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07:ホバーボードで走ろう!

「いったい何が起こっている?」


 女神の塔の一階層のこの大部屋には、ここまでのモンスターの出現はなかった。

 この大部屋は出入り口付近であるし、ゲームバランス的には、当初からこの規模のモンスターの出現は考えられない。

 

 ただし想定外の出来事を引き起こす事象が、DTCには一つだけあった。


「モンスタースタンピードか!?」


『どうやらそのようです。現在この女神の塔はモンスタースタンピード中もしくは、その終了直後なのでしょう』


 モンスタースタンピードは、DTCでもよく引き起こされたイベントの一つだ。

 その期間はモンスターの出現位置がばらばらとなり、とくに低階層、中階層部分のモンスター配置がおかしくなる。

 ボス部屋のモンスターがいなくなったり、出るはずのないモンスターが出現したりする。

 その間モンスターは塔の外に溢れ、皆の討伐対象となるのだ。


 モンスタースタンピード中は、中階層辺りから押し寄せたモンスターが、低階層部を通過するため、モンスターの出現位置が乱れる。


 またモンスタースタンピードが終了し、モンスターが周囲に逃走を図ると、塔の中に逃げ込んだモンスターが、可笑しな位置に出現する。


 これは時間経過で修正されるが、塔攻略中の低レベル層には迷惑な話だ。


 オレは大部屋のマップを見つめながら、ため息をついた。


「この数のモンスターに対抗するためには、逃げ回ったり、立ちまわるためのスピードも必要になってくる。今のオレの脚力では到底それは無理だ」


『なら、どうされるのですかマスター?』


 隠し部屋に戻り、その中に籠って、この事態が収まるのを待つという安全策も考えられる。

 ただその場合その隠し部屋に、移動中のモンスターが迷い込み、押し寄せてしまう可能性もある。

 なので安全かどうかは正直運任せにもなる。


 ただゲーマーとして、この数のボーナスポイントを、見逃すという選択肢はない。

 オレはこの状況に、笑顔を浮かべていた。


「《ホバーボード》を買う!」


 オレはそう一言言うと、課金ショップ画面を開いた。

 そして迷わず【ホバーボード:1500p】を購入した。

 そのエネルギー源となる【マナバッテリー:100p】の購入も忘れない。

 ホバーボードは、マナバッテリーなしでは動かないのだ。


 残り課金ポイント:3850p


 【ホバーボード】は地面すれすれを低空飛行するスケボーのようなものだ。

 こいつは地面を蹴ることで、その速度を上げる仕様となっている。

 逆に自分の体重を後ろにかけることで、ブレーキがかかり停止する。

 停止しした後も、後ろに体重をかけ続けると、そのままゆっくりと後退する。

 なので停止したい場合は、すぐに体勢を直立に戻す必要がある。


 単純な操作なので、誰でも気軽に使うことが可能だ。


 最高速度は40キロメートルくらいだろうか?

 体感速度はスクーター程と感じられる。


 【マナバッテリー】一つで半日程稼働し、その機動力で戦闘を有利に進めることが可能だ。


 こうしてオレは【ホバーボード】という、機動力を手に入れたのだ。


 次にオレが目指すのは、もちろんモンスターひしめく大部屋だ。


「よっしゃあ! いくぞ! 《ストーンアーム》!」


 ズドォォ~ン!


 オレはストーンアームを起動すると、その怪力で大部屋の両扉を押し開けた。

 

 すると大部屋にいたモンスターが、いっきにこちらに目を向けた。


 オレが扉を潜ると、そこは2メートル程の高さの段差の上だった。

 その両端まではいずれも30メートル程あり、階段が取り付けられていた。


 そこはまるで奴らの餌の登場のための、舞台のようにも感じる。


 大部屋の天井の高さは10メートルほどあり、ゴブリンを喰らうビッグスパイダーの姿が見えた。

 やつらはその部屋に2体おり、どちらも天井で餌を喰らっている。


 オレの目の前にある段差の下には、ゴブリンとオークの群がいた。

 ゴブリンには上位種の姿はないが、オークの方に何体か見られた。

 オークメイジ3体と、一際背の高い黒々とした鎧で身を固めた固体だ。 

 そいつは巨大な剣と盾で武装しており、かなり頑強に見える。

 そのオークこそ上位固体のオークジェネラルだ。


「ブゴォォォォォォ~!」


「「「ガゴオォォォォォォ~!!」」」


 そいつが盛大に雄たけびを上げると、一斉にモンスターの群が、両端の階段に押し寄せた。

 まず階段に押し寄せて来たのは、身の軽いゴブリンだ。

 そいつらはかなりの数がいて、味方を階段から突き落としながら、我先にと強引に駆けのぼっている。

 味方の頭によじ昇っている奴までいる。


 統制はとれていないが、まるで濁流のように押し寄せて来る。


 正面を見ると、すでに無数の火の玉と、投石がオレに向けて迫っていた。

 オークメイジのファイヤーバレットと、ゴブリンの投石だろう。

 

「まずい! 一端下がるぞ!」


 オレはアイアンアームで防御を固めつつ、後退してその大部屋を出た。


 その後退速度は時速5キロメートル程だ。

 その速度なら時期にモンスターの群に追いつかれてしまうだろう。


 なので飛来物を防ぎきったら、いっきにターンして一目散に逃走を開始する。


「あっぶね!」


 すんでのところで、ターンして奴らを振り切る。

 後方に目をやると、既に通路は大部屋から溢れたゴブリンでいっぱいになっていた。

 オレはある程度奴らから距離をとると、再びターンして向き直る。


『このまま逃げないので?』


「逃げるわけないだろ? ここから反撃開始だ!」


 オレは笑みを浮かべながら、迫りくるゴブリンの群を見据えた。

 第7話をお読みいただき、ありがとうございました。

 一階層の異変の正体──それはゲームバランスを根底から破壊するイベント、【モンスタースタンピード】でした。

 その絶望的な状況を前に、廃ゲーマーマインドが覚醒します。「これだけのボーナスポイント、見逃す選択肢はない」と。

 購入したのは、現代の闇……もとい快速の移動メカ【ホバーボード】。

 黄色いヘルム、ワンピース、巨大な重機アーム、そして足元にはSFのホバーボード。

 ファンタジーの景観をこれでもかと木っ端微塵に粉砕したハイテク不審者スタイルですが、その機動力は本物でした。

 直線通路へ敵を誘い込み、ここから最弱幼女による世紀の「大掃除」が始まります。

 次回、第8話「オレ、蹂躙する」

 ホバーボードの快速突進とストーンアームが合わさった時、ひ弱な幼女は戦場を駆ける「重装戦車」へと変貌を遂げる──。

 今後の展開を見届けてくださる方は、ぜひブックマーク登録をよろしくお願いいたします!

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