1-5、我、旅館にて
出会いとは、
別れという苦しみをはらみ、己の未来そのもの。
出会いとは、
別の可能性の示唆、違う視点。
出会いとは、
喜びにあふれ、希望に満ちたもの。
すなわち、
人生とは
出会いである。
朧月の空。
街には薄く霧が張り、怪しき空気が深夜を告げる。
人々は寝静まり、音なき世界があたりを包む。
否、
そんな世界に音が、一つ、二つ、三つ・・・。
続々と増えていっては、音なき世界を穢していく。
そんな穢れが向かう先に、
彼らはいた。
「さて、なんか作戦はあるか?リリィ!」
「相手の狙いを読むならば、玄関からの脱出を前提に攻めてくるはずです。つまり」
「そっちに本命の透明化の奴が居そうだなあ?」
逢引き部屋の真ん中、机を端に寄せ、臨戦態勢を取る二人。
背中を預け、取るべき行動を速攻で導き出していた。
「ええ。裏庭に対し不確定要素を撒くことで、「取るべき手段としては最善手」を取らせようとしてるのが丸見えですわ。」
「だが逆に裏庭からの強行突破も想定されてるだろうな・・・なら、やるべきことは1つだな。」
「・・・もしかして、そういうことですの??」
「相手を出し抜くにはどうしたらいいか教えてやるよ。リリィ!それはなーーー」
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夜も更けた温泉旅館。
そこに現れたるは謎の集団。
数は5、足早な移動に対し、音がしない矛盾が成立するのは魔法が故か。
黒いローブに身を包み、黒地に白の十字線が入った仮面の者たちは目的の場所へ向かう。
4階、対象がいる部屋へと。
「・・・・ここだ」
沈黙を破るのは戦闘にいた者。
「・・・手筈通りに行くぞ。」
彼はとても用心深い性格だった。
この作戦に至るまでに予想とそれ以外を入念に思考、想像し、ここまできた。
人員の配置、使う魔法道具の選別、対象の情報、そして、この旅館への配慮。
旅館の長、並びに責任者がいなかったのは幸いだった。
確か対象と古き仲であると聞いていたので、妨害が入らないのは助かる。
他の従業員にも、我々の権限を使えば楽々信用してもらえた。
結果、なんの障害もなく、かつ、迅速に対象に接近できた。
あとは対象を無力化、即回収するのみ。
その対策も万事滞りなく、
計画はうまくいっていた。
はずだった。
「オラァあああ!俺が相手だコラァ!!」
男が一人、引き戸を蹴破ってくるまでは。
「!?」
俺含め、他の同胞たちも即座に距離を取る。
対象の護衛と思われる男がいると報告は受けていたが、
単身攻め込んでくるとは・・!
「おまえらか!リリィの命狙ってるアホどもは!!」
「・・・・」
「無視かよ!それとも話すの苦手かぁ!?」
男は睨みながらそう答える。
部屋の先に行かせないように、仁王立ちで構えていた。
こちらの戦力が分からないうちは防御、撤退の形をとるものかと思われたが、
我々も舐められたものだ。
「王女はどこだ?言え」
「答えると思ってんのか?悪人風情に言うことは何もねえよばーか!」
「そうか。なら、その体に聞くだけだ」
私は、そう言いながら、魔法を唱える。
普段は杖を使って魔法の威力を上げるが、
隠密、そして奇襲の観点から荷物を減らすため今回はなしだ。
まあ、そんなものがなくともーーー
「言っておくが、痛いぞ?」
魔法は形を成す。
性質は風、形は刃、成すべきは切断なりーー!!
「風陣形・多重乱斬!!」
風の刃が一人当たり5個、それが5人分出来上がり、通路の端から端まで埋め尽くした。
この館の通路は、旅館というのもあってか、幅が広い。
万が一の強行突破にも対応できるーー!
「この状況でもさっきと同じことが言えるのかね?」
「もったいぶってないでさっさと来い」
「ーー!!」
通路を埋め尽くしていた風の刃を一斉に男へ差し向ける。
猶予を与えるように、わざと隙を作る。
この状況、対象なら必ず隙を突いてくるはず。
そう、今にもーーーー
「させません!!」
そう言いながら、対象が背後から姿を現す。
目の前の男から距離を取るように、我々の左側から奇襲をかける形で。
遅れて攻撃してくるのは、分かっていた。
男の真後ろからとは勇ましき事だがーー
「予想してましたよ!リリィ王女!」
突如としてリリィの前に同胞が二人現れる。
何もなかった場所に忽然と。
同胞二人は円盤のような小さな道具、魔法障壁を内包した魔法道具を片手に持ち、
それをリリィ王女へ突き出した。
「魔法障壁、展開ーー!!」
「なーー!?」
直後、リリィ王女と同胞二人の間には対魔法障壁が展開される。
手筈通りだ。
こうも上手くいくとはな。
対象であるリリィ王女対策に持って来た甲斐があった。
いくら我々でも、リリィ王女を相手にするならば魔法対策は必須。
魔法障壁はあらゆる魔法攻撃を封じ、絶大な有利を取れる。
まあ、これでも多少ダメージはもらうだろうが・・。
「伏兵がいることはしっかり予測しなくてはなりませんよ!リリィ王女!フハハハハ!」
「きゃあああああああ・・なーんてな☆」
「ハハハハハ・・ハ?」
「オラァ!!」
そう言って、リリィ王女は、力強い踏み込みで間合いに入り、
同胞の一人を、素手で殴り飛ばした。
「ぐはあ!?」
「な!?」
続けて、想定外の出来事に一瞬固まったもう一人の同胞を、
左の拳で腹に、
「おえっ!!」
さらに続けて右の拳を、下がった顎に下から叩き込んでいた。
「おぼあ!?」
同胞二人は片や我らの後方へと飛んでいき、
片や殴られた勢いで誕生にのめり込んでいる。
「あ、やっべ、天井壊しちまった・・どうしよ、怒られる・・!」
事の発端を起こしたリリィ王女はどうやら損害賠償の事で困っているようだ。
いや、違う。そもそもの話ーー
「誰だ、貴様ーー!?」
「答え合わせと行きましょうか?襲撃者さん?」
「!?」
この声はリリィ王女。だが問題は、
なぜ、目の前の男から聞こえる!?
「炎天演舞・蛇!!」
直後、炎で出来た大きな蛇が襲ってきた。
「ぐあああああああああああああ!?」
「あついいいいいいいいいいいい!?」
そう言いながら、同胞たちは燃え尽きていった。
「がああああああああ!!??・・な、にが・・・!?」
つい、言葉に出てしまった。
熱い。
私は生かされていた。
半身を焼かれ、身動きが取れない故か。
「今ので理解できないならば、それまで、ですわね?」
そう言いながら、目の前の男は見下ろしてくる。
その目は、炎の魔法と真逆、
とても冷たい目をしていた。
まるで、生き物として認識してないような。
「・・・・が、ああ」
痛みと恐怖で、意識が朦朧とし、
私は意識を手放した。
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「ふう、上手くいったなあ~。声だけはどうにもならんからそこだけ本物だったけどさ。」
リリィ王女、に、変装した男が言う。
「ええ、あなたの作戦通りですわね。」
その男、に、変装したリリィ王女が言う。
「いやまあ、確かにね?目には目を、歯には歯を~とは言ったぜ?相手も不意打ちしてくるならこっちもとは言ったよ?でもまさか・・」
そう言いながら男は自分の姿を見て言う。
「リリィと俺の姿を入れ替えるとか・・こんな魔法どこで?」
「言ったでしょう?幼き頃、お城を抜け出していたことを。ありのままの姿で言ったら、すぐ見つかってしまいますの。だから、この魔法はあなた以外には秘密ですのよ?」
「信頼されてるようで何よりだよ。てか、これなら城に入る前からこの魔法を使っておけばよかったんじゃねえか?」
「それはできません、そもそも・・・ふううう~」
そう言いながら、リリィは魔法を解く。
自分の姿に戻って、ちょっと安堵した。
「入れ替えているわけではなく、姿かたちを変えてるだけで、この魔法、いかんせん燃費が悪く・・・ふう、あまり長時間使えませんのよ。ふうう~・・・ただでさえ、他人と私の姿をそっくりそのまま変えて、それを維持なんて神経を使う魔法には私に合わないというのに・・・はああ~」
どうやら相当疲れたらしく、その場に座り込んでしまった。
その姿勢のまま、リリィは捕まえた敵を見て話す。
「外にまだ敵がいますが、この方は如何いたしましょうか?無力化できるならするべきとのことでしたので、一人は確保しましたけれど・・起きそうにありませんね?」
「そりゃ、半身焼かれて意識保てる奴なんてそうはいねえだろうよ・・・ほかの奴らなんて・・ひええ~、骨すら残ってないじゃん。とりあえず縄で縛って放置だな。とはいえ・・・」
改めてあたりを見回す。
肉の焦げた匂いが充満するはずの廊下には、それすらなく、すべて燃え尽きたのだという実感がわいてきた。
正直頼もしさはあるが。
「リリィって、その、さ・・・」
「はい?」
「人を殺したりとかって、抵抗感ないのか?あ、いや、正当防衛ってのはわかるんだけどさ??」
「敵は敵ですし!難しく考えるより燃やせるなら燃やしたほうが早いので!躊躇は一切ありません♡」
即答。
俺のほうに目だけを流し、話す。
リリィってもしかして、
「頭バーサーカーだぜFUUU」
「そんなこと言いますけど、そういうあなたはどうなのですか?普通に殴り殺してましたけど・・・?」
「え?死んでたのあれ?あちゃー、必死だったとはいえなあ~、なんか加減がうまくいかない?なんでだ?」
「薄々感づいていましたけど、あなたも私のこと言えませんよね?」
少し引き気味にリリィは言う。
自分と同等に頭のねじが外れている人間を見るのが初めてなようで、
対応に困っていた。
「ま、まあ、とりあえず脱出と行きましょうか。早く身を隠さないと。相手方も時間がたてば攻めてくるでしょうし・・・」
そういって、リリィは立ち上がる。
まあ、この場に長いこと居たら、なんていわれるか分かったものではない。
「そうだなあ~。でもなんか思ってたより敵が弱くて拍子抜けだったわ。これなら何とかなるんじゃね?」
「いえ、そんなことはありませんよ。偶然うまく事が運んだだけです。」
「謙遜しなくても~。ふれいむあーと、だっけ?すごかったなぁあれ、蛇の形した炎がさ、逃げ道ふさぐように外側から内側へ巻き込んでく様ときたらなぁ~。」
「動物が好きで・・動きを参考に魔法を作ってますから・・えへへ///」
つい褒められて、照れてしまったリリィはすぐにハッと切り替え、話を戻す。
「私の事は後で崇めて頂ければ。それより、敵の正体がわかりました。信じたくはありませんが恐らく・・・」
「・・・やっぱそういうことなのか。予想通りってわけね」
「でも、なぜなのでしょう・・・」
リリィは天井を仰ぐ。
かつての記憶を振り返りながら。
「他にも旅館利用者がいるはずのこの場所が、全く騒ぎにならない理由。魔法による異界化・・・そして、襲撃者が持っていた魔法道具、それらを扱うことができる人間なんて、この国にはただ一人。」
リリィはすでに答えが出ているようだ。
「なぜなのです?・・・先生・・?」
リリィの顔には、戦績とは裏腹に、霧がかかる一方だ。
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「先手はこちらの完敗、だな。流石は我が弟子、と言ったところか。」
アーク城にある一室。
様々な研究資料や機材、一般人には理解不能な魔法道具などが散乱し、
そんな中でも一際目立つものはある。
青白い球体。
複数の歯車がその球体を囲むようにして回っている。
地球儀をイメージしてもらえばわかりやすいか?
そこに映るのはリリィ王女であり、それを眺めている。
そんな部屋に、男がいた。
「まあ、これくらい超えてもらわねば不足というもの。私が倒すべき相手としてはこうでなくては。」
男の名は「リーク=アルフレッド」。
齢35の伊達男。
190の身長と眉間に皺を寄せた鋭い眼光を持った顔つき。
黒地に白の十字線が入ったローブを纏い、片眼のオラクルと首から下げた十字架が特徴。
アザール国随一の貴族、アルフレッド家の長にして、
魔法師団の団長である。
「アルフレッド卿」
そんな彼を呼ぶのは、魔法師団に従ずる部下の一人。
黒いローブを纏い、黒地に白の十字線が入った仮面をつけていた。
「今後はどのように。出口で待機させている者たちとで挟撃を仕掛けることも可能ですが・・・」
「やめておけ。リリィに灰ごと焼かれるだけだ。私が作った魔法障壁発生機をもしのぐ炎、何よりその炎に形をあたえ、操れるとはな・・・元々の天才的なセンスに、逃避行での経験も合わさってさらに強くなったようだな。」
リークはとても嬉しそうに笑う。
初めて出会った時を思い出す。
そのころからすでに才能だけは私を超えていた。
かつて神童と言われた私をも。
だからこそ・・・。
「それよりも、あの男だ。何者か調査は済んだか?」
「申し訳ありません。我々の情報網を使っても何一つ・・・」
部下の男は合わせる顔がなさそうに顔を下に向け続けている。
リークも、その部下同様に首をかしげる。
先手は様子見のつもりだったのだが。
何者なのだあの男?
リリィとの連携を見る限り、長いこと居たとは思えない。
つまり、逃避行中にリリィが雇った、というのは考えにくい。
情報網にも一切かからない。
つまり、他の国から来た・・・?
前後の情報で矛盾が発生する。
なにより、あの強さと無知。
魔力は感知できなかった。つまり、素の力で部下を殴り飛ばしているということ。
たった一撃で死に追いやる拳を持つものならば、名声くらい広まるはずであろうに。
だが、魔法使い相手に不意打ちとはいえ単身注意を惹きつつ突っ込むとは、
まるでモンスターの群れに対策なしで突っ込むようなもの。
「・・・作戦を変えるぞ。旅館に集っている者たちを一旦引かせろ。これ以上は旅館にも迷惑が掛かる。異界化させているとはいえ、本気の魔法の打ち合いになれば多少なりとも魔法が異界を抜けてしまうからな。」
そう言いながら、部下の前まで歩みよる。
「そのうえで、あの男とリリィを引き離す。リリィもそうだが、あの男、舐めてかかればこちらが殺られかねないだろう。お前たちは複数の正体に分かれ、波状攻撃で男のほうを叩け。近づくことのないようにな。」
「かしこまりました。・・・それにしても、ずいぶん嬉しそうですね。アルフレッド卿はいかがするので?」
部下が問いかける。
信頼しきっているのか、少しの笑みを浮かべながら。
「久しぶりに、弟子との勉強会を開くとする。楽しみだよ。本当に。」
リークも同じように、笑いながら返す。
部下も後に続くように後ろを歩く。
駆動音が響く。
部屋を後にした二人を見送るようにして、今なお映像を流し続ける球体は、
はたして、これから起こる事を全て記録することになる。
例えそれが、
どれだけ理解できぬものだとしても。
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「ここに残るって・・逃げるんじゃなかったのか?」
俺は疑問を口にする。
先ほど襲撃を受け、それを迎撃したのだが、
「ええ、問題ないかと。先生が相手なら、今晩は大丈夫です。」
リリィはなぜか逃走を辞めた。
囲まれているから逃げ出したほうがいいって話だったはずなのだが。
現在、自分たちの部屋に戻ってきている。
あのあと、周りにいた敵の気配が消えてって、魔力を感知できないとのことで、
むしろ迂闊に外に飛び出せなくなってしまったのだが。
「まあ、敵さん方も引いてってくれたみたいで何とか凌げたって感じだけど、すぐ体制立て直して~とか、引いたと見せかけて~とか、ありそうなもんだけどな。」
「用心深い方ですからね。多分ですけど、あなたの存在が大きいのかと。」
「俺?なぜ?」
リリィに言われてもピンとこない。
俺はそう言いながら、畳に寝転がった。
リリィは再び入れなおした茶を口に運びながら言葉をつづける。
「今更ですけど、威力偵察が主目的だったようです。すぐに引いたのが何よりの証拠。先生がその気になれば、この旅館ごと異空間に送り込んで私たちとは戦えたはずですし。あなたというイレギュラーに対い策を練るはずです。」
「はえ~俺にねえ?・・・ん?あれ?さっきも使ってたって話じゃなかったか?いくうかん?だっけ?」
「あれは私たちを「旅館を基準」に次元をずらしたもの。先生なら「先生の空間」に引きずり込んで戦えたでしょうね。幼き頃、見聞のためと言って味わったことがあります。」
「んーと、つまり?」
頭を傾ける俺。
「私たちだけ異空間に、ではなく、旅館まとめて異空間、と、こんな感じです。」
「はえ~わかりやす。もうリリィ先生だなこりゃ。」
「それほどでもありますね。もっと褒めてください。」
「ふぁ!?むしろ清々しいな!?よし褒める!!」
まるで犬をなでるように頭をガシガシする俺。
さもそれが当たり前であるかのように、ドヤ顔それを受け入れるリリィ。
鼻息を鳴らしながら、まとめだすリリィ。
「まあ、相手が先生と分かった以上、明日速攻で殴りこんで決着をつけましょう。でないと、先生のほうからやってきますし。多分。」
「血気盛ん過ぎないか・・?ま、まあ、俺も短期決戦は賛成。この問題をさっさと片付けて、リリィの疑惑も晴らさないとね。」
と言いつつ、立ち上がる俺。
「ま、とにかくもう寝ようぜ。ふぁ~あ・・・寝不足はお肌の天敵ですのよお姫様。オホホホホ~」
「どなた様でしょう・・???」
茶を飲み切り、机を片付け、布団を敷く。
もちろん、距離は離します!
布団に寝転がり、明かりを消す。
「あ、そーだ。リリィ」
「はい?なんでしょう?」
リリィに背を向けながら、俺は話す。
少し、言いづらそうに。
「決着をつけるって話だけどよ。最悪の場合その先生?ってやつ、殺すことになるけど・・・いいのか?」
「・・・ええ、ただし、私が先生を殺します。先生から教わったことですし、先生の弟子ですから。」
「・・・そか。ならもう何も言わないさ。引きずるよりパパっと終わらせるに限る。んじゃ、おやすみ~・・・zzzzzz」
「寝るのはや!?・・・もう、ふふ」
気を使っているのか適当なだけなのか、分からない人ですね。
まあ、それくらいのほうが気が多少マシ、に、なるものです。
そんなことを考えながら、
リリィは目を閉じた。
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次の日。
朝、目を覚ます。
時刻は・・・何時だ?
この世界、時計が高価なものらしく、旅館の部屋に一つ、というわけではないらしい。
変わりに、魔法道具で時間を観測しているらしく、
部屋の中だろうが、夜だろうが、時間を観測できるらしい。
イメージとしては、日時計が近いだろうか。
太陽の位置で影が時間を表す、あんな感じの。
現代社会の人間からすると、こっちのほうがすごいのだが、
魔法が発達したこの世界では、機械のほうが珍しいらしい。
「時間は・・・もう9時じゃんよう?起きろ~リリィ~?」
俺はリリィのほうを向く。
だがリリィはすでにそこに居なく、布団も綺麗に畳まれていた。
「ん~。どこだあ?リリィ~?おーい」
部屋を見回す。
リリィの姿は見つからず、トイレや風呂にもいないようだ。
「・・・まさか!?」
飛び起きる。そして廊下へ飛び出る。
リリィが何も伝えず、伝言すら残さないのはおかしい。
昨日襲われてるんだぞ?
今晩は大丈夫、とは言っていたが、
やっぱり寝静まるのを待っていたのか!?
俺としたことがあまりのも迂闊だった・・・!!
駆け足で階段を降り、一階へ。
すぐに受付へ行き、従業員に確認を取る。
昨日この受付で対応してくれた従業員だった。
都合がいい・・!!
「すんません!!俺と一緒にいた相方が朝起きたらいなくて!!見てませんかね!?」
従業員は驚いていた。
俺の剣幕な態度のせいだろう。
余裕が俺の中から消えていた。
「は、はい!?お客様の相方様なら・・・」
といいつつ、手を向ける。
「あ、ごめんあふぁい!ごふぁん!おいふぃいでふ!」
「お食事になられてますよ?」
「いやなんもないんかい!?」
ズコーッ!!??と、
まるでギャグマンガのように床に滑り込み、
盛大にずっこけた俺は、
抱いていた緊張の糸を解き、立ち上がってリリィに話しかけた。
「おめえな~??せめて置き手紙とかしろやぁ~????」
俺はちょっと怒り気味に問いただす。
「んぐ。あー美味し。」
「食っとる場合かぁ!?」
といいつつ、リリィにツッコミを入れる俺。
「あーそのですね?朝早めに起きてしまい、お茶を頂こうかと思いましたら、お茶の葉が切れてしまったので、食事処まで取りに来たのです。そしたら朝限定のメニューがあるとのことで、た、食べたくなってしまいまして・・///」
「なにい!?俺も誘ってくれよぉ!そういうことならよお!!」
「だって!残り1食だけだったのですよ!?4階まで行って戻ってなんてやってたら、他の人に取られちゃいますもの!!」
「ちなみにその1食は?」
「今食べ終わりました。美味しかったです!!」
「何やってんだおまええええええええええ!!??俺にもよこせえええええええ!!」
満面の笑みで答えるリリィ。
口元に着いたソースが光の反射で輝いている。
そんなリリィに掴みかかる俺。
「早起きは三文の徳、と、北東の国では言うと聞いたことがありますが!」
とうっ!!と、
華麗に躱して俺の後ろに立つリリィ。
「今回は三文どころか、十文以上の得でしたわぁ!!」
まるで煽るように笑いながら宣うリリィ。
「こうなったら・・・俺も飯!食べるもん!!すんません!品書きをください!!」
「私はデザートを所望いたしますわ!あんみつを!!!」
周りの旅館客からの視線を無視して、
二人は、いや、一人は朝食を取り始めた。
改めて、ここは食事処。
木製の長めの机が並び、椅子と畳の領域に分けられている。
空間の雰囲気は「和」そのもの。
窓も四角ではなく丸。
スーパー銭湯の食事処を少し豪華にしたもの、とイメージすればわかりやすいか。
明確に違う点を挙げるなら、自分で料理を取りに行くことくらいか。
紙に品書きの中から食べたい料理を選び、自分で金銭と一緒に渡す。
食べ終わった食器も自分で片づける。
従業員の負担が減る素晴らしい方法だと俺は思う。
俺は品書きを従業員からもらい、内容を見てみた。
「お、おお~・・・まるで日本だなこりゃ。異世界なのに。」
内容を見て驚きと懐かしさを同時に感じた。
内容が日本の飲食店の「それ」と同じなのだ。
昨日は懐石料理だったことから、あるとは考えていたけれど、
「ここまで知ってる料理ばかりだと、なんか新鮮味に欠けちまうんだが・・・。」
「新鮮味?・・・そういえば、「品書き」とも言っていましたが、メニューではありませんの?」
「ああ、それも合ってる。言い方が違うだけで、同じ意味だよ。俺の世界では複数の言い方がある、同じ
意味の言葉があってな?まあややこしいし、たくさんあるから説明は省くけどさ。」
俺は品書きを見ながら答える。
うどんやそばの麺類に、寿司や刺身などの海鮮、かつ丼や親子丼、日替わり定食にデザートまで・・・。
迷ってしまうなあ~これはー!!
「この料理たちも全てあるのですか?食材も??」
「いや、使ってる食材は違うけど、形式は一緒だな。俺のほかに来た転生者、かな?が、伝え広めたんじゃね?北東の国、だっけ?ここの旅館も元を辿ればそこだろ?」
「ええ、そう聞いていますわね。私も行ったことがないので、いつかは、と思っていますが。」
「出店でこれだもんな~。きっと北東の国、本店の料理はもっとすごいぞ??」
「・・・マジですか?じゅるり・・・!!」
俺もリリィも期待と興奮が高まるのを抑えきれず、ニヤニヤしていた。
まあ、お互いそんなことは一切気にしてなかったのだが。
「そういや、名前聞いてないな。北東の国。」
「うーん、教えてあげてもいいですけど、せっかくなら赴くときにってのはどうです?」
「なんか意味あるのか?それ?」
「んーなんていうか、本でいうところのネタバレ?みたいにならないかなと。どのみち有名ですし、この国にいれば、すぐにでも耳に止まるでしょうから。」
「アーそういう感じね。りょーかい。ま、楽しみは後にってやつだな。」
「そういうことです。・・あんみつ、そろそろかしら。」
そんな風に話していると、リリィが持っていた木札が震えだした。
現代風に言うと、アラーム、が妥当だろうか?
「コレどういう仕組みなんだ?魔法なんだろうけど、全く想像できん。なんで木札が振動するんだ?」
「これは土魔法ですね。木札の木目に小さな砂鉄をつけて、それぞれが違う動きを微小に行うことで成り立ってますの。じゃ、取りに行ってきますわね♪」
そういって、リリィはあんみつを取りに行ってしまった。
めちゃくちゃルンルン気分でステップまで踏んでいる。
「・・・・・うむう~。」
やっぱり、魔法を知りたい。使えるようになりたい。
攻め込むって話だったし、付け焼刃でもないよりマシだ。
何より基本火力がリリィだけで、おれは不意打ちがせいぜい。
魔法師団相手にこれは舐めすぎだろう。
だがリリィも一朝一夕ではできないと言っていたし、
そもそも属性?ってのがあるらしい。
まるでゲームだが、それはどうやって調べる?
道具が必要なら現状すぐには、とはいかないか?
いや、でも・・・
「必要ならリリィも検討してくれるか?いやでもこれ以上出させるのもなあ、金なあ~。」
「お金がどうかしましたの?」
「ふぁあああ!?」
びっくりした。
その反動で後ろにひっくり返る。
背中、後頭部を床へ叩きつける羽目になる俺。
「いてててててて・・・効いたあ~、あ、皆さんお気になさらず~あはははは~。」
周囲の目を流しながら俺は体を起こす。
「ご、ごめんなさい!まさかそこまで驚くと予想できず」
そう言いながらリリィはあんみつを机に置く。
「いや、俺が悪い、ちょっと考え事をしてたから」
「あ、費用でしたらご心配なく、私、財力には自信がありますので。えっへん!」
リリィがどや顔で胸を張る。
流石お姫様だ。
「いやまあ、それはいつか返すけどさ、魔法の事なのよ」
「???魔法ですか?」
「うん、ここに来る前に話したじゃん?攻め込むなら付け焼刃でも~と考えてたのよ。でも、道具とか使て属性調べるのかなと考えてまして・・」
「なるほど。それでお金の心配を。」
「一文無しでこれ以上甘えるのはさすがに申し訳ないので、もし無理なら魔法はあきらめる!リリィ、いや、「リリィ先生」!!」
そう言って俺はリリィの両手を俺の両手で包むようにして握る。
才能があるかはわからないが、ここは超えなきゃいけない壁とみた!
「ふぉ!?」
「俺に魔法を教えてくれ!頼む!!」
「こ、こえ!声が大きいですわ!!」
リリィが困っているが、こっちも必死だ。
目を見て、はっきりと!
話すときの常識だぜ。
「足手まといになるのはごめんなのよ!俺もリリィを守れるようにならなくちゃ!」
「わ、分かりましたから落ち着いてください!!あきらめる気なんてない癖に!」
「お、ということは!?」
「教えます!教えますから!!もう~!!」
根負けしてくれたようで何より。
まあ、そもそもリリィはだめなんて言ってないのだが。
「ですがその前に、ご飯、食べないんですか?」
「あ、そうだったわ!忘れてた!!出してこなきゃ!!」
つい話し合いや思考にのめり込んでしまった。
俺はすぐさま紙に料理名を書いて、金銭と一緒に調理場に出しに行く。
「まったくもう、そそっかしい人。魔法は食事の後ですわね。」
そう言いながら、リリィは机に置いたあんみつを座って食べた。
とても美味しかったのか、舌鼓を打っているのが表情で分かる。
騒がしい朝食、食事処。
嵐のような二人の魔法教室は、ブレークファーストの後、開かれることになる。
弟子になる俺はどんな魔法なのかと、リリィは考える。
そして、まさか、
知ろうとしたことで死ぬとは、
夢にも思っていなかった。
お久しぶりです。Jです。
ほぼ一か月。申し訳ありませんでした。
色々ごたつきまして、指が止まってしまうことが増えてしまい、完成が遅れました。
ただ、今回はなかなか満足のいく仕上がりになったと思います。
まあ、今までのも満足してはいるのですが。
今回は城下町についてからの一日目がやっと終わったエピソードです。長かったですね。
戦闘にコメディに、そして、次回からは魔法にも触れていきます。
異世界と言ったら魔法ですものね?
むしろ今までまともに出さずにごめんなさい!
なにやら不穏な幕引きではありますが、どうなることやら。
ま、次回にご期待ください。
それではまた。
ps.アナザーエデンやFGOが面白すぎるのが悪い。まあ、半分はだけど。




