①主人の帰還
「………く」「畜生めぇ!」
親衛隊のメロウとアトパラが、トロールの剛腕を受け止めきれずに吹き飛ばされる。
「二人共、下がりなさい!」
すぐにコルティが開いた穴を塞ぐように先程まで二人がいた場所まで飛び出すと、トロールの胴体を鋼鉄の三日月斧で横一文字に切断した。
同時に、薙ぎ払った斧の柄が根元から折れる。
「そろそろ………限界です、か」
握っていた柄を投げ捨て、彼女は歪ませた空間から次の獲物を抜き出した。
そして、周囲を確認する。
この場に残った魔王軍は、誰もが一騎当千と名乗れる猛者達だったが、その数は確実に減っている。街の中央広場を死守しながら、相田の帰りを信じて待つ者達が一人、また一人と戦線を離脱し、余力のある内に南の大通りを抜けて、大正門を目指していく。
そして、人数が減る程に苦戦を強いられ、次第にコルティ達は中央部へと押し込まれていった。
「も、もう限界だよっ!」
風の渦で複数の怪物を切り刻み、宙へと巻き散らしたケリケラが息を切らす。
「ですが、我々に限界という言葉に意味はありませんぞ!」
「その通りっ! 生き残るか、それともここで果てるかの二つしかない!」
シュタインが全体を把握しながら指示を出し、狼亜人のツヴァイールが全身傷だらけのまま笑い続けながら剣を振るう。
敵の数が一向に減らない。
万を超える王都の住民、その半数以上が変異したと仮定しても、決して誇張とならない。
突然視界が暗くなる。
「皆! そこから逃げて!」
ケリケラの叫びで、全員が一斉に陰から離れた。その僅か数秒後に、巨大な赤い塊が地面に激突する。
ガーネットだった。
数百の空の敵を一手に引き受けていた竜も、全身を斬られ、翼を破かれ、ついに自身の大きさを飛ばすだけの力を失う。まだ生きているが、赤い鱗を貫いた剣や槍が背中に刺さったまま、大きく呼吸を続け、喉を鳴らしている。
「ガーネット………」
もう回復魔法を長時間放てる者はいない。コルティの中で不安がまた大きくなる。
それでも大切な人は、まだ戻ってこない。
コルティは首を左右に振り、咄嗟に湧き出た可能性と感情をかき消した。
「私達は決して負けません。そして御主人様の帰りを待ち続けましょう!」
全員に発破をかける。
地響きと方向を伴い、北の大通りから怪物の群れが現れた。
逃げ道などない。全員が逃げ切れるだけの力も最早残っていない。
「皆さん、次が来ます」
コルティが武器を構えると、残った者達も覚悟を決める。
「………御主人様」
コルティの口から小さく大切な人の名が紡がれた。
「あいよ」
巨大な氷柱が、大通りの石畳から何本も突き出し、怪物達を一掃する。




