⑤メイドと主人
相田は大魔王に視線を送る。
その瞬間、大魔王は足元に巨大な魔法陣を展開させると空間を歪め、王の間に繋がるかのような二枚の扉を生み出した。そして大魔王の口から、それぞれ東の王国騎士団、南の魔王軍と合流できる扉だと説明を受ける。
「それと、だ」
大魔王が相田に顔を向けた。
「この街から西に向かった街道、そこからやや外れた平原に転移用の魔方陣を敷いておいた。貴様ならば気付けるようにしてある。そして貴様が触れれば、余も気付けるようにしておいた」
「………十分だ。ありがとう」
「気にするな。ただの契約にすぎない」
だが、と大魔王が何かに気付く。
「ありがとう、か。貴様からの謝辞は三度目だが………同じ人間相手でも、言葉が異なると、受け取り方も異なるのだな」
大魔王の無機質な感想に、相田は小さく肩を何度か揺らす。
「感謝の言葉は、まだまだあるぞ? そんな事で一々満足してたらキリがない」
「そうか、それは楽しみだ」
大魔王と相田が言葉を交わしている間に、一人また一人と、動ける者が動けない者達を抱えながら扉の中へと入っていく。
「相田君」
ロデリウスがリコルを担ぎながら近付いて来る。
「別に最後の別れじゃねぇんだ。さっさと行きな。帰ったら、まぁお前の驕りだからな」
「分かった分かった。女王陛下にも伝えて、予算をこれでもかって程に奪ってくるさ」
犬を払うように手を払い、相田はロデリウスを早々に扉へと押し込んだ。
次にクレアが相田の視界に入る。
「クレア。この双子竜が言うには、もう彼女の魂は返還されたらしい」
「そうみたいですわね」
つい先程から、マキの呼吸と体温が戻っていたと彼女が話す。
「………次は負けませんわよ」
「そいつぁ、楽しみだ」
軽口で返す相田に、クレアはふんと鼻を鳴らしてロデリウスと同じ扉を潜っていった。
「御主人様」
コルティが複雑な表情で立ち止まる。
「すまん。結局俺はこういう事しかできない奴なんだよ。許してくれ」
頭を掻き、相田は一生懸命に誤魔化してみる。
それでも彼女は胸に手を当て、相田に微笑み返す選択をした。
「分かっています。だからこその御主人様なのです………ウィンフォスの都で帰りをお待ちしております」
いつまでも。彼女はそう言うと隙を見て相田に近付き、相田の両頬に手を添えながら自分の唇を一瞬重ねた。
そして時は動き出す。
「ちょ! お前!」
一歩下がった相田の顔が一気に沸騰する。
「メイド長! あぁもう! それはずるいっすよ!」
「………いいな」
残っていた親衛隊達が一斉に唇を尖らせ、自分達もやらせろと不満を爆発させる。
コルティは、自分の口元を隠しながら笑って見せた。
「先手必勝です。戻ったら今以上に敵が増えそうだったので。あぁ、それと私の魔力の残りを注いでおきました。大怪我をした際、回復魔法が自動で発動するはずです」
「まったく。俺には回復の類が効かないの、知っているだろう?」
「さぁ、どうか分かりませんよ? それこど、御主人様の想い次第です」
腰に手を当てて相田も呆れ顔で笑い返す。
そして、隙を見てコルティを正面から抱きしめた。
「ひゃっ! ご、御主人様!?」
「おかえしだ。必ず帰るよ、コルティ」
「………はい」
そして、コルティと不満げな親衛隊達はロデリウス達とは異なる扉に入っていった。




