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星は導かれて  作者: 真狐誠
第1章 新しい世界、森での生活

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第2話 新しい家族

 ずっと水に浸かっている訳にもいかず、カエルムに抱き抱えられたままスティエラは泉から上がり畔に腰を下ろす。

 そして改めて自分の身体を確認する。自分の手の平を見れば、ぷにぷにと幼児らしいものだった。五歳児くらいだろうか。

 情報が無いに等しいのでスティエラはカエルムの腕の中から、カエルムの顔を見上げる。


「父様、私は無事生まれたという事で良いの?」

「勿論、これ以上ないほど完璧だよ。……ああ、自分では見れないから分からないか」


 スティエラの疑問に気付いたカエルムは泉の水面にスティエラの姿を映した。


 スティエラが水面を覗くと、そこには絶世の美少女、美幼女? がいた。

 左が白、右が黒と真ん中で色が分かれているサラサラで長い髪。地球では有り得ない、ディヴェリスでも珍しい特異な髪色はそれはもう目立つ。

 髪と同じ色の長いまつげに縁取られた大きな目は、右目は黄金、左目は紫のオッドアイで、見る角度によってキラキラと瞬いていた。珍しい事に瞳孔が十字になっており星の様に見える。一目見れば一瞬で吸い込まれそうな程の美しさであった。

 透明感のある白い肌、幼さが理由だろうまろい輪郭を描く頬、桜色に色付いた小さな唇、どれをとっても美しいと形容するしか無い。まるで神が丹精込めて作り上げた至極の芸術品の様、と表現しても未だ足りない程だ。スティエラがその気になれば、否、ならなくとも国を傾ける事は容易だろう。

 神秘的な気品すら感じる顔立ちにスティエラは驚く。何故なら見覚えがあったからである。

 星奈だった頃の姿を知っている者が見たら、星奈を思い浮かべる位には面影がある事にも驚いた。星奈の頃も間違いなく平均以上に整っていた。その事も母親に疎まれた原因であるのだろう。スティエラ(今世)の方が断然美しいのだが。

 それだけではなく、スティエラが最も驚いた事、それは――


 ――カエルムの顔立ちとも似ていた事だ。


 水面から目線を上げ困惑げな顔でカエルムを見る。

 スティエラ自身が似ていると称した様に、カエルムも相当な美青年だ。腰まである長い黒い髪と黄金の目はスティエラの片方の色と同じであるし、切れ長の目は冷たい訳では無く涼しげな印象を抱かせる。瞳孔が蛇の様に縦長で少々人間味が薄れるが、スティエラを見る目の温度は温かすぎる位だ。上背があり細いが鍛えられた体は頼りなさを感じない。世の女に大変好かれそうな見た目だ。

 カエルムはスティエラの様子に首を傾げるが、どんな疑問を抱いたのか察して答える。


「ステラは私と相性が良い魂だと最初に言っただろう? だから顔立ちも似ていたんだろうね」

「なるほど。それと、今の方が星奈だった頃よりとても顔が整っているのは何故か分かる?」

「ああ、それは肉体が魂に追い付いた、少なくとも前世の頃よりは近付いたからだろうね」

「おいつく?」


 カエルムの言葉の意味が分からずスティエラはコテンと頭を傾ける。


「ステラの魂はとても美しいと伝えたよね」

「うん」

「前世ではその美しさを表しきる事が出来なかったんだろう。私が作り上げた今のステラの身体は最低限の能力は保証してあるけれど魂を軸としていて、上質であればある程性能が上がるから容姿もつられて美しくなったんだと思うよ」


 その推測にスティエラは納得した。それ程までに整った姿形であったから。

 納得したと分かったのだろう。カエルムはスティエラを抱いたまま立ち上がりこじんまりとした家に向かった。全て木で作られた家は何処か温かみを感じる。

 中に入ると、スティエラは驚いた。リビングと言っていい空間が外から見た時よりも明らかに広かったから。


「これは……」

「ふふ、驚いたかい? これはね、魔術で空間を広げているんだよ。ステラもきっと出来る様になるよ、私の娘だからね」


 リビングをきょろきょろと見渡すスティエラを微笑ましげに見ながら説明するカエルムだが、実際の所かなりの高等技術である。簡単に言うには些か疑問が残る。


「魔術はまた今度と言う事で、先ずは着るものをどうにかしようか」


 カエルムの言葉通り今のスティエラの格好は布を巻いただけである。服とは到底呼べない。スティエラを抱き上げたまま、カエルムは奥にある扉に目線を向けた。

 するとその扉が開き中から誰かがやって来た。


「お呼びでしょうか、旦那様」


 それは十五歳程の少女の姿をしていた。水色の髪と瞳を持っており、肩に付かないくらいの長さの髪がふわりと揺れる。整った顔立ちは優しげで穏やかな笑顔を浮かべていた。何故かクラシカルなメイド服を着ている。

 特筆すべき点は、淡く光る鱗粉の様なものを纏っている所だろうか。明らかにただの人間では無いと理解出来る。


「紹介するよ。彼女は水晶樹、ステラが生まれた場所にある木の樹精なんだ。今は私に仕えてくれている」

「初めまして、お嬢様。お会い出来て光栄でございます。お好きな様にお呼び下さい」


 微笑みながら伝える水晶樹の樹精は、初めからスティエラの事を好ましいと思っている様だった。


「初めまして、スティエラと言います。えっと、好きな様に呼ぶって、名前は何て言うんですか?」

「私に名前は無いのです」

「え?」


 予想外の返答にスティエラは聞き返し首を傾げる。そして疑問を解消する為にカエルムの顔を見上げた。


「彼女は樹精だから元々名前は無いんだ。私が名付ける事も出来たけど、長い付き合いになるステラに名前を決めて貰いたくてね。名付けた方が二人の結びつきも強くなるから」

「……私で良いの?」

「ああ」

「私からもお願いします」


 名付けと言う重要な行為に、スティエラはどんな名前を付けようかと頭を悩ませる。名付けを断るつもりは一切無かった。初めて優しく接してくれる二人の願いを叶える事に否やは無いから。


(名前……名前か……どうしようかな。水晶樹……水晶……英語で水晶はクリスタルだから、そこからとる? 安直ではあるけど、リスタとかどうだろう? 水晶樹の樹精? の彼女にぴったりじゃないかな)


 名前を決めたスティエラは、その小さな口を開いた。


「えっとね、前世の言語の中に、水晶をクリスタルって呼ぶ言語があるの。そこからとってリスタって言うのはどうかな?」


 少し自信なさげに伝えるスティエラだったが、リスタと名付けられた樹精は顔を紅潮させ目をキラキラと輝かせる。


「リスタ、水晶樹の私にぴったりな名前です。これからはリスタと名乗らせていただきます。ありがとうございます、名前を付けて下さって。

 ……私もステラお嬢様、とお呼びしても良いでしょうか?」

「もちろん、距離が近くなったみたいで嬉しい。これからよろしくね、リスタ」

「こちらこそ、ステラお嬢様」


 二人ともニコニコの笑顔に、仲良くなって嬉しいカエルムも笑みを浮かべた。

 どうしてもカエルムとスティエラは長くは共に居られない。長く共に居られるリスタと仲が良いのはカエルムにとって安心出来た。


「じゃあ改めて。リスタ、ステラが着れる服を持ってきて欲しい」

「わかりました、直ぐに持ってきますね」


 そう言うとリスタは一旦違う部屋に行き、服を持って帰ってきた。質の良い黒い布で作られたワンピースで可愛らしいフリルが縫い付けられている。

 流石に男のカエルムが着替えを手伝う訳にもいかず、カエルムがリビングから出た後リスタに手伝われながらスティエラはワンピースを着た。五歳と幼くなった為身体の感覚が異なり、手足を動かすだけでも一苦労であったから。

 無事着替え終わったスティエラは、見た目も相まって非常に可愛らしかった。


「可愛くて素敵だね、このワンピース」

「気に入って頂けて良かったです」


 前世では着れる物は襤褸しか無かった為、女の子の憧れの様な可愛らしいワンピースを着れる事に、スティエラは頬を赤らめ笑った。とても可愛い。

 部屋の外に居るカエルムを呼び戻し、スティエラはワンピースのお礼を言った。そんなの子供が気にしなくて良いと頭をポンポンと撫でられたが。


 和やかな雰囲気に包まれていると、くるる、とスティエラの腹から小さな音が響いた。

 バッと腹を抑えるスティエラだが、真っ赤に染まった顔を見れば空腹なのだと直ぐに分かる。そもそもずっと卵の中で育ち、何かを食べる時間など無かったのだ。空腹くらい覚える。

 そんなスティエラの様子にカエルムはくすりと笑った。


「そうだよね、食事を取る時間なんて無かったからお腹減るよね」

「うぅ……ごめんなさい」

「謝らないで。ステラの状況を失念していた私の責任だよ。昼食になるかな、何か食べようか」

「……うん」


 恥ずかしそうに、だがしっかりと頷くスティエラだった。生き物は食欲に勝てない。スティエラの場合は前世で食うに困る生活を送っていたから特に。

 リスタが食事の用意をし、スティエラとカエルムは椅子に座る。

 リスタが用意した食事は、白い柔らかなパン、肉や野菜が溶ける程煮込み旨みが染み込んだスープ、森で狩ったモンスターの肉のサイコロ状のステーキ、とカエルムにとっては普段の物だが、スティエラにとってはご馳走だった。食事のメニューは今の身体になって初めて食べるスティエラに配慮して、消化に良い物、食べやすい物を用意した。

 目をキラキラと輝かせながら美味しそうに食べる姿に、用意したリスタも嬉しさを覚える。

 リスタは精霊の仲間である樹精な為、本来なら人間の様に食事を取る必要は無い。リスタの糧になるのは植物として太陽光や水、土の栄養や、精霊としての魔力だ。その為膨大な魔力を持つ二人の傍は心地が良く、たまに魔力を貰うだけで暫く何も糧を取らなくて良い程である。それもあってスティエラに好印象なのもある。食事を取れない訳では無いのでこうやって作れているのだが。


 昼食も取り終わり、カエルムはスティエラに家の紹介に移る。

 この家は一階建てで地下にも部屋がある。カエルムの時空魔術で空間が拡張され、内部は大体二倍程広くなっている。カエルム、スティエラの部屋が有り、リビング、キッチン、バスルーム、地下には実験室がある。十分に暮らせる基盤が整っていた。リスタの部屋が無いのは、休む時は本体である水晶樹に戻るからである。

 外には野菜や果実、薬草を育てている畑や家畜を育てるスペースがある。


「凄いね……ここの施設全部父様が作ったの?」

「大体はね。リスタに手伝ってもらったものもあるよ。野菜とか薬草はリスタに手伝って貰ってる。彼女は樹精で専門分野だからね」

「そっか、リスタって樹精? なんだもんね」

「この世界の知識については後々教えるよ。初日に詰め込みすぎたら疲れてしまうだろうし」


 案内を受けていればいつの間にかカーテンの外側の、薄暗いが漏れていた光が暮れ、夜の時間帯になっていた。あっという間に過ぎた時にスティエラは驚愕する。楽しい時間は時が過ぎるのが早く感じる、と言うのは本当なのだと実感しながら。

 家の中へと戻り、相変わらずスティエラにとってはご馳走の夕食を取った後、リスタと共に入浴を済ませる。何人も入れる程大きい浴槽は、小さな身体のスティエラにとってとても広く、全身が沈んでしまう為リスタの膝に座りながらお喋り等をして入浴を楽しんだ。


 入浴を終えた時には大分遅い時間になっていたのだが、慣れない環境だからかスティエラの眠気はさっぱり来ず、まだまだ元気そうに椅子に座っている。ゆらゆらと足を揺らす仕草は本当の子供の様である。

 子供と言うのもあながち間違っていないかもしれない。肉体が五歳児相当になったのだ。精神が肉体に引っ張られる事も有り得るだろう。

 そもそも前世である星奈が子供でいられた期間は限りなく少ない。大人にならざるを得なかった。その反動でもあるのだろう。ここでは誰もスティエラを否定しない、冷たい目で見てこない、暴力を振るってこない。十分にスティエラがカエルムやリスタに甘える理由になる。これからスティエラは前世の分も合わせて成長していくのだ。


 それでも夜に眠らないのは成長に悪いので、カエルムはホットミルクにスイートビーというモンスターの蜜を混ぜた物をスティエラに手渡す。


「眠れる様に、これをどうぞ。身体が温まって良く眠れるよ」

「ありがとう、父様」


 にこりと笑いながら受け取り、スティエラは湯気が立つホットミルクに息を吹き掛ける。飲みやすい温度になったらコップの縁に口を付け、ちびちびと飲み始めた。

 ほんのり広がる甘さが身体に染み渡る。火傷しない様にゆっくりと飲み進め、コップの中身が無くなる頃には、漸くスティエラに眠気が襲って来た。


「そろそろ寝ようか」

「うん……」

「ステラの部屋も用意してあるから、ちゃんと眠る場所はあるからね」

「父様と一緒が良い……」

「おや」


 ウトウトと船を漕ぎながらもスティエラは要望を伝える。カエルムの服の裾をちょこんと引っ張りながらのおまけ付きで。

 スティエラにとって一人になる事は前世での環境を思い出し、あまり好ましいものでは無い。

 傍から見たら育てていると言う言葉には頷けない程度の世話しかされず、残りの時間は一人で過ごすという事を強要される。物置に閉じ込められたり外に放り出されたりと。そんな時間を思い出したいと言う者は少ないだろう。


「じゃあ一緒に寝るかい?」

「うん、一緒に寝る……」

「もう半分は寝てるね」

「ん……」


 半分夢の中のスティエラを優しく抱き上げカエルムは自室に向かおうとする。その前にリスタに声を掛けた。リスタもカエルムの胸元にしがみついているスティエラに優しい表情を向け、良い夜をと告げながら本体である水晶樹に戻っていく。

 カエルムの自室に入り、そっとスティエラをベッドに寝かせる。カエルムが高身長と言うのもあってベッドは大きく、二人で寝ても狭くないだろう。

 カエルムもランタンの灯りを消した後ベッドに寝転がる。

 カエルムが側にいて安心したのだろう。すやすやと眠っているスティエラのサラサラの髪を撫でた。


「お休み、ステラ。私の元に来てくれて、本当にありがとう」


 布団を胸まで掛けてやりながら、カエルムはそう呟いた。深い深い愛情がこもった声色で。

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