には「ゆ」のマーク。

そんな玄関をくぐれば、人の数がまあ多く、子供なら迷子が出てもおかしくないレベルだ。


「繁盛してるなあ~。流石温泉パワーって所か。」

「まあ、このあたりでは珍しいですからね。今から20年前に開業したらしく、元を辿れば、ここから北東のほうにある国から来た方々が、故郷の文化を広めるためにここアザールに越してきたとか。」

「へえ~。」


俺達は玄関で靴を脱ぎつつ、専用の下駄箱にいれて裸足で上がった。

畳の床にいい木の香り。

なんだか日本に戻ってきたみたいだ。

そんな風に思っていると、リリィが受付の従業員と話を始めていた。


「いらっしゃいませ。温泉のご利用でしょうか?それとも宿泊でのご利用でしょうか?」

「宿泊を希望します。2名で。期間は1週間ほどの滞在を考えていますが、可能でしょうか?」


そういってリリィは金貨の入った袋から数十枚取り出し、従業員に見せる。

従業員も面食らったようで、「しょ、少々お待ちくださいませ」と、裏に引っ込んでいった。

貨幣の価値が分からないが、相当な額なのだろう。

リリィの清廉な対応と風格も相まって、ドラマのワンシーンを見ているかのようだ。

流石お嬢様・・・!素敵!!と、ときめく俺であった。

そんな目を輝かせている俺を余所に、戻ってきた従業員とリリィの話し合いは続く。


「お部屋の空きを確認しましたところ、都合よく2名様用の客室が空いておりましたので、そちらへご案内いたします!」


従業員はそそくさと歩き、俺たちを案内し始めた。

歩きながら改めて館内を見回す。

見慣れたはずのふすまがとても新鮮に見える。鼻に意識を集中させれば御馳走の匂いに腹の虫が鳴り、蠟燭に照らされた提灯が、雰囲気をよりよく仕上げている。

俺達は階段を上り、最上階の四階へ。

その一室、通路の端にある部屋に案内された俺たち。

「では、ごゆっくり・・。」と、従業員が言い、ふすまが閉じられる。

二人だけの部屋で、沈黙を引き裂いたのは俺だった。


「なあ、リリィ?」

「・・・・・」

「この部屋ってさ・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いで。」

「え?」

「何も、言わないで・・・ください・・・////////」

「・・・あーうん。察した。これはつまり?「予想外」・・・だな?」

「・・・///」


頷きながら顔を手で覆う王女様。

それを見たのち、改めて部屋を見回す俺。

廊下にもあった提灯の明かりが部屋全体を怪しく照らし、

中央には布団が川の字で並べられている。

2名様用の部屋で最上階・・・・。

つまり、俺たちが案内された場所は。


「逢引き部屋ってことね・・・はあ、泣けるぜ。」


なんか逆に冷静になった。

知識だけはあるが、自身の記憶がなくなっている俺にとっては、経験があるかないかなど図るすべがない。


「どうやら・・・貴族の結婚旅行と、か、勘違いされたみたいで・・・・ああ~///」


リリィが悶え苦しんでいる。


「あー、リリィはローブで顔隠してたし、あんな大金ポンと出せる庶民なんているわけないから、スタッフも、いや、従業員って言い方か。勘違いする理由としては納得だわ。しかも一週間」

「やめてください!!言わないで!!!!/////」


リリィが頭を抱え込んで転がり回っている。畳のおかげかあまり騒音はしない。


「もう。一国の姫が、こ、こんなはしたない・・・!調査においては長すぎず、短すぎない滞在期間にしただけですのに~~~~!!」

「リリィに一つアドバイスだ。」


そう言って転がるリリィを、足元に来たところで一歩前に出て衝突させて止める。


「こういうのは意識したら負けだ。俺たちはパーティーだ。仲間ってだけだ。辺に意識すると逆に苦しいぞ?」

「うう~。今まで一人旅だったので懸念から外れてました~///。恩人で仲間とは言え、相部屋にしてしまうなんて・・・!!」

「それに関しては俺もごめん。この世界の宿屋とか利用したことないし、リリィが小さいころからたまに来てるって言ってたから、任せたほうがいいかと。」

「こんな部屋があるなんて知りまぜんでしたよ~。そもそも温泉目当て出来てただけで、泊まったことなんて・・・。」

「ま、まあとにかくだ」


俺は流れを断ち切るため、リリィに提案をする。


「とりあえず温泉と飯を先に頂いちまおう。魔法の事とか新聞の内容とかの話もあるだろ?さっそく行動だ!」


そう言って背負っていた荷物を降ろし、俺はそそくさと部屋をあとにしようと準備する。

リリィも寝転がっていた体勢からぶつくさ言いながら荷物を降ろし、二人で部屋を後にする。

ここでしっかりと体を休め、明日に備えなくては。

そう考え、まずは温泉へ歩みを進めた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「・・・・・・・ぐっ、ううう・・・」


水滴の落ちる音が部屋中に木霊する。

ここはアザール国首都「アーク」に存在するどこかの地下牢。

長いこと使われていないのか、苔や蜘蛛の巣が多くあった。

そんな場所の一室に男が一人。

手足を鎖で繋がれた男は、体中を傷と痣だらけにして、そこにいた。


「・・・全くもって情けない・・日々の精進を怠ったつもりはないのだが・・・。」


そんなことを呟く男は天井を見上げる。

長いこと放置されていたせいか、老朽化が進み、見上げた天井からは月明りがこぼれていた。

その気になれば簡単に天井を壊して脱出できるが、この鎖が厄介だ。

男は鎖を見る。

鎖には文字が刻み込まれていて、紫色に怪しく光っている。


「厄介なものだな、魔法というものは。」


そう言いながら男は、抜けていく力を感じつつ、今までを振り返った。

思い出されるのは、国を思い、駆け抜けた幼き頃からの日々。

なあ、親友。

なぜだ?

お前ほどの男が、どうして・・・?

もしここを出れたなら、話したいことがたくさんある。

誰でもいい。誰か助けてくれ。

この不甲斐なく、力なき俺を。

「殿下・・王妃・・・ご子息様方・・・」

我が主たちは無事だろうか?

どうか、無事でいてくれ・・・。

どうか・・!!

そう願う男の思いは、

暗い部屋の片隅に消えていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!!!!!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!!!!」


旅館内に響き渡る豪快と言えるほどの雄たけび。

ラッシュの速さ比べを連想するかのような、そんな死闘が繰り広げられていた。


「・・・な、なあ・・・これ・・は?」


そんなところに、旅館利用者の一人、「トモッキー=ノール」という男が遭遇した。


「あ、ああ。俺も騒ぎを聞きつけてここへきたんだが・・・。」


そう答えるのは、同じく利用者の一人、「アーズ=ミハール」。

二人の男は同じく「偶然」、ここに立ち寄った者たち。

ここは一階。現在22時45分。

風呂を楽しみ、飯を食べ、明日買って帰る土産でも見て回ろうとしたところで、アーズとお土産で話が弾み、旅行話しに入ろうとしたところで、この騒ぎ。

双方好奇心には勝てず覗いてみたが、彼らが最初に思ったことはまたもや同じで、

なんだこれ?

すげえ早えし、うるせえ・・・。

これに尽きた。

男女の二人が北の国に伝わるという「卓球」なるもので遊戯をしているようなのだが、

圧が、熱が、意地の張り合いとも呼べるほどのぶつかり合いが凄まじかった。


「無駄ァ!!」

「っ!?」


そう考えてる間に、女のほうが男からポイントを奪取する。


「素人が玄人に追いつけるかぁ!!あなたは私にとっての、「腹ごなし」にすぎませんのよ!!おほほほほほほほほほ!!!」

「こ、このアマ~・・・!!なめんじゃあねえぜ・・・!!まだ勝負は終わってねえ!!」

「ほう?向かってくるのですか?負けを認めずにこの私に挑んでくると?北の国にて卓球を教わり、その教わった師匠すら完封して、国が開いた大会でベスト4に入ったこのわたくしに対して??」

「挑まなきゃ、「勝つ」ことができないんでなあ・・・!!」

「ほう?なら、さっさと向かってくるといいですわ・・・新米兵士が隊長に挑むように、時間は有限ですのよ?ほらほら~?」


そんなやり取りをしたのち、二人はまた、ものすごい速さで玉を弾き合っている。


「すげーなこりゃあ・・・見えるか?」

「いや、全く・・・どういう反射神経してるんだあの二人・・・いや、カップルか??」

「なるほど。喧嘩してるように見えて、実はめちゃくちゃ仲良しなのか?」

「はあ~、おじさんには何とも眩しく見えるよ。、確かこういうのを、「青春」っていうんだったか?同僚の受け売りだが。」

「アーズ、お前はあの二人のなんなんだ??おじちゃんポジションなの?」


そんなことを話し合っていたら、再び女のほうが男からポイントを奪う。


「おおおおおおおおお!!決着ううううううウウウウウウウウウ!!!!」

「こ、この俺がああああああああああああああああ!!!ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


女は膝をつきながら右手を頭の後ろから回して左首筋へ親指を立てている。

男も膝をついているが、両手を地面について倒れ伏している。

どうやら勝者が決まったらしい。

頭の中では鐘が鳴っていそうな気がする。

決着のついた部屋に、男二人の拍手が広がる。


「いやあ~すごいなあんたら、おれは初めて見たぜ。こんな熱い戦い!」

「全くだ。確かこういうのを「棚から牡丹餅」とかっていうんだっけか?」

「さあな?ただ、見ごたえはあったし、言い土産話になる。ありがとよ!」


そんな風に感謝すると、膝をついていた二人がこちらを見てキョトンとしている。

まるで、物珍しいものでも見るかのような感じで。


「ええ!?お、お二方はい、いつからそこに!?」

「誰だあんたら?え?なに??」


どうやら気づいてなかったらしく、息を切らしながらも返事を返してくれた。

俺達に気づかないほどに集中していたらしい。

ほんとに大したもんだ。


「あ、もしかして覗いちゃ悪かったか?カップルの営みだったりしたか?そりゃすまんかった!」


アーズが揶揄うように言う。


「はあ!?カ、カップルって・・・そんなわけないじゃないですかぁ!!!???」

「もう・・返す気力もねえよ・・・アー疲れた。遊びすぎた・・・。」

「ええ!?この子とは遊びだったってこと!?」

「解釈ゥ!!解釈が違ァう!!!」


なんだか即席の旅芸人チームみたいにノリがいい。


「そんなわけないっていうが、じゃあなんであんなに激しい戦いを繰り広げていたんだ?」


当然の疑問、というつもりはないが、

好奇心でここまでの過程が気になってしまった。

出会ったばかりの他人なのにずかずか入りこんでしまうのはよくないな。

悪い癖だ、俺の。


「あーそれはまあ、飯を食い終わった後の話なんだがーーー」


このカップル曰く、

話は、15分前に遡るらしい。


{ふう~風呂は露天風呂もサウナもあって気持ちよかった~。異世界でも最強なんだなぁ風呂って。}

{ご飯もおいしかったですね。懐石料理?というのがまたよかったです。そのあとのお茶の美味しさは言葉に出来ませんでした。ごたごたを片付けたら城にも導入しようかしら?}

{いいねえ~。日本の文化が異世界にも浸透してるって。なんか貴族として勘違いされてるからか、メニュー見るまでもなく出てきた時はどうしたものかと思っていたけど・・・俺まで嬉しくなっちゃうよ。}

{でも、いまだに信じられません。この世界とは異なる世界があるなんて・・。}

{まあ、俺もこうやって来るまでは空想上の話だと思ってたよ。でもまさか俺が来れるとはなあ~。どんな善行を積んだんだ?俺ってば?}

{記憶がないのが残念ですね。あなたの事をもっと知りたかったのですが・・}

{ごめんなぁ。いまだに思い出せないのよ。俺の事だけきれいに頭から抜けてるのよね。まぁ、代わりと言っては何だけど、俺の世界の、日本の話なら多少できるぜ?}

{いいですね!部屋に戻ったら、その話もしましょう!}

{そうしよか・・・ん?}

{どうしました?}

{いや、あれってもしかして、「卓球」か?}

{ああ、私が話した東北の地発祥の遊戯ですね。私が北の国に逃げた時も、大会が開いてましたよ?まさか・・・}

{ああ、俺の世界にあったぜ、卓球。俺以外にもこの世界に来た奴がいるのか?}

{そうかもしれませんね。あなたが来れたのなら、他に来た方がいてもおかしくありません。}

{うーむ・・・やってみるか?}

{え?いいのですか?言っておきますが私、強いですよ?}

{お?リリィ出来るの?いいね!やろ!俺が卓球できたのかはわからんけど、もしかしたら何か思い出せるかもだし、温泉旅館では卓球をやるのが常識だったはず、確か!!}

{なるほど、自身の世界の要素に触れることで記憶に刺激を与えようと・・・わかりました!やりましょう!久しぶりでわくわくします!}

{相手にとって不足なしってことね。よし、頑張っちゃうぞー!!!}



「・・・と、言うわけでこうなってる。ははは・・・俺の「相棒」がまさかの卓球強者とはな・・・。」


なんだろう。

訂正しなければならない。

この二人の関係をカップルなんてアーズは言ったけど、

これは違う。

人はこれをーーー


「うん。兄妹かな??」


まあ、こういうだろ。ノリと勢い含めて。


「いつの間にか俺も相棒もすげえ「凄みのある」キャラになってた気がしなくもないが、まあ、楽しかったからいいか。」

「・・・まあ、そうですね。ふふふ」


なんかその相棒、すげえ嬉しそうなんだけど?

兄妹って言われたのがすげえ嬉しかったのかな?

すげぇ仲良しじゃねーか。


「さて、私たちは戻りましょうか。いい時間ですし、汗は・・部屋のシャワーで流すとしましょう。」

「あ、ついてるんだ。へえ、なら俺もそれにしよ。さぁ戻りましょ~っと。」

「お二人はいかがします?」

「へ?」


俺はつい間抜けな返事をしてしまった。


「やります?「卓球」・・・?」


俺もアーズもあ互いを見合う。

女の相棒さんの顔がすげえ怪しさ満点なほどににやけている。

男のほうも負けないくらいにやけてる。

どうやら卓球を広めたいらしい。


「どうするっておまえ・・なあ?」

「そんなの、決まってるだろ?へへ」


そういうと、女と男はラケットを台の上に置き、双方、親指を立てて、その場を去る。

満足した顔を見せながら。

・・・・・・。

その場に残った男二人。

何も起こらないはずがなく・・・。


「さあ、勝負だ!トモッキー!」

「アーズ、手加減はしねえぜ・・?」


火蓋は切られた。

さぁ、第二ラウンドだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「・・・まあ、俺も悪いけどさ、流石にこれはひどくねーか?」

「・・・ごめんなさい、反射で、つい・・」


俺達は部屋の真ん中に、敷いてあった布団を隅に寄せ、机を挟んで座っていた。

机の上の湯飲みが茶柱を立てている。

リリィは顔を俯かせ、俺の頭はアフロになっている。

なぜこうなったか。話をしよう。

部屋に戻ってさあ風呂に入ろうとなった際、事件は起きた。

リリィに先を譲って、上がってくるのを待っていたのだが、

二度目の風呂にしてはなかなか出てこないリリィを心配し、

そんな時に叫び声が聞こえたもんだから、

即座に風呂場へ直行、んで入室。

結果。


{リリィ!!大丈夫か!?}

{いてて・・・え?}

{あ}

{ーーーーー!!!!????}


悲鳴とともに放たれた炎魔法は、

俺を諫めるのに苦労しなかった。


「だ、だって!異性には、ら、裸体なんて見せたことがないのですもの!!そういうのはもっと親密になってからとお母様から・・!」

「いや悪かったって!突然の事でびっくりしたんだよ!命狙われてるって言ってたしい!?今更かもだけど!心配だったのよ!!マジで!!」

「~///!!??・・ま、まあ、私が足を滑らせて転んでしまったのが悪いのですし・・・」

「あー、その、な?怪我は?大丈夫か?」


ばつが悪そうに俺は言う。


「え、ええ。まあ、問題、ありません・・・。」


リリィも顔を背けて言う。

ただでさえこの部屋の意味合いもあって気まずいのに、

リリィの裸体を見たせいでなお意識が・・・!

目線がリリィの体に・・!!

体を無理やりリリィの反対方向にむけ、頭を振る。

いかん!話題を変えて気を紛らわせないと!!


「あー、そういえば、あれだ、宿に着いたら色々話してくれるんだったよな?聞かせてくれよ。な?」

「・・・おほん、そうですね。お話しましょう。・・ところでなぜ体をそちらへ?話し合うのですからこちらに向いていただかないと。」

「あーいや、時に理由はないんだが、そのお、なんていうかぁ・・・ま、まあ、このままでも話せるから、続けてくれ。アハハハ~」

「もう、行儀の悪い方ですね。仕方ない人です。・・・では、二つほど。」


その場の空気ががらりと変わる。否、リリィが変えている。

リリィは湯飲みの中の茶を口にゆっくり運びながら答える。


「まず、先ほど出た号外についてです。あれはおそらく敵対勢力の根回しだと思われます。」

「ん?それはおかしくねえか?あんなの出したらむしろ警戒されて見つかりにくくなるし、ましてや狙っている相手はリリィや両親、んで行方不明のお兄さんだろ?本格的に探しますって宣言してるようなもんだけど?」

「ええ、問題はそこです。私に対しての指名手配が「なぜ今出たのか」に相手の狙いが見えてくると考えています。」

「相手の狙い・・・?」

「私が国を出たのが3か月前、訃報を見て戻ってきたのが1か月前。変だと思いませんか?」


俺は考え込む。

気づけばリリィに対し向き直す形をとっており、先ほどまでの如何わしい懸念は消えていた。

机に肘をつき、顔を手で支える。

湯飲みを一口、茶を味わいながら。

リリィは3か月前から行方をくらませていたって話だ。

リリィの兄妹や両親も王家、つまり命を狙われる立場にあるはず。

つまり彼らも逃げていたはず。

んで、兄妹の訃報、リリィへの懸賞金。

ん?これは・・・?


「気づきましたか。この異常事態に。」

「うん。これさ、出るタイミングと内容が「逆」じゃんね?」

「そうです。」


リリィは頷きながら話を進める。

さながら、シャーロック=ホームズばりの雰囲気を漂わせながら。


「まず、敵勢力の目的が私たち王家の暗殺、および乗っ取りならば、今回のように私を逃がした場合、すぐに号外を出して私や家族の逃走ルートを狭める、最悪賞金稼ぎに殺されても良し、というのが普通かと思われます。」


「派手に国外へ逃げたのを追いかけたら、自分たちの正体に勘づかれかねない。現にリリィは正体にまだ近づけてないし、相手は「暗殺」の形を取りたがってたはずだよな?濡れ衣を着せることも今回できてるわけで、兄妹殺害ってことにしなくても、その代わりは用意できたはず。」


「なのに逆、「兄妹の訃報」が出てから「私が兄妹を殺害、懸賞金」の流れです。仮に相手が大義名分を掲げ追いかけてきたとしても、我々王家が積み上げてきた信頼は簡単には揺るぎません。国民の反発は少なからずあるでしょう。だから正体を国民にも悟らせないようにしている。」


「懸賞金を出してから兄妹の訃報のほうがインパクトはあるし流れとしては自然だ。同時に陰謀論もささやかれると覆うがね・・・つまりだ。相手さんは国民を敵に回したくない、いや、「回せない」人物、あるいは一団か?」


「可能性は高いでしょう。少なくとも犯罪組織などの分かりやすい悪党ではありません。まあ、ここまで根回し出来てる時点でわかることですが、あえて逆にしてでも、国民を敵に回さないのは・・・・」


リリィの発言が止まる。

何か引っかかることがあるようだ。


「もしかして、相手に心当たりがない・・・?」

「ええ。こんな大それたことができる相手は限られていますが、「動機」が分からないのです。革命が起きてしまうほど内政は悪化していませんし、不祥事も心当たりがありません。我々が狙われる理由がないのです・・・。」

「まあ、人間なんてみんな欲望に振り回されるものだし、動機がいびつなものって可能性もあるけど、万が一「動機」がない場合が厄介だな。権力争いってだけじゃ説明できないぞ??」

「どういうことです?」


リリィが俺に睨みつけるが如く接近、眼光が現象として現れると思うほどに目線が刺さった。

俺は少し後ろにのけ反りながら、話を続ける。


「ち、ちけえ・・・い、いやさ、もしかしたらリリィが思い浮かべてる犯人に動機がないのは、「誰かに操られてる可能性」を見てないからでは?と考えたーー」

「それはあり得ません!」


リリィが立ち上がりながら大声で否定する。

机に置いてあった湯飲みが倒れそうになる。

リリィ自身もハッとして、「ご、ごめんなさい!つい・・」と頭を下げた。


「お、おう。もしかして、リリィの心当たりって、リリィにとって大切な人だったりする感じ?」

「・・・可能性の話です。まだ、決まったわけじゃ・・・・」


どこか拭えない不安を抱えてるようにリリィは顔を引きつらせ、座り込んだ。

俺はそんなリリィを心配しながら、話を続ける。


「ま、まあ、号外の話に戻すけどさ、俺としてはまだ先があるような気がしてならないのよ。こんな面倒を起こす理由にしてはあまりにメリットがなさすぎる。」

「そうですね。それは私も考えていました・・・でも、ここまでですかね、情報が足りなすぎます。」

「まあ、むしろここまで出れば上出来か?・・・あ、そういえば、リリィの兄貴もそうだけど、両親の行方とかはわかってないのか?」


俺は聞きそびれていたことをいまさら聞く。

まあ、明日聞いても良かったが、つい言葉に出た。

リリィは顔を曇らせながら気まずそうに答える。


「それはーーー」


はずだった。



突如として、部屋の明かりが消えるまでは。



「「!?」」


二人は異変に気付く。


「リリィ」

「ええ、わかっています。見込みが甘かったようですね・・。」

「なあに、俺はこの展開も予想してたよ。とんとん拍子にはいかんよなあ?そりゃ。」


俺はにやりと笑い、リリィは顔に緊張が走っていた。

窓は締め切ってる。風が入り込む余地はない。

なのに、

ひとりでに蝋燭が消えた。

安全のためにと、提灯がかぶせてあるにもかかわらず、だ。


「来てるか?リリィ」

「ええ。来てます・・・一階から、5人、階段を上がってきていますわね。玄関入り口、出入り口に3人ずつ、裏庭にもいますわね、ただ、こちらは前述した者たちと違いうまく魔力を隠していますわ。あえて完全に魔力を消さないことで、存在をアピールして、裏庭へ迂闊に降りれないようにしていますわね。」

「向かってきてる奴らも「おとり」の可能性があるな。透明化が出来る奴がいるなら、そいつらが本命だろ。どのみち厄介だな。」


俺とリリィは背中合わせで話し合う。

リリィが窓側、俺が部屋の入り口側を向いて。

ここは4階、先手は相手にとられた。

人数振りも重なって、ここは逃げの一択。



さあ、どうするーーーーーーー!?

はいどうも、Jです。

城下町侵入~旅館での襲撃まで書かせていただきました。

主人公とリリィの緩いやり取りを書けるように意識し、なおかつ今回の事件についてのキャラクターたちの考えや内情を考察できる要素を残せるように書くことで、読者の方々にも物語に没入してもらえたらと思い、頑張りました。

いやあ、長くなっちゃった、ごめんね。

戦闘描写のほうが妄想膨らむけど、こういう平穏な日々の描写は急にやってきて去っていくから書くのが大変。俺ってばやっぱり戦闘狂やなあ頭の中。

次回からそんな戦闘描写を書かせていただきます。

指が走るぜひゃっほーい!!

それじゃあ、次回にお会いしましょう。



㎰.リリィの名前の由来は、愛犬から取っています。俺の家族です。

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