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08:オレ、蹂躙する!

 オレは、一本道の通路を埋め尽くすように迫りくる、ゴブリンの群れを真正面から見据えた。

 奴らは下卑た醜悪な笑みを浮かべながら、我先にと距離を詰めてくる。


『……悪い顔ですね、マスター』

「蹂躙開始だ!!」


 ナビの呟きが、迫りくる怪物に向けられたものか、あるいはオレに向けられたものかは分からない。

 だが、これだけは断言できる。

 奴らは倒すべき敵であり、これはリアルな命のやり取りであると!


 オレは右腕の【ストーンアーム】を前面にガッチリと構えて防護を固める。

 同時にホバーボードを加速させて、奴らに向けて突撃を開始した。


「ギャアアアッ!?」「へギャッ──」


 グシャ、ベキィッ、グロテクな音をたて、奴らは次々と、小気味の良い悲鳴を上げる。


 時速40キロの弾丸と化した超重量のストーンアーム。

 その正面衝突を喰らったゴブリンどもが、悲鳴を上げながら次々と血しぶきを散らして吹き飛んでいく。

 道中、石を投げつけられようが、棍棒で叩かれようが、オレは微塵もスピードを緩めない。

 堅牢な大岩の装甲が、最下級モンスターの攻撃ごときで揺らぐことなど万に一つも有り得ないのだ。

 大岩の巨大な腕が、オレを覆い隠しながら、まるで戦車のように爆走している。


 まぁ、それを可能にしているのは、【ホバーボード】の推力なのだが。

 快速のホバーボードと、鉄壁のストーンアーム──。

 この2つを掛け合わせた突撃戦術は、防御と攻撃を兼ねた優れた攻撃手段と言えよう。


「ブゴッ、ブゴォォ~~!?」「フゴォォーッ!!」


 やがて、遅れてやってきた数体のオークが、大部屋の開け放たれた扉を抜けてゴブリンを強引に突き退けながら躍り出てきた。

 

 ドカァァァァンッッ!!!!

「「ブゴォォォォ……ッッ!?」」


 だがゴブリンだろうがオークだろうが関係ない。

 巨漢のオークたちも同じように跳ね飛ばされ、次々と通路の壁や床へと叩きつけられ、無残に潰れて肉塊へと変わっていく。

 オレはそのまま減速することなく、大部屋の扉を強行突破。


 再び広大な大部屋へと突入した。

 そのまま再び押し寄せるオークとゴブリンを、目の前の段差の下へと押し出していく。


「さて……これで残りの戦力はどれくらいだ?」


 やがて周囲の敵がいなくなると、オレはホバーボードをピタリと制動させた。

 敵の残存戦力を正確に確認するため、段差の下を見下ろす。

 大部屋の床面を埋めていたモンスターの群は、今の強行突破で見る影もなく激減していた。

 残るはゴブリン6体に、オーク14体といったところ。

 先ほどオレが仕掛けた突撃を喰らい、すでに満身創痍な奴らもいる。


 ただし、未だ無傷でピンピンしている『オークジェネラル』と、『オークメイジ』3体の姿がはっきりと確認できた。

 ついでに、天井を仰ぎ見ると、2体の『ビッグスパイダー』は、大部屋の一番隅へと移動をしていた。

 オレと積極的に戦う意思は喪失しているように見受けられる。


 フッ、まぁ……。


 1体500ポイントの美味しい敵ではあるし、見逃す気はないがね。


「ブゴォォォォォォ~~~ッッ!!」


 怒り心頭に発したオークジェネラルが、鼓膜を震わせる咆哮を上げた。

 それを合図に、残存するオークメイジの【ファイヤーバレット】と、ゴブリンどもの投石が、空間を埋め尽くす弾幕となってオレへと一斉に飛来する。

 

 オレはホバーボードを前進させると、2メートルの段差から一気に飛び降りる。

 同時に躱した飛来物が、次々と頭上を通過していく風切り音が聞こえた。


 ドババババババッ!!


 するとオレが先ほどいた場所に、危険な飛来物が次々と衝突し、爆ぜていくいく。


 そのまま円を描くような大回りの軌道で、奴らの懐へと急速接近した。


 ドババババババッ!!


 オレの背後で、激しい爆破音と着弾音が連続して炸裂する。

 超高速で大部屋を駆け抜けるオレの残像に敵の狙いが完全に狂わされ、魔法も投石もすべてオレの後方を虚しく叩いて床を砕いているのだ。


「ピギャッ!?」「ブゴッ!」「ブギィッ!?」


 敵陣のド真ん中に肉薄したオレは、本命であるオークジェネラルをあえて巧妙に避けながらチェイス。

 周囲を固めていたオークメイジ、一般オーク、ゴブリンを、ストーンアームで次々と撥ね飛ばした。


「ブゴォォォォッッ!!」

 ズドォォォォンッッ!!!!


 背後から怒れる将軍の大剣が襲いかかるが、その鈍重な剣撃がオレを捉えることは万に一つもない。

 逆に、オレの高速の軌道についていけない味方のオークやゴブリンどもがジェネラルの大剣に巻き込まれ、次々と切り刻まれていく始末だ。


 ──数秒後。

 気付けば、周囲はオークとゴブリンの死体で、死屍累々の状態となっている。

 残されたのは──オレと、黒き将軍オークジェネラル、ただ2体だけだった。

 

 静まり返った大部屋のド真んで、オレとオークジェネラルは鋭く睨み合う。

 

「おらァァァァァッッ!!」

「ブゴゴォォォォォーーーッッ!!」


 刹那、同時に地を蹴り、一気に距離を詰めて肉薄した。


 オークジェネラルが構える大剣は長大だ。

 オレのストーンアームよりも遥かにリーチが長い。

 必然、先手は奴の領域となる。


 オークジェネラルは上段に剣を振り上げると、オレめがけて一息に振り下ろした。


 ドゴォォォォンッッ!!!!

「──危っぶねぇ!!」


 ホバーボードのステップを瞬時に踏み込み、その絶対的な一撃をミリ単位の紙一重で回避。

 奴の懐へとさらに深く滑り込む。


「──ストーンアーム・パァァァンチ!!」


 オレは岩石の拳を、奴の分厚い胸板めがけてお見舞いした。


「フゴッ!?」

 ガキィィィィィンッッ!!!!


 激しい金属音が響く。

 しかし、その必殺の拳は、オークジェネラルが瞬時に差し出した巨大なタワーシールドによって寸前で阻まれてしまう。

 さすがは上位種、防御の反応速度がザコとは違う。


 だが、オレの先ほどの攻撃は、盾の上からでも十分に奴の巨体を揺るがした。

 オークジェネラルは盾を構えた体勢のまま大きくノックバックし、床に太い足跡を刻みながら後ずさる。


「追撃だ! ──《爆裂の術符》!!」


 オレは左手に仕込んでいた魔法の紙を、オークジェネラルへと投げつけた。


 ズガァァァァァーーーーンッッ!!!!


 至近距離でバーストボムが炸裂する。

 大部屋に猛烈な砂煙が舞い上がり、凄まじい爆風の衝撃と鋭利な瓦礫の散弾がオレの体にも襲いかかる。

 オレは即座にストーンアームを盾にしてその余波を耐え凌いだ。

 

 やがて、ゆらゆらと砂煙が晴れ、中央の戦況が露わとなる。


「ブギ、ィ……! ブゴッ……!」


 そこにいたオークジェネラルは──血を吹き出しながらも、未だその強靭な両足で大地を踏みしめて立ち尽くしていた。


「チッ……なんてタフな野郎だ……っ!」


 オレは思わず歯噛みした。

 本来なら、このオークジェネラルは10階層以上にしか出現しない高レベルモンスターだ。

 通常、こんな初期エリアに現れていい存在ではない。

 これまでの一撃必殺が通用しない、本当の意味での強敵。

 生半可な立ち回りでは、こちらが足元をすくわれる。

 

 ──だが、奴が満身創痍なのは間違いない。

 畳みかけるなら、今この瞬間だ。


「突撃ィィィィッッ!!」


 オレはホバーボードを急加速させ、ストーンアームの拳を構えて一気にジェネラルの懐へと再肉薄した。


 ドガァァン! ドゴォォン! ズドォォン!!


 間髪入れずに、奴が構える大盾へと大岩の拳を何度も何度も叩きつけた。

 打撃が炸裂するたびにオークジェネラルの巨体は後退を余儀なくされ、徐々に、背後の頑強な石壁へと追い詰められていく。


 このまま、壁と盾の間に挟み込んで──肉団子に変えてやる!


 完璧に壁際へと追い詰めた──そう確信した、次の瞬間。


「フゴッ──!!」

 ──ピキィン!


 満身創痍だったオークジェネラルの瞳に、紅い光が宿った。

 その刹那、オレの長年の廃ゲーマーとしての「勘」が、警戒アラートを叩き出す。


 ズシャァァァッッ!!

「危っぶねぇぇぇええええっっ!!!!」


 条件反射で【ストーンアーム】を顔の前に固定すると同時に、ホバーボードの重心を後ろにかけ、マッハで急ブレーキをかけた。

 オレの視界のド真ん中──堅牢であるはずのストーンアームを貫通し、鋭利な剣先が、オレの鼻先数センチのところでピタリと停止していた。

 

 悪あがき──いや、壁際に追い詰められた奴が放った、一発逆転のカウンターだ。

 もしも今のブレーキがコンマ数秒でも遅れていたら、オレは顔面を貫かれ、その場で絶命していた。

 背筋に極寒の戦慄が走る。

 

 ガシャァァァンッ!!

「オラァッ!!」


 オレは貫通されたストーンアームの右腕を力任せにねじり上げ、刀身を巻き込んで上方へと強引に跳ね上げた。

 さすがに必殺の一撃の直後だ。


 握力が弱っているであろうオークジェネラルは、耐えきれず、自慢の大剣を上空へと手放してしまった。

 武器のロスト──勝負ありだ。


「これで終わりだァァァァァッッ!!!!」


 丸腰になったオークジェネラルに、オレは三度ホバーボードで肉薄。

 ストーンアームの剛拳を容赦なく叩き込んだ。


 奴は咄嗟に大盾を前に出して防御するが、オレは狂ったように何度も、何度も、岩の拳を盾の上からタコ殴りにし続けた。


 だが、この化け物はどこまで往生際が悪いのか。

 オークジェネラルは盾の隙間から太い指をこちらに向け、不気味な赤色の魔法陣を展開した。


「こいつ……っ! まだ何かやる気か!?」

 ボボボボボゥッ!!


 次の瞬間、奴の指先から数発の【ファイヤーバレット】が放たれた。


「やべっ!?」


 オレは咄嗟にストーンアームを内側に絞り、その直撃を防ぐ。

 

「ブゴォォォォォォッッ!!」

「な、んだっ!?」


 オークジェネラルは自らの命綱であった大盾を、その場に投げ捨てる。

 そしてストーンアームの死角──内懐へと自ら猛烈なスピードで飛び込んできた。


 大岩の腕の隙間をすり抜け、オレの超至近距離にまで肉薄するその間合い。

 ──それはすでに、大振りの【ストーンアーム】では物理的に攻撃も防御も不可能な、完全なるデッドゾーンだった。

 オークジェネラルは血に染まった太い拳を振り上げ、オレに向けて一直線に突き出す。

 現在のオレのHPは、わずか40。

 あんな丸太のような拳で殴られれば、粉砕されて即死する。

 

 やばい──どうする!?

 第8話をお読みいただき、ありがとうございました。

 快速のホバーボードと鉄壁のストーンアーム──。

 この2つを掛け合わせた「重装戦車スタイル」により、通路にひしめくゴブリンとオークの混成部隊を文字通り蹂躙・圧殺してみせた転生幼女。

 しかし、大部屋の主として立ち塞がったのは、本来なら10階層以上に出現する強敵【オークジェネラル】。

 かつてないタフネスと一発逆転のフルスラストを、卓越したゲーマーの勘で紙一重でいなしたものの、敵もさるもの。

 盾を捨て、ゼロ距離のファイヤーバレットを囮にして、ストーンアームの死角である「内懐」へと肉薄してきました。

 直撃すれば即死必至の丸太のような拳が、最弱幼女へと迫ります。

 この絶体絶命のデッドゾーンから、中身おっさんの幼女はどう切り抜けるのか──。

 次回、いよいよ大部屋の死闘が決着。

 今後の展開を見届けてくださる方は、ぜひブックマーク登録をよろしくお願いいたします!

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