表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星は導かれて  作者: 真狐誠
第1章 新しい世界、森での生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/8

第5話 VSカエルム

「よし、全部狩り終わったね」


 昼間でもあまり日が差し込まず薄暗い大森林の深部、つまり家からほど近い場所で、スティエラはそう呟く。

 そのスティエラの周りには倒れ伏し血の池を作っている狼系モンスター十数匹と、少し離れた場所で飛んでいる数十匹の蜂系モンスターがいた。狼系モンスターはフォレストウルフ、深い緑色の毛皮が特徴で大森林の序列では最下層に位置する。蜂系モンスターはスイートビー、三十センチ程の大きさで群れを成している。フォレストウルフと同じく大森林の序列は最下層に当たる。女王蜂はその群れの中で最も蜜が甘い。

 モンスターとの戦闘で息一つ切らさないスティエラに、体色がピンクと黄色の女王蜂が羽音を立てながら近付いた。


「こんにちは、君達が無事で何よりだよ」


 そんな近付いてくる女王蜂に、スティエラは警戒する事無く親しげに声を掛け、掌に乗せる。女王蜂も攻撃する素振りを見せず大人しく掌に体を預けていた。

 スティエラとスイートビー、双方は現在共生の様な関係性だった。

 スイートビーが他のモンスターに襲われればそれをスティエラが守り、そのスティエラに定期的に女王蜂の蜜を提供する。甘味が欲しいスティエラと外敵から身を守る手段が欲しいスイートビー、どちらにも利益がある関係だった。

 その関係もスティエラが魔力で思念を送り、大雑把とは言えコミュニケーションを取れなければ成立し無かっただろうが。


 掌で寛いでいた女王蜂の元に巣の欠片を持ってスイートビー数匹が近付き、そしてスティエラに渡す。女王蜂の蜜がたっぷりと詰まったそれは非常に美味で、スティエラも濃厚な匂いに嬉しそうに笑みを浮かべる。


「ああ、今日もありがとう。大事に頂くね」


 ガラス製の容器に詰めながらの言葉に……いや、正確に述べるのならば魔力に乗せた思念に、女王蜂も嬉しそうにブブと音を鳴らす。強者であるスティエラの気分が良いのは、自分達の生存にも直結する事なので。


「ここには来れないけれど父様もこの蜂蜜は好物だし、きっと喜ぶと思う」


 このスイートビー達とはカエルムからの付き合いである。スティエラはカエルムから受け継いだ形になる。

 スイートビー達を守る結界を張り直し、走って五分程度の場所にある家に帰る。光るカーテンの様な結界を潜り抜け中に入れば、暖かく穏やかな空気が広がっている。

 その中の家の近くに、椅子に座りながら微睡んでいる長髪の男が居た。風に髪を遊ばれている男、カエルムはスティエラの気配に気付き黄金の目を開いた。


「……おや、おかえりステラ。問題は無かったかな?」

「ただいま父様、ええ、問題は無かったよ。スイートビー達も全員無事」

「それは良かった」

「父様は身体に異常は無い?」

「ああ、今日は調子が良いね」


 スティエラがスイートビーに告げていたカエルムは来れないと言う言葉から推測出来る様に、カエルムの身体は大分死に近付いていた。

 スティエラは十三歳になった。つまりマーダードッグの討伐に成功した日から五年の歳月が経過している事になる。

 五年、スティエラが生まれてからだと八年になるが、その年月でカエルムは大幅に衰弱していた。それこそ結界の外に出るのを不安視する程に。

 正確に言うのならば、身体中が痛み魔力を操る事が出来ない症状が発作として表れる回数が増えた。外に出ている時に発作が起きれば大森林のモンスター達に殺されてしまう確率が高い。大森林のモンスターで無ければ問題無く討伐出来ただろうが。その為、カエルムは結界の外に出る事が無くなった。


「なら、今日は模擬戦の相手をしてくれる? 私の今の実力を試したくて」

「勿論、ステラがどれくらい実力を伸ばしたのか楽しみだね」


 発作が起きなければ実力もそこまで落ちない為、スティエラは度々こうやってカエルムに模擬戦を頼む。

 ゆらゆらと揺られていた椅子から立ち上がり、カエルムは確りとした足取りで稽古や模擬戦で使う広場に移動する。その後をスティエラも付いて行く。

 その広場に足を踏み入れると、五メートル程の広さが何倍もの広さの亜空間へと変貌していた。カエルムが施した時空魔術である。この広さならどんなに動いても支障は無いだろうし、泉や家に被害は出ない。


「さて、ルールは何時も通りで良いかな?」

「うん、何時も通りで構わないよ」


 何時も通りのルールとは、スティエラは制限無しだがカエルムは魔術、武器、自身から攻撃するのは禁止というものである。勝敗はスティエラが相手へ有効打を一本叩き込むか、カエルムは相手を戦闘不能にする事である。かなりのハンデであるが、それでもスティエラは勝てた試しが無い。

 そんな強敵相手でもスティエラは諦める事無く戦意を滾らせ正面に相対する。


 最初に動いたのはスティエラだった。カエルムが自ら動くのはルールで禁止されている為当然ではあるのだが。

 人外の身体能力を駆使し、目にも止まらぬ速さでカエルムに接近するスティエラ。カエルムの首元目掛けて容赦無く長剣を振るう。殺意の高い攻撃であるが、スティエラは相手がこれくらいではかすり傷一つ負わないと理解しているからこそである。殺す気で掛からなければ勝機の一つも見えはしない程、隔絶した実力差がそこにはある。それでも勝利した事は無いが。

 実際にカエルムはスティエラの攻撃をひらりと容易に避け、当たる様子は微塵も見られない。

 初撃が不発に終わっても攻勢を崩す事無く、スティエラは胴体、頭、首、手足、と流れる様な動きで次々と斬り掛かる。

 その連撃をカエルムは避けて、避けて、避け続ける。時に刃の部分を触らずスティエラの腕を使い攻撃の方向をズラす。そして、カエルムだからこそ判断出来るスティエラの攻撃の僅かな隙に、カウンターで胴体へと殴打を放つ。その威力は高く、スティエラが咄嗟に魔力でガードしていなかったらそれで戦闘不能に陥っていただろう。

 カエルムの殴打で吹き飛び距離が空くも、素早く立ち上がり長剣を構える。その顔は痛みで形の良い眉が歪んでおり殴られた腹を押さえているが、降参という雰囲気では無い。


「けほっ……やっぱり、父様は強いね」

「そうだね、そう簡単には負けられないからね。それで、もう降参かい?」

「はっ、詰まらない冗談言わないでよ父さ、まッ!」


 軽口を叩き合いながら再びスティエラは接近する。先程と同じ攻撃が通用する等とは勿論思わず、スティエラは魔力を練り始めた。


『風よ、我が魔力を糧に、数多の矢となり我が敵を撃ち抜け。魔術起動(マギアクティ):〈風の矢(ヴェンティサッタ)〉』


 言葉に魔力を込めながら呪文を唱えると、スティエラの背後からカエルムに向かって無色透明の矢が二十本放たれた。それぞれが金属製の鎧を貫ける威力を持つ。そんな矢が透明のまま発射されるのだ。強力な魔術なのは間違いない。

 それもスティエラの魔術師としての実力と注ぎ込んだ魔力が莫大だからこそではあるが。

 空気を切り裂きながら風の矢は素早くカエルムへと向かっていく。全て同時にでは無くほんの少し間隔を空けてのそれは、スティエラ本人と接近戦で戦っているのもあり避けるのは非常に難しいだろう。

 だが、それを熟すのがカエルムと言う人物である。

 空気を切って迫る風の矢を避け、逆にスティエラを誘導し風の矢に当たりそうにさせたり、魔力で手を覆い風の矢を掴みその矢でスティエラに突き刺そうとしたり、常人では実行出来ない反撃を繰り出す。武器禁止のルールはスティエラが生み出し攻撃した物であるから、反撃で使うのはセーフである。

 そうやって風の矢を全て防がれるが、その後もスティエラは火、水、地、など別属性の魔術も行使し、戦意喪失などせずにカエルムと戦い続けた。


 どれくらい戦い続けただろうか。

 数時間は経過した頃、土埃で汚れたスティエラが肩で息をしながら地面に寝転がっていた。


「あ〜また負けたっ! 悔しい!」

「はは、でも以前と比べて魔術の発動速度も剣の腕も格段に良くなっていたよ」

「褒められても結局勝ててないんだから嬉しくない!」

「うーんごもっとも」


 悔しそうに唸るスティエラを、苦笑を浮かべながら見るカエルム。苦笑のままカエルムはスティエラの近くにしゃがみ込む。

 そして人差し指を立てた。


「それなら反省会と行こうか。今回の戦闘でステラが改善すべき点は何だった?」

「……一つは、剣で攻撃したその間の隙を付いて反撃された時、動揺して魔力防御が遅れた。反撃は仕方ないにしても、動揺しないで一瞬でも速く防御していればもっとダメージは抑えられたと思う」

「そうだね、平静を保つのは重要な事だ。他には?」

「うぐっ……魔術を、遠距離攻撃の〈風の矢(ヴェンティサッタ)〉を使うなら、私は父様から離れて反撃出来ないくらいに連射で使うべきだった。近くで戦いながら〈風の矢(ヴェンティサッタ)〉を放つのは、同格か少し上の相手だったら十分通用しただろうけど、父様くらい実力が離れているならその魔術を逆に利用されてしまうから。離れていたら反撃されてももう少し対処に余裕が持てたと思う」

「うん、ちゃんと反省する点は理解しているね。更に言うのなら魔術は一属性だけでは無く複数属性を使えば、対処は一属性より難しかったね」


 何処が駄目だったのか確りと理解しているスティエラに、カエルムは嬉しそうに微笑む。


「それと、魔術陣での使用はまだとしても、魔導言語で呪文を唱えられる様になったのはとても成長したね」

「ほんと? 私、魔導言語ちゃんと使えてた?」

「勿論、でなければ発動など出来ないさ。……初めて使ったと言うのに、正常に作動していたのには驚きだったけどね」


 くすり、と軽く笑いながらカエルムはスティエラが魔導言語を用いて魔術を行使出来た驚きを口にする。


 魔導言語とは、魔術を扱うのに最適な言語である。その言語、文字を用いれば威力、効率など、様々な効果が大幅に上昇するのだ。

 しかし、性能に比例する様に、扱う難易度はとても高い。呪文として唱えるなら声に魔力を込め魔導言語を発音し、魔術陣に使うなら魔道言語を魔術陣に記して展開し、魔道具に使うなら魔力を込めながら魔導言語を刻んだりと、魔力操作技術が高く、魔力量も一定以上無ければ扱う事が出来ない。超が付く高等技術である。

 ちなみに、スティエラが行使したこの言語は原形、元の魔導言語からカエルムが発展させ完成させた物である。

 原型の魔導言語よりカエルムの魔導言語の方が効力は高い。効力が高いのに比例して難易度も高いのが欠点だろうか。


「次は絶対……絶対に勝つから」

「……うん、楽しみにしているよ、ステラ」


 ギラギラと闘志を燃やす瞳で告げる言葉に、カエルムは感慨深げに言葉を返した。嬉しかったのだ、何度負けても諦めないスティエラの姿勢が。

 自分の意思を貫けるほどに強くなって欲しい。

 そう願っているのだから、強さに貪欲なスティエラを見て感慨深い面持ちになっても無理はない。


「さて、そろそろ家に戻ろうか。リスタが夕飯を作っているだろうからね」

「そうだね、遅くなったらリスタに申し訳ないし」


 その言葉にスティエラは立ち上がり、風の魔術で軽く付いた汚れを払う。そのまま二人は家に向かった。


(痩せたよなぁ、父様)


 前で長い黒髪が揺れるのを見ながら、スティエラは改めて内心で思う。大きかった背中が今は小さく見える。スティエラが成長し百五十センチ程に大きくなった事も理由になるが、カエルムが衰えてきている事実の方が理由としては大きいだろう。


(父様の寿命は後どれくらい? 五年? 三年? ……もしかしたら一年も無い?)


 カエルムの残りの寿命を考え、内心焦燥を覚える。カエルムが死ぬ前に彼に勝てるのだろうか、と。

 スティエラは自身が強くなったと自覚している。自覚しているが、己が最も強いと思う程自惚れてはいない。自分より強い相手は沢山いる、そう認識していた。実際に森のモンスター達と戦い重傷を負わされたり、討ち取る前に逃げられたりと不覚をとった事が何度かある。

 そんな世界にスティエラは足を踏み出すのだ。親として心配にもなるだろうと推測していた。

 カエルムに心配を掛けたくない。その為には彼に迫る、追い越す力が必要だ。少なくとも今行っているルールの模擬戦に勝たなければ話にならない。


(ううん、こんな弱気になったらいけない。……諦めない、絶対に。父様に勝って安心させるの、貴方の娘は貴方が居なくても生きていけるよって)


 弱気を吹き飛ばす様に頭を振って、前の黒髪を見る。大好きなその後ろ姿に細い息を吐いた。

 迷いは消えた。カエルムに勝てる様に……いや、()()為に邁進するだけだ。


(……そうだ、ちょっとリスタに相談しようかな。父様に教えたら折角の武器がバレちゃうし)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ