16:ガジルと、悪ガキたち
「おいチビ! 生意気にも俺たちよりいいナイフ使ってんな!」
「俺のナイフぼろぼろなんだ! 交換してくれよ!」
2人の悪ガキ、デブラとノービルが、ナイフをちらつかせながら距離を詰めてきた。
当然、オレの答えは決まっている。
「えっと……嫌ですけど? 何なんですか貴方たちは、藪から棒に……」
「ガァァァ!!」
ペン太も追撃と言わんばかりに吠える。
「生意気なガキだな! ちょっと立場ってのをわからせてやるぜ!」
「やっちまえ!」
デブラがオレに向けて手を伸ばしてきた。
胸倉でも掴んで脅すつもりだろう。
だが、そんな泥のついた手で、この服を触られたくない。
「やめてもらえます?」
条件反射で、ついデブラの手を払った。
「ぎゃあ!!」
「あっ……!?」
気がつくと、デブラは転倒して、しりもちをついていた。
忘れていた。
オレの胸には『虎猫ブローチF』が装着されている。
「にゃ~!」
ブローチが勝どきを上げるように鳴いた。
これを付けたオレの腕力は、屈強な戦士とまではいかなくとも、それなりの怪力になっているはずだ。
加減を間違えて思いきり腕を振り回してしまった。
結果は明らかである。
――やっちまったぜ。
「あ、わりいな……立てるか?」
オレは倒れたデブラに手を差し伸べた。
「ひぃぃぃ!」
「勘弁してくれぇぇぇ!」
すると2人は抱き合い、過剰に怯えだした。
いったい何をそんなに恐れているんだ?
「そこまでにしてくれないか?」
そこへ、リーダーのガジルが割って入ってきた。
これじゃまるで、オレが苛めているみたいじゃないか……。
「ああ……。オレとしても、その2人を苛める気はなかったんですがね……」
「あ、そ、そうか? 本当に怒りは収まっているんだな?」
何を言っているんだガジルは。
オレは最初から怒ってなどいない。
「えっと……オレ、そんなに怒って見えます? もとからこんな顔なんですけど」
「ならいいんだ……」
周囲を見ると、他の子供たちもオレからスッと距離を置いていた。
そんなに怖かっただろうか?
オレは気にせず、薬草採取の作業に戻った。
◇◇◇
遠くの方で、森の入り口を目指す冒険者の一団が見えた。
森の中のモンスターを討伐すれば報酬がもらえる。
当然、薬草採取組のオレたちは森への侵入を禁止されている。
その一団の最後尾に、一人だけ大きな荷物を背負った大柄の子供がついていくのが見えた。
「彼はいったい……?」
「あれは、先月まで薬草採取組のリーダーをしてた奴さ」
オレの呟きに答えたのはガジルだった。
孤立してしまったオレを心配してか、先ほどから近くにいてくれている。
面倒見のいい先輩だ。
「あいつは体も大きかったからな。真っ先に『荷物持ち』に選ばれやがった」
荷物持ちとは、冒険者のサポーターを務める見習いのことだ。
才能のある薬草採取の子供から、時々ヘッドハンティングされるらしい。
間近で冒険者の活躍を見て勉強でき、さらにEランク昇格試験の推薦も受けられる。
いわば冒険者への登竜門だ。
「俺も、もう少し腕が太ければな……」
ガジルは名残惜しそうに、少年の背中を見送った。
見るとガジルの腕は細く、お世辞にも強そうには見えない。
あのヒルデくんより一回り細い。
ちゃんとご飯を食べているのだろうか。
「腕立て伏せとか腹筋とかして、鍛えればいいんじゃないですか?」
鍛えれば筋肉がついて腕も太くなる。
腹筋は腕に関係ないが、セットでやればより強くなれる。
「ウデタテ? フッキン? 何だそれ?」
まさか、腕立て腹筋を知らないとは……。
「こうやるんです! ふっ! ほっ! やっ!」
オレは調子に乗って、その場で腕立て伏せと腹筋を繰り返した。
「にゃ~!」
ブローチの効果のおかげで、軽快に何度でも繰り返せる。
「なるほど……確かに腕が鍛えられそうな動きだ。さっきデブラを吹き飛ばした筋力は、そうやって鍛えたんだな?」
いや、ブローチの効果なんですけど……。
とはいえ、少年のやる気に水を差すのも悪いので黙っておく。
「ところで、どうしてオレみたいな奴の面倒を?」
周りから避けられているオレに、なぜガジルは進んで声をかけてくれるのだろう。
「俺にも、お前くらいの妹がいてな……放っておけないんだ」
薬草を採取しながら答えるガジルの横顔は、どこか優しく微笑んでいた。
「どうしてその歳で薬草採取を? 親の稼ぎもあるでしょう?」
前世の感覚だと、12歳で働くのはどうしても早すぎるように見えてしまう。
「父親はいない。母親は病気がちで、お金を稼ぐのは俺だけなんだ」
彼にも色々と事情があるようだ。
ということは、あのデブラとノービルも同じような事情が?
「デブラとノービルの両親はピンピンしてるぞ。あいつらは単に『格好いいから』って理由で冒険者になっただけだ」
――深い理由は一切なかった。
確かに、ガジルとあの2人とでは背負っているものの重さが、明らかに違う。
「さっきの……ヒルデって言ったっけ? あいつ、やっぱり才能があるんだな」
「なぜですか?」
「いきなりギルド長に呼ばれるような奴はそういない。これからも目をかけられて、直々に特訓を受けられるんだろうな」
あのヘタレのヒルデくんに才能……。
確かにステータスだけ見れば強い。
腕力にいたっては、ブローチを付けたオレを若干上回っている。
怪力なのに活かせないヘタレなのだ。
まあ、あのおっさんが鍛えてくれれば、少しは変わるかもしれないが。
ゴ~ン……ゴ~ン……ゴ~ン……
街の方から、時間を告げる鐘の音が響いてきた。
4回目の鐘。現在は正午、12時くらいだ。
「よ~し! 今日の薬草採取は終わりだ!」
薬草採取はたったの4時間、12時までの仕事だ。
それ以降は、街の依頼を受けたり、周辺で安全な『ビッグラット』を狩ったりするらしい。
オレは冒険者ギルドで、おっさんに連れて行かれたヒルデくんのことが心配だ。
とりあえず街へ戻り、冒険者ギルドへ顔を出すことにする。
12歳の覚悟、そして「ヘタレ」の才能。
今回はそれぞれの背負うものが少しだけ見えた回でした。
鐘の音とともに、午前の部はこれにて終了。
舞台は再び、騒がしい冒険者ギルドへと戻ります。
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次回「17話カレーへの切望、オレの挑戦は続く!」をお楽しみに!




