⑦魔王前座
「この者の命は既に尽きていても不思議ではない。恐らく特性だろうが、自身の魔力を内に作用させ、自身の魂が肉体から乖離する事を防いでいるようだ」
死ねば肉体から魂が離れていく。その逆説を維持しているという。
大魔王が『だが』と続けた。
「死んでいないというだけだ。肉体はほぼ魔力で動かしている為、回復の類は意味を成さない。この状況を維持するだけでも、魔力を消費し続けている」
大魔王の力で魔力を補充しても、フォーネの体が内包できる量は限られている。そして、肉体が機能していない上、魔力の自然回復も望めない。
故に、扉を潜っても行き着く場所は変わらないという事になる。
「どちらにせよ、片道切符という訳か」
どんな言葉で叫ぼうとも、目の前の全てが事実であり、変わる事のない現実である。相田はそう受け止めるしかなかった。
受け止めなければならない。そうしなければ、彼女の師と一生名乗れなくなる。
相田は一度だけ空を見上げた。
そして、静かに握った拳を開くと視線を落とし、フォーネと再び目を合わせる。
「ししょー………ごめんなさい。でもフォーネは最期までししょーと一緒にいたい、最初にそう約束したからっ!」
申し訳なさそうに白い耳が垂れているが、彼女の瞳は真っすぐで、迷いも悔いもなく澄んでいた。
「だが、それを………それでもお前は望んだのだろう?」
「うん!」
既に中央広場は怪物達に取り囲まれている。怪物の誰か一匹でも動き出せば、それは合図と見なされる。
相田はフォーネの頷きに対し、自分の右拳を口に当て、それをフォーネに伸ばした。
「俺と同じ動きを真似しろ、フォーネ。いつまでも俺と一緒にいられるおまじないだ」
「は、はい!」
フォーネも自分の右拳に口を当てる。相田が書いたアルファベットに想いを乗せ、伸ばした拳を相田の拳と触れ合わせた。
「ししょー。ずっと………ずっと一緒ですから! 生まれ変わっても、ずっと、ずぅーーっと、一緒ですから!」
「当然だ。お前は危なかっしくて、目を離せないからな。何度でもいつでも、俺の所に来い」
相田の中で何かが晴れていく。
だが、諦めではない。覚悟の重さは変わっていない。
だが、何かのつかえが静かに外れていく。そんな気になっていた。
気が付けば、大魔王の姿はなかった。
だが、相田はそれも気に留めない。
「しっかり見とけよ、大魔王! 追いつめられた人間の強さってやつを俺達が見せてやるぜぇ!」
相田は全身を奮い立たせ、脳内を最大に興奮させるよう、声を高らかにして叫んだ。
「さぁ、かかって来いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
それが合図となった。




