突然の訪問者
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部屋で悶々としていると、扉を叩く音が一度だけ聞こえた。
もしかしたら、ルディアス様が来たのかもしれない。
はやる気持ちを抑えて扉を開けたけど、そこにいたのはルディアス様ではなかった。
長めの水色の髪をゆったりと一つに結んでいる、切れ長な青い眼を持つ男性。その男性を見て、私は驚いてしまう。
「おはようございます、アイリス様」
「シリウス様……?」
「今よろしいでしょうか?」
「は、はい。どうかしたんでしょうか?」
シリウス様が部屋に来るなんて、学院に入ってから初めてのことだった。もしかして何かあったのかもしれないと、不安になる。
「突然お伺いしてしまい申し訳ありません。たいした用事でもないのに、女王様から言付けを頼まれまして……。人使いが荒くて困ってしまいます」
「そ、そうなんですか……?」
「はい。だから、アイリス様。そんな不安そうな顔をなさらないで下さいね」
労るようにシリウス様は言ってくれた。
だけど、幼い頃に数回お会いしたとは言え、女王様のお傍に居られるような人といるのは緊張してしまう。
落ち着こうと思って、胸のクリスタルを触ろうと手を伸ばした。
――そういえば、こうやってクリスタルに触れるのは久しぶり……
胸の石を触るのは幼い頃からの癖だったけど、学院に入ってからは不思議と触ることが少なくなっていた。それに今は、クリスタルの近くにルディアス様に頂いたブローチがある。
――きっと……知らず知らずのうちに、ルディアス様に頼ってしまっていたんだ。
私は学院に入ってからずっとルディアス様に甘えてしまっていたんだなと思う。
ルディアス様に頂いた黒のブローチを触りながら考えていると、いつもの低い声が聞こえた。
「おい、アイリスに何の用だ」
「ルディアス様……!」
私の手を取り、シリウス様から庇うようにルディアス様は立ってくれた。
ルディアス様に手を握られると安心したはずなのに、今は少し胸が苦しい。
「ルディアス……お前は先に行きなさいと伝えたでしょう?」
「了承した覚えはない」
「……確かに返事はしていませんでしたね。よろしい。ただし、そこを退きなさい」
「断る」
「全く……お前は面倒な男ですね」
「あ、あの……シリウス様、どのようなご用件だったのでしょうか?」
ルディアス様の背中から少しだけ顔を出して、シリウス様に聞く。すると、シリウス様が穏やかな笑顔を浮かべてくれた。
「そうしていると、最初にアイリス様に会った時を思い出しますね……」
「え?」
「あの時……最初に会ったときも、幼かったアイリス様は私から逃げるように隠れてしまって。貴方の母上が守るように立っていたのです。……懐かしいですね」
穏やかな笑みを浮かべたシリウス様に、私は何も答えられなかった。シリウス様が来てくれたことは覚えていたけれど、お父様に怒られていたような曖昧な記憶しか思い出せなかった。
思わずルディアス様の手を握る力が強くなる。
すると、ルディアス様も手を握り返してくれた。その手の温かさに少しほっとした。
「……嫌な記憶を思い出させてしまったようですね」
「い、いいえ。ご迷惑をおかけしてしまってすみません……」
「アイリス様は何も悪くありませんよ。あれは私の力が不足していたせいですから」
シリウス様は水色の綺麗な髪を耳にかけると「では、本題に入りましょうか」と言った。
「アイリス様は……本日から魔石作りを行う予定でしたが、変更になりました」
「どういうことだ?」
「女王候補を補佐する役が六人いたことを、アイリス様は覚えていらっしゃいますか?」
「はい、それは……覚えています」
最初に女王様とお会いしたときに、ホールにいたのはルディアス様、エスト様、アロイス様の他に三人いた。
でも、その人達がどうしたんだろう?
「実は他の補佐役達が、アイリス様を含めた女王候補と直接話がしたいと申しまして……」
「アイリスには俺以外……」
「お前は少し黙っていなさい」
「くっ……お、まえ……」
ルディアス様の苦しそうな声に不安になる。
大丈夫かと様子を窺おうとすると、シリウス様に「大丈夫ですよ」と止められてしまった。
「私もまだ早いとは思ったの、ですが……女王候補として、他の者と交流を深めるのも、大事な事ですからね」
「はい。……わかりました」
「なので、本日はこれから女王様の執務室へ行って頂きます。ルディアスもいいですね?」
「こ……とわ」
「ルディアス? わかった、でしょう?」
「く……そ。わ……かった」
「ふふ……わかりましたね? では、アイリス様――。執務室でお待ちしております」
シリウス様が笑ったその瞬間、泡のように消えてしまった。
まるで今まで話していたのが嘘みたいに感じるほど、一瞬でいなくなってしまったシリウス様に呆然としてしまう。
「……あいつ」
「ルディアス様、大丈夫ですか……?」
「問題ない。シリウスに用ができただけだ」
「そう……なのですか?」
不安になって問いかける私に、ルディアス様は安心させるように、ぽんぽんっと優しく頭を撫でてくれた。
その手が私の胸元にのびると微笑んでくれる。
「つけてくれたんだな」
「あ……はい! ブローチ、ありがとうございます」
「……よく似合っている」
その一言が嬉しくて、私は照れて俯いてしまう。
ルディアス様は私を軽く抱きしめた後「仕方ない、行くぞ」といつものように私の手を引いてくれた。




