18:迫りくるゴブリンの群、ペルー村防衛戦線
三人称視点~
「ギャアァァァァ!」
「ギャギャギャ!」
ヨッシーが領都に到着したその日。
ペルー村の前には、約500体のゴブリンの大群が迫っていた。
群れの中にはホブゴブリン、ゴブリンメイジ。
さらには、巨体を揺らすゴブリンジェネラルの姿もある。
迎え撃つのは、騎士100と冒険者300の混成軍。
名家の天才魔術師キャロライナ・ボードリエが率いる討伐部隊だ。
その中には、凄腕の冒険者『疾風のモニカ』の姿もあった。
「……随分と多い」
疾風のモニカは、短い青髪が特徴の寡黙な少女だ。
彼女は赤いマフラーを揺らめかせ、無表情に敵を見つめる。
「500はおるっちゅう話や。あんたが狙うんはジェネラルだけ。他は無視してかまわん」
キャロライナが、どこか癖のある口調で指示を出す。
そんなモニカは、キャロライナの幼馴染でもある。
2人は高台からゴブリンの群を見下ろしていた。
「……わかった」
短い会話の後、モニカの姿が戦場から消えた。
ジェネラルを狩るため、すでに動き出したのだ。
「キャロライナ様! 敵が動き出しました!」
配下の魔術師リカードが叫ぶ。
「よし、いよいよやね。総員、戦闘配置!」
地響きと共に、500の緑の津波が押し寄せる。
「まずは足留めや。──『マディフロア』!」
キャロライナの土魔法により、大地が一瞬で底なしの泥濘へと化す。
先頭のゴブリンたちが次々と転倒し、大混乱に陥った。
「今や! 撃ち込みぃ!」
一斉に放たれる矢と魔術の弾幕。
さらにキャロライナの配下たちによる連携魔術が炸裂する。
「《アクアショット》!」
「《ウィンドカッター》!」
「《ファイヤーボール》!」
完璧なコンビネーションの前に、ゴブリン軍勢は前線に近づくことすらできず、一網打尽にされていく。
「ギギャギャ!」
後方から、12体のゴブリンメイジが反撃の炎と酸の雨を降らせようとするが──。
「うちの目の前で、魔法が通ると思ったら大間違いや!」
キャロライナが杖を天に掲げる。
「《ロックフォール》! ──からの、《ファイヤーバレット》!」
頭上から降り注ぐ巨大な岩石、そして超高温の火炎弾の豪雨。
12体のメイジは、まともに術を発動する間もなく一瞬で消し炭となった。
「へっ、名家の魔術師様サマだな! これなら楽勝じゃねえか!」
防衛線が歓喜に沸く。
──しかし、その混乱の渦中。
泥濘をものともせず、突き進む巨体があった。
怪力を誇る、ゴブリンジェネラルだ。
しかし、その巨体が騎士たちに届くことはない。
──キィィン……
戦場に、かすかな風の音が響く。
「……スキル──《俊足》」
人間の動体視力を置き去りにする速度で、モニカがジェネラルの死角へと回り込む。
気配を完全に絶った【暗殺剣】が、的確に首元を切り裂いた。
ドサリ、と崩れ落ちる巨体。
500いたはずの群れは、いまや半分以下。
ジェネラルも次々と間引かれていく。
誰もが、勝利を確信していた。
──戦場に響く異音
「──ガ、ギギ……ギチギチギチ!」
4体目のジェネラルが沈んだその時、戦場に異様な笑い声が響き渡った。
ピタリと止む冒険者たちの声。
本陣から歩み出てきたのは、身長150cmほどの小柄な個体。
だが、その姿はあまりにも歪だった。
肌はどす黒く、前腕から先が丸太のように太い。
足は鹿のそれであり、何よりその手には、禍々しい紫の光を放つ魔剣が握られていた。
「な、なんやあいつ……。ゴブリン、なんか?」
キャロライナが本能的な戦慄を覚えた、その直後。
バリバリバリッ!!!
黒い個体が紫電をまとって地を蹴った。
爆音と共に、数名の前線兵が鎧ごと一瞬で吹き飛ばされる。
馬を凌駕する超高速の突撃。
騎士たちの剣はかすりもせず、怪物が魔剣を一閃するたび、周囲が肉塊へと変わっていく。
「……危険。あいつは、私がやる」
モニカが再び《俊足》を発動。
黒いゴブリンの真後ろへ回り込み、完璧な一撃を首筋へと放つ──!
キィィィンッ!!
「……っ!?」
モニカの目が見開かれた。
刃は、鋼に阻まれたかのように首筋で止まっている。
ズバァッ!
「あ、が……っ……!」
鮮血が舞う。
気づけば、モニカの右腕は、短剣を握ったまま宙を舞っていた。
怪物の魔剣が、一瞬で彼女の腕を切り落としたのだ。
激痛に顔を歪めながらも、決死の《俊足》で距離を取るモニカ。
だが、最強の斥候が瞬殺されたことで、防衛線の士気は完全に崩壊した。
「――モニカッ!!」
キャロライナが悲鳴を上げる。
「あれを止めぃ! 《ロックフォール》!」
必死の魔術で巨大な岩を降らせるが、黒いゴブリンが魔剣を振るうたび、魔法そのものが霧散していく。
──本当の絶望
だが、本当の絶望は、彼女の背後から訪れた。
ガササササッ!!!
「──ギシャアアア!」
完全に警戒の薄れていた本陣の裏手。
茂みから、赤い帽子をかぶった6体の小鬼──『レッドキャップ』が躍り出た。
彼らの狙いは、最初から「一人の標的」だけ。
「しまっ──《オービットロック》!」
咄嗟に岩石の盾を巡らせるが、レッドキャップの動きは素早く、組織的だった。
2体が盾の隙間をすり抜けて杖を奪い、2体が口を塞ぎ、残る2体がその身体を拘束する。
「んぐっ……!? 放し……っ!」
前線は黒いゴブリンの突撃で崩壊状態。
配下たちも自身の対処で手一杯で、誰も背後を援護できない。
レッドキャップたちは、キャロライナを組み伏せると、手際よく彼女を担ぎ上げた。
その目にあるのは殺意ではない。
ねっとりとした、邪悪な歓喜。
(……あ、ああ……! こいつらの狙いは、最初から、うち……!?)
村を襲う500の軍勢も、圧倒的な力を持つ紫電のゴブリンも。
すべては、【優れた苗床】であるキャロライナを確実に拉致するための「餌」に過ぎなかったのだ。
「いや……放して……誰か……!」
キャロライナの悲痛な叫びは、怪物の哄笑にかき消される。
「──キャロル!!」
薄れゆく意識の中、モニカが声を張り上げるが、その声が届くことはなかった。
若き天才魔術師は、抵抗の術を奪われたまま、暗い森の奥へと連れ去られていった──。
ご覧いただきありがとうございました。
圧倒的優勢からの、まさかの急転直下。
ゴブリンたちの真の目的は、村の蹂躙ではなく「キャロライナの拉致」でした。
用意周到な罠、そして異形の魔剣を持つ黒いゴブリン──。
右腕を失ったモニカは、親友を救い出すことができるのか。
次回、ついにあの幼女が動きます。
「カレー食いてえ~!!」
お楽しみに!
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