⑥残された者、達
「お父さん」
今度は相田の背中から黒い翼が包み込む。
「ケリケラも………元気でな」
「うん」
そして相田の足元で柔らかい風が吹き上がる。
「ボクからもお父さんに。魔力増幅の魔法を鎧に載せておく………一度だけなら、お父さんの力の威力が増えるはず」
「………ありがとう」
能力向上の魔法も、相田にはこれまで効果はなかった。だが、ケリケラはコルティと同じように想い次第だと言い残し、振り返る事なく扉の奥へと飛んでいった。
「………これで、全員か」
相田は周囲を見渡した。ベルゲン達、有翼人の姿もいつしか見えなくなっていた。
「悪いなガーネット。お前を連れて行けなくて」
傷付いた赤い鱗を上から下へと撫でる。
親衛隊達の僅かに残った魔力によって放たれた回復魔法で、大怪我のみの処置は一応に済んでいたが、巨体であるガーネットは転移の門を潜る事ができない。ガーネットを回収する為の宝石も既に尽きている。
竜は全てを理解したかのように、喉を鳴らしてきた。
全身に傷が見られ、所々鱗が剥がれて筋肉が見えている。この姿を見るだけでも痛々しく、飛ぶ事はまず不可能。この場から動けるようになるだけでも、まだ時間が必要である事が相田にも分かる。
「ししょー! これで全部だよ」
「そうか。フォーネ、サンキューな」
相田は自身の横に立つ白い塊から報告を受けた。そして相田本人も、分かりやすい声から無意識に反応する。
しかしすぐに視線を落とし、相田は我に返った。
「って、何でお前が残ってるんじゃぁぁぁっ!」
真っ先に扉に送らなければならない重傷者が、そこに立っていた。
「えへへー」
まるでおかずをつまみ食いしたのがバレたかのように、彼女は笑いながら後頭部を掻いている。
そして、扉が静かに消えた。
「大魔王!? ちょ、おまっ!」
まだフォーネが残っていると、相田は慌てた表情をすぐに切り替え、すました顔を睨みつける。
だが大魔王は相田の声にも瞳にも動じなかった。
「その者は、自分で残ると余に言ってきた。扉を潜る位なら命を絶つともな。その意味、覚悟を決めた今の貴様に理解できない訳はあるまい」
「………っ」
例え可能性の一つだったとしても、相田は認めたくなかった。拳を握ったまま言葉が返せず、自分自身が硬直している事が何よりの証拠だった。
そして大魔王だけが最も達観していた。
「どんなに選択肢を変えても、運命とやらは悉く、帰結すべき所に落とそうとするらしい。まったく腹立たしい事だ」
それは一体誰に向かって放った言葉か。
「だが、この状況で残るという選択肢は初めてだ。故に、この者がこの戦で戦えるだけの力を与えておいた。余に出来る選別である」
流暢に言葉が流れていく。
フォーネの傷を敢えて完治させなかったとも聞き取れる表現だった。




