06:ストーンアームの威力&無双!!
『マスター。……いつまで不毛な魔法のレベル上げに没頭されるおつもりですか?』
「はっ……!?」
冷ややかなナビの呼びかけと共に、オレの意識は覚醒した。
我に返り、周囲を見渡して硬直する。
隠し部屋の頑丈だった石壁は、オレの解体工事によって無残にもクレーターだらけになっていた。
どうやらオレは、ゲーマー特有の悪癖を発揮して、我を忘れて長時間をレベリングに費やしてしまっていたらしい。
オレがここにいるのは、何も魔法のレベルを上げるためではない。
この女神の塔からの、脱出をするためだ。
決してこの女神の塔で、修行をするためにこもっていたわけではない。
「レベル――『8』か」
スキルウィンドウを確認すると、【ゴーレムメイカー・改】のレベルは8まで跳ね上がっていた。
サクサク上がる低レベル帯とはいえ、我ながら驚異的なやり込み効率だ。
レベル8ともなれば、起動時間も強度も初期状態とは段違い。
十分に実戦投入に耐えうる領域に達している。
「フゴフゴッ!」
「ブギィィッ!」
その時、扉の向こう側から、何やら騒がしい鳴き声が聞こえてきた。
この、豚のようなボイス。
ゲーム時代の知識が、瞬時にその正体を弾き出す。
――『オーク』だ。
ゴブリンよりも一回り巨大でタフな、一階層のモンスターである。
「ナビ! ──マップを頼む!」
『了解です、マスター』
緊迫した状況を正確に把握するため、オレは索敵画面を呼び出した。
視界に飛び込んできた立体地図を見た瞬間、オレは思わず頬を引きつらせた。
「おいおい……扉の向こう、赤い点だらけじゃねえか……っ!」
マップを見ると、オレのいる部屋の扉の向こうに、赤い点がひしめいていた。
理由は明白だ。
オレがさっきまで、【ストーンアーム】で壁を殴り続けていたせいである。
あの騒音に引き寄せられて、周辺のエリアにいたオークどもが一堂に集結してしまったらしい。
だが、これだけの数が密集しているというのに、なぜ奴らは扉をぶち破って中に襲撃してこないのだろうか?
『どうやらオークたちは、部屋の内部から響いてくる正体不明の爆音に怯えてしまい、中に入り込めずにいるようです』
「なるほどな……。つまり、中にヤバい化け物がいると思ってビビってると。──よし、試しにちょっと脅かしてやるか」
ドドーーーーンっ!! ズガーーーーンっ!!
オレは試しにその辺りの壁を、ストーンアームで数度叩いてみた。
部屋全体がビリビリと震動し、凄まじい打撃音が通路へと突き抜けていく。
直後、マップ上の赤い点たちが、ビクンと激しく動いた。
やはりナビの言う通り、この音に肝を冷やして右往左往しているようだ。
それでも、どうしても発生源の音が気になって仕方がなく、恐る恐る扉の前に再び集まってきてしまうらしい。
「フッ……まぁ、オレからすれば願ってもない好都合だけどな」
オレの唇がニヤリと不敵に吊り上がった。
向こうからわざわざ、一網打尽にされるために集まってくれているのだ。
ならば、わざわざ索敵して歩き回る手間が省けたというもの。
よし──今からあの豚どもにこちらから奇襲を仕掛け、オレの『経験値』と『課金ポイント』になってもらうとしよう。
鍛え上げたこの【ストーンアーム】が、モンスターをどこまで粉砕できるのか。
その圧倒的な実戦駆動の威力を、拝ませてやろうじゃねえか。
「──ストーンアーム・パァァァンチ!!」
ズドォォォォンッッ!!!!
オレが勢いよく右腕を突き出すと、重厚な石の扉はまるで紙切れのように派手に打ち砕かれ、爆風と共に通路へと吹き飛んだ。
あまりの質量と突進力に巻き込まれ、扉の前にたむろしていた数体のオークが悲鳴を上げる暇もなく宙を舞う。
通路にひしめいていたオークの総数は10体。
初手の不意打ちの衝撃で、すでに2体が完全にノックダウンした。
――残るは8体。
オレは敵の陣形を鋭く凝視する。
その群れの中心に、ひときわ異彩を放つ個体──『オークメイジ』の姿を捉えた。
通常のオークは原始的な毛皮を纏い、粗末な棍棒を握りしめただけのただの前衛職だ。
対してオークメイジは、怪しげな装飾品を身に付け、まるで未開の部族のシャーマンのような姿をしていた。
いずれも頭部は猪そのもので、2メートルを超える強靭な巨漢ばかりだ。
……それにしても、こんな一階層の入り口付近に、オークメイジがポップするなんてゲームじゃ有り得ない珍事だぞ?
かつての知識と目の前の現地のズレに、オレは違和感を覚える。
考えられる理由は一つ。
この【女神の塔】は現在、何らかの『突発イベント』が発生している最中なのだ。
イベント中であれば、本来の出現階層を無視して、通常ならもっと上のフロアにいるはずの強力なモンスターが配置されていても何らおかしくはない。
「ブブブゴォォ~~……ブゴッ!」
オークメイジが不気味な呪詛の鳴き声を上げる
すると、その周囲の空間に、メラメラと赤黒く燃え盛る火の玉が急速に創造された。
――その数は4つ。
初級の火魔法【ファイヤーバレット】を放つ算段だろう。
ゴゴゴゴォォッ!!
激しい熱風を撒き散らしながら、4条の火の弾道がオレの小さな体を焼き尽くさんと一直線に射出された。
「あまいッ!!」
オレは即座に、巨大なストーンアームを正面へと掲げ、盾として固定する。
ズガガガ~ン!!
凄まじい着弾音が響く。
しかし、4つの火の玉は【ストーンアーム】の堅牢な岩肌に衝突した瞬間、傷一つ付けることもできずに爆ぜ、すべて虚しく霧散して消え去った。
レベル8まで上げた強度と、オレの元の魔威(MAT)の補正値の前では、初級魔法などそよ風も同然だ。
「お返しだ! ──《爆裂の術符》!!」
オレは左手にキープしていた爆裂の術符を、頭上へ向けて高く投げつけた。
放たれた爆裂の術符は、盾として構えているストーンアームの巨体をふわりと飛び越え、綺麗な放物線を描きながらオークメイジへと吸い込まれていく。
課金アイテムであるこの術符には、ゲームの仕様通り『ホーミング機能』がデフォルトで搭載されているため、標的がどれだけ動こうが外すことはまず有り得ない。
ズガガァァァァァーーーーンッッ!!!!
術符はオークメイジの顔面に直撃し起爆した。
凄まじい衝撃波と爆炎が通路を埋め尽くし、中心にいたオークメイジと、その肉の壁として周囲を固めていた取り巻きの2体をまとめて派手に吹き飛ばす。
煙が引いたとき、残りの敵はわずか5体。
隊長格を失ったオークどもは、完全に冷静さを失っていた。
「「「ブギギィィィ〜〜〜!!」」」
怒りと恐怖が限界突破したのか、残り5体のオークは棍棒を振り回し、玉砕覚悟と言わんばかりの猛烈な勢いでオレめがけて突撃してきた。
──まぁ、そんな直線的な突撃、このストーンアームの前では無意味だけどね。
「──ストーンアーム・大・回・転っ!!」
オレは右腕を大きく振り回して薙ぎ払った。
遠心力と魔威が乗った岩石の剛腕が、凄まじい風切り音と共に回転する。
「「「ブギャァァァッッ!?!?」」」
突進してきたオーク5体は、その圧倒的な質量の一撃を喰らい玉砕を遂げた。
「おおっ! 一気に3500ポイントもゲットだぞ!」
アイテムボックス内の魔石を即座にポイントへ変換すると、『3500ポイント』という数値を弾き出した。
その内訳は──
オークメイジ1体で、なんと高額の800p。
残りの一般オーク9体で、手堅く計2700p
──残り課金ポイント:5450p
足元に転がっているドロップアイテムを確認すると、「粗末な木の棍棒」や「ボロボロの魔導杖」、そしてオークたちの残骸があるようだったが……
どれもオレの物欲をミリ単位すら刺激しない。
すべて未回収のまま放置だ。
通路のその先には、巨大な観音開きの両扉が見えた。
オレはナビの3Dマップを呼び出し、その扉の向こう側の様子を確認する。
「……おいおい。あの部屋を突破したらついに出口への直通通路だけど……これはちょっと、笑えないぞ」
その両扉は、『大部屋』へと通じており、そこを突っ切れば、外の世界へと繋がる大きな大通路に出ることが可能だ。
そこさえ超えれば、ようやくオレはこの女神の塔から脱出を果たすことができる。
だが、問題はその『大部屋の中身』だ。
「いくら何でも、このモンスターの密集率は異常だろ……っ」
半透明のマップ画面を見つめるオレの顔から、一気に血の気が引いていく。
扉の向こうの空間には──まるで画面がバグったかのように、視界を真っ赤に染め上げるほどの尋常ではない数の『赤い点』が、隙間なくびっしりと明滅し、蠢いていた。
――これは少々骨が折れそうだ。
第6話をお読みいただき、ありがとうございました。
徹底した安全マインドで【ストーンアーム】を最速レベリングし、仕上がった姿は「黄色いヘルム」に「ストーンアーム」。
完全に異世界の景観を無視した工事現場の作業員スタイルですが、その破壊力は本物でした。
騒音に釣られて集まったオーク10体の群れを、初実戦にして文字通り一瞬で完全蹂躙。
一気に5300ポイントの大台へと上り詰める無双劇。
この最下層において、もはや彼女の進撃を阻むものなどいないかに思われました。
しかし、脱出口を前に展開されたマップに映し出されたのは、視界を埋め尽くすほどの『異常な数の赤い点』──。
文字通りのデスゾーンを前に、最弱幼女はどう立ち向かうのか。
次回、鈍足な移動速度が気になり乗り物を購入します。
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