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ソフィアの過去

 私の家は下町にあった。煉瓦でできた小さな家だったけど、お母さんがいつも綺麗にしてくれていて、家の中には花が溢れていた。暖かな空間だった。


 お父さんは商人で、主に服を取り扱っていた。いつも忙しそうに働くお父さんは、情報に敏感で流行をいつも気にしていた。

 むしろ、そういう事に敏感ではないと仕事として成り立たなかったんだと思う。


「ソフィア、どちらの服が売れるかわかるかい?」

「そうね、こっちの青い服は身体の線を綺麗に出してくれるから売れそう。でも、もう一つは駄目ね!」

「そうか、私もそう思うよ。ソフィアの見る目もなかなか育ってきたな」


 こうやってお父さんと一緒に服を仕入れに行くのは、すごく楽しかった。お父さんの大きな手で撫でてもらえるのが嬉しかったし、褒めてもらえるのが誇らしかった。

 お母さんは弟を産んでから、寒い時期に体調を崩しやすくなったけど、明るくていつも優しかった。弟は私よりも五歳下で、喧嘩は多かったけど、仲は良かったと思う。


 お父さんのお店には常連さんがいて、服を買いにわざわざ私達の店に訪れてくれた。


 私はその人達に、学院で最初に行われる女王様からの課題について教えてもらった。

 以前の候補生が行った事を歴代の候補生も行うとあって、魔力を分けてもらう必要があった私は、店に訪れるお客様や仕入れ先の人に魔力を持つ人が居たら頼んでいた。


「よし、今日もまずまずね!」

「本当にソフィアはすごいな……!」

「あっという間に魔力を扱えるようになったのねぇ」


 私の魔法の練習を見て、褒めてくれたお母さんとお父さん。

 影でこっそり見ている弟も、憧れるように目を輝かせて私を見ていたっけ。


 でも私はこの時まだ知らなかったんだ。魔法をうまく扱えると、褒められて有頂天になっていた私は気づこうともしなかった。

 情報や魔力をもらうときには、対価となる何かが必要だって言うことを。

 私が魔法の練習をすることが、家計を圧迫していたことも、少し考えればわかることだったのに。


 私が魔法の練習をする度に、付き合ってくれた人達にお父さんがお金を渡していたことは、今から二年前に知った。

 単純に見てしまったのだ。「ありがとうございました」とお金を渡すお父さんを……。

 当時、衝撃を受けたことを今でも鮮明に思い出せる。

 幼くて、それに……馬鹿だったんだ、私は。


 それからは優しく見守ってくれる両親達のために、魔法の練習と並行して、仕入れや家事も積極的に手伝うことにした。何でも良いから、家族のために役に立ちたかった。


 学院に入って女王になれなかったとしても、魔法の練習をしておけば、生徒との間に良い繋がりができるかもしれないと思ったんだ。魔法を使える生徒は、実力があれば国の重要な役目を担うことができたから。

 それに、少しは自分の魔法に自信もあった。魔力を分けてくれる人も、私の魔法を見ると口を揃えて「すごい」と言ってくれていた。


 だから……学院に入ってからの試験で、打ちのめされた。

 イザベラ様の綺麗な魔法、アイリスの圧倒的な力。

 私はここでも自分の認識の足りなさを思い知らされた。自分の力を過信していた。確かに下町では私の魔法は凄かったのかもしれない。


 ――でも、それは比べる対象がなかっただけ。


 その現実は、私が見ないように、考えないように蓋をしていただけで、心の中にあったのかもしれない。

 もやもやと湧き出てくる感情に為す術もなかった。


 イザベラ様とアイリスに感じる劣等感と……嫉妬。

 愚かな私の、汚い感情。




 ふっと目が覚めて布団から飛び起きる。

 嫌な夢を見ていたのかもしれない。額が汗でびっしょりと濡れていて、服も張り付いて気持ちが悪い。

 カーテンの隙間から光がこぼれているのを見て、朝がきたんだなと思った。ぼーっとする頭を覚まそうと、ベッドから降りてカーテンを開ける。


 いつの間に寝てしまったんだろうか。

 昨日、エストが『帰ろう』と言ったところまでは覚えているんだけど……。


 それに……何故だろう。

 何故かはわからないのに、ただ後悔するような……嫌な気持ちだけが、私の中にいつまでも残っていた。

次話からアイリス視点に戻ります!

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