ルディアスと陛下
次話までルディアス視点でお送りいたします……!
執務室に入ると、俺達以外の者は集まっていたようだった。向けられる視線からアイリスを庇うように一歩前に出る。
睨みつけるように視線を送っていると、シリウスがこちらに来た。目を細めたシリウスは俺を一瞥した後、アイリスに向かって笑みを浮かべる。
「アイリス様、お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
部屋の扉近くには女王候補、正面に陛下、向かって右手にエストやアロイス、対面するように三人の男がいた。
「アイリス、具合が悪くなったらすぐに言え」
「は、はい。ありがとうございます」
アイリスを女王候補達の傍に連れていき、俺はアイリスに一番近いエストの隣に移動した。
アイリスの体調が悪くなったらすぐ治癒室へ行けるようにするためだ。
――無理をしていないといいが。
アイリスの顔色は未だに悪かった。執務室へ連れてくるまでの間、心配だった俺はアイリスを抱き上げたが、軽すぎて余計に心配になっただけだった。
――やはり治癒室へは連れて行こう。その後はすぐに食事だ。
陛下が何のために俺達を呼んだかはわからないが、俺にとっては陛下の話よりもアイリスの方が大事だ。途中で抜けることも視野に入れておく。
治癒室は魔法を学ぶ授業部屋に近いはずだ。滅多に使うことのない部屋だから記憶に残ってはいないが、いざとなればその辺にいる生徒に聞けばいいだろう。
学院内には授業部屋だけには留まらず、治癒室や寮、図書館などの完備もされており、生徒達が過ごす上で不便がないよう手配されている。
さらには、制服や食事などの必要となる物が全て無償で提供されているのだ。
ノワール魔法学院は、身体に媒介となる石が現れた生徒達しか入れない、選ばれた者が通う学院だ。
媒介となる石が現れなかった者は、魔力があっても魔法を使う力が極めて弱い。
だからこそこの学院に通う生徒達は、女王と共に次代を担う生徒達だからといった理由で大切にされる。
皆が次代を担う生徒だから平等にという理由で、この学院では姓を名乗ることを禁じられていた。富める者も貧しい者も平等に学べるように、というのが初代王の教えらしい。
――と言っても、このノルノワール王国に貧富の差なんてほぼないだろう。
あの場所に比べれば……と、自分の過去を思い出しそうになり、意識を違うことに向ける。
話はまだかと陛下を見ると、何かを考えているかのようだった陛下が視線を上げた。
「時間が惜しいわね。すぐにでも本題に入りましょう、シリウス」
「はい。女王様」
穏やかな笑みを浮かべた陛下の隣にシリウスが立った。水色の髪を耳にかけると、切れ長の青い目を細めている。
「先日行ったアイリス様の試験で、不正を行った者がいるという話が出ました」
――不正? 一体誰が。
シリウスの言葉に、アイリスが驚いたように口を押さえていた。言葉を引き継ぐように陛下が続ける。
「本人は気づいていると思うけれど。……ルディアス」
「はい、陛下」
名を呼ばれたが、思い当たることはなかった。眉をひそめる陛下と目が合う。
「試験の時、他の女王候補であるイザベラやソフィアには魔力を与えていなかったそうね。それは何故かしら?」
「必要ないと判断しました。他の補佐役だけで足りるかと」
「そうね。ただ、二人に魔力を与えてから、アイリスの試験に臨んでいたら……貴方の魔力は足りていたかしら?」
「……何が言いたいのでしょう。それが不正とでも?」
「不正とまではいかなくても、不満は出るでしょうね。公平ではなかったのだから。
現に補佐役の生徒からは不満の声が上がっているわ」
陛下が俺から視線を外した。その視線を追うように、補佐役の生徒に目を向ける。薄く弧を描くように唇を歪めている奴がいた。
――あいつか。
薄紫色の髪と金の瞳を持つ男。名はレオンハルト。魔力は光だっただろうか。
俺があまりにも周りに無頓着すぎると、アロイスがしきりに説明してきたことを思い出す。アイリスのために補佐役の名と属性だけでも覚えておけと言われたのだが、このようなところで役に立つとは思わなかった。
笑みを浮かべながらも、俺に向ける金の瞳には好戦的な色が混じっているようだった。
――この男もアイリスに魅せられたうちの一人なのだろう。
確かにアイリスの石の力は強く、魔力を持つ者なら惹かれると思う。
だが、それ以上にアイリスが愛らしいからだろう。俺の魔力を使った後に見せてくれた儚げな微笑みも、魔法を失敗したと落ち込む姿も、街に出かけたときのはしゃぐ様も。
思わず閉じ込めてしまいたいと思うくらいアイリスの全てが可愛かった。
――だが、今更のはずだ。アイリスの補佐役にと、俺は陛下に許しをもらった。
補佐役のまとめ役に選ばれた俺は、全ての属性を会得している。身体にある黒曜石は全属性を持つ者の証だった。
俺一人で全ての属性をアイリスに与えることができるということは、アイリスの補佐役は俺以外に必要ないはずだ。
そう思いながらも、俺は祈るような気持ちで陛下の言葉を待った。
「アイリスの補佐役として許可を出したのは、ルディアスの魔力量でなければアイリスの補佐役が務まらないかと思ったからよ」
俺の考えを見透かすように、陛下の紫の瞳が細められる。続けて出る言葉が、俺の望むものではないことくらい嫌でもわかってしまった。
「公平な試験ではなかったとわかった今、貴方にアイリスの補佐役としての役目を一任することはできない。
よって、試験のやり直しをします」
「……」
「試験のやり直しは明日の朝、前回の試験と同じ場所で行うわ。アイリス以外の女王候補も立ち会うこと。
今後、異論が出ないよう全生徒の前で行うからそのつもりで」
その後、「アイリスだけ残りなさい」という陛下の言葉で、執務室から閉め出された。
シリウスの魔法によって固く閉められた扉は、この学院に開けられるものはいないだろう。
アイリスとの間にできた壁のように感じ、閉められた扉を呆然と見続けた。




